<其乃四>


「宗三左文字どのが茶室で眩暈を覚えたようなので、この場で少し休んでもらう。早急に床を整えてくれ」
 歌仙兼定の首に細い腕を回してかじりついた宗三左文字を抱き上げたまま、歌仙兼定は自らの寝室に戻って、部屋付きの短刀の子に指示を与えた。子どもが慌てて布団を敷き整えるのへ宗三左文字の身を寝かせ、重ねて子どもに指示を出した。
「介抱は僕がするから退がりなさい。僕が呼ぶまでこの部屋には来なくていい」
 有無を言わせぬ歌仙兼定の口調に何を察したにせよ、短刀の子は緊張した面持ちで、はいとだけ頷き、すぐに退室した。歌仙兼定のにおいがついた布団に宗三左文字の淡紅色の髪が広がっている。深い緑と深い青、二色の潤んだ瞳が縋るように歌仙兼定を見上げて、歌仙兼定はもはや己の情欲を隠すことなく、文字通り宗三左文字に襲い掛かった。
「ン、ぁ、ァふ、」
 先ほどよりよほど無遠慮な、扇情的な深い口づけ。歌仙兼定に組み敷かれて、宗三左文字は恐れる気配もなく接吻を返してきた。
 衣服越しに腕を回し、接吻を繰り返しながら宗三左文字は歌仙兼定に抱きついてくる。
 恐れ気の無いその態度に、宗三左文字は男を知らぬ体ではない、と歌仙兼定はすぐに気づいた。宗三左文字の体を過去に暴いたのは誰か、と城中すべての刀剣男士に対し激しい嫉妬が瞬間的に歌仙兼定の心中に沸き起こったが、それは今宵、宗三左文字の心身全てを己が掌握すれば良いという性的欲求に昇華された。
 宗三左文字の体の上にのしかかり、宗三左文字の口中に横暴に己の舌を押し込みながら、歌仙兼定はあらゆる帯紐を解いて相手の身を裸に剥いていく。
「ン、んむっ」
 宗三左文字は歌仙兼定に逆らわない。
 歌仙兼定が薄紅梅色の僧衣の襟を剥ぎ、宗三左文字の肌を肩まで露わにすると、熱にほの赤く染まった白い左胸に、蝶の紋様が黒々と舞っていた。
 宗三左文字の繊細な素肌に、暴力的なまでに主張強く刻まれた刺青に歌仙兼定は少しの間だけ見惚れ、すぐに宗三左文字への所有欲を心が占めて、刻印への驚きは意識の外に押し流された。
 歌仙兼定は首を落とし、蝶が描かれた皮膚に舌を当てて、刺青をねっとりと舐め上げた。
「! ひっ…ぁ!」
 頭上で掠れた声が上がり、宗三左文字の華奢な喉首が仰け反った。
 刻印のすぐ下の乳首に指をあてがう。性急さの故にやや乱暴な指使いでも、宗三左文字の声質は変化せず、赤い突起は期待するかのように熱を帯びて硬く尖った。
「ッ、ンぁ、ぁっ、」
 突起を指で引っ張られて宗三左文字が熱い息を吐いた。
「ンぁっ…、ぁ、う、」
「綺麗な体だな……、宗三左文字どの……、」
 組み敷いた相手を占有できる歓喜に満たされながら、歌仙兼定はそう言って微笑みかけた。宗三左文字の衣服を全て剥いで、下褌だけを腰に残した細い体を撫でさすり、指で弄った乳首の周囲に唇を落として、乳輪を舌で刺激する。
「ンっ、はぁ、アぁ、かせん……!」
 歌仙兼定の腕の中で宗三左文字の身が柔らかく撓り、淡紅色の髪が生き物のようにうねった。
 歌仙はその体を抱えたまま肌への接吻を繰り返し、乳首から脇腹、肋骨、臍へと少しずつ位置をずらしながら刺激を与えていく。
「ンぁッ、はぁ、」
 腰に巻いたままの宗三左文字の下褌は中央が浮き上がり、歌仙兼定の扇情で宗三左文字の竿が勃起してきているのが見て取れた。
「心地いいかい? 宗三左文字どの……」
 微笑みながら言い下ろし、歌仙兼定が浮き上がった下褌の中央に触れると、宗三左文字の体は電流が走ったようにびくりと強く震えた。
「あッ、ぁ…、」
