<其乃九>


 宗三左文字の、男にしては細い繊細な指から、歌仙兼定の皮膚に触感が伝わる。
 歌仙兼定の体温よりひんやりとしてはいても、血の通う温かさを持つ優しい指の腹。
 かつて幾度も触れられた、恋人と同じ手。
 淡紅色の睫毛に縁取られた、二つ色の目が自分を見つめてくる。
 体の下に組み敷く彼が、生者か死者かもわからなくなって、歌仙兼定は声を上げてその者を呼ばった。
「宗三左文字どの、」
 激情の奔流が歌仙兼定から溢れ出す。その目からはいっそうの涙が湧いた。理性の堤防が決壊して、歌仙兼定は両の腕で宗三左文字の胴を捕らえ、正面から強く抱き締めた。
「ッ、」
 歌仙兼定が覆い被さった相手は驚いて息を呑んだ。だが、最初に彼を背後から捕らえたときのような拒否感は、その体から既に失せていた。
 歌仙兼定が更に腕を強く回して、相手の痩身を深く身体の内側に抱き込めると、胸と胸が服越しに密着して、互いの鼓動が重なった。
「…………、」
 宗三左文字が、彼特有のあえかな息を吐く。
 白い首が覗く襟元に歌仙兼定が顔を埋めると、鼻腔から、馴染みのある香混じりの体臭が強く入り込んだ。鳥の枝垂れ尾のごとき柔らかな淡紅色の髪が、歌仙兼定の肌にふわりと当たる。
 間違いなく宗三左文字だった。
 顔も声も、熱も匂いも。
 瞬間に歌仙兼定の心に歓喜が湧き上がる。
「………、」
 歌仙兼定の感覚は恋人が生きていた過去に急速に押し戻され、幸福感が蘇った。
 次いで引き波のように、現実は恋人をとうに喪失していることが理性で知覚された。
 腕に抱いているこの者は『彼』ではないのだ。
『彼』は自分の及ばぬ遠くに逝ってしまった。
 温かな二振目の体が、かつての恋人のような思慕の情を一切見せぬことで、却って歌仙兼定はその思いを強くした。
 どうあっても一振目は帰ってこない。
「……………宗三…左文字どの…………!」
 生命ある二振目の体を掻き抱き、首に顔を埋めて、歌仙兼定は泣き崩れた。
 破壊された一振目を想って。
 死を受容するしかないと理性では把握し、しかし感情は受け入れられず事実に反発し続けた。
 その故に、この数ヶ月、全てに対して怒りを抱いてきたのだ。
 恋人を破壊した戦場の敵を。
 恋人を護り通せなかった己を。
 己と同様の咎を負う本丸の刀剣男士たちを。
 こうも過酷な現実を己に突きつける世界を。
 そして――――自分を措いて死んだ一振目の宗三左文字を。
 憎みたくて憎んだ訳でも、恨みたくて恨んだ訳でもない。
 ただ、悲嘆を受け入れるのがあまりにも辛く、難しかった。
 それら全てが今、氷解し、恋人を喪った感情が遂に完全に、怒りから悲しみへと転化していた。
 長らく押し殺してきた一振目の宗三左文字への尽きせぬ慕情や哀惜が一息に高まり、酔いによって最前から漏れ出ていた歌仙兼定の涙は、ようやく出口を見つけて、とめどなく体の外に溢れ出していた。
「っ、……」
 形代である二振目の体に縋りつき、歌仙兼定は泣いた。
 遺された人間が死者の体に縋って泣くように、歌仙兼定は生前の一振目と同じ温かさの二振目を抱き締め、撫でさすり、幾度も頬や首に口づけた。
「っ……、…は……、」
 唇で触れられても、二振目の宗三左文字は拒否の様相を見せなかった。
 二振目の襟を濡らして歌仙兼定が泣く間、言葉を発することもなく、生ける人形のように、歌仙兼定に抱かれるままに凝と横たわっていた。
