<其乃九>


「やっ…ぁあ……、かせ…、」
「駄目だよ。三回も中で出したんだ……、よく掻き出さないと。きみのお腹が降ってしまうよ」
 宗三左文字の制止を無視して、歌仙兼定は宗三左文字の後孔に指を突き入れ、中をゆっくりとこね回す。
「ンっ、やッ、やめて…くださ……ッ、ぁっ…」
 畳の上に懐紙を散らし、その上に宗三左文字を座らせて、歌仙兼定は二本の指で後孔を押し広げ、中から白濁を掻き出していく。
「ッ…ぅ、ンぅっ……」
 中を探られて淫靡を感じるのか、宗三左文字が身を震わせて呻く。幾度も挿入を受けて赤く腫れた後孔から歌仙兼定の指伝いに大量に白濁が溢れ、宗三左文字の臀部や腿を辿って懐紙に滴っていく様は淫猥で、歌仙兼定は息を詰めてそれを見守っている。
「ッやっ、ぁ、も…う、見ないで、くださ……っ、ンぁっ…」
 必要を説かれて仕方なく、大人しくされるがままになっている宗三左文字だが、それでもさすがに、強制的に白濁を排泄させられている己の臀部に歌仙兼定の視線が釘付けになっている状態は気になるらしい。
「恥ずかしいのかい?」
「ッ、あ、当たり前で…っ、ンっうッ……」
「恥ずかしいのは……ここから、僕の精が漏れてくるから?」
「っ………、」
 赤裸々に問われて、宗三左文字は息も継げず顔を赤らめる。
「それとも……、こっちが反応しているのを見られるのが恥ずかしいのかな?」
 歌仙兼定は微笑しながら手を伸べて、白濁に満たされて摩擦の無い後孔を探られることで再び強ばり始めている宗三左文字の竿をするりと撫でた。
「ッ! ひ……ぁっ…、やだ…ッ、く……、」
 快楽に反応して為す術も無い宗三左文字の様子を、歌仙兼定は愉しげに見下ろす。
「か、かせ……っ、ぁ、もう、やめてください……ッ」
「こっちは終わったよ」
 白濁を排泄し終えた宗三左文字の後孔から指を抜き、手についた白濁を懐紙で拭き取りながら歌仙兼定は答えた。
「それで、こっちは……、どうする……?」
「ンっ……!」
 再び強い反応を始めた竿を強く握られて、宗三左文字が身を強ばらせた。
「もう一回くらいは行けそうだね……、宗三左文字どの?」
「っ…や…ぁ……っ、歌仙兼定……っ」
 竿を擦り上げられて、宗三左文字が顔を歪めて歌仙兼定を見た。
「っも……、もう…抱く気も無いのに煽るのは、やめてくださっ…ぁ、ンくっ…」
「僕にきみを抱く気が無いって?」
 宗三左文字の汗ばんだ体を抱き寄せて、歌仙兼定が耳元で囁く。
「とんでもないね。さっき五、六回と言っただろう。あれから二回しか出してないんだよ? ……きみの体が辛いだろうから、もう終わりにしようと思っていたんだが、きみの今の言葉は……、もう一回、僕がきみを抱いてもいいということかな?」
「……っ、」
 竿を相変わらず掴まれたままで、歌仙兼定を拒むことも出来ず、宗三左文字が潤んだ目で歌仙兼定を見つめる。
「…かせんかねさだ……っ、…ぁ、ン、」
 唇で唇を捕らえられると、差し込まれた舌に己の舌も反応するのを宗三左文字は止められない。
「ンん、んっん、んふッ…ぅ、」
 熱を帯びた歌仙兼定の身体に細い腕を巻きつけ、汗で滑る裸身を擦りつけるようにして宗三左文字が接吻に応えてくる。
 接吻が終わる頃には、宗三左文字は再び淫熱に陥って理性を喪失している。
「はっ…は……、ふぁ…っ…、」
 白い手指が懇願するように歌仙兼定の陰茎に触れ、屹立させようと擦り上げてくる。
「ふ……、僕も大概しつこいくちだが、……きみも相当だね……、」
 煽られて歌仙兼定も息を上げかけながら微笑する。
「……、も……問題が…、ありますか………?」