「もうこんなにしているんだ……感じやすいんだね」
 喜ばしげに歌仙兼定に言い下ろされ、宗三左文字は恥ずかしげに赤い唇をわななかせる。
「っ…はぁ…、ッ、あ、あなた…が……っ、ぁ、触れ…たら……ッ」
 歌仙兼定はその言葉を羞恥ゆえの言い訳と受け取った。
「僕のも……触ってくれ。宗三左文字どの」
「……ン、」
 宗三左文字は素直に頷いて起き上り、白い手を伸ばして歌仙兼定の袴の紐を手馴れた手つきで解き、歌仙兼定の太腿や尻に直に触れ出した。
「っ……か、かせん……、」
 物欲しげな甘え声。
 宗三左文字は躊躇いもなく歌仙兼定の腰にその美しい顔を寄せ、下褌を捲って歌仙兼定の竿を露出させると、熱く濡れた舌を竿先に当ててきた。
「ッ………! そ、宗三左文字、どの……ッ…!」
 いきなり口淫を受けるとは思わなかった歌仙兼定が驚愕して声を上げたが、宗三左文字は構わずに煽りを続けた。
「ンふ……は、」
 薄い舌先が歌仙兼定の筒先をこじり、雁首を撫で上げる。
 宗三左文字の奉仕に強い快楽を感じ、歌仙兼定の竿は見る間に屹立していった。
「ふ……歌仙兼定……、心地はどうですか……?」
 ちろちろと舌先を唇から覗かせながら宗三左文字が問う。
 淡紅色の睫毛に縁どられた色違いの両目は半眼に細められ、口の端は微笑まんばかりになっており、宗三左文字が歌仙兼定の勃起を悦んでいることが明白に知れた。
「宗三左文字どの……、それ以上したら……っ、きみに挿れる前に、僕は果ててしまうよ……、」
 息を喘がせながら歌仙兼定が言うと、ようやく宗三左文字は竿から口を離した。
 歌仙兼定は再び宗三左文字を仰向けに寝かせ、その臀部に手を回す。
 宗三左文字の臀部に手を回し、下褌の隙間から手を入れて宗三左文字の菊座を探り当てる。
「ン、ぁ、あッ! か、かせ……、ンぁあッ…!」
 歌仙兼定の指が後孔の周囲を回遊するだけで、宗三左文字の裡で睦み合うための熱が高まっていった。
 硬く蕾んだその場所を、歌仙兼定の指先がまさぐる。
「経験が、無い……わけでは、無いんだよね……?」
 確認するように歌仙兼定が言うのへ、頬を紅潮させたままの宗三左文字が可笑しげに微笑んだ。
「冗談が、お上手ですね…、歌仙兼定……。ふふ……ご自分で、確かめてみては如何ですか……?」
 夕刻までは清楚そのものと見えていた宗三左文字の、その淫蕩さが歌仙兼定の情欲を酷く煽った。
 宗三左文字を気遣う余裕を殆どなくした歌仙兼定は、油薬に浸した指で性急に宗三左文字の菊座を割り、とば口の奥へと指を潜らせた。
「ンぁッ! ぁ、あ…うッ、」
 瞬間苦しげな喘ぎが漏れたが、宗三左文字はすぐに体から力を抜いて歌仙兼定の指を奥へと受け入れた。
「ああ……わかります……、あなたの、ゆび…が、僕を、抉ってッ……ン、ふぁ、あァ、」
 唾液に濡れた朱唇が力なく震え、宗三左文字の声の色が変わった。
「ああ…かせん……、歌仙……!」
 愉楽よりは癒着を求めるように名を呼んで腰を揺すり、宗三左文字の目からぼろぼろと涙が零れた。
「ッ…指、以外のものも、ください、歌仙兼定、…ッぁ、お願いです、から……、」
「……宗三左文字どの、」
 指を突き入れはしても未だに狭いその場所を、竿で抉れと宗三左文字が催促してくる。
 歌仙兼定の躊躇を受けて、宗三左文字が半眼に閉じていた目を開き、涙に潤んだ色違いの両目で歌仙兼定を見つめてきた。
「もう、これ以上…待たせないで、ください…、痛くても、辛くても、いいんです……あなたが、僕を、抱いて、愛してくれさえすればそれで……歌仙兼定……、」
