<其乃三> 接吻を繰り返し、体を強く寄せ合う為に、いつの間にか、二人は土間に立ちあがっている。 「ン……ふぁ…、はっ……」 口中に燭台切光忠の舌を感じながら、一期一振の全身は速やかに熱くなってゆく。 「ンぁ……、ぁ、貴男の、キスは、苺の、風味がします…、みつ、どの……、」 息継ぎの為に口を離し、腫れた唇の端からふたりのものが混じり合った唾液を顎へ滴らせながら、一期一振がぼんやりと呟いた。 「ふ……、そうだね、」 至近で燭台切光忠が微笑みながら言葉を返す。 「きみも……苺の味と……、それから、米とお茶の風味もするかな」 それは苺の直前に口にした握り飯と茶の所為だろう。 「……っ…、鄙じみて、おりますでしょうか……?」 羞恥を浮かべて一期一振が問うのへ、 「そんなことは思わないよ。お結びもお茶も僕が作ったものだし、」 「っ、ン、」 答えてから、燭台切光忠は再び一期一振に口づける。 「ふ…、こんな状況になるまで、想像したこともなかったけど……、僕の作った食事を食べてくれる人に接吻すると、自分に近い味がしてゆかしい気持ちがするものなんだね……嬉しい発見だな」 「ッ、み、みつどの、ンふっ」 燭台切光忠から、己の口中を味わうように舐められて、一期一振は体の芯が溶けていくような心地になる。 触れている箇所は口だけではなかった。普段は互いに手袋をはめているが、今は二人とも素手だ。力が抜けて体の脇にだらりと垂れた一期一振の左手に、甲側から燭台切光忠の右掌が重ねられている。自分のものより大きくて男らしい指が己の細い指の間に絡んで、指の根と掌を刺激してくる。手の甲を掴まれるまま、縋るようにその指先を己の掌のうちに握り返すと、燭台切光忠の親指が愛おしむように一期一振の小指の付け根を撫でてきた。 顔と手。互いに衣服を着込んでいる状態では、直に触れ合わせられるのはその二カ所だけだった。そこだけではなく、もっと他の場所にも触れて欲しい。 一期一振のその望みを読み取ったかのように、燭台切光忠から囁きが下ろされる。 「ちぃちゃん……、きみの、もっと別の場所にも触りたい、」 燭台切光忠の唇が一期一振の口から離れ、唾液を垂らす顎や、ひいては首筋にまで接吻が繰り返し落とされる。 「ン、」 生物的な弱点であるはずの喉首に燭台切光忠の舌が触れて、一期一振の身がぴくりと震えた。 「はぁッ、」 燭台切光忠の左手が一期一振の襟首に手をかけ、ネクタイを緩めてくる。 「ぁ……、ン、」 一期一振のほうでも、力の抜けた右手で己の制服の釦を外していく。合わせが解けるより早く燭台切光忠の手が制服の裡に忍び入ってきて、ネクタイが更に緩められ、シャツの釦も外される。 「ぁ、あ、みつ、どの、」 喘ぎに乗せて燭台切光忠の名を呼んでいることも、一期一振は殆ど自覚できなかった。 脚から力が抜けてふらつき、蹈鞴を踏むと、後方にあった卓に腰が当たった。先程燭台切光忠が、豚と呼んだ食肉を上に並べていた処だ。 「……、ぁ、」 卓にぶつかって背を仰け反らせたところへ、燭台切光忠の上体が覆い被さってくる。背骨が反った所為で、燭台切光忠に向けて腰が突き出されていたことを、一期一振は全く認識していなかった。 一期一振の男の場所に、燭台切光忠が、初めて手を触れてきた。 「ッ……、ひ…ぁ……!」 制服越しに撫で上げられて、一期一振の喉から掠れた喘ぎが上がる。燭台切光忠の手は離れず、服越しに一期一振のものを優しく捕らえて、ゆるゆると刺激を続けてきた。 「あ……ぁ…、みつ、どの、待っ……、」 一期一振の竿は忽ちに、服の中に押し込められているのが苦痛なほどに大きく膨張する。 