奈落
05/08/24
冥府のふたごの使者
★★☆
地の果てにある奈落の崖の奥深く。そこに冥府の王が奥方とお住みになっている。
奥方は、ふたごの金髪の使者をお持ちだった。
一人は男の子、一人は女の子で、永遠に育たぬ幼い四肢と悪魔のような無邪気な笑みとを携え、地底の毒を塗った鋭い矢を手に持ち、背には短弓を背負っていた。
弓と矢は冥府の奥方が与えたもうたものだった。この弓でつがえた矢は必ず狙った者に当たり、この矢に当たった者は必ず死んだ。
金髪のふたごは奥方の命で時折地上に現れ、小さな手で次々と矢をつがえては打ち、地上の子供たちの命を奪った。
男の子は少年に向けて、女の子は少女に向けて矢を放った。
病で死ぬ子、事故で死ぬ子、飢えで死ぬ子、産まれずして死ぬ子、殺されて死ぬ子、あらゆる子どもを弓で射て、その魂を地底に持ち帰った。
そして奥方にご報告した。
じぶんが連れ帰ったのはほんの小さな子どもだから、あまり長く冥府にその魂をとどめ置くことは容赦してやってくださいと。
そのつど奥方はその願いを聞き入れて、冥府の王に恩赦を申し出てくださるのだった。
仕事が終わるとふたごの使者は、連れ帰った多くの子供たちと共に、冥府の中を遊びつつ走り回った。
地の底から時折子どもの笑い声が聞こえるのは、この世で不幸せに死んだ子供たちに、ふたごたちがふたたび喜びを与えている証なのだ。
(了)
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