 宗三左文字の深い青と緑の瞳に、幾つもの、星のように潤んだ光が湛えられていた。
 宗三左文字の手が伸びて、充分に勃起した歌仙兼定の竿を愛撫する。
「あなたが、いないと……、僕は空虚なままなのです…お願いです、歌仙兼定……あなたで、僕を満たしてください」
「……………、」
 思いつめた顔でそうまで言われては、もはや歌仙兼定に堪えうる術は無かった。
 歌仙兼定は興奮に緑の目を見開き、瞬きすら忘れたようになって、宗三左文字にひたと視線を据えながら全ての衣服を脱ぎ捨てる。
 宗三左文字の白い胸に、桜の花しぶきのように、淡紅色の長い髪の一房が散り広がっていた。
 花滝に隠れるようにして、汗ばんだ素肌の上に黒い蝶が舞っている。天下人がこぞって求めた支配の象徴、織田信長の刻印だった。
 今川義元の腰に差され、織田信長の銘を切られ、豊臣と徳川の蔵に長らく収められてきた天下人の刀、宗三左文字。歌仙兼定が執着する風流、ことに春の景をそのまま身に体現したような豪奢な淡紅色の髪と紅梅色の僧衣に身を包む刀剣男士が、外様の大名差しであった己に向けて、自分を組み敷いて支配してほしいと懇願してきている。
「宗三左文字どの……、」
 歌仙兼定は宗三左文字を見下ろしながらその薄い腰を抱え上げ、油薬に濡れ、指の刺激に赤く腫れた蕾へと己の竿先を突き当てた。
「ンっ、ぁ…、」
 待ち構えるように宗三左文字の喉が仰け反る。
「ああ……はやく……!」
「ッ、…く………!」
 掠れた声で焦れたように宗三左文字に求められて、歌仙兼定は腰を沈めて竿先を宗三左文字の裡へと潜らせた。
「んンッ…、つぅッ……!」
「っ、く……、きつ……、」
 歌仙兼定の指はやはり宗三左文字のとば口を解し切るには至らず、繋がった二人はそれぞれの口から苦痛の言葉を漏らす。
「ふッ…く………、」
 特に宗三左文字の身を気遣う歌仙兼定は思わず腰を引いて竿を引き抜こうとしたが、
「ッ、駄目、です……歌仙兼定……、」
 気配を察した宗三左文字が歌仙兼定の腕を手で掴み、高く上がった両脚を歌仙兼定の腰に絡めて後退するのを封じてしまった。
「抜かないで、ください……言ったでしょう……? あなたを、僕の中で感じられれば……、それが、痛みでも構わないのです……後生ですから、慣れるまで、このまま……僕を離さないで、抱いていてください、」
「……しかし…、」
 自らも狭さに堪え、放出をこらえながら歌仙兼定は言い下ろす。
 歌仙兼定の紅潮した頬から滴る汗が宗三左文字の顔に落ち、色違いの目から溢れる涙とひと続きの滴になって宗三左文字の頬骨を耳へと伝い落ちていった。
「ずっと……あなたに、こうして、触れてほしかったのです……。僕が、それをどんなに待ち望んでいたか……、あなたに、わかりますか……?」
 弱々しいながらも恨み言のような口上を述べて、宗三左文字は歌仙兼定にしがみついていた。
「かせん……、かせん、お願いです、僕の、もっと奥へ……、」
「っ、」
 宗三左文字の懇願と己の愉楽に負けて、歌仙兼定は腰を深く沈める。
 狭く締まるとば口を貫き切り、歌仙兼定の勃起した竿先が宗三左文字の最奥部へ突き当たった。
「ひッ…ぁ、あ…ぅ……ッ…!」
 脚を歌仙兼定の腰に絡めたまま、宗三左文字の白い上半身が身悶えして、下肢から急に力が抜けた。
「つ……、」
 宗三左文字の体の上で歌仙兼定は息を吐いた。
 宗三左文字の後孔に突き入れた屹立は、今は強く絞り上げられるのではなく、熱い粘膜に柔々と包まれて、舐られているような心地がする。
