TEMPEST魔女TEMPEST魔女【小説】二次創作

ヒストリカ忍法帖【1】【R18】[全6話完]

2024/12/30【全6話/完結】
『ニンジャ』ティレル×アナスタシア【R18
『凍土』真ED後 / お遊び監禁調教/【祝福の庭】承前
【1】【2】



「どうしてダメなんですか」
「ダメに決まってんだろーが!」
 夕刻。
 いつもは深夜にやってくるティレルが、珍しく、アナスタシアの居室をこの時間に訪れていた。衣装は異端審問官のものではなく、ニンジャの黒装束だ。
 この衣装を纏って、
「今日は夜遅い仕事があるから先に逢いに来た」
 と言われれば、どこかの屋敷に今宵忍び込むのだということはアナスタシアにもわかる。
 一緒に連れて行ってくれ、とお願いしたのに、にべもなく断られてしまったのだった。
「ボアクリフ商館と言えば、有名なコンラッド支持派の商会館ではありませんか。今日はルーシェン殿下の隠密ではなく、ニンジャとしてのお仕事なのでしょう? 機密というわけでもないのだから、連れて行ってくださっても……」
「遊びじゃねーんだぞ! 向こうが矢だの銃だの撃ってきたら危ねえだろうが!
 それに独りのほうが都合がいいんだ。気配が増えすぎると勘づかれちまう」
「一緒に忍び込むのではなくても、後方援護などはできます。例えばわざと目につくように歩いて、護衛の気を逸らすとか」
「ダメだ。大体、いくらヒストリカが近隣国と比べて治安がよくても、深夜に女が独りで出歩けるほどじゃないのは知ってるだろうが。お前は家にいてチンピラメイドの老人食でも食ってさっさと寝ろ」
 確かにヒストリカは、殺人こそあまり無いものの、夜の女性の一人歩きが許容できる程の治安の良さはない。酔っ払いや追い剥ぎは普通に出るし、裏路地に入れば娼館の客引きや、スカウト――と呼ばれる女性の誘拐も日常茶飯事ではある。
 ニンジャとしての仕事を手伝いたいとティレルに申し出て断られるのは、実はこれが初めてでは無かった。ここ数ヶ月でもう五度ほども、同じ会話を繰り返している。
「……でも、私だって、ティレル様のお手伝いがしたいのです。ミッチェルの話では、女性のニンジャもちゃんといたということですし……」
「ああ?」
「くノ一、と呼ばれたそうですよ。男には出来ない仕事を任されていたそうで」
「…………お前、その女ニンジャの『仕事』が何かわかって言ってんのか?」
「勿論です。男ニンジャとは違って、警戒心を解かせやすいから、そういう類いの諜報を任されていたと聞きました。
 ……例えば、色仕掛けとか」
「ぶっ」
 ティレルの薄い唇から、盛大に息が漏れた。
 直後にティレルは腹を抱えて笑い出す。
「ぶははははっ! いろじか、け! お前が最も苦手なモンだろうが! あんまり笑わすな! 仕事前なのに、腹が痛くなっちまう……!」
「ティ、ティレル様!」 
 自分が色っぽいとは思わないが、さすがに恋人兼婚約者にここまで爆笑されると傷ついて、怒りが湧いてくる。
「そこまで笑うのは失礼です! 私だってその気になれば出来る筈……」
「いや、無理だって! お前には!」
 吊り上がった目尻から涙を流しながらティレルは言って、アナスタシアの顔に手を伸ばしてきた。
 頬に手を当ててアナスタシアの赤い和毛を撫でつけながら、
「お前に色気が無いって言ってる訳じゃねえんだ、そこは誤解すんなよ?
 ただお前はそもそも他人に媚売ったりすんのが苦手だろ。そういう奴には色仕掛けなんか無理なんだよ、誰彼構わず男を溶かして回るなんてのはな。
 遠目にしか見たことは無いが、お前の継妹のほうがずっとそっち方面は向いてるぞ」
「オーラですか?」
「そう、そいつだ。声とか仕種とか、男にモテたい欲求があるとかそういう意味でな」
(なるほど。あれを真似ればいいのか……)
 オーラの可愛らしい唇の開き方や手つき、首の傾げ方、鼻にかかる喋り声などを思い出しながら、アナスタシアはよからぬことを考えていた。
(――――あの所作を自然に振る舞うには。多分に私は筋力がありすぎるな)
「別に色仕掛けに限らず、他人に警戒心を与えないのが間諜の第一歩だ。
 そういう意味でお前は顔から分が悪い」
「ええっ!」
 あけすけにティレルに言われてアナスタシアはショックを受ける。
「俺もあまり人のことは言えないが、気が強い印象を与えると他人は警戒心を抱くからな。俺たちツリ目属には、逆立ちしたって、あのタレ目笑顔のクライオスみたいな甘いエセ笑いはできないだろ。ああいう顔つきの奴らを人たらしって言うんだ」
「……そういえばマヤも、昔似たようなことを言っていました」
「そうだ。だから諦めて、大人しく家にいろ。明日、戦果を報告に来てやるから」
「……………………」
「おい、アナスタシア。なんで返事がねえんだ?」
「………………わかりました」
「………不服そうだな……」
 その後、「絶対ついてくんなよ」と念を押して、ティレルは出かけていった。
 居室に一人残されて、アナスタシアはつらつらと考えている。
(なるほど。このツリ目も警戒心を抱かせやすいのか)
(そうなると多分この口調とかも……)
(ただ……昔。私は動きも喋りも全然違った。八年以上昔の、『死に戻り』前の頃は)
(あの頃のオドオドした私の所作なら、思い出せば出来そうだ。あの言動を踏襲できれば、今の私よりは警戒されにくいんじゃないだろうか)
 クローゼットの中には。
 ニンジャファンのミッチェルから借りたファンクラブ会報で得た知識を元に、店で買い集めた変装グッズが揃っている。
(ボアクリフ商館……悪評は私も知っている)
 夜遅くまで煌々と灯りがついている、とはよく聞く。
 会議と称し、酒や娼婦を呼び込んで朝方まで乱痴気騒ぎをしていると。
 そしてそうした宴会の中で、人身売買の名簿をやり取りしている――――そう、ルーシェンから伝え聞いている。
(ルーシェン殿下や、ティレル様のお役に立ちたい)
 ここのところ、皆に守られすぎて、少しいたたまれない気がしているのだ。
 リンゼル家の屋根裏を出てからこちら、あまり自分が自発的に活動したという実感が無い。これが「人に頼る」ということを覚える、そういう意味なのかも知れないが……落ち着かない。
(自分でできることは何でもやろう。『死に戻り』を繰り返していた頃は、誰の助けも得ずに自分で考えてやってきたんだし)
 そう心に決めて。
 アナスタシアはクローゼットの扉を開いた。



