<其乃七>


「やぁッ……! あっ…ぁ……! 服がっ、汚れ………は、ァ、やげん……!」
 拒否する理由をかろうじて口に上せて抗議したが、宗三の理性もそこまでだった。
 薬研の節くれ立った細い指で中を弄られ続けて、次に来る情交の期待に宗三の体熱は勝手に上昇し、薬研の竿が欲しくて堪らなくなっている。
「あッ……ンァ…ぁっ、く……、や、やげん………!」
 屈するように頭を畳の上に突っ伏し、宗三が啜り泣く。
 くす、と薬研が後ろで笑った気配があった。
「今のは……、俺っちの摩羅が欲しくて仕方ないって声だな?」
「! ……………、」
 後背から愉しげに言い下ろされて、年下の薬研に揶揄されることに屈辱を感じ、宗三は思わず唇を噛んだ。
「ン、………ん、」
 歯を食いしばり、声が出ないように必死で抑制するが、薬研の指が中で蠢く度に、淫楽を求めるように腰が揺らいでしまうのは自分でも押し止められない。
「物欲しそうに尻が揺れるなぁ………宗三…、前もきっちりおっ勃ってるぜ。いやらしい眺めだな」
「ッ! んぅ……ッ、く、」
 自分の指を飲み込んだ宗三のとば口がひくひくと蠢いて自分を誘うのを、薬研が満足げに見下ろした。
「俺っちの指なんかじゃ物足りねえだろ? おまえのココ……、初めての時に痛がったのが嘘みたいに、今や俺っちの摩羅の形をすっかり覚えちまったもんな」
「! ………っな、」
 あまりの卑猥な言葉に反発すら覚えたが、薬研の与えてくる淫熱にもはや宗三は逆らえない。
「おまえの鞘に俺っちの刀身を嵌め込んでやるよ。ぶっすりとな」
「! っ………」
 理性は反抗するのに、身体と心は快楽を求めるように動き、薬研に向けて宗三の尻が突き出された。
「そう………いい子だぜ」
 低い声で放たれる年下の薬研の揶揄に、宗三の身はひくりと震えた。
 薬研は指を抜いて宗三の尻を掴み、油薬で濡らした屹立の先端で後孔を探ると、その中央へぐいと腰を落としてきた。
「! あッ、ぁ、……ダメ……、ひぁ、あ、あぁッ………!」
 中を確かめもせずに奥へ奥へと雄を突き込まれ、濡れて摩擦を失った薬研の太い竿の先が容赦なく宗三の性感を擦った。
「ひぃッ………駄目っ……!」
 口で叫べば抑えられるとでも思ったか、宗三が掠れた声を上げたが、既に遅かった。
 薬研の竿に捕らえられた宗三の腰がびくりと跳ね上がり、気づけば射精が始まってしまっている。
 ぱた、ぱたた、と音がして、宗三の白い精が畳と宗三の衣服にたっぷりと振り撒かれていった。
「あッ…、あぁあ……、やぁ…服が………、汚れ……っ…、」
 嘆くように呻き、顔を歪めた宗三の唇から、淫楽に湧いて溢れた唾液が床へと糸を垂らして滴る。
 竿を埋め込んだ薬研のほうでは宗三に気をかけるゆとりは既に無くしていて、宗三の尻を両手で掴み直すと、達したばかりの宗三に構わずにがつがつと腰を揺さぶり始めた。
「うッ、ぅ、ぁうっ、ンぅッ」
 激しく身を揺すられて宗三の喉から声が漏れる。
「は……、そうざ、そうざ……イイぜ、宗三………」
「っ…ン、ふぅッ、ぁうっ…」
 口淫させられたときと同じく、追い詰められたような声で薬研に言い下ろされて、宗三は全ての反抗心を無くしてしまった。
 どんなに拒もうとしても、いつも宗三は薬研に抗いきれなかった。それどころか必ず、最後には自ら淫楽に堕して、薬研の突きに合わせて腰を振ってしまう。
「ンっ、んうぅッ、ぁっ、はぁッ……、」
 今も、また。淫楽を放ったばかりなのに、後孔深くを擦り上げてくる薬研の竿から再びの愉楽を煽られて、宗三はねだるように身悶えしながら尻を揺すり上げていた。