「あぁ…あっ、そ、そこっ……、」
 朱唇をわななかせて宗三左文字が言い上げた。
「ここが……、気持ちいいのかい……?」
 歌仙兼定が幾度か腰を揺すって中を確かめると、宗三左文字の喉から掠れた喘ぎが漏れた。
「ンあッ、ぁ、ン、そう…です……っ、あぁ…歌仙兼定……、」
 歌仙兼定の突き入れの律動に合わせて宗三左文字の腰がくねり、歌仙兼定の竿にも淫楽が伝わる。
 がつがつと貪るように相手を突いたら、自分はもっと心地よくなるだろうが、男を久し振りに受け入れるらしい宗三左文字の体には負担にならぬだろうか。
 そうした歌仙兼定の危惧を察してか、宗三左文字が色違いの潤んだ目を歌仙兼定に向けてきた。
「優しいのですね……大丈夫です……、もう、動いても………。もっと……、突いて…、っあなたの、で……、もっと、僕を、心地よくして、ください、歌仙兼定、」
 目から涙はまだ引かぬまま、宗三左文字が幸福そうに微笑んだ。
 髪より赤く火照った頬に、涙と汗の混じった水の粒が転がっていく。
 相手からこれほどまでに欲されている幸福に歌仙兼定は感極まって、宗三左文字の裸身を両腕で抱え込み、抽送を開始した。
「ッ、そうざ…、宗三、左文字、どの……っ、…、」
 宗三左文字の体の上にのしかかり、歌仙兼定は夢中で腰を揺する。
「ン、ぁ、あぁッ、歌仙…、歌仙兼定……!」
 己を抱きかかえる歌仙兼定の体にしがみついて、体の内と外に歌仙兼定の熱を感じながら、宗三左文字は愉悦のままに名を呼んだ。
 歌仙兼定の体から、歌仙兼定の体臭と香の混じった匂いが強くする。
 欲しかったものはこれだ。
 自分の人生から失われていたものはこれだ。
「歌仙……、ンぁ、僕を、放さないで……、最後まで……、ぁあっ、」
 組み敷かれて体奥深くまで幾度も貫かれ、強い愉楽のあまりに、歌仙兼定の腹に擦れる宗三左文字の竿も大きく立ち上がりつつあった。
「ずっと、傍にいてください、どこか遠くへ…行ってしまったりしないで、僕の、傍に、」
『誰』に抱かれているのかを正しく認識もできぬまま、宗三左文字は恋人だった男に向けて体を開き、言葉を投げていた。
「きみの、すぐ傍に…いるよ、ほら、…っこうして……、ッ、きみと、」
「ン、ぁ、あァッ、」
 宗三左文字の体に埋めた己を強く認識させようというのか、歌仙兼定が腰の動きに捻りを加えてくる。
「ひッ、ぁあっ…!」
「ふふ……心地いいかい……? こちらも、酷く勃っている」
「ッ…! ン、ひぁあッ……ぁッ……!」
 歌仙兼定が体の前に手を回して、互いの腹に挟まれた宗三左文字の竿を掴み、抽送に合わせて優しく扱き上げた。
「あぁ……歌仙……、かせん……ッ…!」
 名を呼んで激しく乱れる宗三左文字の、愉楽のうちに何故か嗚咽が混じる。
 歌仙兼定にはその理由がわからず、ただ、宗三左文字の感度の高さから来る、昂奮の一つの表れと受け取った。
「泣くほど……気持ち、いいのかい……?」
「ふッ、ぅ、っン……、」
 宗三左文字は言葉で答えることはできず、曖昧に首を縦に振った。
 歌仙兼定は心中で驚嘆しながら宗三左文字を穿ち続けていた。
 普段は清楚かつ優雅に振舞う宗三左文字がこれほどまでに、自分に組み敷かれて愉悦に乱れるとは思ってもみなかった。宗三左文字の心を具現化したように、そのしなやかな体は歌仙兼定に纏いつき、今まで想像もしたことがなかったほどの快楽に歌仙兼定を押し上げていく。永遠とも思える時を宗三左文字の身を貪りつつ過ごしたいと願っても、もうどれほども時間の猶予が残されていないと、歌仙兼定にはわかっていた。
