埋み火
759年 冬
18禁

 






 浅い眠りの合間にまず感じたのは、温かな熱だった。
 冬のシレジアは冷える。暖炉に火を入れ毛布の上から毛皮を纏っても、寒さで目覚めることがままあった。
 だが今、ベオウルフの横には安堵とぬくもりをもたらす人肌の存在がある。
 操の堅い女ばかりのシレジアで、城の侍女でも口説き落とすのに成功したのだろうか。
 未だ夢心地にあるベオウルフは半ば眠ったまま、傍に眠る人体に手を滑らせた。丸みを帯びた尻とはっきりした腰のくびれ。間違いなく女だ。上半身にも下半身にも、一糸も纏っていない。掌に吸いつくような張りのある肌が、相手がまだ年若いことを知らせている。
 無意識に乳房を求めて、ベオウルフの硬い手が女の素肌を滑る。上質の質感と充分すぎる豊かさを兼ね備えた、張りつめた乳房に手が行き当たった。よしよし。かなりの上玉をひっかけたらしい。ベオウルフは満足げに唸り、手で乳房を掴んだまま、その女体を両の腕に抱き寄せた。
 乳房の上についた女の口から吐息が漏れた。官能の調べを残した軽い喘ぎ。
 女の肌の当たる具合から、ベオウルフ自身もまた裸で寝床に潜り込んでいることがわかった。抱き枕を引き寄せる要領で女のすべらかな両足に己の片足を乗せると、ベオウルフの局部が女の手に触れ、女がはっきりと身動きをした。
「まだ足りないの?ベオウルフ」
 若い娘のものになるその声は聞き覚えと言うにはあまりにも親近感があり、いまだ夢うつつだったベオウルフの意識は急速に目覚め出した。
 それが誰の声だったか思い至るや、ベオウルフの眠気は完膚なきまでに吹き飛び、驚愕に弾かれてベッドの上に飛び起きた。
 見下ろすベオウルフの傍らに、見覚えのある女が裸身で横になっている。
 今やすっかり見慣れたものとなった、艶やかに光を弾く若草色の瞳が彼を見上げていた。
 長い豪奢な金髪がシーツの上に広がり、金色の滝を作ってベッドから流れ落ちている。抜けるように白い肌と細い指は娘が貴種の出であることを示している。彫刻家が刻むような整いすぎて見えるほどの顔の造作と、対照的に女性的理想像からは程遠い硬い表情、但しそれはさすがに、情事をこなした直後でなければ見せぬような漠たる羞恥を今は宿していた。
「ラケシス!?」
 面食らった表情のままベオウルフが呟いた。
「ええ」
 返答するラケシスの声は至って平静だ。
 ベオウルフの目はどうしても、普段見つけぬラケシスの裸体に固定される。特に隠す素振りもない乳房は形良く張り、その先端は透明感のある濃桃色に色づいている。はっきりとくびれたウエストと丸く張りつめた臀部。その白磁のような肌のところどころに残る痣は間違いなく接吻の痕で、彼女を抱いた者の占有欲があからさまになっていた。
 それをつけたのは自分だと、目覚めたベオウルフには確かに覚えがあった。
「なんてこった・・・・・」
 ベオウルフは頭を抱えた。
「エルトシャンの妹を抱いちまった・・・・・」
 自然に下に落ちた視線の先に、ラケシスの裸体を見たことで昂奮を取り戻しつつあるベオウルフ自身が見えて、ベオウルフの自己嫌悪はさらに深くなった。

 昨夜は少し酒が過ぎた。それは確かだ。
 兵士用の食堂で、軍兵たちに混じって酒を飲んでいたところ、ベオウルフを探してラケシスがやってきた。文字通り掃き溜めに鶴だ。ラケシスがノディオンの王妹なのは誰でも知っているが、酔っ払って目先の聞かなくなった兵士達がラケシスに無体を働くことを怖れて、ベオウルフは場所を変えざるを得なくなった。かといって各国の貴族・首脳達が集うサロンなどに向かうのはベオウルフの趣味ではない。結局、人気のない食堂に陣取ってラケシスを話し相手にノディオンの現状やエルトシャン王の昔話などをしつつ酒瓶を傾けることとなった。
 どれほどそうしていたのか。ベオウルフほどではないが、ラケシスも優美なしぐさで幾度か杯を空にした。ラケシスよりよほど足のもつれるベオウルフを部屋まで送るといって娘は聞かず、ベオウルフにあてがわれた兵舎の扉の前まで二人で歩いてきた。
 そのあとがよくなかった。
「寄ってくか?」
 際どい親しさになりつつある二人の仲を計算に入れての冗談だった。むろんラケシスが顔をしかめて拒否するのが前提の上で。
 しかし返ってきた反応は違った。
「ええ」
 顔色一つ変えず、あまりにもあっさりとラケシスが肯定した。酔っていたベオウルフは理性がうまく働かず、気づけばラケシスはベオウルフの部屋の粗末なベッドの端に腰掛けて、ベオウルフの酒瓶からさらに酒盃を傾けていた。
「姫さんあんた、自分が男の部屋にいるのがわかってんのか?」
 部屋に一つだけ置かれた、背もたれの壊れかかった椅子の上で足を組みながら、ベオウルフが揶揄する。
「このままあんたを部屋に帰さないで、取って食っちまうことだってできるんだぜ」
