病に冒され、今にも死にゆくかと思われた乳母が枕辺に王を呼んだ。
そして、父たる前王の後を継いで即位した、王になって数年の若者に告げた。
あなたはさきの王のお子ではございませんと。
あなたのほんとうのお父上は前王亡き後、あなたのお側に居られるお従兄君ですと。
王は沈黙してのちに尋ねた。
それを知るのは幾人かと。
乳母は答えた。
わたくしとあなたのお母上、誓ってその二人だけです。お従兄君さえもご存じでは無いはず。
王は枕を乳母の顔に押しつけてその命を奪った。
修道院にいる母に毒の入った干し顆を送った。
そして母后の死を悼む歳の離れた従兄の顔から、恋という名の真実を知った。
王は沈黙を友とし、従兄には事実を告げなかった。
王と彼に重用された従兄によって国はより強固に結束し、富み栄えた。
王は妻を娶らず、病を得て従兄に先立って死ぬとき、彼に国を譲った。
(了)
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