 頬を上気させ、しどけなく唇を開いて宗三左文字が見上げてくる。無自覚なのだろうが、開いた口から唾液に塗れた赤い舌が覗き、てらてらとぬめって蠢いている。唾液は宗三左文字のやはり赤い唇から溢れ、細い顎を滴って汗と共に宗三左文字の裸身を汚していた。普段は清楚で上品な様相を崩さぬ宗三左文字がここまで淫に乱れるとは、歌仙兼定にも想外のことだった。
「いや……、相性がいいというのは良いことだよ」
 こんな宗三左文字の表情を知るのは自分だけだ。歌仙兼定は頬を上気させながら嬉しげに微笑んで、宗三左文字の白い顎に指を当てて唾液を掬い取り、それを宗三左文字の口の中に指ごと押し戻す。
「ぁふっ……ンむ…っ」
 宗三左文字は目を半眼にしただけで抵抗なく歌仙兼定の指を口中に受け入れ、まるで歌仙兼定の意図を知っているかのように、侵入してきた指に舌を絡ませて唾液をまぶしていく。柔らかな唇が指に押し潰され、指に纏いつく舌は赤い生き物のようにうねって、歌仙兼定の情欲を強く煽った。
 宗三左文字の手指の中で、歌仙兼定の竿はすっかり勃起している。
 歌仙兼定は宗三左文字の口から指を抜いて指示を出す。
「宗三左文字どの…、向こうを向いて……、また後ろから挿れてあげるよ」
「ッ……、」
 後背位と聞いて宗三左文字の肩がぴくりと動く。宗三左文字の中にはまだ、その姿勢で繋がることに抵抗感があるらしい。だが歌仙兼定は宗三左文字に逆らう暇を与えず、宗三左文字の腰を掴んで背を向けさせ、指で後孔を押し広げて、そこに竿の先端を潜らせた。
「やッ…、ひッ……ァ…、あ………ッ!」
 宗三左文字の拒否の声はすぐに途絶え、歌仙兼定が奥へと屹立を押し込むと、淫に耐えかねたような喘ぎに切り替わった。
「ンぁ…あ、ふぁあうッ……!」
 歌仙兼定の大きさにすっかり馴染んだ宗三左文字の肉襞が心地よく歌仙兼定に纏いつき、奥へと誘い込むように屹立を締め上げてくる。
「はっ……ひぁあっ…」
 上体を覆い被せて宗三左文字の顔を覗き込むと、初めてのときのような拒否感は宗三左文字の表情から消えていて、既に、歌仙兼定が突き上げるのを待つかのように目を潤ませ、淫楽の期待に喘いでいた。
 歌仙兼定は宗三左文字の両手を後背から捕らえて寝具の上に押しつける。
「どうだい……宗三左文字どの……?」
 誘うように揺らぐ宗三左文字の腰の動きには乗らず、わざと腰をゆっくりと動かして、宗三左文字を焦らす。
「後ろから挿れられて……、僕に、こうして、征服される心地は……?」
「ッ、あ………、」
 挑むように一度だけ奥を突かれ、赤らんだ宗三左文字の横顔が屈辱以外のもので歪む。濡れた唇からは舌が突き出していて、舌先から唾液が床に滴っていく。
「宗三左文字どの……? 言わないと…、動いてあげないよ……?」
 歌仙兼定が腰を引き、今にも屹立を引き抜こうとするのを、
「ッ、だ、だめ………ぁ、抜かないで、くださ……っ」
 淫熱に浮かされた宗三左文字は快楽を手放したくなくて、必死で懇願の声を上げる。
 歌仙兼定は宗三左文字の後頭部に唇で触れ、耳の後ろから囁いた。
「じゃぁ…教えてくれ。この姿勢で僕に貫かれて…、どんな気持ちになるのか……」
「ン…ぁっ、く……、」
 宗三左文字の言葉が出ないのは、もはや羞恥や屈辱からと言うより、宗三左文字の中に今の感覚を表す言葉が見つからないからというだけのようだった。
「あ…あぁ、かせんかねさだ…っ、うごいて……くださ…」
「……こう、かい?」
 二、三度腰を揺すぶられ、
「ンっ、ん、あぁっ、そ、それっ…もっと……ッ」
 前立腺を突かれて宗三左文字が嬌声を上げた。
「欲しかったら、言ってごらん。僕に貫かれて、支配されるのは気持ちいい、と……」
「ン、ぁ、あ、欲しい……っ、歌仙兼定、お願いです、動いて……、っぁ、」
 歌仙兼定の手にそれぞれ捕らえられ、床に押しつけられたままの宗三左文字の手が求めるように藻掻き、寝具に皺を作った。