(ええと……私の昔の歩き方)
(内股。背は丸める)
(俯き加減。人を見るときは……あまり顔を上げない。前髪の間から、視線を上げて、窺い見るように)
(喉は、細くして……あまり声も大きくしないように)
(二の腕を、肩の内側に入れて。下腕が邪魔になるから、胸の前で手を組んで……)
 一時間後。町娘がよく被っているリボン付きマントのフードを被ったアナスタシアは、ぶつぶつと呟きながら夜の道をボアクリフ商館へと向かっていた。フードの下は如才なく、黒髪のカツラを被っている。
「よお、姉ちゃん。何処行くんだ? 一緒に飲まねえか」
 居酒屋の前を通るだけで、ほろ酔いの男から頻繁に声をかけられる。
(胸を張って腕を振って歩いてるときは殆どそんなことはなかった。変装、というか、雰囲気の変化には多分成功してる)
 時折、もっと図々しく、肩を組まれたりすることもある。
「お嬢ちゃん、奢るからよ。酌してくれよ」
 酒精の強い呼気と共にそう声をかけられて、強引に居酒屋に連れ込まれそうになる。
(面倒だな)
 考えてみたら。目指す場所に着くまでは別に「媚を売る」とか「色仕掛け」用の所作をする必要などなかった。
 肩を掴んできた男の手がマントの下を探り、乳房を掴もうとしてくる。その手首付近を掴んで、アナスタシアはくるりと半身を回し男の後背に回り込んだ。
「いてててて!」
 手首を返され関節技を決められた形になって、男が悲鳴を上げた。
「待ち合わせがあるんだ。私に触らないでもらおう。次に同じことをしたら骨を折るぞ」
 ここぞとばかりにドスの利いた低い声で脅しをかける。
(「媚を売る」ときにはこれと逆の声を出せばいいんだな)
「ひいい……すいませんでしたー!」
 男は酔いも醒めたようで逃げていった。
(ティレル様に教わっている護身術。役に立った)
 そうこうしているうちに目指す商館に着いたようだ。
 ボアクリフ商館。
 噂に違わぬ不夜城ぶりだ。他者の侵入を厳しく塞ぐ高い石塀の向こうで、四階建ての重厚な石造りの館の窓から、灯りが煌々と漏れている。
 門扉には屈強な男が門番として複数人立っている。
(石塀の周囲にも、見張りが散開している)
 塀の近くには街路樹が植わっており、木伝いに侵入すること自体は可能なようだった。
 ただ、見張りの数が多い。
 路地の奥のほうに商館を覗う人影が見える。
(ティレル様……)
 見張りの目を盗む隙を覗っているようだ。
 どうしたものか、と暫く思案した結果、アナスタシアは周囲を見回し、空になった缶詰のゴミを拾い上げた。
 自分の体自体は両側を別家の石壁、前方を植木に隠されており、見張り達からは見つからない位置にいる。
 その場所で、石壁に向かって空き缶を軽く投げ当てる。
「なんだ!?」
 甲高い音に見張り達が興味を持ち、一斉にこちらを向いた。
 路地奥から音もなく走ってきた人影が、するすると街路樹の幹を上って石塀の頂に飛び移り、商館の敷地内に姿を消す。
(さすがニンジャ。鮮やか)
 ティレルが無事に去ったことを確認する頃には、三々五々、見張り達がこちらに集まってきていた。
「にゃ~~ん」
 ルーシェン殿下が飼っている自分と同名の猫の鳴き声を思い出しながらアナスタシアは声真似をする。
「なんだ。猫か。紛らわしいことしやがって」
 男達は気を抜いて、持ち場に戻っていった。
(嘘みたいに上手くいったな……)
 後はティレル様が出てくる際に、もう一度見張り番達の意識を逸らすことができれば上々だろう。
 数時間かそれくらいも経たないうちにティレルは出てくるだろうと踏んで。
 アナスタシアは待つことにした。

