TEMPEST魔女TEMPEST魔女【小説】二次創作

から騒ぎ【1】【R18】(連載中)

2025/01/08【全?話/連載中】
ティレル×アナスタシア[処女]【R18】/『凍土』真ED後
他三者を巻き込んだ迷惑ロストバージン
【1】【2】



「で? 相談て何だよ」
 近頃は探偵として街にいるよりも、行政官として王宮でルーシェン殿下の補佐をしている時間が長くなったゼンが、目の前のアナスタシアを促した。
 紅茶と菓子よりは煙草と珈琲を好む、王宮のゼンの業務室。もてなされているアナスタシアの目の前には、珈琲の代わりにミルクが置かれていた。
 残業はあるが終業時刻は過ぎているし、アナスタシアのほうも、翼騎士団からルーシェンへの提出文書を届けて、後は帰るばかりである。
「……ティレル様についてのことなんだ」
 視線を床に落として、俯きがちに喋り出したアナスタシアの視界には、ゼンの表情は入らなかった。デスクの向こうで、メガネに隠されつつも、ゼンの赤い目はやや不機嫌に眇められる。
 ティレルは今やルーシェン王子にも承認された、アナスタシアの公的な恋人だった。
 彼女の『死に戻り』のすべての時間につきあってきたゼンとしては、そのことを素直に受け入れたくない気持ちが多分にある。
 それでも、ルーシェンやクライオスに話しにくいことだからアナスタシアが自分の元へ来たのだろう事は察しがついた。
「……俺に答えられる相談ならいいけどな。あいつの一体何が問題なんだ」
 新しい煙草に火をつけながらゼンが問う。口から息を吸い上げたところへ、
「ティレル様が抱いて下さらないんだ」
 アナスタシアに思いも寄らぬことを言われて、ゼンは盛大にむせ込んだ。
「ゲッホゲホッ!ッ、ぐ、げほッ」
「ゼン! 大丈夫か」
 アナスタシアが慌てて立ち上がって、背をさすってくれようとする。それを「大丈夫だ」と言わんばかりに手で制して、どうにかゼンは呼吸器の反乱を押し止めた。
「…………一応確認しとくぞ。……抱くって、セックスって意味だよな?」
「そうだ」
 ソファに戻ったアナスタシアの表情は暗い。
「………信じられねえな」
 ゼンはアナスタシアに聞こえないようにボソリと呟いて、質問に移った。
「一回もか? お前、未経験のままなのか」
「……ああ」
「お前のほうから『抱いてくれ』って言ったことはあるのか?」
「言った」
「………言ったのかよ……」
「でもダメだと言われて、それきりだ」
「ダメな理由は聞いたか?」
「……どうしてですか、とは尋ねた。ティレル様がおっしゃるには、まだ時期じゃない、と」
「………………」
「でも不可解なんだ。朝まで一緒にベッドに寝ることはあるし、その際にはキスもしてくださるし、求めれば触れたりはしてくださるし、その……快楽を与えてくれたりも」
「………………俺のアドバイスいるか? その状況」
「でもセックスだけは頑なに断られる」
「………」
 ゼンは煙草の灰を目の前の灰皿に落としつつ溜め息をついた。
 そして、
「インポなのかもな」
 尤もらしい可能性をあっさり口にする。
「………そうなのだろうか」
 男兄弟のいないアナスタシアには、男性の体の原理や心理はあまり理解できないようだった。
「……だったらいいんだが」
「いいのかよ」
「……いや。……私が原因なんじゃないかと思ってたから」
「はぁ? なんだそりゃ」
「ティレル様にとって、私が抱くに足りないのではないかと。女として魅力が無いから…」
「ンな訳あるか! なに考えてんだお前は」
 アナスタシアの言葉を、ゼンが語気を強めて遮った。
「俺はお前とアイツが付き合うことになったとき、アイツが手が早すぎるのを危惧してたくらいなんだぞ。もうとっくにやってると思ってた。……お前の様子に変化が無いのは奇妙に思っていたが」
「……どうしてゼンは、ティレル様は手が早いと思うんだ?」
「アイツ、恋愛に文脈のない奴だからな。つうかそもそも恋愛脳がない。ティレルはデートやプレゼントに関心が無いだろ。どっちかっつーと、あらゆる段階をすっ飛ばして、その気になった途端にセックスを仕掛けるクチだ。雰囲気もへったくれもない、発情すりゃ外でだってやれる。ルーシェンやクライオスとは違ってな」
「恋愛に、文脈……?」
「興味を持った相手と文化的な意思疎通をして盛り上がることだな。手紙、デート、プレゼント、花束、約束……まあ大抵の女の好きそうなことだ。お前はそこまででもないけどな。
 例えばお前が『自分を捜すな』という手紙を送った後、ルーシェンは却ってなりふり構わずお前を追いかけて捜し出そうとしただろ。ああいうのだ」
「ああ……あれは殿下には逆効果だったのか。……失敗したな」
 アナスタシアが苦笑する脇で、ゼンがフォローする。
「一周回って成功したからいいだろ。俺だって知ってたら、お前が手紙出すのを止めたけどよ」
「……面目ない」
 アナスタシアにとってゼンは戦友のようなものだった。
 困りごとがあったとき、つい甘えてしまう。
「……聞けば聞くほど、ティレル様が私に手を出してこないのは、『発情しないから』のように思えてくる。これは私に興味が無いからではないのか」
「違うな」
 ゼンは即答した。
「俺も恋愛に文脈は不要な質だからわかる。特にアイツは俺よりそこら辺はドライだ。
 興味の無い女に一ミリだって近づく筈がない。同じベッドで寝るなんて論外だ。
 仕事で愛人でもやってるんじゃなきゃな」
「………それも以前言われた」
「あぁ?」
「女神の愛人やセフレのほうが気が楽だ、と。まだ恋人同士になる前だったが」
「ホントかよ。……アイツ、俺が思ってるよりも馬鹿なんだな。
 ……ったく、面倒くせえことになってんな」
「……結局そのお気持ちは否定していただいて、恋仲になったんだが」
「だったら今の話は現状とは関係ねえだろ。
 つうか、むしろ愛人だったらお前を抱きに来る筈だ、それが仕事なんだから」
「………欠点があるなら改善したい」
「お前のほうにって意味でか? ねえよ。なんでセックスを嫌がるのか、ティレルにもう一度訊くしかねえだろ。
 ……お前が脱いで迫れば即落ちだと思うが」
「……実は、それも……」
「あぁ!? 実行した後なのか!?」
 ゼンがさすがに呆れたような声を上げた。肌の色の所為でわかりにくいが頬もやや紅潮しているようだ。
「迫るのはともかく。脱ぐのはやった。
 朝いつも同じ時間にティレル様はいらっしゃるから、その時間にわざと服を脱いだ状態になってみたんだ。
 そうしたら……」
 アナスタシアは羞恥に頬を染め、唇を噛みしめて俯いた。
 処女なのに男を求めるなんてあんなに恥ずかしい行為を、自分の精一杯でしたつもり、だったのに。

