至純(全3頁)

03/01/17
禁忌ゆえの純愛
☆☆☆ 対象18歳以上




 常に緋色の鎧を纏い、具足・楯・槍の柄までも朱に染めて戦場に在ったその騎士は、その戦には喪章をつけた黒い鎧で臨んだ。
 勇猛と叡知は高く近隣諸国にこだまし、誰もが敵とすることを恐れ味方につくことを望む、そんな騎士だった。
 黒くしたのは鎧だけではなかった。服やマントを黒く染め抜き、玉石で象られた剣の柄や、紋章が誇らしげに描かれていた楯までもタールで塗り潰して騎士は戦場に臨んだ。その戦は、彼が仕える王に命じられた侵略だった。国境と定められた河を越え、騎士は軍勢を率いて隣国に侵入した。
 対する敵は劣勢だった。緒戦から陣形を崩して敗退する醜態を幾度も曝し、その都度騎士の軍は敵国の奥地へ前線を大きく伸ばした。幾度めかの戦いの後、ついに侵入した国の最外郭の城壁を破るまでに達した。
 三日の後、騎士の眼前に敵国の王が最後の軍、あらん限りの手勢を引き連れて姿を現した。
 騎士の頭上で、半旗に掲げられた黒い旗が翻る。
 騎士は鳶色の瞳で鋭く敵軍を見通した。戦意は低く、何より指揮官たる国王自身が怒り、怯えている。数人の使者が双方から遣わされ、丁重な言葉で罵言をやりとりし合った。最後に騎士が送った使者が胴体だけを馬の背にくくりつけられて帰ってくると、その翌日の日の出と共に最後の戦が始まった。

next /
return to index
home