 ラケシスは気にしたふうもない。酒が入っているせいか、心なし、いつも以上に目が座って見える。
「年頃の清楚なお姫様が、うらびれた女ひでりの傭兵の部屋に深夜、独りで入ってくる。女のほうに落ち度があったと言われても仕方ないんだぞ」
 ベオウルフの言葉は次第に威嚇の響きを帯びてきた。椅子から立ち上がってベッドに近づき、その酒臭い息をラケシスに吐きかける。
 ベオウルフの脅しは無論冗談めかしているのだが、本音では冗談どころではなかった。エルトシャンの妹であるラケシスに情欲を自覚するようになったのは、つい最近のことではない。しかし亡き親友の妹を軽々に奪うようなことはできなかった。その親友が目の前の妹に、恋慕めいた情を寄せていたことを知っていれば尚更。
 そしてラケシスには、軽々しく男の部屋に入るような危ないことはして欲しくないという本音もあった。自分だから、相手がラケシスだからかろうじてできるこの劣情の抑制を、ほかの兵士達に期待できるわけがない。
 ラケシスが空になった杯をベッドの縁に置いた。この部屋にテーブルはない。
 金色の髪を降りたてて、間近のベオウルフの顔を見る。
「女のほうにその気があったらどうするの?」
「なんだと」
 思わぬ挑発にベオウルフが鼻白んだ。
「女のほうが抱いて欲しくてわざわざ男の部屋に入ったら、あなたはどうする?」
 小馬鹿にしたような問いに、酒の入ったベオウルフの頭は殆ど理性を失った。
 怒りに近いような激情を覚えて、ラケシスの肩を掴んでその体をベッドに押し倒す。
 悲鳴を押し殺したような息がラケシスの喉から漏れて、それが更にベオウルフを煽った。
 ラケシスの服の上から肢体をまさぐり、両腿の間に膝を割り入れてラケシスの股間に押し当てる。
 敢えて接吻はしなかった。
「据え膳喰わねえほど俺は大人じゃねぇんだぞ」
 ラケシスの胸を掴み、息を荒らげながらのそれが最後の警告だったのだが、ラケシスは緊張を帯びた瞳で、それでも平然とベオウルフを見返した。ベオウルフの膝の脇で、ラケシスの両足が誘うように立てられる。
「いいわ。抱いて」
 小娘の言葉とも思えぬ冷静で挑戦的な口調が、ベオウルフの最後の理性を吹き飛ばした。
 荒々しくラケシスの服を剥ぎ取り、その手で素肌を撫で回していくベオウルフに対し、ラケシスは抗議も抵抗も示さなかった。羞恥や恐怖とは無縁のようだがその態度はやや受動的で、ベオウルフは、男との経験はあるが自分の勢いに飲まれているのだろう、と勝手に解釈した。処女でないと見たベオウルフは一方的にラケシスを貪り、吸いつくような肌とぴんと張った乳房を堪能した後、ラケシスのすんなりとした足を広げさせてその間に性急に体を沈めていった。
「は・・・・ぁん・・・・・っ」
 白皙の美貌が熱に火照り、汗を浮かせている。形よい唇はさらなる朱に染まっている。長い睫毛に縁取られた目は今は閉じられ、目尻から時折涙が零れ落ちていく。寝乱れた髪は金の絹布となって粗末なベッドを覆い、その上に、長身にまぎれて普段は気づかぬ豊満な肢体が目も露わに開かれている。
 狭いラケシスの体内はベオウルフを誘うように潤い、収縮を繰り返す。ベオウルフは熱に浮かされたようにラケシスを貪った。
「あ・・・・・ベ・・オウルフ・・・・・っ」
 苦しげな息を吐きつつ自分を呼ぶラケシスの声が、ベオウルフを狂喜させた。
 冷徹で男勝り、普段から親しみやすさなどかけらもないラケシスが、己の体の下に裸身で横たわり、決して見せたことのない声と表情で自分を呼んでいる。
 突き上げをやめぬままベオウルフが上半身を寄せて、熱を持ったラケシスの唇に口づけると、ラケシスの手が伸びてベオウルフの肩に縋りついてきた。
 そのままベオウルフが果てるまで抱き合い、後先を考えることもできずにラケシスの体内に幾度か精を吐き出して、ベオウルフは、酒精の眠気と放出の疲労に流されるように眠ってしまったのだった。

 昨夜の記憶を反芻し、頭を抱えるベオウルフの横で、ラケシスが起き上がる。己の股間を気遣うようなその動きにベオウルフが目をやると、ラケシスの腿の間を、乾きかけた赤い血の筋が這っていた。
 その意味に気づいたベオウルフが青ざめる。
「ラケシス、まさか・・・・・」
 ラケシスはベオウルフの視線の意味が分からないようだった。
「まさか、男と寝たのは俺が初めてと言うんじゃないだろうな」
 昨夜の情交の、ラケシスへの乱雑な扱いを思い出して、ベオウルフは殆ど恐怖に駆られた。
 その緊張は、即座にラケシスにも伝わったようだった。
 若草色の瞳が、怒りを帯びてベオウルフを見た。
「だったらどうだと言うの」
 その怒りが間違いなく自分に向けられていることを、ベオウルフは自覚した。
「すまん。悪かった」
 時を遡ってもう一度昨夜を過ごしたなら、ラケシスをもっと大事にしただろう。そもそもラケシスの挑発にあのような形で乗ることはなく、彼女を部屋に誘うこともしなかっただろう。