「はッ、は…、はは、そうざ……おまえも、イイんだろ……?」
 突きを緩めぬままに薬研から笑うように言われて、宗三は正直に頷くしかなかった。
「ン、う、んンっ」
 薬研の小さな腰が宗三の尻に突き当たって幾度も音を立てる。
「ンぁ、ぁ、はッ、はぁ、あぁっ」
 もはや喉を閉じて我慢することも出来ず、宗三は口を開いて快楽を声に乗せた。
「あッ、やげ……、ンぁ、はぁ、やげん…ッ」
 繋がって擦り合わされる後孔の粘膜から強い淫熱が伝わる。再び勃ちかけた竿を薬研の小さな手に握られて、前後から、深い快楽を擦り上げられていく。
「ひぁあッ、ぁ、あァッ」
「前を擦ると……おまえの中、きゅうきゅうと締まって、凄くイイぜ、宗三、」
「ッ、ぁ、くッ、ンぅっ」
 繋がった相手から淫猥な言葉を吐かれ、宗三は羞恥に顔を赤らめ、それでも快楽に屈することはやめられず、白い手の爪で畳を掻きながらせつなげに啜り泣いた。
 薬研の竿が体内で膨張していき、やがて、宗三には苦しいほどの圧迫に変じてくる。
「ッ…、もう……、中に出して、いい、だろ………?」
「! っ、ぁ、だめ、……ですっ…、やめ………」
 限界を迎えた薬研に後背から言われて、宗三の心に理性が蘇る。
「おまえだって外に出しちまったし、どうせ、体だって服だって畳だって、汚れてるじゃねえか……、いいだろ……?」
「っダメです、ってば、ぁ、あぁ、ンぁンッ…、っやめて…くださ………っはッ」
 中出しなどされたらその後暫くは仕事にならなくなってしまう。宗三は飲み込まれた快楽の裡から理性の欠片を拾い集め、どうにか情欲を押さえつけた。薬研の欲求を撥ねのけようとして身じろぎし、薬研の体の下から抜け出そうと宗三が藻掻く。
「ッ…僕を、騙して、口から精を飲ませたくせに……っ、このうえ……、中に出すなんて……ッ、ンぁ、」
「騙すたぁ人聞きが悪いな」
 薬研が苦笑する気配がある。
「おまえがそんなによがらなかったら、ここまでしねえぜ? 宗三。……そら」
「! は、ひッ、やぁ、ッやめ………っ、ひぃッ!」
 前から手で竿を強く絞られ、後孔には捻じ込むように屹立を突き込まれて、宗三は痺れるような快楽に悲鳴を上げた。
 強い飲薬のように愉悦が脳にまで達し、薬研の熱以外は何も感じられなくなってしまう。
「ひぁッ、あぁ、やぁッ! っやめ……やめて、くださ………、やげん………!」
 あまりの快楽に恐怖すら覚えて、体を揺さぶられながら、開きっぱなしの朱唇から溢れた唾液を床に滴らせ、宗三が喘いだ。
「……やめて欲しいのか? …本当にか?」
 試すような声が後背からして、唐突に、薬研が腰の動きを緩めた。
「っ……」
 途端に愉楽の段階が下がり、宗三は安堵より物足りなさを自覚する。
「どうだ? やめたいか、宗三?」
 薬研は更に言い募って、竿を引き抜こうと言うように腰を後ろへ引きかけた。
「ッぁ、あ、だめ………っ、」
 思わず宗三の手が伸びて、薬研の腰に長い指が絡み、薬研の動きを引き止める。
「っや、やめ……やめないで、やげん……っ、」
 薬研の抽送を求めるように自ら腰を揺するが、薬研は後背で笑うだけで、それに応えてはくれない。
 汗に汚れて体に絡む薄紅色の髪を薬研の少年の手が掴んだ。優しくとも意図を感じる強さで掴んだ髪を後ろに引かれ、宗三の首が仰け反る。
「その綺麗な口で言ってみろ……、宗三……、俺っちに、なにを、どうして欲しいのか……」
 淫熱と支配欲による昂奮で、普段は低い声を上ずらせながら、薬研が命令してきた。
