2005/08/24
雷の花
★★☆


 一人の王が雷に打たれて死んだ。
 ゆえに神の怒りをかって死んだと臣民は噂した。
 神に憚って、王の亡骸は簡素に葬られた。王にしかるべき弔いさえも果たされなかった。
 雪が降って溶ける季節になると、王が雷に打たれ倒れた場所に人々の見知らぬ小さな花が咲いた。
 王の娘がその花を手折って、父の粗末な墓標に手向けた。花はその場に根づき、数年が過ぎた。
 王墓の周囲が見渡す限りの花畑に変わった頃、王の娘は黄金仕立ての馬車に乗って他国へと嫁いでいった。
 嫁ぎ先の国で侍従が馬車の戸を開けると、そこには王の娘の姿はなく、ただ小さな花が椅子といわず床といわず、数多く散らばっていた。
 王の娘の悲しみが神の心を打って、神が己の妻として娘を奪ったと言われた。
 小さな花はやがて雷花と呼ばれるようになった。
 冬が終わる季節に王の墓へゆくと今でも、娘の手向けた花々が王の死を悼んでいる。



                                      (了)




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