耳元で燭台切光忠がくすりと笑みを漏らす気配があった。 「ちぃちゃんの……、男身に触るのは…、これが初めてだね……、」 頭上から、昂奮した声音の燭台切光忠の言葉が囁かれる。 一期一振の竿を掴みながら、残った片手が一期一振の腰に巻かれたベルトを外し、制服の前止めも外して、肌着の内側に、燭台切光忠の素手が滑り込んできた。 「ひぃ……ぁっ…!」 腰骨を直に探られ、唇をわななかせて声を上げる様を、燭台切光忠の隻眼が見下ろしている。 「ふ……滑らかな、肌だね……、やっぱり、ちぃちゃんは……、男の姿でも、僕より随分と華奢なんだな……可愛いよ」 熱の籠もった、嬉しげな燭台切光忠の声。 肌着の裡を撫でる彼の手は一期一振の臀部に回り、尻たぶを優しく掴む。 「ッ………、」 男同士で体を結ぶ部位が自覚されて、一期一振はひくりと震えた。 男二人が交わるとしたら何処を使うのか――さすがにそれくらいは、一期一振でも知っている。乱や薬研が、あられも無い内容の雑談をしているのをよく耳にする所為だ。 燭台切光忠の屹立は既に知っている。見たことがあるだけで無く、己の体の中に入った記憶すら持っているのだ。 「ぅ、あ、はぁ、」 一期一振が身を捩ると、暗色のシャツの前面が割れて、目に痛いほどに白い肌が露出した。燭台切光忠の唇がその上に落ちる。 「ぁ、」 肋骨の辺りを燭台切光忠の舌が這った。 「ずっと、見たかったんだ……あのときから……。ちぃちゃん……男身の、きみは、どんなだろうって……。手や舌で、触ったら、どう反応してくれるか、って……、」 腕を体に回して臀部までを抱え込み、燭台切光忠の舌が一期一振の腹から胸へ這い上がって、尖り始めた乳首に舌先が触れた。 「ひッ…! ァ……!」 一期一振の喉から掠れた喘ぎが放たれた。胸肌に与えられるのは舌の感触だけでなく、柔らかな燭台切光忠の髪も一期一振をくすぐってくる。 「ちぃちゃんの、声……、もっと、聞きたい。聞かせて」 舌で愛撫していた乳首が両唇に挟まれ、弱く吸い上げられた。 「ンんッ……!」 接吻と舌での愛撫。強張ってきた下肢に燭台切光忠の指が当てられて、肌着越しに欲熱を強く煽ってくる。 「あッ、あぁ、みつ……どの…っ、ンぁ、」 惑乱が無い訳ではないが、愉楽を味わいたい気持ちのほうが一期一振にはずっと強かった。上体を押し被せてくる燭台切光忠に身を添わせ、艶を帯びた黒髪の間に指を差し入れて彼の項の辺りを撫でながら幾度も彼の名を呼んだ。 目の前の彼が欲しい、彼と溶け合って、同じものになりたい。淫欲よりももっと深い欲求は既に己の中に生まれていて、それが一期一振の心を震わせた。 今自分が抱いているのは『恐れ』ではなく『期待』なのだ―――ようやく、一期一振はそのことに思い至った。 燭台切光忠の大きな手が、一期一振の腰から制服と肌着を引き剥がし、下方へ滑り落とす。 「ッ……、」 秘すべき場所を他人に見顕される羞恥に一期一振は頬を赤らめ、だが局部を燭台切光忠から隠すことはせず、却って、燭台切光忠の手によって半ば屹立した竿ごと、彼に向けて身を寄せた。 「ちぃちゃん……、」 一期一振の積極性を見て、燭台切光忠の声には悦びの気配が混じる。彼のほうにも『期待』はあるのだ、と一期一振もそれを悦ばしく思った。粟田口の制服は既に上下とも脱がされ、暗色のシャツだけが、腕と肩を覆っている。 一期一振は燭台切光忠の服に手を延べて、スーツの釦を外し始めた。 「みつどの、も……、脱いで、ください、」 一期一振の手が燭台切光忠の胸を滑って背広を肩から外し、ベルトとスラックスの前を緩める。 