| 積もる雪 |
| 762年 冬 女性向/18禁 |
アルヴィスの館を、降る雪が沈黙で覆っていた。 寝室には、先月出産を終えたばかりの妻と二人の赤子が眠る。妻は己の腹を痛めた子を片時も傍から放さず、自ら乳を与えていた。貴人にあるまじき行為と謗る向きはあっても、アルヴィスはそれを黙殺した。妊娠中に心の均衡を欠いていた妻に平穏を与えてやれるなら、たいていのことは大目に見た。妻の夫を殺したという罪悪感が彼にそうさせていた。 アルヴィスは寝室には戻らず、回廊を渡って貴人用の客室へと向かった。 彼が全てを奪って幽閉した男がそこにいた。 彼を犯すために監禁したのではなかった。愛するために手元に置いたわけでもなかった。 少しの同情と依存が彼を殺す気持ちを鈍らせ、そして彼から何もかもを剥ぎ取った今では殺す理由さえ見出せなくなった。その男はあまりに何も持っていなかったからだ。 扉を開けると侍女が黙ってアルヴィスを出迎え、上着を脱がせる。部屋には暖炉が赤々と燃えている。その手前で椅子に腰掛けていた人物が、緩慢に立って彼を迎えた。 だがこちらに目を向けようとはしない。言葉もかけない。 アルヴィスが何を求めて男のもとを訪れるのかを、よく知っているからだった。 上背はあるが、腰まで伸びる金髪と整った顔立ちはまるで女のようだ。貴族らしい優雅な身のこなしがそれに拍車をかける。それでも服の中の体の存在感は、彼が紛れもなく男であると知らせていた。 アルヴィスは男の肩を掴んで奥の寝室に連れて行く。男はそれを歓迎はしないが、だからといって抵抗もしない。寝台に押し倒されてアルヴィスにのしかかられても態度を変えず、言葉も発せず、ただ唇から漏れる吐息が、彼の諦念と緊張を知らせていた。 伏せられた金の睫毛の下で、ラピス色の瞳がアルヴィスの手の動きを追う。 服を剥けば現れるのは抜けるように白い肌と文人らしい中肉の体つきだった。半年以上も馴染んできたアルヴィスの指と唇に、その体は容易に反応する。喘ぎに羞恥が混じり、それがさらにアルヴィスの執拗を招くことを意識してか、すぐに喉の奥に押し殺される。男の声を呼ぶためにアルヴィスは男の耳を舌でなぞり、思わず開かれた両唇を己の口で塞ぎ、口腔を蹂躙する。 それを押し止めるように上げられた男の手は、しかし宙空にとどまった。白い手が何かに堪えようと空気を丸く握ったのを、アルヴィスは視界の端に認めた。 男の腰を抱えて竿を手繰り寄せると、こらえきれぬ喘ぎが塞がれたままの口から漏れた。 男のほうから求めてくることは決して無い。だがアルヴィスが男の体内に割り入り、揺らぎを共有する頃にはいつも、アルヴィスが男を愉悦に陥れていることに疑いはなかった。 一切の抗いを示さず、ただ受け身でありながら、男の体の存在感は常にアルヴィスを燃え上がらせた。気道を開かせて声が漏れるままにさせ、男の所在ない手を捕らえて男自身に触れさせ、嫌悪と歓喜が一体化したような喘ぎを耳元で聞きながら男を穿ち続ける。開かれた腰の奥深くにアルヴィス自身を突き立て、衝動をこらえきれずに流す屈辱の涙を舌で掬い、男の体内に劣情を放出する。男の内部から逆流するアルヴィスの体液と男自身のそれが男の下半身を汚し、その状況を知らしめるように男の手を下腹部に触れさせると、男は火照ったままの面に強い羞恥の表情を上せた。 行為の最中に互いの名を呼ぶことは決してなかった。 アルヴィスが男の羞恥を苛む以外に、言葉を交わすこともなかった。 行為の後、整った男の顔が涙に歪み、アルヴィスへの屈服を示して初めて、アルヴィスは男を抱き寄せた。 アルヴィスにとって男は、支配欲をほしいままにするための玩具だった。 そしてそれを男は承諾し、許容していた。 アルヴィスを怖れるからではなく、愛するからでもなく、なにか別の理由で。 ゆえにアルヴィスは男のもとを訪れるつど彼を犯した。 彼から領地を奪い、地位を奪い、名声を奪い、誇りを奪い、友人と家族を奪い、それでもなお男がアルヴィスを許すのが不可思議だった。 「クロード」 名を呼んで接吻すれば常に男は応えた。 それすらも許容に為るものなのだろう。 己の力強い手の中にクロードを捕らえ、再び寝台に彼を押し倒す。 アルヴィスの意図を知って、まだ息の荒いクロードは、瞬きで涙を払って彼を見上げる。諦観の目で。 あるいは同情か。 熱に潤むラピス色から視線を逸らしたくて、アルヴィスは、クロードの首筋に唇を落とした。 外では雪が降っている。 クロードの声もアルヴィスの不安も、雪が覆う館の外に漏れることはなかった。 |
| (了) |
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