蜜月
ギース×サウル

 







「私は神に仕える身ですから、その、あまり頻繁には」
 サウルが下を向いて抗弁する。
 それは毎度彼の口から漏れる言葉だったが、そのつど堤防の役をまるで果たしていないことは両者ともによく承知していた。
 ギースはゆっくりサウルの肩を掴んだ。中背よりやや小柄だが、僧服の中の肉体は絞まっていて、脱がせば繊細な色香があることをギースは知っていた。
「嫌ならよすぜ。そう云えよ」
 それは駄目押しの言葉だった。これも毎回交わされている。
 サウルは少しだけ首を傾げて、またしても俯いた。
 髪の隙間からのぞくサウルの耳は真っ赤になっている。ギースは無言でそれを見下ろしていたが、やがて右手で触れて、それから唇でくわえた。
「はっ・・・・」
 サウルの唇から息が漏れる。
「云えよ。嫌か?」
 ギースが顔を覗き込む。サウルは赤い顔のままギースの目を見つめて、おずおずとギースの服の裾を掴んだ。
「いいえ」

 ギースは自分の寝台にサウルを導く。
 端に座らせて、ゆっくりと、サウルを寝台に押し倒した。
 サウルはギースの顔を見ないように、あらぬ方を見つめている。
 その顎を捉えて唇に舌を這わせれば、サウルの口からは熱い息が漏れてくる。羞恥に火照る頬に顔を擦りつけて口をくわえ込み舌を捉えると、サウルはゆっくりと答えてきた。
「・・・・ん、ふ・・・・」
 唾と唾が絡み合う音の合間に、互いの声が漏れる。ギースはサウルの口を吸ったまま、太い指でサウルの上半身をまさぐって、少しずつ服を脱がせていった。
「んく!う・・・・」
 ふいにサウルの半身が硬直する。右手が強くギースの袖を掴む。ギースの手が乳首に触れ、捕らえていた。
「は・・・・・・・・」
 ギースの唇がサウルの口を離れ、顎から喉へゆっくりと降りていく。ギースの袖を握りしめたサウルの手は、はやくも小刻みに震えていた。
「う・・・・はっ、はあ・・・・」
 喉の奥から沸き上がる声を抑えようと必死になっている。感じやすい体のくせに、何度共寝を重ねても、サウルの滑り出しはいつもこうだった。ギースは薄く笑った。サウルが理性の防壁を取り外してギースにしなだれかかってくる瞬間が、彼は好きだった。
 口中から唾を送り出して、臍の辺りを執拗に舐める。サウルが息を詰めて耐えているのがギースにはわかった。左手で硬くなりかけたサウルのものを引っ張り出し、親指で突起の裏を入念になぞる。
「うっ・・・・く・・・ふ・・・・・・」
 手の甲に歯を立てて、声が外に漏れるのをとどめようとしている。潤んだ青い目が縋るようにギースを見て、ギースは背に快感が走った。左手に力を込める。
「・・・あっ!」
 サウルの頭が跳ね上がり、手が口から外れた。ギースの舌がサウル自身を這い、さきほど親指でなぞっていたところをちろちろと上下する。サウルのものは熱を持って強く固まっていた。
「あっ・・・・あっ、う、ギース、やめ・・・・っ」
 ギースはサウルの懇願に応えた。さらに執拗に責め立てる形で。サウルの口から上がる喘ぎがいっそう細く鋭くなる。涙と涎が汗と混じり合い、ギースを見下ろす視線はいつしか羞恥から欲求に変わっている。
 舌の動きを止めてサウルの上にのしかかると、奪うように唇にサウルの口が吸いついてきた。そのままギースの口中を執拗に舐り出す。ギースの下腹部に、硬直したままのサウルのものが当たる。サウルの指がギースの体を這い、ときおり爪を立てる。臀部に手を差し入れて入り口をつつくと、サウルが呻きながら身を捩らせた。
 サウルがギースの腹部に顔を近づける。躊躇いもせずに指でギース自身を弾くと、そのまま口でくわえこんだ。顔がギースの陰毛に埋まるほど深く。
「んむ、ふ・・・っ」
 サウルから先ほどの羞恥はすでに消え、より深い快楽を追求する陶酔がその表情には宿っていた。視線を彷徨わせたままサウルの秀麗な顔が唾で汚れて行き、その様子とサウルの舌とがギースを強い愉楽に導く。
「く・・・・」
 いつしかギースの口からも快楽を抑える声が上がる。屹立していくギース自身を追いかけるように、袋を優しく揉みしだきながらサウルの濡れた唇が柱を上下する。裏筋を捕らえ舌と唇で強く刺激した。
「う、待て、やめろサウル・・・・・」
 不意に襲いかかった暴発の予感にギースが声を上げた。ギースのものをくわえたままこちらを見た青い瞳がちろりと笑った、気がした。
 サウルが首を前に突きだした。サウルの喉奥にギースの先端が当たる。
「ぐう!」
 ギースが弾かれたように体を縮こまらせた。
「こ・・・・いつっ」
 サウルが首を戻してくる。ギースのものがサウルの口から姿を現す、と再度唇を滑らせて、ギースをいっきに喉奥まで迎え入れた。二度、三度、四度。
「うわ!」
 とどめようがなかった。ギースの堤防の一部が決壊して、サウルの喉でギース自身が跳ね回る。サウルはギースの臀部をしっかりと掴み、顔を茂みの中に埋めて、喉の奥に液を送り込んでいく。喉が上下するつど、唇がギースの根本をなぶる。