「あぁ、歌仙兼定…、あ、あなたが好きです…っ、」
「………!」
 思わぬ告白を受けて歌仙兼定の心臓がどくりと脈打つ。
 床に押さえつけられたまま、宗三左文字は切れ切れに言葉を続けた。
「支配でも、所有でも、なんでもいいのです……歌仙兼定…っ、僕は、あなたが、欲しくて……、お願い、ですから…、くださ……っぁ、は、かせん、かねさだ……!」
 歌仙兼定は言葉を失って、穿つ宗三左文字を見下ろした。
 居室に現れた当初から、宗三左文字はそう言っていた。
 歌仙兼定が欲しい、手に入れたい、と。
 抱いてみたら精すら知らなかったことで、歌仙兼定の中には疑念があった。抱く前に告白してきた宗三左文字の言葉と心には、自分が望むような深みは無いのではないかという怖れだった。
 だが宗三左文字は、昨夜部屋への道を辿ってきたときから覚悟を決めていたのだろう。性に関する何事も知らず、歌仙兼定が示す性技にその都度怯えを見せはしても、今宵、宗三左文字の意思は揺らぐことなく、歌仙兼定ひとりに向けられていた。
 そして今。宗三左文字は、歌仙兼定に所有されることをも受容すると告げてきている。
 所有、という言葉をあれほど嫌っているのに。
「宗三左文字どの……」
「っ、は、」
 こみあげる愛しさに任せて、歌仙兼定は、汗に汚れ寝乱れた淡紅色の髪を唇でかき分け、宗三左文字のうなじに接吻を落とした。
 先程の宗三左文字の言葉が、あの夏の日、「好きにすればいい」と告げてきた彼自身の言葉と表面的には似ていても、その意味は全く違うことが、今の歌仙兼定にはよく理解できた。
「きみは最初から……、僕にすべてを与えてくれるつもりでここに来たんだね。きみは契りを結ぶことの、何も知らなかったのに」
「ンっ、ぁ、歌仙兼定……、」
 後背から宗三左文字の細い体を両腕で抱きかかえるようにして、上体を起こさせて、胴と胴を密着させる。宗三左文字の肩越しに、歌仙兼定が顔を宗三左文字の紅潮した頬のすぐ傍に寄せた。
「僕もすべてをきみにあげるよ。宗三左文字どの」
「っ、はぁ、かせん……」
 涙に滲んだ二色の瞳が歌仙兼定を見つめた。
 歌仙兼定は、前に回した腕で汗に濡れた宗三左文字の体を撫でながら続ける。
「僕の体も心も、ぜんぶきみのものだよ。……きみが欲しいと望んだ通りに」
「ッ……」
 歌仙兼定の言葉を咀嚼する数瞬の間があって、やがて、宗三左文字の顔が泣き笑いの形に柔らかく崩れた。
「歌仙兼定……」
 宗三左文字の細い手が歌仙兼定の腕に絡む。
 歌仙兼定は宗三左文字の体から身を引き、一度竿を抜いてしまう。
「はっ、ぁ、やっ…抜かないで…くださ…っ」
 縋るような顔で宗三左文字が懇願してくる。熱を求める宗三左文字の手が歌仙兼定の身体に伸ばされた。
「うん。すぐ入れてあげるから……少し待っていてくれ」
 言葉通り、宗三左文字の薄い体を仰向けに寝かせ、両腿の裏を持ち上げると、誘うように赤く膨らんだ蕾に再び屹立を突き立てた。
「ッ! …ひぅッ、は…ああッ……!」
 びくびくと快楽に震え走って、宗三左文字が喘ぐ。
「きみの顔を見ながら……、情を交わしたいんだ」
「ぁ、ぁく……ッ」
 宗三左文字の両手が伸ばされて、歌仙兼定の首に回された。
「ンぁッ、ぁ、かせ…」
 汗に濡れた淡紅色の髪の、枝垂れ尾のような一房が絡まないよう、歌仙兼定が指で優しく宗三左文字の肩の上へ髪を撥ねのけた。
 歌仙兼定の接吻を、宗三左文字は陶然と受ける。がつがつと飢えたような口づけでは無く、壊れやすい宝物に触れるときのような、優しい接触だった。
「ン……ん、んっふ、ふぁッ…、」
 宗三左文字の中をゆっくりと突き上げながら、歌仙兼定は宗三左文字に接吻を続ける。
「っ…、ン、んむ…っ」