 ベオウルフは自責の念に駆られながら、ラケシスを抱き寄せた。
「あんたの処女を奪っちまったことを謝る。初めてだったのに、あんたを手荒に扱ったことも」
 体が触れ合うことで、昨日の熱がベオウルフの裡に甦ってくるが、ベオウルフはそれを理性で押さえつけた。
 しかしラケシスは体を固くしたままだった。
「俺は酔ってたんだ。素面なら、あんたに手を出したりはしなかった。本当にすまん」
 ふいにラケシスが腕を払ってベオウルフを睨みつけた。
「あなたに謝られる謂われなんかないわ」
「いや。俺は・・・・・」
「自分勝手な弁解はいい加減にして!」
 ベオウルフの腕を振り払い、ベッドから立ち上がってラケシスが怒鳴った。
 豊潤な白い肢体が怒りに震えている。
「処女だったら何なの? あなたは私が浅薄な腰の軽い娘で、ほんのお遊びで行きずりの男に体を開いたと思ってるのね!」
 ラケシスはベオウルフには構わず、
「私はあなたが好きだからあなたに抱かれたのよ! 自分の体の面倒くらい自分で見られます。見くびらないで!」
 それきりベオウルフとは顔も合わせず、彼が剥いだ服をぞんざいに身に纏うと、口も聞かずに彼の部屋を出ていった。
 激昂した顔に上せた怒りの涙が、彼女の残り香と共に部屋に散っていった。

 ラケシスの捨て台詞がベオウルフの脳裏に浸透するまで暫く時間がかかった。理解と同時に、先ほどより一層の慚愧の念がこみ上げてきた。
 ラケシスの体だけではなく心までも傷つけたことに気がついたからだ。
 そう気遣うほど、ベオウルフはラケシスに深入りしすぎていた。
 普通だったらベオウルフは、一人の女にここまで複雑な感情を抱く男ではない。欲情すれば言い寄ってものにし、飽きれば終わりにする。色恋などには寧ろ距離を置き、それらにうつつを抜かすやさ男や娘などは馬鹿にしがちである。後者の娘などは、身の危うさを感じて近づくことすらしない。
 ベオウルフとラケシスの間を複雑にしているのは、なんといってもエルトシャンの影だった。
 はっきりと口に上せたことは一度もない。
 だがベオウルフは知っていた。ラケシスが、兄であったエルトシャンを恋と呼んでもよいほどの情熱で慕っていたことを。
 エルトシャンもまたラケシスに、恋慕めいた気持ちを持っていたことを。
 それらをベオウルフが知っていることに、ラケシスも気づいていた。
 そしてベオウルフにとっては、ラケシスはエルトシャンの妹という以上に、エルトシャンの女であった。
「許せ、エルトシャン」
 昨夜ラケシスが処女でないと勘違いしたとき、ベオウルフの心には失望と同時に納得もあった。相手の男はエルトシャンに違いないと、そう思いこんだのだ。だからラケシスが、エルトシャンの友人である自分に体を開いたと思った。愛する兄を知る男と思い出を共有するために。
 だがたった今、ラケシスはベオウルフを好きだと言った。他の男に身を任せたことはなく、ベオウルフに抱かれたのは自分の意志だと言った。 昨夜ラケシスに寄っていくかと冗談を飛ばしたとき、ラケシスは既に心を固めていたのだろう。
 考えもしなかった。
 ラケシスの心がエルトシャンを挟んでではなく、一人の男としてベオウルフを見ることがあるなどとは。ベオウルフは王族ではなく、貴族でもなく、下級騎士だった階級さえ剥奪されて喪失している。本来ならば、王位継承権を持つラケシスのような貴種の娘の心に留まる存在ではない。
 ともあれラケシスを抱いてしまったのは事実だった。ラケシスがベオウルフを好きだと云ったのも事実だった。ベオウルフが、エルトシャンに対して嫉妬めいたものを持っていたのも事実なら、昨夜ラケシスを手に入れたときの胸の高鳴りも事実だった。
 遅かれ早かれこの日が来たであろうことを、ベオウルフは認めざるを得なかった。
 ベオウルフがラケシスに引かれていることは誤魔化しようがなく、彼女を手に入れたいと長らく望んできたことも誤魔化しようがなく、それは機会さえあればラケシスの同意を得ずに行われた可能性さえあった。朝目覚めてラケシスの裸体が傍にあるのを知ったとき、ベオウルフはついに自分がラケシスを強姦するに及んだかと一瞬危惧した。ラケシスへの情欲はそれほど強く、近頃では己の中に押さえ込むのが困難になりつつあったからだ。同意の上であったと思い出してからも、ラケシスの気紛れのように起こった事態であると思いこみ、年上でエルトシャンの友人でもある自分が抑えるべきだったという悔悟に捕らわれた挙げ句、いっそうラケシスを傷つける結果となってしまった。
 ともあれ今は自己嫌悪に浸る場面ではない。
 ベオウルフは手早く衣服を纏って余分なマントを持ち、扉を開けて部屋を去った。