「私も、貴男の肌を、見て、触れたいのです、」 「ふ……、」 燭台切光忠が喘ぎながら自らも服をくつろげる。彼のシャツの前が開くと、見覚えのある厚い胸板が一期一振の視界に飛び込んできた。一期一振の鼻腔を、燭台切光忠の香混じりの体臭が冒してくる。嗅覚と視覚、そして肌から感じる燭台切光忠の熱に酩酊したように一期一振は微笑んで、薄木賊色の髪を燭台切光忠の胸肌に擦りつけた。 「ッ……、ちぃちゃん、そんなことされたら……、僕でも、自分を止められなくなるよ、」 剥き出しの肌に一期一振から頬ずりをされて、燭台切光忠は切れ切れに忠告する。 「もちろん、それで良いのです……是非に、止めないで、」 一期一振は更に身を寄せて、腕を燭台切光忠の背後に回し、互いの胸肌を擦り合わせる。 「ふっ……」 硬い胸板の乳首どうしが擦れ合って、刺激が全身の血を巡って下腹部に伝わる。既に性器を晒した一期一振と、まだ下半身を服に包まれている燭台切光忠、ふたりの竿をも擦れ合って屹立しかけており、互いの情欲を訴えていた。 「私にも…見せてください……、みつどの……、」 一期一振が溶けるような微笑を燭台切光忠に振り向けて、その優美な手で燭台切光忠の下肢をまさぐり、竿を引っ張り出す。 「っ、く……、」 一期一振の白い手にすでに剥き出しの屹立が握られており、男と交わることなど知らぬ清楚な美貌が、木賊色の髪の下で、しかし交情への期待に琥珀色の目をひどく潤ませていた。 「みつどの……貴男も、私を欲してくださるのですね……私が貴男を欲するのと同じように、」 「……、」 一度握ったことのある燭台切光忠の竿をゆるゆると煽り、勃起を強めさせながら、一期一振が嬉しげに言い上げた。半開きの唇から、熱い喘ぎと、唾液に濡れた赤い舌が覗いている。首に巻かれた黒いネクタイは既にしどけなく緩んで、呼吸に合わせて上下する白い肌の上に揺れ動く。一期一振を拘束すると錯覚させるようなその濃い影が燭台切光忠の情欲と支配欲を強く煽って、燭台切光忠は一刻も早く目の前の相手が欲しくなった。 袖だけ腕に残していた己の背広を全て脱ぎ、燭台切光忠は一期一振が背にした卓の上にそれを手早く敷き広げた。一期一振の剥き出しの下肢を腰から両手で捕らえ、抱え上げて、彼を卓の上に座らせる。 「は、ぁ、みつ、どの」 胸を広げたシャツとネクタイだけの姿で、一期一振が燭台切光忠の名を呼んだ。 その朱唇を、燭台切光忠は熱い呼気ごと己の口で塞ぐ。 「ン、んン、」 火傷痕の残る大きな手が一期一振の顎を優しく捕らえて、一期一振の口中に燭台切光忠が唾液と舌を送り込んできた。 「ンぅっ……、ふぅ…、ふぁ…ぁ」 一期一振の喘ぐ息が燭台切光忠の唇との隙間から漏れ聞こえる。 舌に舌が絡み、一期一振の体からはすっかり力が抜けて、ただ燭台切光忠の官能を味わうばかりとなっていた。 「ちぃちゃん」 ややあって、燭台切光忠は唇を離し、隻眼で至近から一期一振の顔を覗き込む。 一期一振は言葉も失って燭台切光忠を見つめ返した。 男らしい美貌が情欲に赤く染まり、その表情は、大きな肉食獣めいた飢えと野性味に満ちている。 同じく飢えを抱いた、鬼灯のように光る一つだけの目にはしかし、一期一振への気遣いと、恐らくはもう一つ別のものが湛えられていた。 自分への確かな慕情。 「以前とまったく同じ問いになるけど。これだけはきみに聞いておかないと」 「………なんでありましょうか……?」 熱い息とともに、一期一振は、あえかな声で問い返す。 「ちぃちゃん……、僕と、恋人同士になってくれるかい?」 