「…っ、宗三、左文字どの……、っそろそろ……、僕が、限界だよ……、っふ、…は、」
「………歌仙兼定、」
 それまで閉じられていた、泣き濡れた宗三左文字の瞼が開いて、涙と熱に潤んだ色違いの青と緑の瞳が歌仙兼定を見つめてきた。
「…最後まで、して、くださるのでしょう………? 僕の、中で………、」
「………、しかし……、」
 歌仙兼定にはまだ躊躇いがあった。
 顕現して未だ日の浅い歌仙兼定には、刀剣時代の感覚が重く残っている。
 抱いた相手の中に精を吐くのは最大限の支配の証だった。
 武士は男女の別なく契りを結ぶ。武将と共寝をする小姓との間には無論身分の隔たりがあり、故に小姓の後孔に精を撒く際に武将が躊躇いを持つことは無い。
 だが、今、自分を受け入れている宗三左文字は、歌仙兼定にとっては雲上人の佩刀だった。
 今の主のもとに参集した刀剣男士としての序列も、宗三左文字のほうが遥かに上だった。古くから城に在り、昨今は近侍を多く務めている宗三左文字と、未だ新参に近く、近ごろ漸く特付きとなった、謁見の間でも末席に座している歌仙兼定とでは、城内での格が違う。
「きみは、それで、いいのかい……? 僕が、きみの体の中を、汚しても、」
 放出の欲求に堪えながら歌仙兼定が言い下ろすと、宗三左文字は恋人を見つめて柔らかく微笑んだ。
「ふふ、可笑しなことを、尋ねるものですね……、僕との睦み合いは、僕の中で果てなければ、終わらないでしょうに、」
「…………、いつも、そうしているのかい、」
「ええ、勿論でしょう………いいんですか………? 僕の中を、あなたの精で満たさなくて……、」
「――――――いや」
 宗三左文字と繋がりながら、彼によって快楽を得ながら。歌仙兼定は同時に逆上した。
 宗三左文字の放った言葉は、男といつも寝ている者でなければ出てこない台詞だった。
 自分以外の誰と寝たのか。
 自分は何者と比べられているのか。
 生来強い独占欲をいたく刺激されて、歌仙兼定は宗三左文字への遠慮を殆ど失い、腰を強く捻りながら乱暴なまでの強さで宗三左文字の奥深くを突き込んだ。
「! ッ、ひ、」
 声の色を変えた宗三左文字の喘ぎには少しく苦痛の響きが混じっていたが、それにも歌仙兼定は拘泥しなかった。宗三左文字の太腿を強く掴み、布団の上にその優美な体を押し付けて、放出の為だけに彼の直腸を穿つ。
「っ、きつ、ッぁっ、ンぁあ、ッひぁっ」
 格上の宗三左文字を横暴に抉っても、相手はそれを咎めもせず、むしろ苦しさすら情の深さの証とでもいうように、腰の動きを歌仙兼定に添わせてくる。
 文字通り歌仙兼定の支配を受けた、切なげな宗三左文字の表情を、穿つ歌仙兼定は瞬きも忘れて見下ろしていた。
「あァ、くぁ…あ……! や、もう、出っ……ン…!」
 前後から容赦なく刺激を受けて限界を迎えたか、歌仙兼定の手の中で、宗三左文字の竿が強く跳ねた。
 汗ばんだ手に握った宗三左文字の屹立を無遠慮に扱き上げると、歌仙兼定の体の下で宗三左文字の裸身がびくりと震え走り、歌仙兼定の手の中でそのまま射精が始まった。
「ひィぁッ、あッ……! ぁ、かせん、かね、さだ………!」
 宗三左文字の腹の上に、自らの精が勢いよく振り撒かれていく。
 快楽の全てを歌仙兼定の支配に預けた、その淫靡。
 歌仙兼定も遂に忍耐を失った。
「ッ、く、ふ…、僕も、出すよ……、きみの、中に……、宗三、左文字どの………! っく……、」
 低く呻いて、そのまま歌仙兼定は宗三左文字の体内で動きを止め、己を解き放った。