 兵舎の要所要所に立っている守衛の兵卒にノディオン王妹を見たかどうか尋ねながら、ベオウルフはラケシスの居場所を探した。朝まだき、ぞんざいに服を着込んだベオウルフの姿をまじまじと見て、それからラケシスはどこかという問いを聞いて、兵士たちは、口の端でにやりと笑いながら、姫さまはどこそこへ足を向けられましたと告げた。下馬評の通り、エルトシャンのご親友を気取る傭兵くずれがついにその妹を食い物にしたとでも思いこんだに違いなかった。そんな相手の下卑た詮索に構っている暇はない。ラケシスの足取りはどう見てもラケシス自身の貴人用の部屋に向かってはおらず、長い回廊を歩いて、上へ上へと向かっていた。兵卒たちの視線から察するにラケシスも、ベオウルフ同様、しどけない姿で歩き回っているのだろう。
 目指す娘の姿を、ベオウルフは、朝靄の煙る城壁の上で見つけた。見張りの兵士を遠ざけて白い息を吐きながら、身を切るような寒さの中に、薄い夜着で凍えながら突っ立っている。その姿はいつもよりよほど小さく見えて、ベオウルフの哀れを誘った。
 ベオウルフは近づいて、手にしたマントをラケシスの肩に掛けた。ラケシスは彼を避けようとはしなかった。
「風邪引くぞ、ラケシス」
 自身も白い息を吐きながらベオウルフが語りかける。ラケシスは身動きもせず、視線を城壁の外へ向けたまま呟いた。
「忘れて」
「なに?」
 ノディオンの姫の冷え切った頬は鼻や目尻ともども赤らんでいる。泣き腫らしたせいもあるのかどうか、ベオウルフには判別がつかない。
「昨夜のことは忘れて。私も忘れるわ」
「おい、ちょっと待て・・・・・・」
 ベオウルフの制止に構わずラケシスが続ける。
「私達には何もなかったの。そう思うことにする」
 何もなかったと思えるはずがない。男の側がそのような言葉を吐くならともかく。
 朝の光の中で見た、脚の間を伝う破瓜の血。
「ラケシス」
「だから気にしないで」
 ラケシスは横を向いたままだ。
「こら」
「夢でも見てたんだわ。私みたいな小娘に、あなたが引かれるはずないもの」
 ベオウルフは不意に得心した。
 彼に受け入れられたわけではないと独り合点して、ラケシスは打ちひしがれたのだ。そして傷ついたことを当のベオウルフから必死に隠そうとするあまり、心を閉ざしている。それはこの生真面目なノディオン王妹の、無器用なまでの矜持のせいだった。
 卓越した政治感覚をその血に受け継ぎながら、血を分けた兄と同様、人づきあいがあまりにも不得手な、高慢で孤独な小さな姫。動転したベオウルフは失念していたが、それがラケシスの正体だった筈だ。
 ラケシスの繰り言は続いている。
「あなたが遊びでもいいと思ってた。・・・でももうそんな考えは捨てるわ。あなたに甘えるのはやめる。あなたの兵舎にも近づかない。だから・・・・」
 この娘に必要なのは言葉ではない。
 ベオウルフは無言のままラケシスに手を伸ばした。顎を捕らえてこちらを向かせ、強引に口づける。
「んっ! ふ・・・・」
 咄嗟のことでラケシスは反応できない。ベオウルフは口の中でラケシスの唇を舐った。
 朝靄の向こうで兵卒がまじまじとこちらを見ている。強い好奇の視線を黙殺して、ベオウルフはラケシスに集中した。
「んく・・・・」
 ラケシスは拒むとも迎えるとも決めかねて硬直している。
 ベオウルフは舌をラケシスの口内に割りこませ、その舌を嬲り出した。戸惑うように蹂躙されるばかりだったラケシスの舌は次第にベオウルフに合わせるように動き始め、ラケシスの唇が広く開いてベオウルフを受け入れた。
 乱暴に口づけを交わしながら、冷たく震えるラケシスの体をマント越しに腕で包み込む。無意識のようにラケシスの手が伸ばされて、ベオウルフの腕に絡められた。
 ようやっと唇を離すと、上気したラケシスの面が間近にあった。
「ベオウルフ・・・・・・」
 先ほどの態度と言葉が嘘のように、泣き出さんばかりの表情でラケシスがベオウルフを見上げる。ベオウルフの腕に倒れ込むようなおぼつかなさで。
 その意地らしさと頼りなさ。揺らぐ矜持の奥に仄見える、滅多に人に見せぬいとけなさ。
 組み敷かれて己の名を呼んだ昨夜の情景が脳裡に甦る。
 ベオウルフは思わず総毛立った。
 この娘をベッドに押し倒して、滅茶苦茶に貪りたい。官能と痴態を与えて思うさまに支配し、征服したい。
 下半身の熱を強烈に感じながら、しかしベオウルフは抑制した。
 死んだ友人エルトシャンの妹。神の武器ミストルティンを受け継ぐノディオンの末裔。絶世の美貌と最高級の血筋を誇る高嶺の花。
 しかしそうした条件を抜きにしても、ラケシスはベオウルフにとって慕わしい娘のはずだった。獲得すべき賞品としてではなく、相手を認めつつ庇護し愛したい娘のはずだった。
 ベオウルフは長く息を吐く。冷気に晒された呼気はたちまちのうちに白く凍てつく。
「強がりもいい加減にしろ。今朝のことは俺が悪かった」
 この娘の前で自分を飾っても仕方がない。常に娘以上に本心を曝け出さなければ、ラケシスは心を開いてこない。
「俺はあんたに惚れてる」
