<其乃四>


 歌仙兼定が萎えた竿を宗三左文字の後孔から引き抜くと、暗渠になったそこから、白濁がとろりと溢れ出てきた。
 宗三左文字が歌仙兼定のものであることの確かな証だ。
 歌仙兼定は笑みをはいて、己の指痕や汗の残る宗三左文字の尻の双丘を優しく撫でた。
「はぁ……は…、かせん……、」
 意識が戻ったか、まだ完全には息の整っていない宗三左文字が、途切れながらも名を呼んできた。
「宗三左文字どの」
 頽れたままの恋人の細い体を腕の中で仰向けに抱き直し、歌仙兼定が唾液に塗れた白い顎に手を掛けた。宗三左文字の平らな腹は、宗三左文字自身が放った精で白く汚れている。汗と精に汚れた体に淡紅色の長い髪が乱れながら貼りつき、普段の高雅で清楚な雰囲気は淫熱で無残に踏み散らされている。
 歌仙兼定が見ている前で、宗三左文字の髪色と同じ淡紅色の睫毛がゆっくりと動き、閉じられていた瞼が開いて、その下から、星を含んだように輝く青と緑の色違いの瞳が現れた。
 しどけなく開かれていた唾液まみれの朱唇が動き、口の中に舌が覗く。
「…かせんかねさだ……、」
 その弱々しい、だが優しい声音に引き込まれるように。
 歌仙兼定は恭しいほどの優しさで宗三左文字の唇に口づけた。
 今までの支配感が嘘のように。
 宗三左文字はゆっくりと接吻に応え、歌仙兼定の厚みのある唇を、己の薄い唇でゆるゆると食んできた。
 熱と呼吸は落ち着き、室内とは言え冷えた夜気の中に、情交の余韻だけが漂う。
 互いに舌で唾液を絡め合い、くちゃ、ちゅ、とふたりの唇の狭間から音が漏れてくる。
「今日が何の日だと言ったか、覚えているかい……?」
 ようやく唇を離して、歌仙兼定が宗三左文字に問うた。
 恋人を見下ろす緑の目に、満ち足りた疲労の色が湛えられていた。
「……思慕するひとに、贈り物をする日だと………」
 歌仙兼定を見上げたまま、宗三左文字が答える。
 疲労感を高めた体を歌仙兼定に預け、宗三左文字は二度ほどけだるげに瞬きをして、そして、歌仙兼定に尋ねてきた。
「僕も……、あなたに、なにか、贈り物をしたほうがいいですか……?」
 歌仙兼定は笑みを深めた。
「………いいや。もう充分貰ったよ」
 歌仙兼定の言葉の意味がわからず、宗三左文字は無言で恋人を見つめた。
 水鳥のように細く長い首が、わずかに傾く。
「きみを抱くたび。きみと時を過ごすたび。僕はいつも、きみから貰っている……他には何もいらないよ、宗三左文字どの」
 その言葉は宗三左文字にはすぐには意味が浸透しなかったようだ。
 考えるような風情だった宗三左文字の瞳にやがて理解の色が宿り、その薄い唇が嬉しげに、微笑む形に動いた。
「歌仙兼定……」
 汗ばんだ細い腕が優美に動いて、歌仙兼定の首に回される。
 歌仙兼定はそれに応えるように、宗三左文字の薄い体を両腕に抱え直した。
「きみは僕の手の中で咲く、豪奢な梅の花枝だ、宗三左文字どの。僕にとって、きみは……風流そのものだ」
 歌仙兼定が宗三左文字に向けて囁く声は、宗三左文字の接吻によって語尾がかそけく立ち消えた。
 宗三左文字から仕掛けた接吻は、体を交わす前に為した時のような躊躇や羞恥は殆ど感じさせなかった。
 軽い口づけのあと、宗三左文字は歌仙兼定から唇を離して、
「……今夜は……、朝まで、一緒に過ごしてくださいますか……?」
 歌仙兼定に去られた夕刻の仕打ちがよほど堪えたのだろう、縋るような目で尋ねてきた。
 歌仙兼定は宗三左文字の様相に独占欲を満たされ、優しく微笑んだ。
「きみが望むならね、宗三左文字どの」
 宗三左文字の身を仰向けに床の上に横たえ、寝乱れた髪を指で梳いて整えてやりながら歌仙兼定は答えた。
「きみが僕のものであるように。僕もきみのものだからね」
 無言の宗三左文字の色違いの瞳に歓喜が湧くのを確かめてから、歌仙兼定は言い重ねた。
「……でも。朝まで一緒に過ごすとなったら……きみの下の口で、僕をもっと食べてもらわないといけないだろうな。朝までに、もう二度くらいは。……きみを抱くのを我慢して時を過ごすのは、僕にとっては拷問のような夜になってしまうからね」
「………………、」
 歌仙兼定の体の下で、歌仙兼定の要求を知って、宗三左文字がひくりと震えた。
「それでも構わないかい?」
 歌仙兼定は笑みを深めて恋人を見下ろす。
 もう答えは知っている。
「か、かせん……」
 頬を上気させた困ったような顔。
 それでもその優美な痩身には再びの熱を溜め始めていることが、歌仙兼定にはわかっていた。
 歌仙兼定が手折った梅は、豪奢に咲き匂う自覚もなく、我知らず艶めいている。
 馥郁たる香りを鼻に吸い込んで、歌仙兼定は満足の中に再びの飢えを感じた。
 歌仙兼定が手を動かして、宗三左文字の肌に触れる指を髪から頬骨、唇へと辿る。
「…………、」
 宗三左文字の吐息を受けて、歌仙兼定の指は細い顎から首筋を撫で、信長の紋様に触れ、その下の乳首から脇腹へと抜けていく。
「っ……、かせん……、」
 声に物欲しげな響きが混じるのを確かに歌仙兼定は聞いた。
「少し休んでからにするかい? それとも……、今すぐ……?」
 淡紅色の睫毛が瞬きをして、色違いの両の目が歌仙兼定を見上げる。
 宗三左文字の下腹部に触れると、そこは既に復活の気配があった。
「は……ぁ、歌仙兼定……、」
 誘うように名を呼ばれて、歌仙兼定は宗三左文字の体の上にのしかかる。
 細く長い宗三左文字の両腕が、歌仙兼定の首に絡まる。
 居室から漂う梅花の香りと、歌仙兼定、宗三左文字、二人の香の匂いが混じり合う。
 春を迎えたばかりの長く冷たい夜のうちに。
 触れ合う肌と吐息だけが熱を籠めて。
 闇の中で色も分かたず咲いている梅の花のように、閨の中に匂っていた。



                                             (了)




後書