<其乃五>


「………………!」
 声にもならぬ悲鳴が宗三の喉から迸った。
 痛み止めを塗られていても、指で解されていてもまだ足りず、暴かれた体に激痛が走って、宗三は思わず身を強ばらせる。
「くひッ…! ぁ、ぎッ………!」
 薬研の小さな体の下で、宗三の全身の筋肉が痛みと恐怖に収縮する。いっそう狭まった宗三の肉襞が薬研の勃起を絞り上げて、互いへの圧迫がいっそう強まった。
「ぁ……やぁ…やげん………! い、痛…、ッ抜い………っ、っひ………ぁ!」
 呻きながら宗三が必死に訴えた。
 だが薬研は宗三の声など聞こえず、己を絞られる苦痛すら感じるどころではなかった。
「くそ……、こんなに、気持ちイイ、もんなのか………、っ、」
 放出に堪え、宗三の体の上に汗を垂らしながら、薬研はごちた。
 体の五感全てが、宗三に潜らせた竿に集められたかのようだ。宗三の熱と蠢動、それによって締め上げられる快楽のほかには何も感じることができない。
 文字通り夢にまで見た、宗三の体の中に、今まさに自分は侵入している。夢や想像など及びもつかぬほどの実存感と、竿で直に触れる熱い肉襞。その肉襞が蠢き、油薬に濡れて摩擦を失いながら薬研の屹立を心地よく締め上げてくる。
「っ………、は……、」
 意識が飛びそうな快楽のあまりに呼吸すら忘れかねない。薬研は息を整えて態勢を整え、改めて宗三を深く穿つ準備をしようとしたが、果たせず、瞬く間に少年の体は快楽を爆発させた。
「! ッ…、く………!」
 薬研が軽く呻いているうちに、宗三を穿って初めての射精は既に始まっていた。
 ドクドクと宗三の中に精を放つのを自覚して、薬研は目を細める。
「ひっ…あッ…! ぅ、う…っ」
 薬研の体の下で、自分が何をされたかも掴めずに、宗三は瞼を固く閉じ、痛みの中で初めて味わわされた刺激に身を震わせていた。
 直腸に侵入した異物が内壁を圧迫し、大きくなったかと思うと、次の瞬間には熱い液体が宗三の体内を逆流してきていた。吐き気すら催すような違和感に襲われて、狭いとば口を薬研の竿に押し広げられたままで、宗三は必死で苦痛に堪える。
「うッ……うぅ…ッ」
「つ………、」
 宗三の中を満たし切り、ようやく少しだけ余裕を取り戻して、薬研は繋がったまま身動きをし、荒い呼吸を整えながら宗三を見下ろした。
「…ンぅ…、」
 薬研に組み敷かれた宗三が苦しげに呻く。色違いのその目は相変わらず固く閉ざされている。
 赤らんだ目尻に少しだけ水滴が浮いて、薄紅の長い睫毛に凝っていた。
 それは苦痛の汗か、それとも涙だろうか。
「……、は………、」
 ようように呼吸が整い、薬研は次の淫欲を自覚した。
 宗三の体の中から己を引き抜きたくなかった。一度放った欲望は忽ち蘇り、突き入れたときとさほど変わらぬ大きさにまで勃起は復活している。このまま腰を動かして、今度はもっと長く宗三を味わいたい。
「宗三」
 熱に浮かされた声で、穿つ青年の名を呼び下ろす。
「………、や…薬研………、」
 相変わらず痛みに支配されたままの様相で、宗三が名を呼んで目をそっと開いた。
 長い睫毛から水滴が頬を伝って床に転がり落ちた。
 宗三の呼吸が浅いのは、まだ体が痛みに支配されているからだろう。
 見上げてくる青と緑の二色の潤んだ瞳に、薬研の顔が映っている。
「このまま動くぞ」
「…、っ………、」
 新たに与えられる苦痛を思ったか、やめて欲しいと望むような声音で宗三が呻いたが、再びの淫熱にうかされた薬研には届かなかった。
「できるだけ力抜いてろ」
 宗三の奥深くをもっと探りたくて、薬研は宗三の太腿を少年の手に抱え込んだ。
 薬研のわずかな動きにさえ、宗三の狭い後孔は軋む。
「! ッ、は、ぁう…、」