 ラケシスの若草色の目が大きく見開かれた。
「だから昨日の夜、あんたを抱いたんだ。あんたを手に入れる機会を逃したくなかった。つい手荒にしちまって、今朝はそれに自分で嫌気が差したんだ」
 ラケシスは無言でベオウルフを見上げる。
「本音を言えば今もあんたに飢えてる。あんたを寝床に引きずり込んで気を失うまで抱きたいが、それもあんたの同意があればの話だ。俺はあんたを傷つけたくはないし、本心がどうであれ、あんたが嫌なら今後指一本触れない。あんたは俺にとってそれくらい大切な女だ」
 ラケシスは何も云わなかった。
 ただ唇を引き結んで俯いた。表情を隠そうというかのように。
 ベオウルフがその肩を抱き寄せると呪縛は解けた。王妹の細い腕が、ベオウルフの胸に縋りついてきた。
 ベオウルフはラケシスを抱き締めたまま、冷えた頬に口づける。その頬は新たな涙に濡れていた。
「帰るぞ」
 ベオウルフはラケシスを抱き上げた。ラケシスの腕が回されて、ベオウルフの首に強くかじりついた。
 金の髪がベオウルフの肌をくすぐる。
 回廊を無言で歩く間、低い嗚咽はずっとベオウルフの耳に響き続けた。

 暖炉の火を強くしてその傍に座らせても、歯の根が合わぬほどに冷え切ったラケシスの体はなかなか暖まらなかった。ベオウルフはベッドの上から毛布を引きずってきてラケシスに被せる。ラケシスを引き寄せ、毛布の上からラケシスの体をまさぐりながら、幾度も接吻を繰り返した。
 ラケシスは拒まず、ベオウルフ以上の熱でもって彼に応えた。
 二人の行為は自然に、キス以上の深さに及んでいく。
 ベオウルフが毛布の中に唇を滑らせ、冷え切ったラケシスの素肌に口づけを落とす。体の中心に唇が向かうに従って肌は熱を帯び始め、ラケシスの喉からかすかに喘ぎが漏れる。
 ベオウルフはラケシスの体を、毛の擦り切れた絨毯が敷かれた床に横たえた。着せかけたばかりの毛布をゆっくりと剥ぎ、しどけなく羽織っただけのラケシスの服をも剥いていく。
 やがてラケシスの白い肢体はベオウルフの前に再度姿を現した。丸く膨らんだ乳房から伸びた手足、薄い恥毛の陰の部分まで、彫刻家が細心の注意を払って大理石に彫り込んだかのように、その肉体は艶をおびて滑らかに湿っている。指先や膝は冷たさに赤くなっていたが、仄赤く色づいた胸乳は温かなまま、寒気と期待とにその先端を硬く尖らせていた。
 ベオウルフの、剣を握り慣れた大きな硬い手がその乳房に優しく触れる。たっぷりした量感と若々しい張りが、ベオウルフの情欲に火を注ぐ。ベオウルフは顔をラケシスに近づけて、煽るような口づけを幾度も繰り返した。
 柔らかに乳房を揉まれ、接吻の合間にラケシスの喉からは吐息が漏れる。大理石のような肌が、交歓の熱に次第に染まっていく。
 ベオウルフが乳首を指で軽く抓ると、ラケシスの白い肩がびくりと震えた。
「あっ・・・・・」
 ラケシスの片膝が意識せず持ち上がる。
 ベオウルフは唇を滑らせて、ラケシスの顎から鎖骨、胸へと向かって接吻を続けていく。熱い息が吐かれるつど、白い乳房が上下する。
 日に灼けたベオウルフの手が、白磁の肌の上を這い回る。ときには後背に回されて臀部の割れ目を滑り、ときには乳房を強く弱く掴んで揉みしだき、ときには臍の下へ伸ばされて、ラケシスの恥毛の奥深くへ侵入を図ろうとする。
 ラケシスの首は後ろへ大きくのけぞり、鎖骨と乳房をベオウルフの眼前に突き出して、ベオウルフが身を煽るに任せていた。
 ベオウルフの舌が、硬く赤く突き立ったラケシスの乳首を捕らえた。
「ふぁっ」
 舌先が赤い突起を嬲る。
「あっ・・・・・ん・・・・っ」
 開かれたラケシスの朱唇から、小さな喘ぎが漏れる。
 ベオウルフはラケシスの腰を掻き抱いて身を起こさせ、舌と唇でその乳首を吸い上げ始めた。
「はっ・・・あ・・・っ、ああ・・・・・」
 官能に耐えるノディオン王妹の声を聞きながら、ベオウルフの手はラケシスの陰部に伸びる。
 ラケシスの薄い恥毛は、前夜の情事と今の刺激に、既に蜜に湿っていた。
 その奥を、ベオウルフの大きな手がそっとつつく。
「ふっ! う・・・・・・・ふぁうっ・・・・・・・・」
 乳首と秘所を攻められながら、ラケシスの腰が官能に揺らぐ。
「あ・・・・・・・・ああっ・・・・・・」
 たおやかな手が伸びて、ベオウルフの首に弱々しく回される。
 ベオウルフの節くれだった指がラケシスの秘唇をつつき、撫で回す。
「あ、ふぁっ、ひあ」
 ベオウルフの口がラケシスの乳房を離れ、肌を下方へと這っていく。乳房や白い平らな腹には、昨夜の接吻の痕が赤黒く残っている。
 ベオウルフは痣の上に触れないように気をつけながら、舌を転がし、唇を這わせ、指でいじる場所に口を近づけていった。接吻が臍の周囲をゆっくりと辿り、下腹部を過ぎ、やがてはラケシスの恥毛に及ぶ。
「あっ・・・や」
