2007/10/03
歪んだ愛と狂気
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さる女を、あまりにも愛した男があった。
女はすでに友人の妻だった。
男は女への慕情に堪えず、ある夜半、友人の留守に、ついに友の寝室に押し入って女を奪った。
女を組み敷きながら、激しかった女の悲鳴がやがてかぼそく消えてゆくのを、男はどこか遠いところで聞いていた。
女の濡れた瞳は男を映さず、ただ虚空を覗き込んでいた。
女の愛を得られぬことにさまざまに絶望しながら、男は犯した女を詰った。自分の愛に応えぬとはそれほどに夫を愛しているからかと。
女の瞳が初めて男を見た。
「あなたは私に愛など期待しておられますまい。あなたの本心に気づかぬとでもお思いか。あなたは私の夫をお抱きになればよかったのだ。私ではなく」
女の声と視線に込められた最大限の侮蔑が、男を完全に逆上させた。
朝方。館に戻ってきた夫は、一夜のうちに妻と友とを失っていた。
寝室で、狂気に飲まれた男が甲高く笑いながら、血塗れの剣を妻の腹に繰り返し突き刺し続けている。
青ざめて声も表情も失った夫を、殺人者となった男が振り向いた。
屈辱の涙に濡れた瞳がぎらぎらと輝く。
その光の奥に、乙女よりも純粋な恋と嫉妬が宿っていた。
(了)
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