「! ………、」 一期一振は息を詰め、無言で唇を震わせた。彼の琥珀色の二つの目が大きく見開かれる。 かつて。一度だけ、同じことを燭台切光忠から言われた。 それは恋慕ではなく労りから来る言葉だと、あのとき自分はそう解釈したのだ。 「みつどの……」 一期一振は掠れた声で名を呼び、喉をこくりと鳴らして唾を飲む。 労りでも恋慕でもどちらでもいい。 いずれにせよ、自分の答えは決まっているのだ。 あの時自分が告げたのと変わらぬ言葉を、燭台切光忠に返す。 そもそも、己の心に忠実に従えば、何時であれ一期一振には返事は一つしかなかった。 「―――謹んで、お受け致します」 そう囁いて。 泣き笑いのように一期一振の表情が崩れる。 「この場限り、今宵一夜なりとも。この一期一振を貴男の恋人にしてください。燭台切光忠殿」 答えを全て言うより早く。 再び燭台切光忠の唇が一期一振の唇に覆い被さった。 それまでとは全く違う、情欲を一切隠さぬ扇情的なキス。 力強い舌が一期一振の舌に絡んで、抉るように口中を撹拌してくる。 「ンふぅっ…! ン、ん、ンぅ……!」 文字通りの情熱を接吻によって燭台切光忠からぶつけられて、一期一振の中で歓喜と昂奮が高まった。 自分もまた情熱のままに舌で応え、剥き出しの脚を燭台切光忠の太腿に絡め、下肢で彼の体を引き寄せる。 下肢が密着して、服越しに、繋がる場所が擦れ合った。 「………、」 唾液の絡んだ唇を少しだけ離して、燭台切光忠が至近で微笑む。 「普段なら、追いかけたら遠くに逃げ出しちゃいそうなくらい、恥ずかしがりやで、清楚で高潔に見えるのに……、実は、ちぃちゃんは、その気になったときには、僕も吃驚するくらい積極的だよね」 燭台切光忠の笑みが深くなる。 「――好きだよ」 「…………ッ、」 甘く低い声で好意の言葉を囁かれて、一期一振の背が幸福に粟立つ。 「我慢しなくていいと知ったら、体が思い出したみたいだ……長い間、きみに飢えていたことを」 卓の上に片膝を乗せ、一期一振の体の上に上体を覆い被せて、燭台切光忠が囁いた。 火傷痕の残る燭台切光忠の手が、横たわった一期一振の繊細な手を取り、自分の唇に近づける。 男らしい唇が開いて掌側から指の根元に口づけられ、やがて舌先が指間を愛撫し、肉に優しく歯が立てられた。 「……ン、」 くすぐったさに身悶えする一期一振の耳に、燭台切光忠の掠れた囁きが届いた。 「きみを食べたい。今すぐに。ちぃちゃんと一緒に苺を食べていても……、僕が味わったのは苺じゃなくて、ちぃちゃん、きみのほうだった」 一期一振の指間に唾液を擦りつけるように、燭台切光忠の舌が皮膚の柔らかなところを上下する。 「あ、ぁ、ふぁ、」 「ふ…、繊細で、綺麗な指だね……。僕のとは違って」 一期一振の疵一つない指先に、燭台切光忠の白い歯が当てられる。 「っ……、みつ、どの、」 触れられるだけに満足できなくなって、一期一振は掴まれた指を伸べて燭台切光忠の頬に指先を添わせた。 男にしては柔らかい自分の皮膚とは全く違った、硬質な張りのある燭台切光忠の肌。黒い髪をかき分けて、一期一振は陶然と彼の皮膚に触れ、左頬骨を辿って、いつか彼が自分にしてきたように、親指を相手の唇の端に当てた。 燭台切光忠の両唇が開いて、一期一振の親指の先を食む。 「………、」 一期一振の顔を見据えながら、彼に見せつけるように筋肉質の唇でその親指を吸い上げ、口中に差し込まれた指先に舌を当てて舐め転がした。 「っ、ふ、」 互いの喉から押し殺した熱が漏れる。 