 ここでラケシスが初めて軽い抵抗を示した。高貴な出にふさわしく、裸体を晒す羞恥はさして強くないものの、恥毛を男の口に含まれてさすがに躊躇いを感じたらしい。
 ベオウルフは口を離さなかった。恥丘全体を口に含んで刺激し、熱を帯びて膨れ始めた秘唇を舌でなぞる。
「あぁッ、ひぁっ!」
 ラケシスの白い肢体がびくりと震えた。豊かな髪が翻り、床にばさりと落ちかかる。
 ベオウルフの舌が秘唇を上下する。処女を喪ったばかりで性技に疎いラケシスはベオウルフの口に翻弄され、与えられる官能の強さに耐え切れず上体がくずおれた。
 ベオウルフの唇がラケシスの膨らんだ肉芽をつまんだ。
「あぁンっ、ひあンッ、あ」
 舌のすぐ下をなぞり続けるベオウルフの指が秘唇を割り、内部に割り入ってくる。
「あっ・・・・・・ふぁ」
 溢れる蜜がベオウルフの指と顔を汚す。
「感じるか、ラケシス」
 攻めを緩めぬままに問いかける男に、
「んっ・・・・・んん・・・・・・・・・っ」
 ノディオン王妹はかろうじて肯定と取れる声を上げた。正面から答えるのは、さすがに恥じらいが勝ったようだった。
 ベオウルフの舌がラケシスの肉芽を強く吸い上げる。
「! あ、ひあッ! はァンッ!」
 ラケシスの肢体が不意に大きく震えた。ベオウルフの指に押し広げられた秘唇から、愛液がひといきに溢れ出してくる。
「あッ・・・・・・・あ、はぁあッ・・・・・」
 汗のにじむラケシスの白い腹が大きく上下する。その内部は強く収縮を繰り返し、ベオウルフの指を奥深くへと誘う。
「ベオウルフ・・・・・・・っ」
 ラケシスがそこで初めてベオウルフの名を呼んだ。
「おねがい・・・・・・・」
 官能に潤んだ瞳が、懇願するように男を見上げる。情熱に赤くのぼせた目尻から涙が零れ落ちていく。
「いや・・・・・私だけ、こんな・・・・・っ」
 羞恥の極からかろうじて声を絞り出す。ベオウルフの手管で絶頂に到達させられて、歓喜よりも狼狽を強く感じているようだった。
「あなたが・・・・・さ、触ったら・・・・っ、それだけで、私、おかしくなっちゃう・・・・・・・・ッ」
 涙をぼろぼろ溢しながらラケシスが呟く。言葉の通り、ラケシスの内奥からは蜜がとめどなく溢れ続けている。
 ラケシスの告白に、ベオウルフの欲求はひといきに昂ぶった。
 体内の熱を抑え込んで、ベオウルフがラケシスの乳房を掴む。
「あ」
「もっと触って欲しいか?」
「ふ・・・・・・・」
 ラケシスは答えられず、ただ羞恥に顔を赤くした。
 ベオウルフの手がラケシスの乳房を揉みしだく。
「あッ、ア」
 羞恥と官能を煽られてラケシスが身を捩り声を上げた。
「ああン! ン・・・やだ・・・・ッ」
 追い上げられてラケシスが悲鳴を上げた。
「イヤか」
 ベオウルフがわざとらしくラケシスの耳元で囁く。
「は・・・・・・・ちが・・っ、ひぁ、あン」
 ラケシスの腰がベオウルフの膝を挟み、定期的に蠕動を繰り返す。ラケシス自身はそれを意識しているとも思えない。ただ情欲の赴くまま、ベオウルフに翻弄されるままに、快楽に溺れ始めていた。
「おまえは最高だ」
 ベオウルフは熱を帯びた声でそう言ってラケシスの乳房にかぶりついた。
「ア! ああッ」
 男の指はラケシスの秘唇を深く穿ち、その広がりと奥行きを確かめるように内部を掻きまわしている。
「ああン! ひあンっ! やッ、あ、」
 ぐちゅぐちゅと音を立てる自らの秘部の淫らさに堪えかねたように、ラケシスが体を折り曲げた。
「ラケシス」
 耳元で、恋する男が自分の名を呼ぶ。
「そろそろ入れるぞ。いいか」
 切羽詰ったように聞こえる男の声が、いっそうラケシスの欲情を煽る。
「ん・・・・・・・・・・ッ」
 それは返事にすらならなかった。ベオウルフは態度でそれと察し、ラケシスの両脚の間に腰を割り込ませる。
「ふ・・・・・」
 溢れる蜜にぬめり、淫らに光るラケシスの秘唇があますところなくベオウルフの目に晒され、情欲に紅くひくついている。
 ベオウルフはズボンを下ろしてそこに自らを押し当てた。
「はッ・・・・・・あ・・・・・・・・・・!」
 異物感を感じたか、ラケシスが軽く身を捩る。
 白くのけぞった顎の先の唇に、ベオウルフは口づけた。優しく、だが有無を言わせぬ力強さで。
「んン! ん・・・・・ッ」
 ベオウルフははちきれんばかりの衝動を押さえつけ、抑制しながらゆっくりと腰を落とし始める。
「ん、ふぁうッ! くあ・・・・ア・・・・・・・・ッ、ひぁ・・・・!」
 ラケシスの唇がベオウルフのそれから外れた。
 ラケシスの口から漏れたのは紛れもない悲鳴だった。
 ベオウルフは歯を喰いしばって、途中で腰の動きを止める。
 ラケシスに苦痛を与えたくはないという理性がかろうじて勝ったからだった。
「イヤ・・・・・・・・・・ッ」
 ラケシスが痛みに耐えながら声を絞り出す。
「止めないで・・・・・ベオウルフ・・・・・・・・!」