 目算が狂ったのはそれから二時間ほど経った頃だった。
「おい、女」
 いきなり後背から声をかけられアナスタシアは飛び上がる。
(わっ、ではなく)
「きゃ……」
 かろうじて喉を細めることに成功して、アナスタシアは振り向いた。
「お前さっきからあの商館をガン見してるな。何の用だ」
「あ……」
 軍隊崩れのような風体の若い男が、不信感を湛えてこちらを見ていた。
(門番達の一員か)
「コソコソしやがって。こっちに来い!」
 腕を掴んで、男は強引に街灯の下にアナスタシアを引きずり出す。
「おい、何だよその女」
「怪しいだろ。ずっと隠れてこっちを見張ってやがったんだ」
 門番達の注目がアナスタシアに向けられる。
 アナスタシアは捕まったまま、商館の門の前まで引きずってこられた。
「顔を見せろ!」
 男の一人が乱暴にマントのフードを取り去る。
 耳の横で緩やかに結ぶ形をした長い黒髪が、夜目に露わになった。横髪や後れ毛を多く取り、頬や項に目が吸い寄せられるように工夫されている。
「……ら、乱暴しないで下さい…」
 怯えた風を装ってアナスタシアはか細く声を上げた。
「なんだぁ、可愛い声出すなぁ姉ちゃん。髪の毛も色っぽいじゃねえか」
(おお。うまく変装できてる)
 その時、塀の内側から黒い人影が外に出てくるのが視界の隅に映った。
(ティレル様だ。よかった…見張りの視線を逸らす作戦は成功だ)
「何の用だってんだよ!? 若い女がこんな夜分に」
 最初にアナスタシアを捕らえた男が腕を掴んだまま、揺さぶる。
「あ、姉を迎えに来たのです……貴方がたは見かけませんでしたでしょうか。あの、ボアクリフ商館に仕事で向かったと、ど、同僚の方から聞いたのですが。遅くになっても、か、帰ってこないので、心配で……。怖くて、物陰から、の…覗いていたんです…」
 脳内で考えてきた設定を、喋りすぎないように気をつけながら口に上せる。噛みまくっているが、怯えたフリをするのに丁度いいだろう。
「姉だぁ……?」
 アナスタシアの言葉を聞いた男達は、一様に好色めいた苦笑の表情になった。
「お前の姉ちゃんてのは娼婦だろう。お屋敷に呼ばれたんなら一晩は帰ってこねえぜ。その間、俺たちが一緒にいてやるよ、嬢ちゃん」
 男の一人がそう言い下ろして、アナスタシアの顎を掴んだ。
 アナスタシアの視線の先で、全く注目されることなく、黒装束の男が商館の塀を飛び降りて、暗い街路を走り去っていく。
(作戦完了。後は私がここを切り抜ければいい)
「嬢ちゃんも娼婦なのか?」
「え…? いいえ、私は姉とは違って、今そのようなお仕事はしておりません。
 ……あ、あの、姉が出てこられないのでしたら、私はもう、失礼しようかと……」
「いいだろ。俺たちにつきあえよ。娼婦じゃないなら金もいらないよな。俺たち全員、朝までお前の彼氏になってやるよ」
「そんな………」
(そろそろ殴り飛ばしてでも逃げ出す時かな)
 アナスタシアはそう考え始めていた。