 薬研の体の下で顔を歪ませ、しかしもう宗三は拒否も反発もしなかった。
 自分に竿を突き入れた瞬間に、宗三にとっては痛みしかもたらさないこの行為に薬研は夢中になってしまっていて、苦痛に呻く自分の声が今の薬研には決して響かないことを、宗三は既に悟っていた。
「っ、ぅ……」
 痛みに身悶えしながら、それでも薬研を受け入れることを決めたのが他ならぬ自分であることもよくわかっていたので、宗三は堪える覚悟だけを心に抱いて、黙って再び目を閉じた。
 薬研は視線を落とし、そんな宗三の様子を眺めていた。宗三は辛そうに眉根を寄せながら瞼を閉じ、体を薬研に差し出して、息を殺して痛みに堪えている。拒むのを諦めた宗三の態度は薬研の征服欲をいっそう煽り、焦れるほどの欲熱に昇華されていく。突き入れた屹立から伝わる宗三の肉襞の濡れた熱。白い太腿を捕らえた手から伝わる、宗三の乾いた肌の熱。顕現したその時から強い憧れを持って見つめていた宗三を、組み敷いて精を撒き着実に自分のものにしたという万能感。
 震える呼吸の都度、宗三の身に刻まれた蝶の紋様が汗ばんだ胸の上で上下する。信長が、今川義元より略奪してから死ぬまで宗三を領有し、今も尚信長の所有であると高らかに告げているその刻印。
「……………、」
 薬研が苛立ったように腰を揺すると、とば口を擦られた宗三が苦しげに呻いた。
「っ、ぅ、」
 違う、と薬研の中で己と同じ声がする。今の宗三は信長のものではない。この俺っちのものだ。
 刀剣男士として本丸に顕現したときから憧れていた、全身がほの赤く染まった僧形の青年。信長の知る由も無い、人の姿を持った宗三左文字。
 こいつは俺っちだけのものだ。宗三自身が進んでそれを受け入れた。何も知らない無垢な体に、痛みを堪えてまで宗三が受け入れたのは、薬研の竿だけだ。今薬研の竿に熱く絡む、宗三の内側を満たす薬研の放った精が、何よりの証拠だった。
「宗三」
 試すように再度腰を揺すると、繋がった場所から、ぐぷりと淫靡に音が漏れた。
 痺れるような快楽が竿から薬研の身の内に広がる。
「ッ、ぁ、」
 眼前で今、苦しげに歪む宗三の顔さえ、自分と体を繋げたことによって生まれた、薬研がもたらした表情なのだ。そうと思い至ると、宗三を領有し支配しているという満足感が熱い潮となって薬研の体を駆け巡った。その熱は最終的には体の一点に集中して、宗三を穿つ薬研自身に凝集し、薬研の勃起を更に強める。
 人間の男と同じ、少年の体に埋め込まれた若い本能が、もっと宗三を奪えと薬研に命じていた。
 薬研は命令に忠実に従い、もっと腰を深く押し進めて強ばったままの宗三の肉襞を強引に押し開き、そのままの勢いでがつがつと勃起を揺すり立てて、宗三の体を貪り出した。
「ッ、ン、あ、ぁ、ぁうッ」
 体の下で手酷く揺さぶられて宗三が苦痛の呻きを漏らしている。声は薬研の耳に届いてはいたが、意識には殆ど到達していなかった。宗三の内壁で竿を擦り上げる都度、体を巡り蓄積されていく快楽の虜になっていて、宗三に言葉をかけることも忘れ、薬研は夢中で宗三との情交を味わった。
「ン、ぁ、はぁ、っや、やげん……っ」
 塗り込まれた油薬と、既に一度体内に撒かれた精が摩擦を無くし、屹立と肉襞が擦れ合って、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音を立てている。
 掠れ声の中で呼ばれた名が、ようやく薬研の意識に届き、薬研は腰の突き上げをやめぬまま満足げに微笑んだ。
 呼ばれたことに答えるように宗三の肌の上に顔を落として、その脇腹に薬研は軽く歯を立てた。
「っ、ひッ、ぁ、」
「気持ちいいぜ……、宗三……、」
「あ……ぁッ、ぁ、薬研っ、」
 宗三は覚束なげに薬研の名を再び呼んだ。