 迎え入れるかのように腰を浮かせて告げた娘の一言が、ベオウルフの抑制を吹き飛ばした。
 ベオウルフはラケシスを深く突き上げて、一息に己を娘の裡へと沈み込ませる。
「あ、あアッ!」
 激痛によるものだろう、ラケシスの肩が大きく震えた。だがベオウルフに組み敷かれた娘はすぐに息を整えて、目を開いて男を見上げた。
 若草色の瞳に宿る光はまぎれもない思慕だった。見違えようもない至近で、ラケシスの目がベオウルフを見つめている。
 ラケシスの内部はベオウルフの雄根にまとわりつき、誘うように収縮を繰り返していた。
 それだけで、もはや耐え難いほどに自身が膨張している。
「大丈夫か、ラケシス」
 放出を抑え込みながら、歯を喰いしばりつつベオウルフは問うた。ベオウルフの汗が、ラケシスの熱い肌に滴る。
「だい・・・じょうぶ・・・・・。私は、大丈夫」
 ラケシスの頬を涙が転がり落ちていく。
「あなたが、好きなの・・・・・、抱いて・・・・」
 熱い息が密かにベオウルフの頬をくすぐった。
 ベオウルフの頬が笑みに歪む。
「もう抱いてる」
 苦痛と緊張に硬直しているラケシスの肉体を、ベオウルフの両手が抱き上げる。
「体をできるだけ楽にしろ。動くぞ。いいか」
「・・・・ええ」
 ベオウルフはラケシスの表情に目を凝らしながら、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「あっ・・・・・・、は」
 ぐちり、とラケシスの内部で音がする。
「痛かったらすぐ言え」
 様子を見ながら、ベオウルフが緩慢に腰を前後に揺すり出す。
「平気・・・・ン、あン・・・・・あ、ひぁ」
 ラケシスの言葉を裏付けるように、声には少しずつ官能が混ざり出した。
 ベオウルフは抑制を効かせて、前夜のように乱暴に打ち付けることはしない。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と音を立てて、潤うラケシスの内部をゆっくりと前後しながら、穿つ娘の表情を観察し続ける。
「あっあ・・・・・あ、あアッ」
 ラケシスの内部は少しづつほぐれてきていた。湧き出す蜜がラケシスとベオウルフ自身に絡み、滑りがなめらかになっていく。
「ん・・・・ん、んンっ」
 ラケシスの表情を見て、ベオウルフは少しずつ打ちつけを大きくしていく。
「あっ・・あ、はぁッ、ア」
 ラケシスの体からは次第に力が抜け、漏れ出る言葉は官能を色濃くし始めていた。
「ああッ、あ、は・・・・・ッ、ベオウルフ・・・・・・・・・ッ」
 ズパン、ズパンと大きく音を立てて、ベオウルフとラケシスの腰が打ち合う。
「ベオウルフ・・・・・・・・・・ベオウルフ・・・・・・ッ」
 熱い息を散らしながら、ラケシスがベオウルフを呼ぶ。王妹の上気した頬に、悦楽の涙が散る。
「あ! あッ、あ、あ・・・・ひぁッ!」
 ベオウルフがさらにラケシスの奥深くを穿とうと体勢を変えた。
 ラケシスの足を大きく広げさせて肩の上に持ち上げ、上から突き降ろすようにしてラケシスの股間に腰を打ち付ける。
 ベオウルフの下で、ノディオン王妹が開かれた肉体をさらして官能に喘いでいる。
「あアン! ひあアんッ! はあッ、あ、アッ」
 白い喉がのけぞり、天を向いた乳房が淫らに揺れた。
 朱唇から溢れた唾液が、汗と共に顎を伝っていく。
「あッ、あ、あ・・・・もっと・・・・・ッ! ベオウルフ・・・・・・っ!」
 情欲に屈し、羞恥などかなぐり捨ててノディオン王妹が叫んだ。絨毯に散らばる金の髪はめちゃくちゃに寝乱れて、普段の取り澄ました面影はもはやどこにもない。
「あァッ! あッ! あァああアッ!!」
 二度目の絶頂にラケシスの背が反り返り、びくびくと波打った。
 急激にもたらされた強烈な収縮に、ついにベオウルフも耐え切れなくなった。
「ぐ・・・・・っ、ク・・・!」
 思考が拡散する。脳内に火花が散るかのような錯覚。
 そして同時に、放出が始まっていた。
「あ・・・・・・・・あ、あ、ひあァあッ・・・・・・・!」
 ラケシスの喘ぎが長くかぼそく響くのを聞きながら、ベオウルフは雄をラケシスの最奥部に押し付け、射精を果たした。
 ベオウルフの放出を感じるのだろう。ラケシスは目を閉じて体を震わせながら、愉楽に溺れている。
「はあッ・・・・はあ・・・・あぁ・・・・・っ」
 汗の滲む乳房を己の白い手で揉みつつ、ラケシスは細い息を吐き続けた。
 その柔らかな手にベオウルフの節くれだった手が添えられる。
「ラケシス」
 接吻を求めると、ノディオン王妹の唇は迎え入れるように開いた。
 余韻を味わうための、長く甘い濃厚なキス。
「ん・・・・ん、ふ・・・・ぅん・・・・」
 ラケシスが両腕をベオウルフの首に回し、猫のように柔らかな体を擦りつけてくる。ベオウルフの硬い肌にラケシスの乳首が当たって、放出したばかりのベオウルフの竿がラケシスの裡で再び力を取り戻し始める。