 多幸感のあまりに体が溶解するような錯覚すら感じながら、宗三左文字は歌仙兼定に酔った。歌仙兼定の頬骨から落ちる熱い汗が宗三左文字の顔に滴る。繋がったふたりの下半身は、まるでひとつの体のように癒着し、歌仙兼定が伝える蠕動が、肉体的な快楽を超えたところへ宗三左文字を連れて行く。
 接吻が終わっても、宗三左文字のその感覚は失せなかった。
「ふぁッ、ンっぁ、あぁっ…」
 突き上げに応えて腰を揺らがせながら喘ぐ宗三左文字の顔のすぐ傍で、歌仙兼定が宗三左文字の愉楽の表情を見守っている。
「あっぁ、歌仙兼定、っからだが…、溶け…ッ、ン、」
 切れ切れに声を上げる宗三左文字に、歌仙兼定が汗と共に微笑を放つ。
「嬉しいね…、僕もだよ……、宗三左文字どの」
 歌仙兼定が宗三左文字の紅潮した両頬に手を添えて、汗ばんだ肌を優しく撫でてくる。
「はぁ、は……ッ、かせんかねさだ…っ、」
 歌仙兼定の腹に擦れる宗三左文字の屹立は先走りを零して歌仙兼定の腹筋を汚していて、宗三左文字の限界が近いことを知らせていた。
「もう…、行きたいかい?」
 腰は揺らぎ続けながら、支配感も殆ど無く、優しいばかりの歌仙兼定の声に、宗三左文字は何故か泣きたくなって目を潤ませた。
「っ、や…、いや……、まだ…、……きたくな…っ、ンぁ、ぁふッ」
 意外にも、弱々しく首を横に振ってくる宗三左文字の態度が不思議で、歌仙兼定は膨張して震える宗三左文字の竿に触れる。
「だって…、もう…、限界じゃ、ないのかい……?」
「ンっん…、」
 宗三左文字の首が更に横に振れる。
 黒目がちの目を開き、歌仙兼定を見上げて、宗三左文字は懇願してきた。
「はっあ…、歌仙兼定……、まだ…、終わりにしたくな……っは、ぁ、あなたと繋がっていたいのです…ッ、は、もっと……ずっと…っ、かせんかねさだ………っ、ンぁっ」
 限界が来ているのにそれを我慢して、快楽をいつまでも続けたい。
 昨夜まで無垢で初心だった宗三左文字にそう頼まれて、歌仙兼定は満足げに微笑んだ。
「いいよ……宗三左文字どの。辛くなったら言ってくれ。……すぐに行かせてあげるから」
「ン、」
 歌仙兼定は一度動きを止めて腰の角度を変え、自分の為ではなく宗三左文字の為に再度突き上げを始めた。
「ッ、ひ、ぁ、あッ」
 小刻みに体を揺すられて宗三左文字が喉から声を上げる。
「ンぁ、あッ、か、かせんっ」
「ふ…、どうだい? 宗三、左文字どの…」
「ぁ、き、きもち、い……ッ、ひぁッ、あ、かせん、かねさだ…ッ、ぁ、あぁッ」
 歌仙兼定は微笑みながら宗三左文字を快楽に追い上げ続ける。
 二人して互いの顔に息を吹きかけながら、汗を混じらせ、体に縋り、熱を高め交わし合う。
 そのまま暫く抽送は続いたが、やがて、歌仙兼定のほうに早く限界が来た。
「ッく、済まないが……、先に、行かせてもらうよ、宗三左文字どの、」
 歌仙兼定の腰の動きが再び変化する。
 宗三左文字は頷き、それに応えてきた。
「ン、んっく…、」
 協力しようというのか、宗三左文字が歌仙兼定の腰に脚を絡めて、己の臀部を強く歌仙兼定に押しつけてくる。
「ふっ、ンッ、く………!」
 宗三左文字の動きにも助けられて、歌仙兼定は一際深く屹立を宗三左文字の奥へと突き込む。そのままびくりと腰を震わせると、宗三左文字の中へ熱い精を放った。
「ッ……ぁ、あ………!」
 歌仙兼定への親和性を高めていた宗三左文字は、歌仙兼定の放出に合わせるように背を仰け反らせて体を強ばらせた。後孔が収縮したところへ精が勢いよく振り撒かれて直腸を逆流し、竿先が快楽の巣を突いて、その強い刺激に宗三左文字のほうでも射精が始まる。
「ひぅッ…う………、ンぅ……!」
 びくびくと震えながら宗三左文字が達するのを、ひとあし早く射精を終えた歌仙兼定が息を喘がせながら見下ろしていた。
「ッ、はっ、はぁっ……、」