 ドクリと勃起が脈動して歌仙兼定が精を撒き始めるのを、宗三左文字は体の裡で感じ取る。
「ッ! ン、ぁあッ……! ぁ、な、中に、あなたの、精、が、っ熱……、っは、あぁ……ッ!」
 果てたばかりの宗三左文字が身を柔らかく撓らせて、歌仙兼定の腰に絡めた両脚を、密着を強めようと言うように強く組み、臀部を歌仙兼定の腰に押し付けてきた。
「あぁ……あなたの精が、たくさん、僕の体の奥にまで……ンぁ……、ふ…、歌仙兼定………、」
 己の中で歌仙兼定の竿が萎えていき、撒かれた精から全身に熱が伝わっていくのがわかる。
「…かせん………」
 疲労の中で、それでも夢心地といった体で宗三左文字が囁く。
 歌仙兼定の裡で、被支配に満たされた宗三左文字への更なる支配欲や加虐心と、宗三左文字が体と心を開いて全てを与えてくれたことに対する感謝や情愛の念がせめぎ合う。
「ッ……、く……、」
 すべてが果てた後で、今更苦痛が蘇ったというように、宗三左文字が少しだけ辛そうに眉根を寄せた。
「宗三左文字どの……」
 結局歌仙兼定は愛おしさに負けて、宗三左文字から己の竿を引き抜くと、汗に汚れた淡紅色の髪を顔から払ってやりながら相手の紅潮した頬に両手で触れ、顔を近づけて唇に接吻をした。
「ん…ふぁ、はふ…、…ッン……む……、」
 宗三左文字は目を半眼に閉じて接吻を返してくる。宗三左文字の汗ばんだ長い腕が歌仙兼定の太い首に優しく巻きついてきた。熱を残した薄い舌が歌仙兼定の舌と絡み、自分に抱かれた相手が情交に満足したことを歌仙兼定は知った。
「よかったのかい……? 宗三左文字どの……、」
「ええ……、あなたは、いつもより初々しくて………、新鮮でした……」
「――――きみの昔の男より、僕を気に入ってくれたのなら。それで満足すべきなんだろうね」
 宗三左文字を手に入れた幸福の中にも嫉妬を込めた歌仙兼定の物言いに、宗三左文字の表情が固まった。
 宗三左文字は目を見開いて歌仙兼定を見つめる。
 意志の強い緑色の瞳が自分を見下ろしてきていた。
 恋人として見慣れた顔に、まったく見慣れぬ表情が宿っている。
「………………何を言っ…て…、……………か、せ………」
 かせんかねさだ、と名を呼びかけて。
 宗三左文字は、自分に手を触れているのが何者なのか、自分を抱いたばかりの者が誰なのか、ようやく認識し始めた。
 より正確には。
 相手が誰でない(・・・・)のかを。
「―――――かせん」
 歌仙兼定が見下ろすその前で。
 宗三左文字の唇が弱々しくわなないた。
 熱を大量に残していたその秀麗な面から血の気が引き、表情が消えて、目の周りが青ざめ出した。自分を見つめる青と緑の色違いの目が、落ちくぼんだように黒々と変色していくのを、歌仙兼定は言葉もなく見守った。
「……………あ…、」
 先ほど快楽と多幸感を共有したのが嘘のように。
 歌仙兼定の体の下で、宗三左文字は怯えも露わに身を震わせ出した。
「宗三左文字どの?」
 問いかけられて、宗三左文字はびくりと身を強張らせる。
「ッ、ど、どいてください、」
 つかえながら言う宗三左文字の真意がわからず、歌仙兼定は素直に体を離した。
 宗三左文字は逃げ出すように歌仙兼定の体の下から這い出し、布団の周囲に散らばった己の衣服を集め出す。
「………宗三左文字どの」
「っ、か、帰ります、」
 息を震わせ声を大きくもできず、宗三左文字は囁きながらあたふたと身繕いを始める。
 相手の行動と言葉に、歌仙兼定のほうが驚いた。