「ッ、ぁ、あ……突いて……っ、薬研………、」
 白い喉仏を上下させて宗三は懇願する。
 薬研に自分の中から去って欲しくなかった。
 宗三は泣きじゃくりながら薬研にねだるしかなかった。嬲るように焦らされているのがわかっても、宗三の身が愉楽を欲するのを止められない。
「抜かないで……くださ……っ、は、ぁ、僕の…中…を……、あ、あなたの竿で突いて……ッ、やげん………お…、お願いです………欲しいのです……、あなたので、気持ちよく、なりたい……のです……ッだから、もっと、僕のお尻の穴を、突いて、くださ………、ぁ、やげん………!」
 自尊心など持っていても無駄だ。
 薬研に屈服しながら宗三はそう思った。
 自分の羞恥も、良識も、鷹揚さも、薬研の前では消し飛んでしまう程度の些細なものだった。
「やげん………、ください、…やげん……!」
 名を呼ぶことしか出来なくなって、掠れた声を上げた宗三に応えるように、薬研が髪から手を離し、代わりに尻を掴んで、後背から深く強く突いてきた。
「ッ、ひ、あ!」
 動物の剥き出しの本能そのままのような激しさで、少年が幾度も腰を打ちつけてくる。
 そんな荒々しさにさえ宗三の快楽は反応して、体を畳の上に投げ出しながら宗三もまた獣のように喘いだ。
「ンぅっ、ひぃッ、ぁ、あァッ」
 口を閉じることも出来ずに、大きく開いた薄い唇から赤い舌が零れている。先程放った精で汚れた衣服が、散る汗と唾液に更に汚れていく。もうそれに構うこともなく、腰を揺すられる度屹立した竿先から先走りを滴らせながら、宗三は薬研に溺れた。
「あ、薬研、気持ち、いい、ですッ、んぅ、もっと、あぁ、もっと………ひぁあッ!」
 宗三の耳の近くで、薬研が笑うように息を吐いた。
「くっ、ふ、おまえは本当に可愛いな、宗三、」
「ッあ、やげんっ、」
 褒美とでも言うように幾度も宗三を突き上げた薬研だったが、やがて悔しそうに声を絞り出した。
「っちッ………、悪りいが…、俺っちがもう限界だ…、出すぞ………!」
 もはや宗三に拒否感も与えず、薬研が宗三の腰を強く捕らえて、奥深くへと己を穿ち込んだ。
 宗三の体内で薬研の熱が爆発する。
「! ひッ…ンひ……、くぁうっ……!」
 薬研の射精を受けてびくびくと内側が震え、宗三は背を仰け反らせた。
 もう幾度も身に刻まれた感覚。薬研が宗三を所有しているという証。
「あッ……、あぁ………!」
 薬研の竿から解き放たれた熱が、宗三の腸内を逆流していく。
 自分は薬研のものなのだ。そう思い知って、それが宗三の体熱をも上昇させる。
 薬研の熱に浸されて体の芯がかっと熱くなっている。宗三自身も、放熱を今や切望していた。
「はッ……は、薬研……、イかせて……ください………、」
 薬研の支配を完璧なものにして欲しくて、宗三は抵抗感も無くその言葉を口に上せた。
「いいぜ…、出せよ……、」
 宗三の声に応えるように、宗三の竿を握り込んでいた薬研の手が動いて、宗三の竿を強く扱き、放出を促してくる。
「ンぁ…うっ、ぁ、出……ッ…ぁ、はぁッ……!」
 前も後ろも薬研に捕らわれたままで宗三はびくりと身を震わせて、薬研の手の中で竿から精を解き放った。
 宗三の二度目の射精が畳を汚し、宗三の衣服を汚し、薬研の手を汚した。
「はぁっ…、はぁ………」
 薬研が腰を引くと、栓をされていた後孔の中から薬研の精がどろりと溢れ、宗三の剥き出しの臀部から太腿へと滴っていった。己の皮膚を辿りながら冷えていく薬研の精を感じながら、宗三は荒く息を吐き、茫然と床に頽れていた。


