囁き

 

2005/08/25
母のない領主の息子たち
★★☆



 領主に双子の息子があった。
 父親はやもめで、死んだ母親について息子たちに多くを語らなかった。
 ときおり使用人たちが交わす心ない噂が、少年たちの耳に届くこともあった。
 母親はどこの馬の骨とも知れぬ不実な女で、ある夜行方不明になった、父親が母親を殺したのかも知れないと。
 それでも少年たちは噂をはねのけて逞しく成長した。
 森を抜け領地を渡る風に、刈り取りの終わった小麦畑に降る雪に、煌々と輝く月の光に、少年たちは、顔も知らぬ母の子守唄を聴いた。
 その囁きは、少年たちが成人したあとも、絶えることなく心の中をめぐり続けた。



                                      (了)

関連作品:黒狼



戻る