<其乃二> 「ンっ…ン……、」 寝床の上で歌仙兼定に組み敷かれ、その太い首に腕を回して、宗三左文字はその唇に幾度も接吻を繰り返した。ふたりの身体は未だ夜着に包まれているが、程なくして全てを脱いでしまうことになるのは明白だった。 「はっ…ぷぁっ……、ぁふっ……」 慈しむように、歌仙兼定の手が宗三左文字の背を幾度も撫で下ろす。 歌仙兼定は、その気になったときには、宗三左文字の想像も及ばぬほど淫らな情交を仕掛けてくる夜も多い。だが数日前に起きたへし切長谷部との悶着の所為か、今宵の歌仙兼定は、ただ優しいばかりの手管で宗三左文字を煽っていった。 「宗三左文字どの……」 「は、ふぁっ……」 耳朶に口づけられ、耳に熱い息と共に名を吹き込まれて、宗三左文字は身悶える。身体の中に素早く熱が巡り、歌仙兼定にしがみついて、己ひとりの熱では足りぬ飢えを彼に満たしてもらうことしか考えられなくなっていく。 「あぁッ、歌仙兼定……、」 誘うように自ら腰帯を解き、襟をはだけて、蝶の印が刻まれた胸を歌仙兼定の目に晒すと、すかさずというように歌仙兼定の唇が降りてきて、乳首を強く吸い上げた。 「ンっ、ぁッ、はぁッ」 刺青のすぐ下の左胸の乳首を舌で転がされながら宗三左文字は喘ぐ。強い力で吸われて痣が残ろうとも、歌仙兼定が自分に印をつけるそのことすら、宗三左文字の愉楽の一因になっていた。乳首を舐られる姿勢のまま、歌仙兼定の腰帯に手を伸ばして緩め、たるんだ裾から白い手を差し入れて、宗三左文字は歌仙兼定の竿を探そうとする。 「は、ふ……、随分性急だね、宗三左文字どの、」 歌仙兼定の微笑が上から降ってくる。 閨の中で、歌仙兼定に優しくされればされるほど、宗三左文字の身体の熱は短い間に強い焦燥に変じていく。そのことを知ってか知らずか、歌仙兼定は焦る素振りも無く、宗三左文字の身体に悠長に口づけを続け、華奢な腰骨に手を回してようやく宗三左文字の臀部をまさぐり始める。 宗三左文字は待ちきれず、自ら両脚を歌仙兼定に向けて開いて、下肢を相手の腰に擦りつけた。 「っ…あぁ……歌仙兼定…っ、はやく……、」 「そうは言ってもね…、宗三左文字どの……、」 宗三左文字の痴態に昂奮の息を喘がせ、僅かに困惑の色を上せながら歌仙兼定が告げる。 「さすがに僕のほうの準備がまだ整っていないよ……。きみだって、」 まだ指で身体を開いてすらいないことを指摘しようとしたのだろうが、宗三左文字は返事もせずに、身を起こして歌仙兼定の腰に顔を近づけた。 「ン……っ」 鼻にかかるような、呻きにもならぬ吐息を漏らしながら、宗三左文字は歌仙兼定の浴衣を完全に開く。優美な手つきで肌着さえも奪い取り、屹立を始めたばかりの歌仙兼定の竿を指で捕らえると、躊躇いもなく唇を寄せていった。 「ンふ……、」 「ッ……! 宗……、っ…、」 竿の中程に強い刺激を受けて歌仙兼定が呻く。宗三左文字が自ら進んで歌仙兼定の竿に口で触れたことは今まで無かった。あまりに想外かつ強烈な愉楽が身体に走って、歌仙兼定はびくりと身を震わせる。 歌仙兼定が宗三左文字に幾度も口淫を為したことはあっても、宗三左文字にその方法を本格的に教えたことは無い。歌仙兼定特有の諧謔的な趣向により、歌仙兼定は閨で宗三左文字を支配したいとき、おもに命令ではなく快楽によってそれを果たした。