| 緋天 |
| 761年春 女性向 |
その男の未来を知っていた。 ブラギの塔を去って彼と会った刹那、彼に迫る暗い運命をクロードは正確に察知した。 王城の城壁内の一角の貴族学院で、異国の王子たちと共に屈託のない笑みを見せていた人懐こい少年。 神々の紡ぎだす運命に押し潰され、消えてゆく定めを背負う者。若い頃に培った絆はすでにその一端を失っている。獅子王と呼ばれた友人の死が、彼の上に重くのしかかっていた。明るかった顔は愁いに翳り、若々しい表情は影をひそめていた。 それでもその男はクロードを見て微笑んだ。 「ご無事でよかった」 クロードが記憶していたものとは違う、伸びやかな低い声。少年期の甲高い声とは比べるべくもない。 クロードは微笑み返し、そして彼に告げなかった。 どんな結末が彼に用意されているかを。 良心の咎めを感じつつ、しかしクロードは彼の信じる神に従った。 「何も告げてはいけない」というブラギの塔での託宣を、彼は忠実に守ったのだ。 空を覆う雲が、炎の赤を映して緋色に輝く。雲間を縫って、無数の火の玉が平原に降り注ぎ、新たな火種となる。 クロードは彼の最後を看取った。裏切られた衝撃と妻を見出した動揺から、彼は最後まで立ち直ることができなかった。クロードは彼の最後の言葉を聞いた。 ただ一言。妻の名を。 クロードは息を吐いて、彼の遺骸を抱えた。戦の混乱に紛れ、彼の傍にはもう友軍は誰もいない。 生き長らえる気は毛頭なかった。クロードは自分の役目が終わったことを知っていた。彼は標に過ぎない。シグルドを導き、神々が望む結末をもたらすために彼はいたのだ。ある意味では、黙することで、彼はアルヴィスと同様にシグルドを謀っていた。 クロードは顔を上げて、空を見上げた。 シグルドの体を腕に抱いたまま、地の上に座り込んで。 彼は自分の運命と対峙した。 緋天から飛来する、熱く輝く隕石を、その青の瞳に映して。 |
| (了) |
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