やがて燭台切光忠の手が一期一振の手を捕らえて、口中から唾液の絡んだ親指を抜いた。 「きみの、別のところも食べたいな……ちぃちゃん」 黒髪の下で頬が紅潮し、橙色の隻眼が情欲に煌めいている。 「例えば…こっち、とか」 燭台切光忠が空いた手を下方に伸ばして、一期一振の竿に素手で触れた。 「ッ……、ン、ぁ、」 屹立している竿を愛撫されて、一期一振がせつなげに声を上げる。 「はぁ、は、みつ、どの…」 名を呼ばれてそれが、快楽を乞う合図だとでも言うように。 燭台切光忠は卓から滑り降りて一期一振の腰に顔を寄せ、竿にそっと口づけた。 「ンぁあっ……!」 熱く濡れた舌に雁首を撫でられて、一期一振は首を仰け反らせた。 「あッ、ぁ、はぁうッ……!」 男のものを口に含まれるのは初めてだったが、強すぎる愉悦が体を駆け上がって、一期一振はその快楽に溺れる以外のことはできなくなってしまう。 「ふ、ちぃちゃんの、こちらの太刀も……繊細で美しいね。僕が手に握ると……可愛くふるふると震えてるよ」 「ッ、は、あ、みつ、どのッ、ンぅうッ」 竿先を握られ下肢に顔を寄せられて、燭台切光忠の息を感じながらそんなことを言われて、一期一振はいたたまれなさと心地よさに煩悶する。 「キスすると……ちょっと、しょっぱいね……ふ…、僕の握ったお結びより美味しいかもね?」 そんな冗談を言って、燭台切光忠は本格的に一期一振の竿を口に含み、愉悦を煽り出した。 「ンむ……、」 「ンぅッ! ぁ、あ、ひぁッ…!」 燭台切光忠の大きな口が一期一振の竿先を完全に咥え込み、舌でたっぷりと唾液をまぶして、リズムをつけながら吸い上げる。 「ンっ…くぅ……!」 一期一振は堪え難くなって腰を捩る。逃げたくとも燭台切光忠の手が、一期一振の太腿をがっちりと捕らえていた。燭台切光忠の髪が皮膚を撫でる感触があり、本当に彼の口で自分の竿に奉仕を受けているのだと自覚して、一期一振の心は快楽以外の歓喜にも昂揚する。 「あッ…、ぁ、もう……、みつ、どの……!」 燭台切光忠の口に含まれた竿はいまにもはち切れそうで、一期一振は懇願の声を上げた。このままでは幾ばくの猶予もなく、燭台切光忠の口中を汚してしまう。 「いいよ、ちぃちゃん……僕の口の中に、出してくれても」 「ッ! ………、ぅ………、」 口淫の合間にあっさりと燭台切光忠に告げられて、一期一振は泣きそうな表情になって、顔をいっそう赤らめる。 「…………、や……、」 愉楽に溺れた一期一振の手が燭台切光忠の黒髪に伸びて、指を絡める。 弱々しいその繊細な手が、燭台切光忠の提案を拒むように、頭を竿から離そうとしてきた。 「………厭なのかい?」 先走り混じりの唾液を唇の端から滴らせ、燭台切光忠が一期一振に向かって顔を上げる。 「あ……、ぁ……、」 半開きの朱唇から熱い喘ぎを吐きながら、一期一振が潤んだ琥珀色の目で燭台切光忠を見つめてきた。 「……今、出したく、ないのです……みつどの……、貴男との、男としての初めては、貴男をこの身に受け入れてから、果てたく…、」 淫楽に満ちた顔の一期一振から、震え声でそんな願望を伝えられて、燭台切光忠は理性を殆ど失いかけた。 「―――僕としては、」 未通の一期一振が己を後孔に受け入れるときには苦痛を伴うに違いない。 その前にせめて、自分と一緒にいることで心地よい思いを一期一振にさせてやりたい。 燭台切光忠はそう考えていたのだ。 「きみに気持ちよくなって貰ってから……、と、思ってたんだけど――ちぃちゃんのこっちを食べるのはね」 押し殺していても、燭台切光忠の息が荒くなりかかっているのは一期一振にも伝わる。 