 ラケシスの腰を再び手で抱え上げ、ベオウルフはゆっくりと腰を動かし始めた。
 蜜と精液とで満たされた膣内は滑らかに、だが熱くベオウルフを包み込む。
「ふぁっ・・・・あ、は」
 ラケシスの腰が自ら求めるように揺らぎ出す。
 そのリズムに己の動きを合わせながら、ベオウルフはラケシスを優しく穿ち続けた。

「・・・・・・・・・・で」
 二度目の射精の後。
 二人はようやく互いの腕と腰を離し、ものうい疲労のうちに裸のままベッドに潜り込んでいた。
 ベオウルフの二の腕に頭を預けたラケシスが囁く。
 聞き取れなかったベオウルフはラケシスの顎に手をやりそっと撫でた。
 その行為を拒むでもなくラケシスが繰り返す。
「あんまり私に、優しくしないで」
 エルトシャンの妹の、低めで柔らかな声がベオウルフの耳を打つ。
「あなたといると、私、ただの甘えたがりのひ弱な小娘になってしまう」
 ベオウルフは灰色の目を眇めてラケシスの顔を見る。
「本当はそれではいけないんだわ。ノディオンの再興は生半可な覚悟ではできないもの。なのに」
 ラケシスの整った顔が憂いに曇った。
「あなたの傍で、強い女でいられる自信がないの。あなたがいると、私の緊張が勝手にほぐれてしまう」
 ベオウルフの手がラケシスの額に伸びる。かき上げられた黄金色の滝のような髪に、太い指がしっとりと絡む。
「それでいいさ。シグルド公子やラーナ王妃の前でならともかく、俺の前で強がる必要などねぇだろ」
「だって・・・・」
「俺は政治謀略でお前の傍にいるんじゃねぇんだ」
 ラケシスの若草色の瞳が、問いかけるようにベオウルフを見つめる。
「俺は自由意志でここにいる。忠誠でも金目当てでも出世欲でもねぇ。お前がその細ッこい体でふらふらになりながら、エルトシャンの遺志を継ごうとしてるのを見過ごせねえからここにいるんだ。・・・・たとえお前がノディオン再興を諦めても、俺はお前の傍にいるだろうがな。だからお前は俺の目にお前がどう映るかなんてことは考えずに、俺の前で振舞いたいように振舞えばいいのさ」
「・・・・だけど、どうしてあなたは私の傍にいてくれるの? 私の傍にいて何かいいことがあるの?」
 ベオウルフは眉をしかめてラケシスを見た。
「俺はお前に惚れてるって言ったろ。 何かほかに理由でも必要なのか?」
 しかし生真面目なラケシスの眉は晴れない。
「・・・・わからないわ。私の傍に、今までそんな人はいなかったもの」
「まあそうだな。あんたの、『姫様』てぇ立場とは無関係にあんたを護ろうとした男は、肉親のエルトシャンだけだったからな」
「エルトお兄様は・・・・・」
 ベオウルフは、エルトシャンの話題は避けたかった。
 嫉妬と羨望と同情と哀悼が綯い交ぜになった複雑な感情を、あの男に対して抱いていたからだ。ラケシスが近くにいるときは尚更。
 ベオウルフは面倒くさくなって、髪に潜らせた手でくしゃくしゃとラケシスの頭を撫でた。
「もうあんま考えんな。物事ってのは為るように成るし、俺とあんたの場合には為るように成ったのさ」
「私・・・・・・・」
 ベオウルフはラケシスの口を己の唇で塞ぐ。
「んっ・・・・ん・・・・・・・、ふんん・・・・・っ」
 濃厚に舌を絡める長い長い接吻の後でようやっと口を離して、ベオウルフは、
「いいかげんにしておけ。頭でっかちのまんまで、考えたってどうにもならん理屈をこねくり回してると、黙らせる為にヤっちまうぞ。お姫様」
「・・・・・・・駄目よ。もう日が高くなるわ。皆が起き出す時間よ」
「冬のシレジアの空はいつも真っ暗だろ。起きたって雪に閉じ込められてすることなんざないんだ、誰も起きやしねえさ」
 ベオウルフの手が張り詰めたラケシスの乳房を煽るように嬲る。
「ア、ちょっと、やだって・・・・・・・・・ん、あンッ」
 たちまち反応するラケシスの体に感化され、ベオウルフが上半身を起こして覆い被さる。
「・・・理屈っぽさの割に、恋愛経験があんたに足りてないのは確かだな。いっちょう揉んでやるか」
 笑みを口中に含んでラケシスの肢体を抱え込み、手と舌で本格的に煽り始めた。
「あ、あッあ・・・・・・・・やだッ」
「男と女のベッドでのコミュニケーションには、色々やり方があるんだぜ。俺が知ってる限りをあんたに披露してやるよ」
「やだ、やめてって・・・・・あ、アッ、ひあ、あぁッ・・・・・・・・はん・・・・ッ」
 抵抗していたラケシスの手から力が抜け、白い太腿がベオウルフを迎え入れるかのように開かれる。
 ベオウルフは再びラケシスの官能の扉を押し開き、ノディオン王妹を快楽に耽溺させた。


 粗末なベッドの上であがる愉悦の声は、シレジアの雪と風に完全にかき消されて、部屋の外には決して漏れることはなかった。
(了)
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