 歌仙兼定の腕の締まりから外れていた宗三左文字の両腕は、受動的ながらも歌仙兼定の体に沿うように回されている。
 歌仙兼定の悲嘆を受け止めている宗三左文字も、歌仙兼定と同様に、己だけの感慨に耽っていた。
 ――――この嘆きを知っている。
 歌仙兼定の胸の中で二振目はそう感じていた。
 桶狭間で、今川義元を死なせまいと行動し、全てが虚しく、間違いだったと悟ったときに。
 愛する者を喪う、そのことを受け入れるほかないのだと知ったときに。
 生きている己と、死ぬべき者や死んでしまった者。その隔ての強さに打ちひしがれたのは、二振目も同じだった。
 歌仙兼定への恋慕ではなく共感が、二振目をその場に置いていた。
 身厚な歌仙兼定の胴に腕を重ね、熱が互いに伝わるのを感じながら。
 二振目は歌仙兼定が求めるままに形代の役に応じていた。
 抵抗しない宗三左文字を、歌仙兼定は繰り返し愛撫する。掌で宗三左文字の背を撫で、唇は首筋から顎、頬、口の端に至り、やがて唇にも触れていく。
「っ、ふ……、」
 慣れぬ触感を得て、宗三左文字の口から息が吐かれる。
 それに誘われるように、歌仙兼定の唇が宗三左文字の唇を覆い、舌で唇肉に触れた。
「んふ…ぁっ」
 歌仙兼定の腕の内で、接吻された宗三左文字の身がぴくりと震える。
 歌仙兼定はまだ気づかず、酔いと喪失感に任せて繰り返し宗三左文字の唇を吸う。受動的な二振目の反応を受けて、歌仙兼定の口づけは次第に大胆になり、やがて、宗三左文字の両唇を舌先で捻じ開けて、内側の歯列を舐り始めた。
「! んゥ……ふぅ…っ、」
 宗三左文字の目が眇められ眉が歪んだ。困惑とも嫌悪とも、本人にも判断のつかぬ心地だった。
「ふぁ、」
 舐り続けられて、宗三左文字の歯列が戸惑うように開かれる。
 その奥を求めて、更に深く、歌仙兼定の舌が侵入していった。
「ッ、ン、ふぁ……ッ…!」
 さすがに驚いて、遂に宗三左文字が逃げるように首を揺らがせた。
 それで歌仙兼定も、相手が恋人本人ではなかったことをようやくに思い出す。
「ああ……、済まなかったね……、」
 唇を離し、涙声の息を整えて、歌仙兼定は至近から二振目に言い下ろした。
「きみが……、経験が無いのを忘れていた……」
 口ではそう言いつつも、酒と涙に曇った理性は容易に立ち直らず、歌仙兼定は宗三左文字を掻き抱いたまま、宗三左文字の唇を指でそっと撫でる。
 最前まで接吻を受けていた薄い唇は熱を持ち、朱を帯びて唾液に濡れ光っている。
 歌仙兼定の指で唇肉が押し潰され、白い歯がほんの少し覗く。
 そのとき初めて歌仙兼定は、腕の中の相手に、親和より淫靡を覚えた。
「宗三左文字どの…………」
 かつて親愛と情欲の双方を以て、その名を幾度も呼んだ。
 歌仙兼定の器用な指が、愛撫に不慣れな二振目の唇を弄ぶ。
「……、…ンぅ………、」
 されるがままの二振目は、歌仙兼定が指先で宗三左文字の唇を押し開いても抵抗を見せない。
 それが歌仙兼定には、二振目からの許可のように見えた。
 二本の指が器用に宗三左文字の口中に入り込み、唇の裏側を撫でる。
 相手の濡れた触感と熱。歌仙兼定は己の下腹部の反応を自覚した。
「ぅっ、…ンふ」
 指を口中に差し込まれて、宗三左文字の紅潮した細い面は困惑の相を見せる。
 歌仙兼定は止まらず、上下の歯列を指でこじ開けて、宗三左文字の口を更に開かせると、ゆっくりとではあるが慈悲の無い動きで、口腔へと指先を突き込んでいった。