燭台切光忠の指が一期一振の臀部に伸びて、後孔を指先でなぞった。 「ン、ぁ、」 蕾の襞を探られて、一期一振が喉を仰け反らせた。 「でも、ごめんね。無様なのは好きじゃないけど……もう我慢ができない」 言うなり燭台切光忠の口が、一期一振の後孔にかぶりついてきた。 「ッ! ンぁ、あ、あッ……!」 力強い唇が蕾に吸いつき、痣が残るほどに吸い上げる。 「ひ、ぁ、」 一期一振が身を捩るのを赦さず、燭台切光忠の舌先が口中から伸びて、濡れた熱が蕾を抉り、内部を犯し始めた。 「ンぁッ! はッ、あぁ、ふぁ、光殿、」 燭台切光忠の鼻の先で一期一振の陰嚢が震え、屹立が揺らいでいる。 「あッ……ぅ……!」 燭台切光忠が口を離し、少しだけ緩んだ蕾の奥に、指を一本差し込んできた。 「ン……ひぃ…!」 とば口を指の関節が突き抜けていく感触があり、一期一振は細い悲鳴を上げる。 「痛い? ちぃちゃん……」 指に油薬をまぶしてはあっても、一期一振の未通の後孔は狭く、組み敷いた相手には辛い情交になるであろうことが燭台切光忠には予見できた。 「あっ…はぁ……大…丈夫です……、光、殿……、」 燭台切光忠に手放されるのを厭って、一期一振は苦しい息の下から声を絞り出す。 「力、抜いて……、ちぃちゃん……」 「っ……、は…………、」 ゆるゆるととば口を探られるうちに、一期一振の蕾はゆっくりと開いてきた。 「………、」 二本、三本と慎重に穿つ指を増やしていきながら、燭台切光忠は飢えを押し殺すように長く息を吐く。 自分がよく使う台所の作業卓の上に横たわった一期一振の裸身。肌理の細かい白い肌に血が巡り、乳首や唇、自ら為した接吻の痕が赤く染まって、それこそ苺のように見る者の欲を誘う。熱い喘ぎを吐く口は大きく開き、濡れた粘膜が光を弾いて、白い歯の向こうに喉奥や舌が覗き見え、一期一振の体内を探りたいという燭台切光忠の欲求を更に深めた。 一期一振の体はまだ辛いだろうが、自分のほうが限界だった。 「…………、ちぃちゃん、」 相手の許可を求めて燭台切光忠が上体を覆い被せると、一期一振は首を頷かせて半眼を開き、燭台切光忠を潤んだ目で見上げてきた。 「みつどの……、私も……。……貴男が、欲しいのです、」 気遣いばかりではない声音で一期一振はそう言って、燭台切光忠を誘うように、自ら膝を立てた。 「ッ、……………、」 燭台切光忠の全身の血が沸騰する。耳の傍で血管がドクドクと脈打ち、眼帯の紐が煩わしく思えるほどだ。 血流は燭台切光忠の下肢にもっとも強く流れ込み、一期一振の腿に触れている己の竿が、服の中で痛いほどに膨れ上がっている。 「く……………、」 燭台切光忠は一期一振から指を抜き、焦れたような手つきで、肌着の前を開けて己のものを引っ張り出した。一期一振の裸身を前に、二、三度指で扱いただけで竿は大きく勃起した。燭台切光忠は下肢を一期一振の下肢に添わせて、その尻を腕で抱え上げ、竿先で、先程まで指で抉っていた一期一振の後孔を探り当てる。 「ぁ、みつ、どの、」 一期一振の喉が仰け反って、その体から力が抜かれた。 未通の蕾に竿先を突き当てられ、それでも、恐怖よりは誘う気持ちをより強く一期一振の呼びかけから感じ取って、燭台切光忠は無言で、本能のままに一期一振の尻の間に腰を沈めた。 「ンっ……!」 「ッ……、く、」 押し殺した喘ぎが双方の喉から漏れた。 亀頭がとば口を圧し、ゆっくりと押し開く。更に燭台切光忠が腰を進めると、くぷりと微かな音がして、雁首までが一期一振の体の内側に飲み込まれていった。 「っ、う、ン……ぁ…あ…!」 