 同意もなく精を体内に撒かれて、腸の粘膜を熱い液体で満たされた上に、更に薬研の屹立が無遠慮にそこを掻き回してくる。得体の知れぬ体験に宗三は惑乱して、恐怖と苦痛は消えぬままで、無意識のうちに宗三の手は薬研の腕を掴み、その滑らかな肌に爪を立てていた。揺さぶられて熱を帯びた体は赤く染まり、薄紅の髪がほつれ絡まるきめ細かい素肌の上に、薬研の汗が滴っていく。
「声。もっと聞かせてくれ」
 快楽と、強い支配欲を滲ませた声で薬研は言って、宗三の腰を抱え込んで更に奥深くに己の屹立をねじ込んだ。
「ッ……! ぁ、ひィっ………!」
 圧迫と同時に宗三の知らぬ何かを薬研の竿先が掠って、宗三はびくりと背を撓らせ、思わず掠れ声を上げた。
 薬研の体の両脇で、くの字に折り曲げられていた宗三の長い脚ががくがくと震える。
 唐突にくったりと力が抜けた宗三のその様相は、薬研を驚かせるに充分だった。
「? なんだ………?」
「っ、ひぃッあ………ッ!」
 同じ場所を更に薬研の竿が突き上げると、宗三はわななき震えて、怯えたように目を見開いた。
「あッ、やっ、なに………これ……、」
 自分でも何が起きているかわからず、宗三が惑乱した視線を薬研に向ける。
「やだ、薬研、そこ…やめて、くださ……っ」
「ここか?」
「! ッひい……!」
 震える声で懇願したその場所を却って深く抉られて、宗三は堪えかねたように身を捩らせた。
「やだ、駄目、ですっ…て、あ、ぁ、あぁッ、やぁッ……!」
 拒否の声を上げれば上げるほどそこを突かれて、宗三は薬研の体の下で泣き崩れた。
「イイんだな? ここが……、」
 狙い澄ましたように抽送でその場所を穿ちながら、薬研が笑って言い下ろしてくる。
「ち…が、ン、ぁあッ、っはァッ…! や、あァっ…!」
 幾度も突き上げられてその都度、宗三の体中を淫熱が巡る。緊張を失った宗三の腰は薬研の抽送を奥深くまで受け入れて、快楽の巣である場所を的確に薬研の竿先が擦り当てていた。苦痛はとうに消し飛んで、宗三の体は愉悦の他に何も感じられなくなっていた。宗三は驚愕に目を見開き、閉じることも忘れた唇から喘ぎと唾液を溢れさせながら、薬研が与える刺激に翻弄されていた。
「あッ、ぁ…やげん、ッやめ……ッひぁ、あァッ!」
「ッ、く………」
 細い少年の腰が幾度も宗三の尻に突き当てられ、パンパンと小気味よい音を立てる。
「嘘はよくねえな、宗三……、イイならイイと、ちゃんと言ってくれねえと」
 突き上げをやめぬまま、口を半月の形に吊り上げて薬研が言った。
 再度屹立を果たした宗三の竿が、薬研の腹を擦っている。
「おまえの反応でまるわかりだ、と言ったろう」
「あッ、ぁあ、知らな……ッ、ひぁっ、ッぁ、やげん、薬研………!」
 薬研の動きを止めたいのか、続けて欲しいのか、自分でも既にわからなくなって、宗三は泣きながら、穿ってくる相手の名を呼んだ。
「イイならイイと、言ってみろ」
「ッ、ぁ、あッ」
「おまえの摩羅が、完全に勃ってるぜ…、宗三、」
「は、あぁッ、薬研っ」
「後ろでも感じるなんて……、いやらしいカラダしてんな……、ふ、このまま最後まで、行くからな、ッ…」
 支配欲と征服感を強めた薬研のその宣告が、今は却って宗三の心をすら悦ばせた。
「ンぁ、あぁっ、っや、やげん………!」
 目を固く閉じ、薬研の腕を手で強く掴んで、宗三は掠れた声を放った。
 繰り返し淫楽に突き上げられて、宗三はもう完全に快楽に耽溺していた。いつの間にか薬研の胴に宗三の長い脛が絡み、自ら愉悦を求めようというように、薬研の抽送に合わせて宗三も腰をくねらせている。
「ッ……、すげ………、」
 腰を揺すり立てながら、薬研が少年らしい感慨をわずかに漏らす。