「んふぁッ、ぁ…ンむぁ……!」
 宗三左文字は驚愕に色違いの目を見開く。
 歌仙兼定の三本の指が口中に差し込まれ、舌先を挟まれる。
「ンぁ……!」
 舌先に当たる苦味や口中を満たす異物感に、宗三左文字は眉と唇を歪め、喉から悲鳴に似た息を漏らした。
「ふ……、」
 見下ろす歌仙兼定が、頬を紅潮させて、満足とも好意的とも支配的ともつかぬ笑みを浮かべる。
 二振目の宗三左文字が初めて見る表情だった。
「閨の中で、何かを歯の奥に差し込まれたら……、嫌がったりせずに、舌先を当てて、よく舐るものなんだよ……」
「ッ……、」
 まるで理を説かれてでもいるかのように、窘めるが如くに言い下ろされる。
 困惑と息苦しさに喘ぎ、それでも尚、宗三左文字の裡に、歌仙兼定に抗う気は生まれなかった。
 宗三左文字は諦念から、言われたとおりに、捕まれたままの薄い舌先を歌仙兼定の指に押しつけ、絡めていく。
「ふ……ン…ふぁ……ふっ」
 大きく開かれた薄い両唇は指によって歪められ、その端から、口中に湧いた唾液が溢れ出していた。
 濡れ光る唾液は宗三左文字の顎を伝い、歌仙兼定の手に滴っていく。
 白い歯の向こうに宗三左文字の舌が覗き、それは宗三左文字の初心と不安を表すようにぎこちなく蠢いて、口中に侵入している歌仙兼定の指を舐り続けていた。
「ぅ……ふぅ…っ」
「ふ……、宗三左文字どの……」
 宗三左文字を見下ろす歌仙兼定の笑みが深くなる。
 しばらく舐らせた後、ようやく歌仙兼定は宗三左文字の口から指を抜く。唾液が指の後から糸を引いて、宗三左文字の顎に垂れ落ちていった。
「ぁ……、はぁ……、」
 性戯も知らず指への口淫を強要され、指を抜かれた後も息苦しさが止まず、呆然と、宗三左文字は口を開いて息を喘がせる。
 その呼気は、歌仙兼定が触れる前よりも、随分と熱くなってきていた。
「……宗三左文字どの」
 寝具の上にくたりと宗三左文字の頭が落ちている。寝乱れた淡紅色の髪ごと、その後頭部を手で包んで、歌仙兼定は再び宗三左文字の面に接吻を繰り返す。紅潮し、唾液に濡れた滑らかな熱い肌に唇と舌を這わせ、舌の先端で唾液を舐め取る。
 歌仙兼定の接吻ははっきりと、情欲を煽るものに変じていた。
「ン……、ふ……、」
 刺激を受けて赤くなった宗三左文字の両唇の端から、再び歌仙兼定の舌先が忍び入る。
「っふ、」
 頼りなく開かれたままだった宗三左文字の口中に、歌仙兼定の力強い舌が奥深くまで割り入った。
 唇と唇が広く深く触れ合う。
 歌仙兼定の接吻は深く、意思を持つ舌が無遠慮に宗三左文字の口中を犯してくる。
「んふゥ……ンん……!」
 驚いた宗三左文字が嫌忌に眉を歪めたのは一瞬で、すぐに、宗三左文字の側からその自我を手放した。
 逃げることを諦めた宗三左文字の舌先を捕らえて、歌仙兼定の舌が絡みつき、唾液と共に口中を撹拌するかのように執拗に舐り続けた。
「ンン……、ん、ふぅ……っ…」
 長い接吻の間。
 歌仙兼定の背に回した二振目の宗三左文字の指が、力なく相手の衣服を掻いていた。
 人の身を得てから今まで、こんなにも深く、長く、体内に他者の侵入を許したことは未だ無かった。
「ふぁ…はっ……、ンぁ…」
 口中を犯し舌と唇で触れてくる歌仙兼定の熱が、小袖越しに伝わる体の圧迫感が、後頭部や項を撫でてくる手が、宗三左文字を惑乱というよりは陶酔に近い感覚に圧し浸していく。