「もう夜中だよ。短刀の子は下がらせたし、泊まっていっても構わないだろう、きみの体も疲労している筈だから、」
「…………いいえ、」
 顔色が蒼白のままの宗三左文字は歌仙兼定のほうを見ようともしない。皺の寄った僧衣をぞんざいに纏い、袈裟の紐が歪んだままなのも構わず、歌仙兼定の寝所から去るために立ち上がろうとする。
「宗三左文字どの、」
 宗三左文字の態度は歌仙兼定から見てあまりに異常だった。
 睦み合ったばかりの相手を腕を伸ばして引き止めようとすると、宗三左文字の手が、怯えたように歌仙兼定の腕を振り払ってきた。
「っ、触ら、ないで、ください……!」
 声の調子を保つこともできず語尾は裏返り、惑乱のあまり腕を振り払った拍子に宗三左文字は体勢を崩して、頽れるように畳の上に突っ伏する。
「……、宗………、」
「ッ……、」
 寝乱れた淡紅色の髪の下で、宗三左文字が白い面を歪ませて泣いているのを認めて、歌仙兼定は驚いて動きを止めた。
 宗三左文字は歌仙兼定を含む何かから自らを護るように身を丸めて、左手で右掌の傷跡を撫でさすりながら嗚咽を漏らしていた。
「っ、あなた、だって……、あんなに、乱れて、あなたを欲した、僕の浅ましさを、軽蔑しておいででしょう……? お願いです、憐れと思って……、僕を、もう……引き止めずにおいてください……」
「…………」
 自分が宗三左文字の助けにはなれぬと悟り、歌仙兼定は黙って手を引いた。
 宗三左文字が泣いて懇願しながら体を開き、自分を受け入れた直後に、こんな異常な拒絶を受けることに衝撃を受けてもいた。相手にどういう反応を示せばいいかもわからず、歌仙兼定のほうでも、事態に思考が混乱していたのだ。
 宗三左文字はふらふらと立ち上がり、覚束ない足取りで、歌仙兼定の部屋を出て行こうとしていた。
「明日、文を送るよ、宗三左文字どの、」
 それでも恋人としての礼を尽くそうと歌仙兼定が、消沈した相手の背中に声をかけた。
 宗三左文字は歌仙兼定を一瞥することすらできなかった。無言で弱々しく頭を横に振っただけで、文字通り逃げるように歌仙兼定の寝所を離れた。

 時刻は深夜。
 月が照らす夜道を、どこをどう歩いたものか、宗三左文字には定かではない。
 宗三左文字は裸足で帰路を辿っていった。己の履物を探し出す心の余裕すらなかった。
 ようやく居館に辿り着くと、部屋には灯りがともっていた。先に寝ているか、あるいは戦場に出たまま留守であれと願っていたのに、弟の小夜左文字が宗三左文字に先んじて帰還し、兄の帰りを待っていたもののようだった。
「宗兄さん!」
 行灯を掲げて兄を迎えた小夜左文字は、宗三左文字の着崩れた衣服と汚れた足、泣き腫らした顔を見て、息を飲んだ。
「ど、どうしたの、一体……、今まで、何処に―――」
「…………、」
 今は何も答えたくなかった。
 だが察しの良い小夜左文字は、すぐに正解に辿り着いてしまった。
「茶の湯が長引いてた? 今まで、歌仙さんと一緒だったの……?」
「……小夜。お願いですから…、……今は、何も聞かないでください」
 嗚咽をこらえてそう言い上げるのが精一杯だった。
「灯りを僕に渡して。……もう退がって、寝んでくださって良いですから………、」
「寝所に行くんじゃないの?」
 小夜左文字から行灯を受け取って昼の居室に向かおうとする宗三左文字に、小夜左文字が驚きの声を上げる。
 宗三左文字は弟に返事をするゆとりは無かった。思いつめた表情のまま、人の気配の無い己の居室によろよろと滑り入る。小夜左文字は兄のあまりの憔悴ぶりに遠慮して、居室に踏み込むことなく廊下から、心配そうに兄の様子を窺うだけだった。