 宗三の協力を得て味わう淫熱は、独りで宗三の体を貪っているときより更に悦楽が強かった。
 蠕動が深まり、宗三の肉襞が絶妙な加減で薬研の竿に纏わりつき、締まったとば口が吸い上げるように薬研を締め上げてくる。
「く………、」
「はぁッ、あぁ、薬研、もっと………!」
 宗三が遂に、常の高雅さも羞恥もかなぐり捨てて、愉悦に耽りながら薬研に甘えるような声でねだってきた。
「ンぁ、あッ、ぁ、もっと、くだ…さ……、ッ、ぁッ、あ、やげん………!」
「気持ち、いいんだな…? 宗三………、」
 放出への欲求をこらえて、今や自分の為だけでなく宗三の為にも腰を振りながら、薬研は尋ねた。
「ンっ、んンっ、」
 夢中で腰を薬研の動きに合わせながら、宗三が啜り泣くように必死で頷く。
 汗に汚れた薄紅の前髪が宗三の額に貼りついている。髪の下の赤らんだ目尻から、官能と感動の涙がぽろぽろと零れていた。
「ぁ、あ…、イイ………、いいのです……、っ、薬研……!」
 宗三の喘ぎと共に熱い呼気が薬研の顔にかかった。
 これが人の体なのだ。
 体を結び合いながら、薬研と宗三の双方が同時に、驚きと共に思い知っていた。
 互いに高め合える、この強い愉悦を。
「ッ、そうざ………っ、」
「はぁ、薬研、薬研……ッ」
 互いの名を呼びながら、官能はどんどんと強まっていく。
 やがて宗三は閉じていた目を開き、涙に目を潤ませながら薬研を見上げてきた。
 色違いの瞳に湛えられた光は優しく、しかも嬉しげで、文字通り自分を包み込むように宗三に微笑まれて唐突に、薬研の愉悦は最高潮に達した。
「ッ! く……………、」
 終焉が来る、と自覚もせぬうちに、薬研は腰を一際深く打ちつけてそのまま身を強ばらせた。
 狭い宗三の裡で、抜き差しする隙間も無いほどに大きく膨らんできた屹立がびくりと震えて、体内で放出が始まる。
「っ………、ぁ、あ………!」
 薬研の体の下で身を震わせて、宗三が呻いた。
 体の中にひたひたと他人の熱が満ちる。
「や…ぁ、やげん………!」
 深い青と緑の瞳に悦びの涙を湛えて宗三は薬研を見つめていた。
「……………、」
 余韻すら残さず快楽を終えて、まだ宗三の体内に己を埋めたままの薬研が、荒い息を吐きながら微笑を返し、強く勃起して自分の腹を滲出液で汚していた宗三の竿を片手で握る。
「……イきたいか?」
「………、ン、」
 質問に素直に頷いた宗三に笑みを深め、薬研が宗三の竿裏を強く扱く。
「ッ、ぁ…ぅ、あ………ッ…!」
 宗三ががくりと首を仰け反らせて己の腹の上に精を放ち、そのままぐったりと床の上に体を投げ出した。
 薬研が掴んだままの宗三の竿は萎え、白濁が薬研の少年の手を汚していた。

 ほんの少しだけ気を失っていたようだ。
 宗三は瞬きをして、まだ己の上に乗り上がったままの薬研の顔を見つめた。
 少年の艶やかな黒髪は汗に濡れ、色の薄い茶色の瞳には満足と優越の光が灯っている。
 体の奥では体内を熱く満たす液が腸の蠕動に合わせて蠢き、強い快楽をもたらしていた薬研の竿が圧迫感を幾ばくかは失いながら、相変わらず宗三の裡に埋められている。
 薬研が体を倒して宗三の上に屈み込み、繋がったままの場所がぐぷりと音を立てて擦れ合った。
「ぅ………、」
 遂には愉悦を得たとは言え、未通の場所を強引に押し開かれたことに変わりはない。荒い腰使いで下肢を滅茶苦茶に使われた宗三は、今や強い疲労と、そして痛みを自覚し始めていた。
「……大丈夫か。宗三」
 息を荒く吐きながら薬研に言われて、何と答えることも出来ずに宗三は薬研を見上げた。
「……や、薬研……」
「……悪かったな。あんまりおまえの具合が良すぎて、つい我を忘れちまった」
