<其乃三>


「はっ……は…、やげん……、あッ」
 薬研の責めが一度で終わるはずもなく、深夜まで宗三は恋人の少年に組み敷かれていた。
「ンっ、ぁ…もう……許してくださ…あァっ、はぁッ」
 小袖を全て剥ぎ取られた全裸で俯せにぐったりと横たわる宗三を、しかし薬研は解放してくれない。
「あッ…やぁ…ぁ、少し、休まないと…っ、もう、イけな…ッ…、…ンぁうっ」
「いい、だろう、そうざ……、もう少し……、」
 さすがに声にやや疲労を滲ませた声で、穿つ薬研が言い下ろした。
「おまえ、出さなくたって、後ろだけでもイけるだろうが、」
「っ……、ン、ぁ、っや、……無理…でっ、ぁあっ…」
「これで最後だ。……出すぞ」
「! ………ぅ、あぁうっ……!」
 薄紅の髪を散らした白い背中が、薬研の射精を受けて強く撓った。
「あ………ァ…!」
 薬研の言葉どおり、萎えたままの竿にも関わらず、宗三がびくびくと身を引き攣らせる。
「っ………、かは……、」
「っふ………、」
 宗三の後背で、薬研が深く息を吐いた。
 精の最後の一滴までをも宗三の中に絞り出して、薬研は宗三の後孔からようやく竿を引き抜いた。
「ンはっ……、ぁ、」
 閉じることを長らく忘れていた宗三の唇がわななき、大量の唾液が口内から溢れて顎から首へと伝い落ちていった。
 宗三の全身は弛緩し、体内に撒かれた薬研の白濁が、菊座から漏れ出て布団を汚している。
「やっぱりイっちまったな、おまえ。射精もしないで」
「っ………、」
 寝床の上に這いつくばったまま、身を起こすことも出来ずに、宗三が羞恥に顔を赤らめた。
「待ってろ。体を拭いてやる」
 自らも身に疲労を溜めながら、それでも薬研が濡れた布で身を拭ってやろうとするのを、
「いい…です………薬研……、」
 疲れにとろりと濁った目で宗三が言って、薬研に手を伸ばしてきた。
「接吻を……、して…ください………」
 宗三の汗に濡れた指が、薬研の髪とうなじに触れてくる。
 引き寄せられるように薬研が宗三の唇に口づけると、仰向けになった宗三は口を開いて、薬研の唇と舌を己の薄い舌で優しく慰撫してきた。
「ン…んっ、ふぅ……ンぅ……、」
 精を放ちきったけだるい空気の中に、くちゃ、ぴちゃりと水音がする。
「修行の時に俺っちの背丈がもっと伸びてりゃ、体を交わしてる最中でもおまえの口を吸ってやれたのになあ」
 ようやくに口を離し、薬研が笑いながらも自嘲めいたことを愚痴った。
「俺っちの肉棒をおまえの下の口に食わしてやってるときには……、俺っちの上の口はおまえの乳でも吸うのが精一杯ときてるもんな」
「………薬研」
 薬研の両頬に手を当て、乱れた頬髪を整えてやりながら宗三が微笑んだ。
「あなたはとても素敵ですよ。今のそのままの姿で。……僕の、大事な薬研」
「………宗三」
 恋人の賛辞を受けて薬研は幸福に頬を緩ませた。
「あんまり俺っちを甘やかすなよ。俺っちの心はまだガキだから、つけ上がるぞ」
「そんなことにはなりませんよ。僕は知っています」
 宗三の優しい微笑は同時に儚く、薬研は思わず宗三の肩を強く掴んだ。
 宗三のほうはそれを違う意図を持った行動と受け取った。
「………まだ…、したいのですか………?」
 宗三が重たげな薄い瞼を無理に持ち上げ、薬研に色違いの目を向けてくる。青と緑の瞳は汗と涙に滲んで潤み、夜気の中で宝石のように光を弾いていた。
 宗三の声に反発はない、薬研が望めば、宗三は己の疲労を押して、何度でも薬研に向けて体を開くだろう。
『必要以上に身を譲る』と薬研が評した宗三の性格とは、そういうことだった。
「……いや………今夜はもういい」
 さすがに宗三の身を案じて薬研は気を使ったが、宗三は全てを見透したように再び微笑んだ。
「少し、待っていてください……、ちょっとだけ休んだら、また………、できます、から…」
 そう言って宗三は長い腕で薬研の体を抱き寄せる。
「少しだけ……寝かせてください……」
「………宗三……、」
 宗三に抱き込まれながら、薬研が何を言い返そうかと迷う間に相手の呼吸は深くなり、宗三がそのまま寝入ってしまったことが薬研にはわかった。
「…………そうざ」
 答えが返ってこないと知って、むしろ安堵したように薬研は恋人の名を呟いた。
 宗三の薄い胴体に薬研も腕を回す。黒髪が汗で貼りついたままの前頭部を宗三の胸にそっと寄せた。薬研の額が触れている宗三の左胸には、信長の印が刻みつけられている。
 宗三の胸に頭を寄せた状態で目を閉じると、宗三の鼓動が伝わってきた。
 その体の熱も。
「………宗三……」
 応えるのは宗三の深い寝息だ。
 刀剣男士の身体を持って、宗三左文字は確かに生きている。
 同じ刀剣男士である自分の隣に。
 裸身のままの宗三の身を少年の腕で抱きかかえて、薬研は宗三のつけた香だけでなく、交わった結果であるところの汗と精の混じった体臭を強く鼻で吸った。
 宗三の体が冷たく凍るところなど、想像したくもなかった。
「…………俺っちは結局。久秀さんよりは信長さんに似ているのかもな。前におまえが言った通り」
 極を果たす為の修行の旅路に、薬研は織田信長のいる安土城を選んだ。松永久秀のいた信貴山城ではなく。
「悪りぃな、宗三。俺っちは……、極になる前におまえとした約束は果たせそうにない」
 死ぬときは一緒だ、と宗三に言った。
 刀剣男士としての身が滅ぶときにはおまえも殺して連れて行く、と。
 薬研にそう言われて、宗三は悦んだ。
 薬研とは違って、信長の死んだ本能寺で破壊を免れた宗三は、死に後れた悔恨を背負って世に在り続け、刀剣男士として顕現した。
 薬研は目を閉じたまま、手で宗三の体を撫で、汗を吸ってまつわりつく薄紅色の髪を指に絡めて撫でつけた。
「久秀さんのようにはできねえ。大事にしていたものを自分の死と共に壊す、なんてことは」
 宗三がいずれ誰の所有となろうとも。
 自分の所為で壊されるよりは、無事で世にとどまり、命を存えて欲しい。そう思う。
 信長が本能寺でそうしたように。
 宗三に対し抱く気持ちを、薬研はもはや変えられない。
「ごめんな。宗三」
 答えが返らないことと、宗三がそれを知ったら許してはくれないことを承知の上で。
 薬研は独り恋人に謝罪し、小ぶりの頭をいっそう宗三の胸に押しつけて、そして眠りに落ちていった。 



                                             (了)




後書