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「わー。いつも食べてるやつよりずっと美味しいね」
蓬団子を二口ほど食べて、大和守安定が声を上げた。
「だろ? どーやってんのか知んないけど、餡子も米も蓬も味が全然違うんだよなー」
二串目の蓬団子を頬張りながら、加州清光が大和守安定に答える。
大阪城攻略も終了した時期の、ある日の午後。
おやつ時とて、加州清光と大和守安定が連れ立って宗三左文字の居室を訪れていた。
生菓子屋が宗三左文字のもとに届けた餡子付きの蓬団子を、茶と一緒に、二人は奪い合うようにして口に運んでいる。
鷹揚に微笑みながら、宗三左文字は主座からその二人を眺めていた。
「そういえばソウサモちゃんは。歌仙の旦那に、目釘穴以外の穴開けてもらったんだろ?」
お茶を啜りながら思い出したように加州清光に言われ、宗三左文字は顔を真っ赤にして狼狽し、手にしていた茶器を危うく取り落としそうになった。
「…か、加州清光……」
かろうじて湯飲みを畳床の上に置き、宗三左文字は、顔から湯気が出そうなほどに頬を紅潮させて声を絞り出す。
「……か、歌仙兼定が、あなたにそう言ったのですか……?」
「そーんなわけないだろー。あの旦那が」
空になった自分の湯飲みに、片手で急須から茶を注ぎながら加州清光は一蹴した。
茶器も茶葉も歌仙兼定が見立てた高級品なのだが、それを気にする素振りも無い。
「言わなくたって一目瞭然だって。旦那ときたらもうめちゃくちゃ機嫌いいし、桜飛ばしまくり誉獲りまくり。誰かがなんか粗相しても全然怒んねーもんな。気味が悪りぃくらい」
「あーそうだよ。歌仙兼定くん、このところずっと上機嫌だよねぇ」
大和守安定は話し方はおっとりしているが手は早く、加州清光と同じほどの速さで団子と茶を腹の中に収めていく。
「ソウサモちゃんはソウサモちゃんで、別人みたいに艶っぽくなったしなー」
「僕が……ですか……?」
加州清光に言われ、顔を赤らめたままで宗三左文字が自覚なく呟く。
「そーだよ。今のソウサモちゃんだったら、コナかけたいって奴は結構いるんじゃないかな。まっ、歌仙の旦那が取る首の三十七人目になる覚悟があれば、だけど。あの旦那、鼻もめっちゃ利くから、恋敵としてはマジで鬱陶しいよね。こないだなんか、無言で俺に大福三十個も渡してきたぜ」
「……歌仙兼定が、あなたに大福を……? どうしてでしょうか……?」
首を傾げた宗三左文字に、加州清光は食べかけの蓬団子を振って見せた。
「以前、ソウサモちゃんとこで大福たくさん奢ってもらったろ。どっかで耳に入れて、留守中に部屋に上がり込んでる俺が気にくわなかったんじゃないの。大福なら好きなだけ食わしてやるからソウサモちゃんに近づくな、ってことだよね。口は笑ってたけど目は笑ってなかったし。嫉妬深くて目端が利くって、やりづれーよなー。あんま極端なことするとソウサモちゃんの為にもなんねーのに」
「……確かに、居合の名人の歌仙兼定くんに睨まれたらその後の人生生きづらそうだよね。狭い屋内で抜き打ちくらうとなったら、こっちは分が悪いもんねえ。路地ならともかく」
大和守安定が、柔和な表情でさらりと物騒なことを言ってのけた。
「そっ。まー、だから今日は安定を連れてきたんだよね。二人連れならいーだろ、ってことで。いつもここで菓子食わしてもらったら、土産に安定のぶんも貰ってってるし。歌仙の旦那に脅されたからって人付き合いやめるようじゃ刀剣が廃るし、そもそも旦那の発想ってまるっと邪推で誤解だからなー」
ひとり頷く加州清光の脇で、最後の団子を口に入れながら大和守安定が宗三左文字を見る。
「そういえばさ。宗三左文字くんは最近すごく綺麗になったよねぇ。なにか理由でもあるの?」
大和守安定は、宗三左文字とは別の理由で話がかみ合わないところのある刀剣男士だった。