 違和感。
 ティレルが商館に忍び込むときは、それはごく微細な感覚だった。
 だが、商館を出るときには、その感覚は大きなものになっていた。
 塀の内側に入る為にはもっと時間がかかるかと思っていたが、見張り達全員が自分に背中を向けるタイミングがあり、あっさり侵入できた。塀から出るときには、男達の注意は門扉の前にいた若い女に向けられており、誰もティレルには気づかなかった。
 ……妙な女だった。
 マントのフードが取り払われたときに赤い髪ではなかったことは確認している。立ち方や仕種は自尊心が弱いタイプの若い女。だが足取りはしっかりしており、背から立ちのぼる気配は体力に自信のある人間の雰囲気で、――――ひどく既視感があった。
 身長、肉付き、年齢、背格好――――アイツに似すぎている。
 見張り番の男達に取り囲まれながら。
「恐怖」を装ってはいても、その裡に冷静さを抱えているように見えた。
(他に目的があるような雰囲気だった)

『わざと目につくように歩いて、護衛の気を逸らすとか』
『色仕掛けとか』

 つい先程、アナスタシアの居室で恋人が漏らした言葉をティレルは思い出す。
「――――!」
 違和感と疑念と記憶。
 これらが脳内で一つの線を作り出した瞬間。
 ティレルは踵を返し、出てきたばかりのボアクリフ商館に走り戻った。