 いつもは白い頬を火照らせ、満ち足りた表情を浮かべて、薬研がそれでも謝ってくる。薬研の少年の手が、宗三の汗ばんだ剥き出しの膝に触れた。繋がったままの薬研の前で相変わらず脚を広げ、無防備でしどけない様を見せていることが急に思い起こされて、宗三は苦痛よりむしろ羞恥によるいたたまれなさを強く自覚する。
「やげん………、」
 離れてください、と促したいのに、薬研は宗三の体に竿を埋めたまま、宗三の肌を撫で上げ、腰骨から脇腹を辿って魔王の刻印が刻まれた左胸にまで手を伸ばした。
 宗三への性欲が満たされた今、薬研はそれまでとは別のことを考えているようだ。
「……刀剣男士として顕現する直前まで。俺っちの知らない数百年の間、おまえは織田の大将のところにいたんだよな?」
 なぜそんなことを聞かれるのかわからず、宗三は眉をひそめる。
「………織田の大将の所有物だったんだな?」
 汗に滲んだ蝶の紋様を指でなぞりながら、薬研が確認してくる。
 交わる前に、宗三は薬研にそれを告げていた筈だ。
「……え、ええ……、そうです……魔王は生存してはいませんでしたけれど、魔王が祭神になった社に、奉納されていましたから……っ…、ン、」
 薬研の指についでのように乳首を撫でられながら宗三は答えた。
 薬研の指が蝶の紋様の上で止まる。
 薬研の唇が半月の形に吊り上がった。
「でも今は。おまえは俺っちのもんだ」
 宗三はひくりと身を震わせて薬研を見上げた。
 少年の体から発せられたとは思えぬほどに低い声。
 暗く陰になった薬研の顔の中に、様々な欲が渦巻いていた。
 刀剣男士の喉から出されたとは思えぬほどに人間じみた、薬研の声と表情。薬研の竿に犯されたままで、宗三は背筋を粟立てる。
 自分を見下ろす薬研の表情は、自分を今川義元から略奪して磨上させたときの魔王の表情とそっくり同じだった。
「っ、やげ………、」
 声を上げかけた宗三の反応には構わず。
 薬研は宗三の体を撫で続ける。
「この綺麗な体だけじゃない………髪も。唇も。ぜんぶ俺っちのもんだ」
 言いながら薬研の指が、宗三の髪と唇に順に触れていく。
「おまえのここも」
「ッ………、」
 薬研の左手が宗三の竿を軽く撫で、宗三は息を飲んだ。
「………おまえの体の中もな」
 薬研がわざとらしく腰を揺らがせ、接合部がぐちりと音を立てる。
「ひッ、ぁ、やげん、」
 腰に苦痛が絡んで乞うように名を呼んだ宗三に、薬研はぎらついた視線を寄越した。
「体以外のものも。おまえの心も、付喪神としての霊魂も、今はぜんぶ俺っちのものだ………宗三。他の誰にも渡さない」
 ぞくぞくと背筋を悪寒が這い上がり、宗三は瞬きもせずに薬研を見上げた。
 魔王はかつて恐怖で他者を征服し、支配した。
 そのとき刀だった自分には、それは無縁の感情だった。
 今。刀剣男士として人の姿に顕現し、宗三は薬研に恐怖を感じている。
 かつては知りもしなかった。
 恐怖の中に畏怖が、畏怖の中に慕情が生まれうることなど。
 なぜ魔王が怖れられつつも同時にああも人に慕われたのか、宗三にもわかった気がした。
「……………薬研」
 細く長い腕を伸ばし、薬研の少年の体に宗三は手で触れる。
 横暴で強引で、強い支配欲を躊躇いもなく自分にぶつけてくる薬研。
 やはり薬研は魔王に似ている。
 宗三は相手には告げず、独りそう思った。
「………僕は……あなたのものですよ……、薬研」
 薬研の目をまっすぐに見て、宗三はそう宣告した。
 少年の姿を取りながらも、薬研は、武張った気配を隠しもしない。
 刀剣男士でいる限りは。
 宗三は、薬研に惹かれることを自分では押し止められないだろう。
「薬研」
 体の中に薬研の竿を感じる。
 刀剣としては朽ちてしまった、薬研藤四郎と呼ばれる短刀。