唇を使って奉仕するのは専ら歌仙兼定で、宗三左文字はただ、羞恥に身を震わせながらそれを享受していることが多かったのだ。 それが今、指示されることもなく宗三左文字が自ら歌仙兼定の竿に唇で触れ、舌を這わせてくる。唇と同様、やや厚みの薄い舌が、宗三左文字らしい上品さを失わないままに歌仙兼定の屹立を繰り返し舐り、雁首の裏に舌先が触れてくる。歌仙兼定が宗三左文字に為した口淫の模倣であるのは言うまでもないが、その手管は存外確実だった。淡紅色の柔らかな髪が歌仙兼定の腹や太腿に優しく擦れて竿とは別の触感をもたらしている。屹立を支える白い指が怒張を始めた歌仙兼定の竿を優美に上下し、赤い舌先が竿をなぞっているのが、視覚的にも刺激となって歌仙兼定を煽っていく。宗三左文字の鼻先が時折歌仙兼定の陰毛に触れるのも厭わず、宗三左文字は淡紅色の睫毛を半眼に閉じて、鼻腔から時折呻きにも満たぬ吐息を漏らしながら歌仙兼定の竿を舐め続けた。 「っふ……、は……、宗三左文字どの……、」 歌仙兼定は手を延べて、宗三左文字の与える快楽に任せ、自分を舐る淡紅色の頭髪を優しく撫でることしかできなくなっていた。竿はすっかり屹立し、宗三左文字が求めていた交接を始めるのに充分準備は整っているが、珍しい愉楽を手放すのが惜しくて、口での奉仕を続ける宗三左文字に切り上げるよう言葉をかける気にもならない。 「ンっ…んふ………、」 竿先に舌を絡めれば先走りが滲み始めていて、口淫を為す宗三左文字もまた、歌仙兼定が充分に勃起したことをよく理解していた。ただ宗三左文字のほうでも、いつもは己が翻弄されるばかりの閨の空気が今は違っていることを察知していて、それが珍しく興深く感じられ、また、歌仙兼定が自分の行為で強い悦楽に浸っているのが嬉しく愛おしくて、竿への口づけを止めようとも思わず、むしろ更に大胆に歌仙兼定を煽っていく。 宗三左文字は左手で歌仙兼定の竿を支え、右手で陰嚢を優しく揉みながら、舌先を竿の下から上へとゆっくり這い上げていく。 「っ…、く……、」 歌仙兼定の堪えかねたような吐息を快く聞きながら、今度は唾液に濡れた両唇で同じように竿を煽り、時折舌先も掠めるように使って違う刺激を与える。竿先から溢れ出す先走りを指に絡め、先端を指先で優しく刺激しながら、薄い舌先で、雁裏を下から上へとなぞり上げた。 「っは、は……、宗三左文字どの……、そろそろ離してくれないと……、」 口の端に愉楽の笑みを上せ、声を掠れさせて、頬を真っ赤に染めながら歌仙兼定が言い下ろしてきた。 「駄目ですよ……まだ」 生真面目な声が翻弄するように囁いて、薄い両唇が亀頭をぱくりと咥える。 「ッ……ンく………!」 熱い口中に先端を飲み込まれ、粘膜の内側で滲出口を舌先でこじられて、歌仙兼定の腰が思わず揺らいだ。支配権を得たと知った宗三左文字がさらに歌仙兼定を煽り、変わらぬ優美さで唇をすぼめて、歌仙兼定の筒先を吸い上げた。 「ッ、は……、宗三左文字どの……っ!」 射精してしまうかと思うほどの刺激に辛うじて堪えて、歌仙兼定は声を上げた。 「それ以上僕を咥えていると……ッ、きみの、口の中を、ひどく汚してしまうよ……?」 喘ぎつつ、宗三左文字の奉仕を悦びつつ、それでもなお甘い脅迫に似た口調で微笑みながら歌仙兼定に言われて、宗三左文字はちらりと歌仙兼定を見上げた。 普段の淫熱とはまた別の愉楽に潤んだ、深い緑と青の色違いの両目に、見慣れぬ光が宿っている。