| てのひら |
| 2016/03/27 歌仙兼定×宗三左文字(夢現拾遺) 全1話 |
情事の後の疲労で少しだけ微睡んでいたようだ。 隣に休む、体を繋げたばかりの恋人の身が動いた気配があって歌仙兼定が目を開けると、閨の天井に向けて、闇に映えるほどに白い宗三左文字の腕が伸ばされていた。 掌を上に向けて手をゆるゆると上げ、それを不思議そうに宗三左文字が見つめている。目尻は未だ昂奮の名残に赤く潤み、朱唇は唾液に濡れて腫れていて熱い息を吐き、寝乱れた淡紅色の髪が、歌仙兼定の接吻の痕を残した白い肩や胸に散らばっていた。 「……どうしたんだい?」 囁くように問うと、ふ、と宗三左文字の瞳がこちらに向けられる。 「……この体が、いまだ形をとどめているのが不思議で……」 宗三左文字の回答の意味がわからず、歌仙兼定は目で続きを促す。 「……あなたとの交わりの中で、この身があなたと癒着して、完全に溶けてしまったように感じていたので……すべてが終わった後、このように己が己の形を持っているのが解せないのです」 重ねて言われてもなお、歌仙兼定が宗三左文字の言葉の意味を理解するのには少しの時間を要した。身体への意識が低く生真面目なところのある宗三左文字は、己の感慨を独特の言葉であらわすことが多い。 「それは……、僕との交わりが、正体を失うほど気持ちが良かったと言うことかな? 宗三左文字どの」 半身を起こした歌仙兼定が微笑しながら述べると、宗三左文字は歌仙兼定に視線を向けたまま頬を更に赤らめた。宗三左文字の首がほんの少し頷く形に動いたので、歌仙兼定は、己の言葉が正確に宗三左文字の心情を言い表したことを知る。 歌仙兼定はまだ汗の残る腕を伸ばし、宗三左文字の細い裸身を抱き寄せる。宗三左文字は抗わず、黙って歌仙兼定の逞しい腕の中に抱き込まれ、胸板に頭を擦り寄せてきた。 触れただけで、早くも宗三左文字の体は再び熱を帯び始める。歌仙兼定が時間をかけて心を開き、知識を与えた宗三左文字の体は、しかしその実歌仙兼定が彼を抱く前から快楽には流されやすかった。 「かせん、かねさだ……」 特に幼顔とも見えぬ宗三左文字が、歌仙兼定にすべてを預け信頼しきった表情で、なおかつ新たな情欲に捕らわれたような熱っぽさで歌仙兼定を見上げてくる。 宗三左文字のすべてを手に入れた万能感に満たされて、歌仙兼定の下腹部にも熱が凝り始めた。 「もう一度……、気持ちよくして欲しいのかい?」 空いた手で宗三左文字の頬を撫でながら、歌仙兼定が柔らかな声でからかうように言うと、歌仙兼定を見つめる宗三左文字の色違いの両の瞳に、期待と飢えが宿った。 「………歌仙兼定……、…お願いします……」 体温の高い歌仙兼定に情欲の熱い息を吹きかけられて、宗三左文字の吐息にも熱が移る。 先程中空に伸ばされていた宗三左文字の手が歌仙兼定の肩に回されて、掌が、煽るように、胸板と腹筋を辿って下腹部へと降りていった。 「ふっ……」 宗三左文字の無自覚な積極性を微笑ましく思いながら歌仙兼定が唇に口づける。宗三左文字の薄い唇はすぐに開かれて、舌と舌が絡み合いながらふたりは唾液と吐息を交わし合う。 「ンぅ……っ」 手で下腹部をまさぐり合いながら、歌仙兼定は宗三左文字の体の上に乗り上がった。 唇を離し、宗三左文字の表情を確かめるように覗き込みながら、歌仙兼定が囁く。 「もう一度、きみを溶かしてあげるよ。宗三左文字どの」 「…ッ………」 歌仙兼定の体の下で、宗三左文字の身体は淫が走ったようにぴくりと震える。 言葉だけでじゅうぶんに宗三左文字を煽ることができると、歌仙兼定にはわかっていた。 火に巻かれた再刃や磨上げとは違う、現世の人の形を取るがゆえの熱い癒着。 宗三左文字の白い腕にしがみつかれて、淫楽に燃やされながら。 歌仙兼定もまた、身が溶けるような快楽を、宗三左文字とともに堪能した。 (了) |
| 後書 |