 いやだ、と思いたくても、体がもう言うことを聞かなかった。
 罪を犯し、囚われの身となって、三日月の如くに細った自我。己の命や体に対して投遣りになった心。そして、愛する対象を喪った歌仙兼定に対する、期せずしての同調。
 このまま歌仙兼定が自分に向けてくる情動に飲み込まれて、己という存在を見失ってしまいたかった。
 歌仙兼定が自分を奪うままにさせておいたら、『消滅(きえ)たい』という願望はむしろ果たされるのかもしれない。そんな期待すら宗三左文字は抱き始めていた。
 歌仙兼定が部屋に入ってきたときには、こんな心地になることなど予想もしていなかった。
 顕現して間もない、世慣れぬ二振目は心の対処も知らず。
 身の内から湧き上がった欲求に、抗う術が無かった。
 歌仙兼定の舌に己の唇と舌で応えながら、二振目は、体内の熱がどんどんと高まっていくのを自覚していた。
 人と人が触れ合うことで生まれる親和、快感というものを今、二振目は、初めて学びつつあった。
「ン……、んン、」
 接触を強める歌仙兼定が、上半身だけではなく下肢をも宗三左文字の身体に添わせてくる。既に乱れていた宗三左文字の裾と、更には両膝を割って、歌仙兼定の膝頭が宗三左文字の内腿に触れた。長くとも力強い歌仙兼定の足は更に宗三左文字に絡み、互いの脹ら脛の素肌が滑り合う。宗三左文字の頭を捕らえていた手のうちの一つが宗三左文字の膝に伸びて、腿に触れ、ゆっくりと撫で上げた。
「ふぁ、は……、ン、ぁふ……、」
 接吻を続けられる宗三左文字の口中に、官能の喘ぎが籠もる。
「は……、ンん……、」
 宗三左文字には全く自覚が無かったが、下肢を絡めていた歌仙兼定には、その体の変化が伝わった。
「ふ……、宗三左文字どの…、感じるのかい……?」
 唇を離し、至近で笑みを浮かべながら、歌仙兼定の口が言い下ろしてきた。
「こちらが……、熱を持って、強張ってきたよ……?」
 宗三左文字の腿を撫でていた右手が、宗三左文字の身体の芯奥に寄せられ、下褌越しに性器を撫で上げてきた。
「いぁ、あ……ッ…」
 脳の裏に痺れるような快感が起こり、思わず宗三左文字は声を上げる。
 歌仙兼定の優しい手で熱と触感を与えられると、そこから思考と体が忽ちのうちに麻痺していく。
 裏腹に、下褌に包まれた竿が歌仙兼定の手の中で勃起していくことには、宗三左文字は全く無自覚だった。
「あ……ぁ、ひィ……!」
 歌仙兼定の手の煽りは止まず、宗三左文字は身厚な体に組み敷かれて、唇をわななかせて淫楽に悶える。
 それを見下ろす歌仙兼定の緑の目にも、強い情欲が宿っている。
「そろそろ……、直に触っても、いいだろう……?」
「ッ………、」
 歌仙兼定の言葉は問いではなく宣告だった。
 宗三左文字が返すべき言葉もわからず黙っているうちに、歌仙兼定の指が下褌を捲り上げ、宗三左文字の竿と陰嚢を露出させる。
「あ……、」
 秘すべき場所を露わにされて、羞恥で宗三左文字の顔がいっそう紅潮し、眉が歪んだ。
 歌仙兼定が先に指摘したとおり、性感を煽られた竿は存在感を増し、屹立しかけていた。
「ふふ……、僕の手管で、こんなになっているんだな……」
 昂奮にこちらも頬を赤く染めた歌仙兼定は嬉しげに言うと、二振目の竿にその指で触れ、器用に手繰ってきた。
「ッ! っ、ひァ……!」
 初めての刺激にびくりと身を震わせた宗三左文字を満足そうに歌仙兼定は眺めて、潤んだ緑の目を眇める。