宗三左文字の顎が離れ、先走りに汚れた薄い唇が声を放った。 「………たい、ですか?」 強い快楽と放出への欲を押さえるのに必死で、歌仙兼定は宗三左文字のかすかな声での問いかけを聞き逃した。 「今…、なんて言ったんだい……?」 宗三左文字は歌仙兼定の竿先からもう少しだけ口を離し、歌仙兼定を見上げながら、再度、高雅な口調で問いかけてきた。 白く細い顎に、先走りと唾液の混じった液体を滴らせながら。 「僕の口の中に……精を撒きたいですか? 歌仙兼定……」 言われて、歌仙兼定はごくりと唾を飲んで宗三左文字を見下ろした。 歌仙兼定が彼に口淫での奉仕を積極的に教えなかったのは、淫に溺れやすい彼との情交の中で、宗三左文字が快楽のあまり品性を手放して、まるで場末の妓娼のように堕してしまうことを恐れたからだった。歌仙兼定がもたらす愉楽に依存し、平素の優雅で清楚な姿からは想像もつかぬほどに乱れる宗三左文字は、歌仙兼定が教えればなんでも吸収してしまう。その結果が、歌仙兼定が彼に惹かれた理由である高雅さを喪っていくことになるのは、歌仙兼定自身にとっては堪えがたいことだった。 だが今。歌仙兼定は、そうした危惧が杞憂に過ぎないことを悟った。 天下人の刀である彼と、幾夜交わろうとも。如何様に彼を組み敷いて快楽をその身に流し込み、己の支配を身に刻みつけようとも。 最大限に淫らな台詞を吐いている今でさえ、宗三左文字は世慣れぬまでの高雅さを失わない。 歌仙兼定は微笑んで、竿に触れたことで唾液と先走りに汚れた宗三左文字の額髪を撫でた。 「是非してみたいね……宗三左文字どの。きみが許してくれるなら」 宗三左文字は言葉では歌仙兼定に答えなかった。 青と緑の両の目に理解の色を浮かべて、もう一度頭を落とし、歌仙兼定の亀頭を再度咥え込む。 「ンく……、」 口淫は的確なのにその所作は変わらずに品性を保ち、歌仙兼定は、驚きと満足をもってそれを見下ろしている。 宗三左文字の唇から聞こえる、淫靡なはずの水音すらも歌仙兼定の耳に優しく響く。 やがて、液体の滲出を確かめるように宗三左文字の舌先が竿の先端を刺激した。かと思うと、宗三左文字は舌の根で強く雁裏を刺激しながら、両唇で滲出口を再び吸い上げる。 「ッ……、出すよ……、宗三左文字どの……!」 歌仙兼定は、今度は、放出の欲求を押さえ込んだりはしなかった。 宗三左文字の口中で始まった爆発を、宗三左文字は頭を落としたまま受け止めた。粘つく液体が宗三左文字の口の粘膜を熱く叩き、口の中に苦い味が広がる。 「んぐ……ンむ…っ…」 「っふッ………、」 宗三左文字の口中から精は零れることなく、歌仙兼定は全ての白濁を撒き終えた。 射精を終えた歌仙兼定は身体の緊張を緩め、喘ぐように息を吐いた。硬さを失った竿先はまだ宗三左文字に咥えられたままで、彼の口中は歌仙兼定の精で満たされていることは、竿が感じる熱から知れる。 宗三左文字どのが己の口から竿を引き抜いたら、白濁を吐き出す為に懐紙が必要だな、と歌仙兼定が息を整えながらぼんやり考えていたとき。 「ンっ……く…、」 軽い呻きと同時にこくりと宗三左文字の喉が鳴って、陰茎を咥えたまま、宗三左文字が歌仙兼定の精を飲み下した。 「! ッ………、」 歌仙兼定は仰天して己の下腹部を覗き込む。 「っ……、は……、ぷぁっ………、」 宗三左文字がようやく歌仙兼定の竿から口を離し、空気を求めて喘いでいた。