「っ……本気で………、近習を、あなた以外の者に代えていただかないと………、」
 あちこちに薬研の手の痕を残し、情交で汚れた身を濡れた布で薬研に拭き取られていきながら、宗三が恨めしげに言った。
「別に問題ねえだろう。おまえを汚しちまったが、こうして綺麗にしてやってるし」
 医学に知見のある薬研の手は、言葉どおりてきぱきと効率よく宗三を浄めていく。
「っそんなことを、言って………この十日ほどで、三日以上も昼日中から交わっているではないですか。僕はいつも、最初に駄目だと諫めるのに………」
「確かに。おまえはいつも最後は自分で悦んで腰を振ってくれるな、宗三」
「………そ、そんなことを言いたいのではありません!」
 理性を取り戻した宗三は顔を真っ赤にして、それでも薬研に身を拭かれるままになりながら、薬研を詰る。
「今日だって、昼食の膳を下げるのが遅れてしまったではないですか……仕事の時間にまでしわ寄せが来た挙げ句に、体までこんなに汚してしまって………服も………ン…ぁ、」
 薬研の指が宗三の臀部に至り、渇いた白濁に汚れた皮膚を綺麗にしていく。触感に宗三はひくりと身を震わせて唾を飲んだ。
 尻に残る精の痕は、後孔から溢れてきたものだ。宗三の体内にはまだ、薬研の精液が残ったままになっている。
「おまえの孔に指を突っ込んで掻き出してやろうか?」
 どうということも無いようにあっさりと薬研に言われて、宗三は目尻を赤らめて色違いの両目で薬研を睨んだ。
「……結構です。そんな様をあなたに見られたくはないんです。厠にこもって自分で綺麗にします」
「そうか。残念だな。俺っちの精をおまえが尻からひり出すところが見たかったんだが。さぞいやらしい眺めだろうぜ」
「! ッ…、あ…、あなたと言う人は!」
 頬を髪より赤く染めて宗三は薬研に食ってかかった。 
そもそも羞恥心に関しては、少年姿の薬研よりも宗三のほうがずっと強い。そうした羞恥の壁をわざと突き崩すような淫らさで情交を迫ってくる薬研に、宗三はいつも困惑させられている。
「もう本当に、日中に交わるのなどこれきりですよ! あなたは、僕が何度諫めても聞いてくださらない。約束だって、いつも破られてしまうし……、こんな状態が続いたら、もうこれ以上、夜だってあなたのお相手はできません!」
 身を拭き終えた薬研から体を離し、宗三は拗ねるように身を横に向けた。乱れた衣服を直して帯を締め直し、薬研に解かれた髪を結い上げてそのまま、口も聞かずに厠へ向かおうと立ち上がりかける。
「口では? もうしてくれねえのか?」
「…当たり前です!」
 からかうように薬研に言い上げられて、宗三はかっと頬を赤らめて即答した。薄紅色の髪を振り立てて薬研に背を向け、外へと向かう。
「宗三、…宗三」
 戸に手をかけて部屋を出ようとした宗三に、薬研が後ろから声をかけた。
 宗三が振り向くと、薬研が自分を見上げていた。
「悪かった。俺っちは、おまえといると、一緒にいられるのが嬉しくって、つい甘えたくなっちまうんだ」
 唇は微笑しているのにその色の薄い目には何故か寂寥が宿っていた。
 彼の恋人となってから気がついたことだが、薬研には、宗三とは別の虚無が身の内に存在している。薬研の視線に宗三は胸を突かれて怒りも冷え、小さく溜息をついて、薬研に向き直った。
「あなたの謝罪は受け入れますけれど……もうこんなことはこれきりですよ」
「わかった」
 薬研の低い声できっぱりと言われ、宗三は納得させられてしまう。
「これ以上、日常に差し支えるような無体をなさるときには、どうあろうと小姓を別の者に換わっていただきます」
