5.寝不足
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2005/09/14
アクロ(逆裁2-3中) |
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眠らなくては。
そう言い聞かせ、アクロはベッドの中で寝返りを打った。
ここ数日、まともに睡眠をとったという記憶がない。緊張しきった脳は休息を拒否し、アクロは明日の法廷に備えて、体だけでも休めようと努力していた。
窓の外で、街灯が煌々とともっている。あの明かりの下に、まだ団長の血が残っている。
起きた出来事が信じられない。自分の引き起こした事態が掴めない。
それほどに、アクロは混乱していた。
アクロの心を支配しているのは苦い後悔と、錐のように突き立つ良心の咎めだ。数日前の夜、引き上げた胸像にマックスのマントがかかっていたそのときから。
翌朝の衝撃は忘れられない。団長の死。マックスの逮捕。いっぽうで、あっけらかんと笑顔を見せるミリカ。父の死に対する現実感は彼女にはない。バットに対したときと同じように。
バット。
再び目覚めるかどうかもわからない弟。
ミリカへの復讐は正しく行われるはずだったのだ。自分が立てた計画では。
どこで狂った。何を間違った。
それとも。
復讐自体が、間違っていたのか。ゆえに今、己の身にこんな災いが降りかかっているのか。
それは今日初めて会った若い弁護士が、自分に疑いの目を向けているといったようなことでは断じてない。
バットを失い、団長を失い、マックスを罪に陥れ、それでも尚、自分はこの場所に居続けなければならぬという災いのことだ。明日の法廷を切り抜けなければならないということだ。
バットの傍にいてやれるのは己しかいないがゆえに。
罪を逃れられるという自信はあった。空中で鍛えた度胸は伊達ではない。
だがその後一生、投獄されるより苦い後悔を抱いてバットに寄り添うことになるだろう。
アクロは強く目を閉じて街灯の明かりを視界から抹消しようとした。
吐く息に熱く、苦いものが混じる。
「許してくれ、マックス」
呟いたところで意味のない言葉を、アクロは口にした。
「許してくれ」
頬を涙が伝う。
罪を告白したほうがよほど楽になるだろう。
その考えがついにアクロの脳裏をよぎり、すぐに打ち消された。
そのような選択肢は残されていないのだ。自分には。
「許してください、団長」
部屋の隅でルーサーが身動きする。
嗚咽が部屋に響かぬよう布団を口に押しつけて、アクロは涙を流し続けた。
(了)
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