「可愛いな……、宗三左文字どの…………」
「ッ…、」
「もっと教えてあげたくなってしまうな。……きみは、こうされるのが好きだった……」
 歌仙兼定の顔が宗三左文字の眼前から退き、股間へ近づく。
 何をするのか、二振目には予想もつかぬ。
 歌仙兼定の息が己の竿先にかかった、と思う間に、歌仙兼定の唇が竿の先端に吸いついて、雁裏を舌がなぞり始めた。
「ッ! ぅ…、ひぃイ……!」
 強すぎる快感に宗三左文字は首を仰け反らせ、喉から喘鳴を漏らした。
「心地いいかい? 宗三左文字どの……」
 口に宗三左文字の竿先を含み、時折息をする為にそこから唇を離しながら、ついでのように歌仙兼定が尋ねてきた。歌仙兼定の舌先は宗三左文字の雁首に大量の唾液を絡めてきており、彼が舌で竿をなぞる都度、くちゃ、ぴちゃりと水音が立つ。
「ッ……、ぁ、や……、ぁあ……ッ…!」
 歌仙兼定の指に根元を掴まれ、先端に口淫を受けて、宗三左文字の竿は唾液に濡れてそそり立っていく。
「ひぁ…ン……、あぁ……!」
 宗三左文字が喘ぐ都度、歌仙兼定の目の前で平らかな白い腹が上下する。
 二振目はすっかり淫に染まりきって、歌仙兼定の与える刺激にただ溺れていた。
 いつも一振目にしていたように、二振目に口淫で愉悦を与えながら、歌仙兼定は自らも昂奮を湛えた緑の目で二振目を観察していた。
 二振目は歌仙兼定が馴染んできた一振目よりもいっそう無防備で、自我に乏しかった。快楽への感受性は同じほどに強いが、自尊心の低さの故か、己にのしかかり操を奪おうとしている歌仙兼定への抵抗はここに至っても尚感じられない。恋人同士となって契りを結ぶ前、一振目は性の知識を持っておらず、男に組み敷かれて愉楽を教え込まれ、身を穿たれることに強い反発を示していた。高くも脆い矜恃を護ろうとするその態度が、却って、征服欲の強い歌仙兼定を余計に燃え上がらせる結果となっていたのだ。
 だが今。二振目には、その兆候は全くなかった。
「ン……ぁ、は……、」
 二振目は、歌仙兼定に何をされているのか自体は理解の内にあるようだ。つい先ほど、投遣りながらも、彼を犯す許可さえ二振目の口から与えられている。だが他者に性感を以て触れられた経験が今まで無いのは明白だった。
 歌仙兼定が初めての男なのだ。
 一振目と同じく。
「宗三左文字どの……」
 彼の熱を帯びた肢体がもっと見たくなって、歌仙兼定は宗三左文字の腰に手をやって帯を解く。白小袖の襟を剥いで胸を露わにさせると、二振目の、淫に喘ぐ紅潮した肌、そこに黒々と刻まれた蝶の紋様が姿を現した。
 宗三左文字の体をよく知っている歌仙兼定には、当然憶えのある物だった。
「きみの……刻印か……やはり、風流だね……」
 うっとりと手を延べて、組み敷いた体の胸に舞う蝶を撫でながら歌仙兼定は言った。
「っ………、」
 左手で竿を扱かれながら、右手の指で刻印の傍の乳首を触れられて、二振目がひくりと身を震わせる。
「あ……、ぁ…、」
「ふふ……、黒い蝶の下で、こうして乳首が、赤く染まって……綺麗だよ」
 ふわふわと揺れる二藍の髪が宗三左文字の肌に触れ、次いで、歌仙兼定の唇が宗三左文字の乳輪に降りてくる。
「ンぁ、……ッ、」
 敏感な場所を二つ同時に指と唇とで愛撫される。
 思わず何かにしがみつきたくなった二振目が、歌仙兼定の柔らかな頭髪に両手を差し入れてきた。
「はぁッ、……」
 宗三左文字の長い指が歌仙兼定の頭皮に触れる。