狭い場所に強い圧迫を受けて一期一振は胸を仰け反らせ、苦痛を少しでも逃がそうというように幾度も浅い息を吐いた。 体内の、開かれたことがない場所を、燭台切光忠の屹立がせり上がってくる。 「あぅ……、」 一期一振は熱い息を吐いた。 痛みは確かにある。だがそれさえも、自分と燭台切光忠の関係が深まったことの証だ。 今この瞬間、確かに自分は燭台切光忠のものになったのだ、と、一期一振にはそう確信できた。 「ッ……、ちぃちゃん……、」 呻きにも満たぬ声と共に燭台切光忠が名を呼んでくる。 一期一振の顔に、耐えるような息が熱く吹きかかってくる。 その必死さに、燭台切光忠が如何に強く自分を求めているかを感じ取れて、不思議な多幸感に支配され、一期一振は、顔を痛みに歪めながらも同時に優しく微笑んだ。 「ッ、……は…ぁ…、みつどの……、」 琥珀色の二つの目は熱を帯びて、燭台切光忠をひたりと見据える。 性急な己の情欲を許容するように一期一振から微笑まれて、燭台切光忠は息を呑む。 「ちぃちゃん」 以前も同じように、華奢な体の一期一振を腕に抱き、別の場所で体を交わしたことがあった。 だがあの時は彼を抱く目的が違ったし、状況も違った。 今は一期一振が、彼の心一つから、燭台切光忠と交わることを望み、情交に伴う痛みを受容してくれている。 繋がった場所は狭く、熱く、燭台切光忠を狂おしいほどに締め上げながらも尚彼を誘うように粘膜が蠕動している。 「っ…………、く……、」 人の姿であれ刀剣の姿であれ、一期一振は美しい存在だった。 男であろうと女であろうと。外見ばかりかその心根も。 その美しい存在を、組み敷いて、腕に抱き、自分が望むだけではなく、相手からもまた求められて体を繋げている。 一期一振の腕が、燭台切光忠の腕に絡む。 「みつどの……、今少し、奥へ……」 「……………、」 いつもなら羞恥心の強さ故に、人見知りなのかと思うほど内気に見える一期一振が、今は、直截に燭台切光忠を誘ってくる。 「く、ちぃちゃん、」 逆らえるはずもない。燭台切光忠は更に腰を落として、一期一振を深々と貫いた。 「ンぅ…ぁ、あ……、はぁ……!」 一期一振の剥き出しの胸の上に燭台切光忠の汗が散り、一期一振の汗と混じり合う。 「ちぃちゃん……わかる……? きみの中に、僕が、いることが……」 燭台切光忠の問いに一期一振は頷く。 もう大して持たない。 恰好のつかぬこと、とは思うが、もう長らく恋うていた一期一振の初めての内部はあまりに狭く、燭台切光忠は湧き上がる放出欲と必死に戦っていた。 「っ、みつ、どの……、っ、ふ、はぁ…っ」 汗の玉を浮かべ、赤く火照った頬に、優しい眦から流れる涙が滲む。小作りな朱唇がわななきながらも微笑の形を取り、潤んだ琥珀色の目が燭台切光忠を見つめてきた。 「やっと……、この男身で、貴男の恋人に、なれましたな…、みつどの」 「ッ、……」 後孔に初めて男を受け入れる苦痛に耐えながら、それでも如何にも幸福そうに一期一振から微笑まれて、燭台切光忠は全てのゆとりを失った。 「っ、ちぃちゃん、」 名を呼んだことすら自覚せず、繋がったままの一期一振の華奢な体を強く掻き抱いて己に引き寄せ、一期一振の承認も待たずに、下肢を強く彼の尻へと打ちつけ始めた。 「ぅっ、ぁッ、あ、」 燭台切光忠の長い腕の中に、揺さぶられる一期一振の喘ぎが熱としてくぐもる。 「あッ、ぁ、みつ…どの、ンぅむッ!」 空気を求めたか、穿たれる痛みを緩めようとしたかは知れず、一期一振が喉を仰け反らせて燭台切光忠のほうへ顔を向けてきた、その唇を己の口で捕らえ、接吻で一期一振の喘ぎを塞ぎ、燭台切光忠は己の為の抽送を続ける。 