宗三左文字が口を開くより早く、加州清光が呆れたように旧友を見る。
「おまえは今まで何を聞いてたんだよ。歌仙の旦那がソウサモちゃんに穴を開けたんだってハナシしてただろーが」
「か、加州清光、」
加州清光の赤裸々な台詞にうろたえ、羞恥で顔を真っ赤にした宗三左文字が割って入ろうとしたが、
「穴ってどこに? 僕たちの体に穴なんかあった?」
蓬団子をお茶で流し込みながら、大和守安定が目を丸くして問い返したので、加州清光は呆気に取られて瞬間言葉を失う。
「……まさかおまえもかよ………」
「ねえ清光、穴ってどこにあるの? ねえってば」
湯飲みを持ったままで大和守安定が食い下がるのを、加州清光はうんざりしたように話を打ち切ってしまう。
「うるせー、俺はおまえに教えたりしねーぞ。めんどくさい。後でにっかりにでも聞いて来い」
「にっかり青江くんかぁ……彼、馬当番のときにヘンなこと言うよね。『馬は大きいよね』って、……体のことじゃなかったらどこのことなんだろうね?」
呆れを通り越したか、加州清光の目がすっと細くなる。目の前の旧友に対し、半ば畏怖すら感じているようだ。
「安定……おまえ、わざとじゃないよな……?」
「……………? なにが?」
安定はきょとんとした表情を崩さない。
話題が逸れたことに安堵しながら、宗三左文字は、目の前のふたりの掛け合いを座して眺めていた。こうして見ていればまったく対照的な加州清光と大和守安定だが、戦場では双子のように似通った戦法と気質を発揮するのは不思議なものだ。
「まぁとにかく、今はソウサモちゃんが幸せそうでよかったな」
加州清光が宗三左文字に向き直る。
加州清光の言葉に、宗三左文字は少し戸惑う。
「…しあわせ……ですか…? 僕が……」
幸せ。
大和守安定も、加州清光に追随するように宗三左文字を覗き込んできた。
「あーうんうんそうだよ。それ。宗三左文字くんは最初に会った頃と比べて、今は随分幸福そうだよね」
幸福。
それは近い過去に歌仙兼定が宗三左文字に向けて使った言葉だった。
「幸薄そーだったもんな。最初。今にも空に溶けて消えそうだっただろ。不幸自慢なら俺も相当行けるけど、ソウサモちゃんの見た目には勝てないと思ったね」
何と張り合っていたのかよくわからない感想を加州清光が述べる。
「俺ら新撰組連中とは違う意味で、危なっかしくて冷や冷やしたよなー。今は随分雰囲気変わったよな。歌仙の旦那のおかげだろ?」
宗三左文字には自分の外見が変わった自覚はそれほど無い。だが、歌仙兼定が自分の内面を大きく変えたのは事実だった。
「……そうですね……歌仙兼定と一緒にいるようになってから……日々を過ごすことに、喜びを多く感じるようになりましたね。彼のお陰で」
ふわりと笑って答えた宗三左文字の柔らかな表情に、加州清光と大和守安定はぼうっとなって見入った。
「今のソウサモちゃんはめっちゃ可愛いな……歌仙の旦那の風流趣味はさすがだな」
「今の、なんかわかんないけどヘンな波が来たね。心に」
「あれが恋って奴だよな。……よし、俺も頼れる旦那を探そう。帰るぞ、安定」
決意したように加州清光が言って、畳から立ち上がる。
大和守安定も続くように立って、二人は宗三左文字に団子の礼を伸べた後、部屋から去って行った。
障子越しにふたりの会話が聞こえてくる。
「清光さぁ、今のダンナってやつ。どうして僕じゃ駄目なのさ?」
「おまえじゃ意味ねーだろ? 俺と同じぐらい貧乏じゃしょうがねぇんだよ。服も買って貰えねぇし、美味いモンも食わして貰えねえだろ。戦場でも護って貰えねーし、薄っすい布団で一緒に寝るしかできねーじゃねーか」
「それでいいじゃん。一緒に寝ようよ」
「よくねーよ! 穴について知りもしない奴が!」
二人の会話は遠離りながら次第に小さくなり、やがて宗三左文字の耳には何も聞こえなくなった。
静寂が戻った部屋で、歌仙兼定が選んだ茶葉を急須に入れ直しながら、宗三左文字は先程のふたりの言葉を思い返す。