 塀の内側に引き込まれたら、アナスタシアが逃げ出すのは難しくなる。
 この場に男は五人いるが、今ならまだ、男達は油断している。
 全員腰に剣を下げており、うち二人は槍を持っていた。
(潮時だ)
 そう判断して。
 アナスタシアは前触れもなく、左腕を捕らえた男の手首を自分の右手で掴んでくるりと身を回転させる。
 自分から男に、背中向きに身を寄せて相手の膝裏に向けて己の脚を絡め、引き寄せる。上体は押すように体重をかけると、背後の男はバランスを崩して後方に倒れた。
「ぅおっ!?」
 アナスタシアはそのまま道を走って商館から離れるつもりでいたが、至近にいた男の一人が掴みかかってきた。
「ナメた真似を!」
 マントを掴んだが、アナスタシアは事前に、掴みかかられたときマントがすぐ体からスルリと外れるように、わざと布を一度断って緩く縫い合わせていた。勢いよく掴んだマントが翻る間にアナスタシアは地面を蹴って走り出している。
「なんだ!?」
 マントの下から現われた恰好に男達がどよめいた。
 ヒストリカでは見ない衣装だったからだ。
 上半身は胸元が大きく抉れ、下半身は腰までスリットが入った一枚布様の黒装束が腰帯で止められている。足元はヒストリカでよく見る黒ブーツだが、その足首から伸びるのは網目の大きな黒ストッキングで、白い膝や腿をこれでもかと強調している。ストッキングはやはり黒のガーターベルトで、腿まで引き上げられている。同じように網目の大きな黒のオペラグローブが二の腕までを覆っており、こちらも白い肘や脇腹を目もあやに目立たせている。
(男達の動きが止まっている。これがくノ一衣装の効力……!)
 肌の露出が多くて恥ずかしかったが、着てきてよかった。
 このまま走り去ればいい、と思っていたが、目前に二人ほどの若い男が姿を現した。
(王宮騎士……!)
 ボアクリフ商館の客だろう。商館の中では、呼んだ娼婦達の接待を受けられる。血気盛んで好色な騎士達が、こうしてコンラッド派に釣り上げられることがままあると聞く。
「その女、捕まえて下さい!」
 アナスタシアの後方から門番達の声が飛んできた。
「その娼婦、俺たちの相手をするって話だったのに逃げ出しやがったんです!」
(違う……!)
 そんな交渉をした記憶は一切無いが、目の前の王宮騎士二人はそれぞれアナスタシアを捕らえようと両手を広げ、構えてきた。
 騎士ならば組み手も知っているし、体の鍛え方も素人とは違う。
 脇を擦り抜けられればと思ったが、一人の手に腕が引っかかり、捕らえられた。
「く、」
 自分を捕らえた騎士はレスリングの要領でアナスタシアを抱え込み、力を押さえ込んでくる。
「変な服着てるな。イメクラ系か?」
 耳元に不快な熱い息が吹きかかる。
(いめくら?)
「俺たちの相手も追加してもらおうか」
 アナスタシアを手中にした騎士が、脇腹のスリットから手を入れてきた。
「ッ……」
 まずい。
 暴れるのは容易いが、後続の門番連中が追いついてきてしまう。
 取り敢えず自分を捕らえている騎士の一人は、腕を取って投げ飛ばせば自由にはなれる。
 その算段をつけようと相手の腕を掴み直そうとしているところへ、
「がッ」
 くぐもった声を喉から上げて、隣に立っていた別の王宮騎士が頽れた。
(え……?)
 怪訝に思う間もなく、今度はアナスタシアを捕らえていた騎士が横合いから脇を取られてアナスタシアから引き剥がされ、脚を引っかけられて後頭部から石畳に倒れ込む。
「ぐがっ!」
 脳震盪を起こして動かなくなった騎士と自分との間に、もう一人の男が割り入っていた。
「あ……」
(ティレル様!)
 ニンジャ装束のティレルはアナスタシアの脇を擦り抜け、アナスタシアを追いかけてきた門番達と対峙する。
「なんだ貴様!」
 ティレルの強さを目の当たりにした敵は、もはや剣を抜いて迫ってきていたが、ティレルは臆することなく彼らと渡り合い、体術と、逆手に持った短刀一本でたちまちのしていってしまう。
(すごい……相変わらず、殺気もなく)
 最終的には、敵から奪った槍の柄を上手に操って、すべての男達を地に這いつくばらせてしまった。
 呻き声が消えぬところを見ると、全員息はあるようだ。ティレルに人殺しをさせずに済んだとわかってアナスタシアは安堵する。
「コイツは俺専属の女神様だ。汚え手で触んな」
 槍を投げ捨てながらティレルが言った。
 その横顔が相当怒っているとアナスタシアにはわかった。
 ティレルは全く怒りを収めることなくアナスタシアに向き直り、
「来い」
 腕を掴んでその場から走り去った。

【2】