「ああ。それも承知した」
「……………厠へ行ってきます」
 戸を開き、宗三はするりと外へ出た。
 南中すぐの秋の日差しが縁を温め、澄んだ空気が宗三の頬に当たる。
 渡り廊下を厠へと向かいながら、宗三は再び溜息をつく。反省すべきは自分もなのだ、と、宗三は薬研のいないところで独り思った。
 自分が気を強く持てれば、薬研を拒みきることができる筈だ。
 だが無理だった。
 本能寺で死に後れたという自分の中の虚無が、本能寺で刀身が逸失した薬研を得て、今ようやく満たされている。薬研は、宗三といると気持ちが昂ぶって何も手につかなくなるというようなことを言っていたが、それは宗三も同様だった。薬研の傍に居ると、理屈のわからぬ熱が、知らず、体内に蓄積されていってしまうのだ。
 これが人間の言うところの、恋、というものだろうか。
 人間の感情が、抑制の効かぬ、こんなにも厄介なものだとは思いもよらなかった。こんな気持ちは心ごと何処かへやってしまいたいと思うのに、元凶である筈の薬研からは片時も離れられない。体の中に薬研の精が残り、彼とは交わったばかりなのに、もう既に、薬研に抱かれるであろう夜が恋しい。
「………………………」
 こんな心境で午後、自分は仕事になるだろうか、と宗三は不安に思う。
 薬研の視線、薬研の声、薬研の手は自分の体の中に不思議な火をつける。自分独りでは消せず、薬研に宥めてもらうしかない火なのに、同時にその火は薬研を火種としていて、いつでも自分の意思を超えて強く燃え上がってしまう。
 すっかり秋の気配を深めた庭を眺めながら宗三は溜息を再びつき、厠へと足を進めた。
 その頃。
 宗三のいなくなった部屋で、昼の膳を片付けながら、薬研は首を横に振っていた。
 宗三に無理押しをしたくないといつも思うのだが、最後は常に己の欲が理性に勝ってしまう。宗三は最後はいつでも自分に譲ってくれる。それが嬉しくて、次にはまた、宗三を試すようなことを薬研から仕掛けてしまう。それでも自分の傍にいてくれる宗三を気の毒だと思ったり、己の良心が咎めたり、あるいは自分の横暴な情欲を嫌悪する気持ちも、薬研の中には存在している。
 宗三の存在は薬研の心に、自分では消せない火をつける。宗三が顕現する前、宗三と情を交わすようになる前の自分は、生身を持ちながら心は生きていないも同然だった、と薬研は思い起こす。
 薬研にとっては宗三こそが火だった。淡い炎のように燃え立つ、全身が薄紅色の青年。彼を思うと薬研の心は躍動し、心から湧く熱が全身を経巡り、足先までが熱くなる。
 自分を抑える術をどうにかして身につけねばなるまい。今更宗三の小姓役から降ろされることは到底許容できなかった。宗三の身の回りの世話を、別の短刀に任せるなど論外だ。以前、宗三が風呂の度に平野藤四郎にあの白い肌を見せてきた、と思っただけで、嫉妬で気が狂いそうになる。
 どうにかして夜まで我慢しよう。薬研藤四郎は深く息を吸って吐き、宗三を思って早くも再び固まり始めた己の熱を宥める。
 すっかり下げるのが遅れた昼の膳を抱え、宗三の後を追うように,、薬研は縁への襖を開けた。
 厠へ去った宗三の姿はそこにはなかった。
 風はなく、かさりと音を立てて庭の紅葉が一枚、地に落ちる。
 秋の日差しを浴びる楓が、ふたりの心の炎を具現化したかのように、燃え立たんばかりの赤に染まっていた。



                                             (了)




後書