幸せ。幸福。
『きみには幸福でいてほしい』と歌仙兼定は宗三左文字に告げてきた。
『きみをこの手に抱くことが出来て僕は幸福だ』とも。
言われた当初、宗三左文字は幸福の意味を殆ど理解できていなかった。
だが今現在、歌仙兼定の笑顔や柔和な声、体温、優しく気遣われることなどに、ほっとする気持ち、自分の中で凍っていた何かが温かく溶けてゆくような心地になるのは確かだった。
つい先程、加州清光と大和守安定が、今の宗三左文字の状態を評して「幸福そうだ」と言ってきて初めて。宗三左文字にも言葉の意味がわかったような気がする。
淹れ直した茶を口に含みながら、熱と香りと共に、宗三左文字はこの茶と茶器を選んだ者のことを思った。
もうすぐ夕刻になる。
今日も歌仙兼定は第一部隊の部隊長として出陣している。
部隊が帰城したことを報せる太鼓が鳴ったら、部屋を出て歌仙兼定を城門まで出迎えに行こう。
そのとき歌仙兼定はどんな表情を見せるだろうか。
そう想像して。
湯飲みから立ち上る湯気のうちに、宗三左文字はひとり、柔らかく微笑んだ。
(了)
後書
ちょっと前置き長めになりますが。
レア2の打刀ばっかりで部隊組んで出陣していたころ(のちに燭台切光忠と石切丸が馬乗せで加わって、厚樫山クリアまでずっとこの面子。出撃部隊のレア度が低いとまったくいいものドロップしないんで、レア2ばっかり強くなっていくという悪循環)。
打刀オンリー部隊、ですが実質は宗三左文字シフトなので「敵に宗三さん(※生存37)がタコ殴られないように『てめえに2ターン目はねえ!』作戦!」を組み、全員軽騎兵の上または特上の刀装で、機動値と打撃値を上げまくり、自2ターン目ですべての敵を殺し切るヒット&アウェイの騎馬集団に。宗三さんの白爪が欠けたら(刀装剥がれかけたら)即帰城。この戦い方、サムライって言うより山賊だよね、とうっすら思いましたが……しかもこのシフトですと「遅いは罪」みたいになるので、打刀レア3も太刀も大太刀も育成に大きく後れを取っておりました。(そして前述したようにレアはそもそも来ない)
打刀2オンリーのシフトですと(基本的には)能力値がどんぐりの背比べですので、わりと均等に刀装が剥がされていくのですが、新マップに踏み込んだとき、少しだけ敵のほうが基レベルが高かったりすると、面白いように宗三左文字と加州清光だけが襲われ始めるのはなんでだろー、と首を傾げ辿り着いた答えが……この二人が可愛いからソッチの意味で狙われている という可哀想な腐女子の脳みそです。敵の短刀とか脇差とか人間の絵ですらないんですけど、打刀以上は人間の男の形してるから可愛い男に飢えている設定でOK! 江雪や鶯丸が敵に「引け!」とか説得モードで話しかけてるので敵と言語も通じる設定でOK!そんなこんなで宗三さんは犯されやすい高貴な美人設定でOK!! ……生存値の低さで敵が二人を選択してくるということには割と後から気が付きました。まじで。
そんで、えっちのエバンジェリスト歌仙さん。実際のところ、自分がゲーム中で把握している歌仙さんはもう少しサディスト寄りで権勢欲も強い人な気がします……が。あんまりサドっ気が強すぎると受けが気持ちよくなれなくてえっちが下手な人に見えてしまうのが嫌だったのと、あとは死にたがりの宗三さんとの兼ね合いで、あんまSM方向に寄ると宗三さんのバッドエンドしか思い浮かばなくなるので、小説では優しめ甘めにしてみました。でもオタク友人(とうらぶ未プレイ)はこれ読んで歌仙さんを『リア充S酷い!』と評していましたな(他人事)。
まあ確かに私も、宗三さんの後ろの絞りがなくなってないか心配です(真顔)
でもどんなに緩んでも手入れ部屋入ればダイジョーブ元通り! たぶん。
カセンソウザーな長編はあともう1個ぐらい書きたい。
| オムニバス連作⑥[最終話]【命にもまさりて】 |