 さすがに疲労を強めて、宗三左文字が空気を求めて大きく息をする。
 仰け反った白い首を汗が這い、紅潮した頬からは涙の粒が、深い緑と青の瞳から転がっていった。
「あッ、ぁ……歌仙兼定……、さっきの…、……もう一度、言って下さ……」
 未だ整わぬ息で宗三左文字が頼んでくる。
 歌仙兼定は顔を落とし、宗三左文字の汗に汚れた額から前髪を拭って優しく口づけた。
「僕はきみのものだよ。宗三左文字どの」
「っン………」
 まだ熱を残し汗に滑る宗三左文字の細い腕が、歌仙兼定のやはり熱く汗ばんだ胴に回される。
「歌仙兼定……」
 何故とは知らず、宗三左文字の目から涙が溢れる。
 縋りついて泣く宗三左文字を、歌仙兼定は優しく抱き締めていた。



「……次からは僕がきみの部屋を訪れるほうがよさそうだね」
 夜明け頃。
 歌仙兼定の身の回りの世話を担当する短刀の子に手伝わせて宗三左文字の服が着付けされていくのを眺めながら、歌仙兼定は言った。
 宗三左文字は常の気品を取り戻してはいるが、さすがに連夜の寝不足と初めての契りの後で、顔に疲労の色が濃い。目尻の周りは赤く腫れて頬は紅潮し、腰が痛むのか、まっすぐ立つことに不安げな面差しを見せている。如才ない歌仙兼定のこととて、接吻痕は着付けた服の下に完全に隠れているが、口づけを幾度も繰り返した唇がやや腫れているのは、誰の目に隠しようもなかった。
 それでもようよう服を整え、髪を綺麗に梳き終えた宗三左文字に、自らも着替えを終えた歌仙兼定が近づく。
「送っていくよ。宗三左文字どの」
「……僕は休暇中ですが、あなたは今朝も出陣でしょう、歌仙兼定。僕を送ったりせず、少しでも休んではいかがですか」
 特に冷たい気配でも無く、そんな言い方で宗三左文字は歌仙兼定を気遣う。
 歌仙兼定は破顔して宗三左文字の肩に触れた。
「誰が見るかわからないこんな朝方に、そんな艶っぽい顔のきみを独りで送り出すことは出来ないな。余計な恋敵を増やしてしまう」
 そう言われて初めて、宗三左文字は人に見られる可能性について思い至ったようだった。
「……こんな時刻に二人で連れだって歩いたら、噂の種を撒くことにならないでしょうか……?」
 思案顔で言った宗三左文字に、歌仙兼定は更に顔を近づける。
「懸念はもっともだが。でも朝帰りの時点で今更だよ、宗三左文字どの。人の口に戸は立てられないと言うし、そもそもこの場にだって小さな目撃者はいるだろう。あそこに」
 脇に下がって二人のやり取りを黙然と、目を瞠って眺めている短刀の子に視線をくれて歌仙兼定は言う。
「口固めをしてもいいが、時間の問題でしかないと思うね。だから、諦めて噂を提供するしかないんだよ、宗三左文字どの。……こんなふうに」
「! んっ、む………」
 短刀の子が息を詰めて見つめている前で、歌仙兼定は宗三左文字の口に唇で吸いつく。
「ンっ…ぅ、っ…ふ……、」
 舌と舌が絡まるような濃厚な接吻を受けて、宗三左文字の体が力が抜けかかるのを、歌仙兼定の力強い腕が支えた。
「っぷぁっ、はっ…か、歌仙兼定……、」
 接吻を終えて、頬を紅潮させながら、それでもさすがに非難がましい目で宗三左文字が歌仙兼定を見る。
「きみが誰のもので僕が誰のものか、これでよくわかるだろう」
 悪戯っぽく微笑されて、宗三左文字は羞恥に更に頬を赤らめながら、睨むように歌仙兼定を見つめた。
「もう下がりなさい。何ならもう一度寝ても構わないよ」
 歌仙兼定は、顔を真っ赤にして二人を見比べながら突っ立っている短刀の子にそう告げて、宗三左文字ににこやかに向き直った。
「さて。諦めがついたなら、送っていこうか。宗三左文字どの」




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