 しばらくしてサウルがようやく口を離した。唇から白い液体が糸を引く。唇が微笑の形に象られると、口に残っていた精液が溢れ出して顎から落ちていった。
「やってくれたな・・・・・」
 恨めしげなギースの言葉に対し、笑いながら黙って彼を見上げる淫猥な表情は、先ほどの羞恥に満ちた顔とはまるで別人のようだ。舌で口の周りの液体を舐め取りながら、サウルはふたたびギースのものに手をかける。
「待てよ」
 サウルの二の腕を掴んで引っ張り、再度寝台に押し倒した。
「はっ・・・・・」
 期待に喘ぐように、サウルの口から声が上がった。
 ギースは唾で充分に湿した指をサウルの臀部に近づける。指でまさぐって入り口を見つけ、ゆっくりと指を入れていった。
「うくっ・・・・う、ふう・・・・」
 下半身が指を飲み込んでいくにつれ、サウルの喉から官能の呻きが漏れる。
 顔が上気して、熱い息が漏れる。
「ギース・・・は・・・やく・・っ」
「そんな急に復活しねえよ」
 自分の懇願に対するギースの突き放した回答を受けて、それを焦れったがるように、サウルの左手がギースの腕を掴んだ。右手がギースの元に伸びて、先端に触れる。
 冷たく答えはしたものの、ギースのそれは再び活力を取り戻しつつあった。
「嘘つき」
 潤んだ瞳で軽く笑って、サウルの右手がギースを包んだまま強くすぼめられた。
「こんなに熱くて硬いのに」
 サウルが繰り返し手を上下させる。その動きで、ギース自身がまたも滾り出す。
 サウルが首を伸ばしてギースの耳朶に舌を絡ませた。ギースの指が、思わず止まる。
 サウルの息が、耳にかかった。
「欲しい。お願いです、ください」
 蜜を含んだような、甘く熱い声。
 ギースのものがはちきれんばかりにそそり立った。応えるようにサウルがそれを強く握りしめる。
「待ってろ」
 手を押しのけてサウルの足を乱暴に押し開くと、ギースは腰に体重をかけてひといきにサウルの中に沈み込んだ。サウルが腰をくねらせて迎え入れる。
「はあ・・・あ・・・・っ!」
 サウルがのけぞって声を上げる。
 ギースを受け入れるのにすっかり馴染んだその場所は、それでも女のものよりだいぶ狭い。
「く・・・・」
 ギースは快感が先端へ駆け上がるのを抑えこんだ。それでもさきほどの放出がなかったら、そこで我慢するのは至難の業だっただろう。いちど奥まで貫いてから、ゆっくりと腰を動かし始める。
「はあ、・・・は、・・あはっ」
 サウルの喉から、笑いとも喘ぎともつかぬ歓喜の声が上がった。左手で自分のものをなぶりながら陶然と目を閉じて、ギースの動きに合わせて腰を動かしている。
 どちらかといえば、犯されてるのは目の前のこいつじゃなくて俺なんだろう。目を細めて、ギースはサウルを見下ろした。ふだんは僧服に隠れている引き締まった細い体に、汗の粒が大量に浮いている。白い肌は上気して、鮮やかな赤に変じていた。
「ふうっ、ふう、くっ」
 声は上げ続けたまま、閉ざされていたサウルの長い睫毛が動いた。瞼が開いて、暗い青の瞳がギースを見上げる。汗と涙の混ざり合ったものが、目尻からすうっと流れ落ちた。
 誘うように。応えるように。貶めるように、あざ笑うかのように、サウルが微笑んだ。
 それを見て、ギースの緊張がある一カ所に集中する。サウルの腰を抱え直し、体を強く押しつけた。
「あっ・・・ああっ・・・・・!」
 ギースの精を飲みながら、少し遅れてサウルも自分自身を解放する。ギースの腹に熱いものがかかった。サウルはギースの首に縋りついた。腕を強く絡めて、そのまま余韻が去るのを待つ。ギースは応えるようにサウルの背に腕を回して、優しく抱きしめた。
「はっ・・・・は・・・・」
 声の混じったサウルの荒い息が、静寂の中をこだまする。ギースは黙ってその声を聞いていた。

 ふたりして荒い息をつきながら、そうやって抱き合ったまま、しばらく時が経った。
 やがてギースがゆっくりと半身を起こす。
 サウルは目を閉じてぐったりしている。口は半開きのままだ。顎に手をかけてみて、すでにサウルが眠りに落ちていることに気がついた。
「おい・・・・」
 呼びかけに、サウルが半眼を開く。満足げに、陶然と笑った。
「おまえな・・・・」
 言い募ろうとした口を、サウルの唇がふさぐ。
 上唇を、軽く舌がなぞった。
 口を離して、そのままサウルは再び寝入ってしまった。
 再度起こそうとサウルの肩に手をかけて、ギースの意識もしだいにぼんやりとしてくる。
 暗くなって遠ざかる視野に、サウルの横顔が白く浮かんだ。
 こいつ、自分じゃ淫乱の自覚がないんだよな。
 そんなことを考えながら、ギースもまた、眠りの世界に引き込まれていった。 

 
(了)
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