 互いの熱がそんなところからも伝わり合っていく。
 歌仙兼定は舌先で宗三左文字の乳輪に触れ、乳首も愛撫する。
「あッ…、ぁ……、かせ……、あぁ、」
 歌仙兼定の刀を握り慣れた器用な指が宗三左文字の肋骨を撫で下ろし、腰骨に触れた。
「ッ……ん……!」
 歌仙兼定の左手で握り込まれ、扱かれ続けた宗三左文字の竿は、今にも限界を迎えそうなほど勃起している。
「はぁ……あ…ぁ、もう……、……ッ…」
 赤い頬に汗と涙を滲ませ、宗三左文字が懇願してきた。
「イきたいかい……?」
 宗三左文字の乳首に吸いつき、舐め上げる合間に歌仙兼定がそう問うと、二振目は必死の様相で頷いてきた。
「ン……、っん…、」
「ふ……、おいで、宗三左文字どの、」
 素直で健気な宗三左文字の様子に満足を覚えて、歌仙兼定の喉から自分でも想外なほどに優しい声が出た。
 歌仙兼定は宗三左文字の体の下に右腕を入れて熱を帯びた痩身を抱き起こし、寝具の上に座らせる。上半身を密着させて、宗三左文字の両手を己の肩に絡めさせると、宗三左文字は素直にその意図に従った。
 二振目の屹立は歌仙兼定の左手に握られたまま、扱かれ続けている。
「あ、ぁ、はぁッ」
 歌仙兼定の肩にしなだれかかり、二振目が声を上げる都度、熱い息が歌仙兼定の耳に吹きかかる。
 歌仙兼定は右腕で抱き締める二振目の背を撫でながら、顎から唇へと接吻を幾つも落とした。
 歌仙兼定の手の内で。
 確かに宗三左文字は愉楽に翻弄されていた。
「っ、ぁふ……ン、んん……!」
 唐突に、宗三左文字が身を強張らせて歌仙兼定にしがみついた。
 快楽に堪え難くなったのだろう。
 歌仙兼定の指に包まれた宗三左文字の勃起は、もはや放出を求めてひくひくと震えている。
「イっていいよ……、宗三左文字どの……、このまま………」
 宗三左文字を右腕に抱きかかえ、自らも昂奮に息を喘がせながら、歌仙兼定は促した。
 二振目の痴態に、歌仙兼定の下腹部も強ばってきている。
 歌仙兼定の指先が雁首を軽く絞ると、宗三左文字の屹立がビクリと撥ねて、放出が始まった。
「ンっ、あ………! ンぅ……!」
 宗三左文字の紅潮した面が、緊張から弛緩に表情を変える。
 よく心得ている歌仙兼定が予め床の上に敷いてあった懐紙の上に、歌仙兼定の手指を伝った二振目の精が、ぼたぼたと滴り落ちていった。
「あ……ぁ…、はぁ……ぅ…っ…」
 宗三左文字の首がぐらりと傾ぐ。
 顕現して初めてであろう射精を終えて、ぐったりと力の抜けた宗三左文字は、歌仙兼定にもたれて熱い息を幾度も吐いた。
「よかったかい?」
 暗闇の中で、歌仙兼定の唇が微笑んでいるのが声の調子から知れた。
「っ………、ええ………、」
 自分を支配する男に二振目は正直に答えた。
 瞬きをすると、淡紅色の睫毛から涙とも汗ともつかぬ液体が頬を転がり落ちていった。
 歌仙兼定の右手が差し伸べられて、宗三左文字の顔を包み込む。
 器用な親指が、優しく、汗と唾液に塗れた二振目の唇の端を撫でた。
 次いで歌仙兼定の唇がその場所に降りてくる。
「………、ん……っ、ふ…、」
 長く深い接吻を、さして不快とも思わずに。
 二振目は自らの舌と唇で歌仙兼定に応えた。
 互いの呼気と唾液が、ふたりの口中で混ざり合う。
 口づけを終え、宗三左文字の息が整う頃。
「……次は。あなたの番ですね……」
 全てを悟り、諦めきった二振目の声が、閨の中に響いた。




next