「ンっ、ンむ、ぅっ、ふぅッ、」 燭台切光忠を受け入れたその小柄な体に快楽は薄いはずだが、一期一振は抗うことはせず、従順に燭台切光忠に身を添わせ、その白い腕で燭台切光忠の胴体に縋りついて、唇と舌で燭台切光忠の接吻に応えてきた。 「ンっ、ん、ンぅ、」 互いの呼気が混じり合い、繋がった体どうしが同じリズムを刻む。 口と口が離れても、互いの癒着は終わらなかった。 だがやがて、一期一振を抉る燭台切光忠の屹立は限界を迎える。 「ちぃちゃん……、っ、もう……、」 「ン……、」 吐精を堪えかねた燭台切光忠が合図を送ると、横たわった一期一振は心得たように頷いた。 腰を引くか尚も彼を貫くか、燭台切光忠は瞬時迷った。だが、一期一振の腕が燭台切光忠の首に絡んでその体を強く引き寄せて、二つの下肢が一層密着を強めた。 一期一振のとば口が、燭台切光忠を強く締め上げる。 「く………!」 「ッ! あ……!」 互いに気がついたときにはもうそれは始まっていた。 体内を酷く熱いものが逆流してきて、その刺激に一期一振は喉を仰け反らせた。 ドクドクと体に響くのは自分の脈動か、貫かれる痛みか、燭台切光忠の屹立が放出するための震えであったか。 判然としないまま、一期一振は、燭台切光忠が己の中で果てたことを知る。 「はぁ…は……、みつ、どの……、」 「ん……、」 精を撒ききった燭台切光忠が少しだけ身を起こして、未だ体は繋がったまま、一期一振の勃起した竿を指で掴んだ。 「っ、ぁう、」 「次はきみがイって、ちぃちゃん、」 熱い息と共に優しい声で囁かれて、大きな手で竿を扱かれる。 一期一振の竿は既に、先走りを零して限界近くまで膨張しきっていた。 少しの刺激ですぐに、一期一振は己が達してしまうと自覚した。 「あッ……、ぁ、ああ……っ…!」 燭台切光忠の手の中で勃起がびくりと震え、射精が始まる。 燭台切光忠の隻眼に見守られながら、竿から白濁が迸って、やがて止んだ。 「ぅ…ン…あぁ、う…」 一期一振の精は己の腹を汚しながら広がり、汗ばんだ臍の上に滴っていく。 燭台切光忠は息を詰めてその淫靡な様を凝視する。 やがて、 「ふ……、ちぃちゃん……、」 囁く燭台切光忠の唇が、満足げに笑みを深くした。 大きな手が一期一振の額に伸びてきて、汗に濡れて寝乱れた淡木賊色の髪をとかしつけ、その上から頭皮を撫でてくる。 「ん……ぅ…、」 まだ燭台切光忠を受け入れたままで、精を吐いたばかりの一期一振は茫然と、されるがままになっていた。 燭台切光忠がゆっくりと、己を一期一振の後孔から引き抜く。 「ッ………、」 燭台切光忠は慎重だったがそれでも、一期一振は疼痛に僅かに顔を顰めた。 「痛い思いをさせちゃってごめんね。ちぃちゃん。僕は幸福だったよ」 「……、は……、みつどの……、」 燭台切光忠の顔が降りてきて、熱と涙を残した頬や唇に接吻が繰り返される。 「…………、」 痛みと疲労の中に、満たされた感が確かにある。そう一期一振は自覚した。 燭台切光忠に体を抱き込まれたまま、その接吻に応えている間に、一期一振の意識は揺らいでいく。 「…もう………帰…らねば、………」 あまり遅くなると、弟たちが自分を探しに来てしまう。 少し休んで体が恢復したら、粟田口屋敷に戻らなくては。 燭台切光忠に抱きつき、そんなことを考えながら、一期一振は熱に潤んだ目を閉じた。 |
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