| 2024/12/15 ティレル×アナスタシア 『凍土』ED後 |
深夜目が醒めると、隣に人が立っていた。
(マヤ……じゃない)
マヤより背が高く、それでいて気配はごく薄い。
アナスタシアは珍しく、風邪を引いて熱を出してしまった。
メイドのマヤが慌ててブランケットの枚数を増やし、リゾットを作って食べさせてくれて、薬局で買ってきてくれた薬も飲ませてもらった。
それは夕食時の頃で、今はきっと日付が変わる頃だ。
マヤが自分の様子を見に来てくれたのでなければ。
「ティレル…様」
「風邪引いてるらしいな。具合、どうだ」
今日、彼に会うのは初めてだ。
異端審問官勤めを終えたティレルは近頃ルーシェン殿下の個人的な業務官になった。
「秘書とボディガードと教育係を兼ねた、つまりは雑用係。クソみたいに忙しい」
とは本人の弁だ。
日中は王宮勤務で、翼騎士団所属のアナスタシアと顔を合わせる暇がなく、しかし毎日、夜にこっそり忍び込んで逢いに来てくれている。
「お前みたいな頭の硬い馬鹿でも風邪は引くんだな」
相変わらず口は悪い。
「…………面目、ないです……」
「おい。そこは否定するところだろ。調子狂うな。よほど弱ってんな」
「………」
何か返事しようとしたが、喉に咳が絡んでしまいろくに声が出せない。
(今日もお逢いできてよかった。眠ったままだったら、私を起こさずに帰ってしまわれたかも)
そう思っている間に、ティレルが手を伸ばして、アナスタシアの額に触れてきた。
「……熱いな。薬は飲んだのか」
掠れるほど低い囁き声なのは、マヤに見つからないようにする為と、高熱で音が頭に響く自分の体調を慮ってくれてのことだろう。
「……マヤが、買ってくれた薬を飲みました」
アナスタシアが正直に話すと、ティレルは渋面を作った。
「薬局で配ってる総合感冒薬なんか効果ねえよ。捨てちまえ。俺がもっとよく効く薬をやる」
「……でも、マヤが折角くれたので。今のままでも大丈夫だと思います。
ティレル様のお手を、煩わせなくとも」
「………」
ティレルはこれ見よがしに溜め息をついたものの、
「お前はそう言うと思った。
市販薬に重ねて服用しても大丈夫な薬を調合して持ってきた。今、飲んどけ」
「…………………」
文句は言いつつも。
ティレル様はマヤを慮る私の気持ちを尊重して下さるし、同時に私の体のことも心配して下さる。
「体、起こせるか」
「…………、」
促されるとおりに上半身を起こそうとするのだが、熱で頭がぼうっとして体に力が入らず、なかなか巧くいかない。
頭を掬い上げるように、ティレルの手がアナスタシアとベッドの間に滑り入ってきて、頭部から肩の辺りまでを腕で持ち上げられる。
「ティレル、様」
「……少し、苦いぞ」
ティレルはもう片方の手で、器用にアナスタシアの唇を割って、口中に丸薬を差し入れてきた。
「ッ、ン………」
宣告されたとおりの苦味にアナスタシアは顔を歪める。
喉が痛くて飲み込めるかどうか自信がない。
そこに、水を含んだティレルの唇が降りてきた。
「っ…、ん…………………!」
アナスタシアは驚いて目を瞠ったが、喉が酷く渇いていたところにティレルから口づてで水分を与えられて、すぐにアナスタシアは夢中になって舌を動かした。
水と一緒に、丸薬がアナスタシアの喉を滑り落ちていく。
「ン、ぅ、」
一度離れたティレルの唇が、もう一度水をアナスタシアの口に運んでくる。
「んふ……ぅ……」
更にもう一度。
自分の体が、口腔や喉や食道からゆっくりと水で潤っていくのがアナスタシアにはわかった。
(水も、甘い……もしかしたら、丸薬だけでなくて水自体も、ティレル様の処方してくれた薬なのかも)
最後のほうは、水もなくなったのに、ティレルの舌があやすようにアナスタシアの舌をそっと弄んでいた。
「んン……っ」
ようやく唇を離して二人は息をつく。
「風邪……うつしてしまいます……」
今更ながらアナスタシアが指摘したが、ティレルは笑っていなした。
「お前とは免疫力の基礎値が違うから大丈夫だ。万一うつったらお前に看病してもらう口実になるしな」
「わかりました……ティレル様がお風邪を召したら、責任を持って看病いたしますから……」
「――――言葉はいつもと一緒なんだが。弱ってると可愛いこと言ってるように聞こえるな」
アナスタシアの体を再びベッドに横たえて、寝具を整えてやりながらティレルが苦笑する。
「……普段は可愛くなくて……申し訳ありません……」
だんだん眠くなってきて、自分が何を言っているかも自覚無くアナスタシアは呟いた。
「問題ないし謝る必要もない。俺は可愛い女が特段好きって訳じゃない。
――――もう寝ろ。俺も帰るから。
飲ませた薬は体温を上げて、かなり長いこと体を眠らせる。
色々夢を見ると思うぞ」
……夢。
ティレル様との夢だったら幸せだろうな。
「はい……おやすみなさい……ティレル様……」
自分がそのように声を上げたかも、ティレルがなんと返事をしたかも覚つかず。
アナスタシアはそのまま眠りに引き込まれていった。
「……」
最後に額に。
ティレルのキスが降りてきたような気がした。
(了)
後書
とりあえずティレルの全体像を俯瞰してみたくて、『徒花』ティレルを『凍土』エピソードに無理矢理ぶっ込む二次創作【胸に小さき花の咲く】【祝福の庭】を書いた
それから『徒花Ⅳ』に戻って、正統ED内にイシュとティレルの会話や契約を捏造した妄想【オムニバス三色花】を書いた
今後は
ずっとR18のターン!
状況ごとエピソードごと章ごとに、立ち位置や性格やアナスタシアへの気持ちを玉虫色に変えていくティレル様。
それで毎回どうにかしてアナスタシアを翻弄してあんあん言わせていくだけのヤツ!
鼻息荒く好きなヤツから書き始めたものの、テン魔女準拠のくせに呆れるほど本家エピから逸脱してるので、いちおうアナスタシアの「夢」として全部夢オチで纏められるようにしてみた
これはそのための前振りのお話
基本的に真ED後のティレルは、自分で二次創作した[『徒花』+『凍土』統合ティレル]で書いてます