「…っ、………」
 行灯の仄かな明かりで宗三左文字は己の文机を闇の中に探し出す。膝から崩れるように文机の前に座り込んで、手探りでその引出を開くと、そこには大事にしている硯と筆、自分宛ての幾つかの手紙と、紗に包まれた鉄片が収まっていた。
「ッ、かせん、」
 宗三左文字が喉から悲痛な声を絞り出す。
 優美な姿かたちの硯と筆は、恋人であった一振目の歌仙兼定が、『使いやすいし、きみに似合うから』と寄越してくれた贈り物だった。手紙は、戦国様の切り紙、平安様の結び文など形式は統一されていないが、いずれも一振目の歌仙兼定から送られた恋文だった。歌仙兼定の自筆で、宗三左文字への気遣いと思いの丈と、そして和歌がしたためられている。
 行燈の灯りの中に、仄かに、切り紙の文面が拾い読みできた。
 能書家の歌仙兼定の手蹟で、和歌の一節を引いて宗三左文字への思慕が綴られてあった。
『貴殿に逢ふ度にいづみ川の縁に立つ心地致し候』
 百人一首の中にある、中納言兼輔の歌。
 和歌の詠み方。
 茶の湯の作法。
 歌仙兼定が「風流」と呼んだ全てのことを、宗三左文字は一振目から教わった。
 なのに。
「………、かせん、」
 紗に包まれた鉄片は、小狐丸から渡された、一振目の形見となった刀身の欠片だった。
「歌仙……、歌仙兼定…………!」
 宗三左文字は引出しから鋼の欠片を取り出し、傷跡を残した右手に握り締めて、突っ伏して泣き出した。
 宗三左文字の体中に、二振目に愛撫された痕が残っている。
 接吻で腫れた唇、舌と指で嬲られた乳首、肌の処々に残る手指の痕と接吻痕。何より未だ熱を残して、二振目の精が、宗三左文字の腹の中に撒かれたままになっている。
 自分は間違った者に体を開いた。
 悲しみに惑乱してとは言え、恋人ではない者に情交をねだり、淫に乱れ、愛を乞うた。
 恋人を亡くした喪失感だけではなく、その事実が、宗三左文字を打ちのめしていた。
 身を触れさせて良いのは、一振目の歌仙兼定だけだったのに。
 嗚咽を漏らしながら、宗三左文字は、己の手に目をやった。
 一振目の欠片が残した、右掌の傷痕。己の身に残して良い恋人の痕跡はこれだけだった筈なのに。
 一振目が自分に与えた歌の知識、茶道の知識。これが二振目の意識を宗三左文字に引き寄せて、あんなことをもたらしてしまうとは。
「歌仙兼定………、」
 二振目に抱かれても尚、宗三左文字の孤独感は消えず、むしろいや増さる。
 自分の恋人は本当にこの城にはもういないのだと、幾たびも思い知った。
 今宵の体験が、宗三左文字にはもっとも辛かった。
 心の臓が破れて死んでしまわぬのが不可解だと思えるほどに。
 嘆くな、自分は幸福だから、と破壊の間際に一振目は言った。
 そんな言葉は欲しくなかった。恋人のあの言葉の所為で、宗三左文字は現世に縛られ、死を願うことすらできない。
 心のすべてを喪失感に奪われ、まやかしの契りを交わしてしまった二振目の歌仙兼定を思いやる余裕もなく、宗三左文字は夜明けまでその場で泣き続けた。
 泣いても泣いても涙が溢れ、己の体が消え溶けてしまわぬのが不思議なほどに涙は際限なく流れ出た。
 翌朝はもう主のもとに伺候するのは無理だ、と宗三左文字は悟った。
 文机の前に泣き伏したまま起き上る気力もなく、眠ることも忘れて、宗三左文字は悲嘆に暮れ続けた。




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