「ティレル様」
 いつもの通り、彼がドアを開けたときに。
 朝日の中、ブラウス以外は何も身につけぬ姿でベッドに腰掛け、胸を晒して、ティレルを見上げた。
「! …………」
 アナスタシアを視認した途端にティレルは赤面し、硬直し、喉が唾を飲み下す音が聞こえたものの。
 彼はほんの十秒ほどで自分を取り戻し、
「失礼いたしました。女神。
 お着替えの最中にうっかり入り込んでしまい、不敬にも貴女様の裸身を垣間見る羽目になってしまい、お詫び申し上げます。
 今後は入室の際はドアを開ける際には必ず目を瞑り、背中を向けて部屋に入ることを誓います。今はこの場を去りますので、着替えが終わりましたらお呼び下さい。廊下で待っておりますので」
 頭を下げて退出し、以来ずっと。

「本当に、朝は毎日、目を瞑りながら背中を向けて入室なさるようになってしまった」
「………ドア開けて入ってくるのをやめりゃいいだけだろ」
 ゼンはだんだんティレルの言動に苛立たしさを感じてきているようだった。
「何のつもりなんだアイツは。俺がお前だったらそんな態度の男はぶん殴ってる」
「……ティレル様はゼンみたいな人とは付き合ってくださらないと思うぞ」
「俺だってあんな野郎は願い下げだ! 妙な言い方するなよお前!」
 デスクを手で叩きつけんばかりの勢いでゼンが声を上げた。
「とにかくお前はアイツともっと話し合え。
 俺には理解できんが、アイツとセックスしたいなら、もう一回裸でぶつかるしかねーだろ。
 お前が服を脱いでもダメならヤツの服を脱がせ。触って欲しいとかなんとか言わずにお前のほうからガンガン触っていけ。
 ……それでもヤツが乗ってこねえなら。それは次の段階だ」
「次の段階?」
「抱かれなくてもそのままアイツと付き合うか、他に乗り換えるかを考えろ。乗り換え先には苦労しねえぞ、後続はたくさんいるからな」
「乗り換え……」
「ティレル以外の男を恋人に選ぶってことだ。ちゃんとお前とセックスしてくれるヤツをな」
「…………」
 アナスタシアはゼンの言葉を吟味するかのように暫く沈黙した後、唇にうっすらと笑みを履いた。
「ゼンの冗談は面白いな」
「…………………」
「ありがとう。少し元気が出た。
 ……もう一度、ティレル様と話し合ってみる」
「…………………おうよ」

 アナスタシアがゼンの業務室を辞した後、彼女のいなくなった空間に向かって紫煙を吐き出しながら、ゼンは、不機嫌に顰めた眉をどうにか開こうと努力する。
「……俺は別に冗談なんて言ってねーのによ………」
 部屋には自分のものとは違う、アナスタシアの残り香がたゆたっている。
「アイツ、ホントにティレルが好きなんだな……」
 煙草の煙と共に、ゼンの舌打ちの音が空間に広がった。

【2】