酸素不足に顔はすっかり紅潮して、赤く腫れた唇から精の名残が顎に滴っている。 苦しげに開かれた宗三左文字の口からは、歌仙兼定の白濁は消えていた。 「そ、宗三左文字どの、」 狼狽のあまり話しかける歌仙兼定の声が震える。 「まさか……、飲ん、でしまった…のかい……?」 「……ええ………、」 少しだけ苦しげに嘔吐きながら、呼吸を整えて、宗三左文字が潤んだ色違いの目を歌仙兼定に向けてきた。 口中にちらりと見えた舌には白濁の名残が泡となって残っていて、宗三左文字の口に確かに精が撒かれたことを示していた。 動かぬ証拠を目にしても、宗三左文字が精飲を為したとは歌仙兼定には信じがたい。 しかも自ら望んでとは。 「……宗三左文字どの……僕にとっては嬉しいが…、そこまで無理をしてくれなくてもよかったんだよ……、吐き出してくれれば……」 自分はどんな顔をしているだろう、とうろたえながら歌仙兼定は宗三左文字を見下ろしていた。せめて宗三左文字の顎から滴っている白濁を拭いてやろうと懐紙を手にしながら、歌仙兼定が言うと、 「そうしようかと思ったのですが……」 宗三左文字が頬を紅潮させてふわりと笑った。 「僕が飲んだら………あなたがどういう顔をするか、見てみたくなってしまって」 歌仙兼定は息を詰めて宗三左文字を見つめた。心の臓が激しく脈打つ。放出したばかりの竿に再び熱が流れ込み、たちまちのうちに膨張するのを自覚する。 精飲を果たして頭髪を振り乱し、顎を白濁に汚してなお。宗三左文字は美しかった。 「……宗三左文字どの……」 歌仙兼定に名を呼ばれ、宗三左文字は色違いの二つの目で歌仙兼定を見つめた。 二藍色の前髪越し、真っ赤に染まった頬の中で、歌仙兼定の明るい緑の瞳に昂奮の赤色が散っている。 それを見て、宗三左文字は満足そうに微笑んだ。 「愉しんでいただけたみたいですね」 「そ、宗三左文字どの、」 唐突に、自分が宗三左文字から愛されていることを実感して、歌仙兼定は幸福と昂奮のふたつを酷く強く自覚した。宗三左文字の顔から己の精を優しく拭き取って、口中に白濁が残っているのにも構わず、そのまま顔を寄せて宗三左文字の唇に口づける。 「ンっ…ん……、んふ………、」 先程まで己の陰茎を慰撫していた宗三左文字の舌が歌仙兼定の舌に絡んでくる。はだけた浴衣を着たままの腕が歌仙兼定の首に絡んできて、できるだけ深く口づけを交わそうというように首を傾けて、歌仙兼定の舌と唇を、宗三左文字が優しく貪ってきた。 「っは…、歌仙兼定……、おねがいです……、」 口を離すと、至近で微笑みながら、宗三左文字が懇願してきた。 口淫と深い接吻で、宗三左文字は頬を紅潮させ、すっかり息が上がっている。 「僕の中に……、はやく、来てください………」 情欲に飢えていてもなお優雅なその微笑。潤んだ色違いの両の目は蠱惑に滲んでいる。 歌仙兼定は宗三左文字の細い体を抱き寄せて、優しく笑みを返した。 「勿論……、きみの要望に、すぐに応えてあげるよ……」 帯を失った浴衣の下に手を差し入れて、宗三左文字の汗ばんだ臀部を探る。 「でも準備はしないとね。……まずは指から入れて、よく解さないと」 「……………、は…、」 不満とも満足ともつかぬ吐息が宗三左文字から返された。 |
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