 魔王と共に喪われた薬研の刀身。
 魔王に数百年も置き去りにされたままの、自分の刀身。
 宗三は薬研を見つめて、色違いの目に涙を浮かべながら微笑んだ。
 無理矢理に体を開かれる痛みなど、自分が今まで心に抱えてきた痛みに比べれば、どうということもないのだ。
「…僕はあなたのものです………薬研。……あなたが、僕を置いていきさえしなければ」
「………………、」
 言われた薬研の顔が、言葉にあらわしがたい複雑な表情に歪んだ。
 薬研は黙って腰を動かし、力を失った竿をようやく宗三から引き抜く。
「っ………、」
 再度感じた痛みに宗三は軽く呻く。その間に、薬研は宗三の面に顔を寄せ、口づけを仕掛けてきた。
「宗三……、宗三」
 接吻の合間に掠れた低い声で幾度も名を呼ばれた。
 宗三は黙って唇だけで薬研に応える。
 疲れた体にのしかかる、軽くて細い少年の胴を、長い腕で抱き締めながら。
 接吻の直前、泣き出しそうな顔を薬研がしていたような気がしたが、ただの錯覚だったかも知れない。
 薬研は少年の幼い手で宗三の裸身を撫で回し、愛撫してきた。
「おまえに織田の大将の秘密を教えてやるぜ」
 薬研の低い声が耳元で響く。
「本能寺まで連れ歩きながら、最後の最後にあいつがおまえを手放したのは、おまえがどうでもよくなったからじゃない。逆だよ。奴にとっておまえが大事だったからだ。おまえみたいに綺麗で大切な刀が、此の世から消えるのを惜しんだんだよ」
「………………、」
 言われた宗三は目を瞠った。
 薬研の手が、再び左胸の蝶の紋様に伸ばされた。
「あの大将は自害に火薬を使ったからな。人の肉や骨どころか刀だって、奴の傍にあったら木っ端微塵になっちまう。織田の大将はそれが嫌で、女房衆がおまえを持ち出すのを是認したんだ。自分の寿命より刀剣の寿命のほうが長いことを知っていたからな」
「……………、それ…は………、」
 宗三の喉に何かが絡む。
 本能寺での己の在り方をそのように宗三が捉えたことは、今まで一度もなかった。
「だからこそ、織田の大将のこの刻印は、数百年の時を経て刀剣男士になったあんたにも効力を発揮するんだ。……むかつくぜ」
 嫉妬を込めて薬研が笑っている。
 薬研は宗三の肩に軽く歯を立てて痕をつけると、少年の腕を宗三の体に巻きつけてきた。
「俺っちは最後の最後でおまえを手放すことはしねえからな。織田の大将より前に俺っちの所有者だった、松永弾正がしたみたいにするぜ。………先に死ぬときは、おまえの体と魂ごとぶっすり刺して、俺っちの死出の旅路に同行してもらう。………弾正の大将は、他の全ては手放したけど、自分の一番大事なものは、そうやって腕に抱えて共に滅んでいったからな」
「………、薬研………、」
 目に畏怖を湛えて、隣に横たわる少年の顔を宗三は見た。
 色素の薄い茶色の瞳が、冗談めかして宗三を見つめてきている。
 ただその瞳の奥に。
 冗談にはなり得ぬ真摯なものが存在していた。
「置いていかないで欲しい」と懇願した宗三への解答が、薬研の今の言葉なのだ。
 薬研にとって一番大事なものは宗三だ、だから置いてはいかない、と。
 それを察して、宗三の心に、強い芯を持った炎が灯る。
「薬研、」
 宗三の喉に絡んだのは本物の涙声だった。
 宗三は薬研を腕で包み込み、抱き締めると言うよりは縋りつくようにしてその細い肩に顔を寄せる。
「………ま、今の大将のもとにいる限りは、そんな士道みたいな覚悟はしなくて良さそうだがな」
 それまでの気魄が嘘のように、緩んだ低い声で薬研が呟いたが、泣いている宗三の耳には、それは届かなかった。




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