<其乃七>


「嬉しいね。きみから訪ねてきてくれるとは」
 数日後の夜早く。
 宗三左文字を居室の客座に迎えて、二振目の歌仙兼定は頬を紅潮させて微笑んだ。
 己の訪れを喜び、それを全面に顕している歌仙兼定に向かって自分が何を言うか、それが相手を如何に落胆させるかを思い、宗三左文字の身は硬く強ばった。顔を合わせず文を送って済ませることも考えたが、過日のように居館に侵入されては元も子も無い。どうあっても対面して、目の前の相手を納得させなければならなかった。
「……今日はあなたにお願いがあって参ったのです」
「うん」
 宗三左文字の暗い顔と緊張した声音に、歌仙兼定はまだ気づかなかった。
 宗三左文字は唾を飲んで喉を湿し、声を放つ。
「今後は一切僕に構わないで欲しいのです」
「―――――」
 宗三左文字の言葉の意味が脳に浸透するに及んで、歌仙兼定の顔から笑みが消えた。
「僕の献立を小夜づてに整えていただくことは無論、気にかけていただくことも、声をかけていただくことも、一切なさらないでください。お願いいたします」
 最後、宗三左文字は言葉に被せて歌仙兼定に向けて軽く頭を下げた。
「―――――そ」
 歌仙兼定はつられるように身を乗り出す。その顔は蒼白だった。
 眉の下に暗い陰が落ち、見開いた緑の目が強い光を放って宗三左文字を見つめている。
 まるで睨みつけるように。
「……そこまで僕を拒絶するのか」
 やがて、歯軋りとともに喉から声が絞り出された。
「歌仙兼定……、」
 宗三左文字は顔を上げて相手の顔を見つめた。
 若々しい二振目の相貌には未だ怒りより絶望が勝っており、宗三左文字はずきりと胸を突かれる。
「きみは僕の親切すら突き返すと言うのか。……きみの為に良かれと思ってすることも」
「…………無用のことなのです」
 二振目の前で喋ると決めてきたことを宗三左文字は機械的に繰り返した。歌仙兼定への同情が勝ったら、それだけで相手への拒否心が弱くなってしまう。
「たとえ主の前であっても、あなたと言葉を交わすことはいたしません。今後は一切僕を無視してください。そうすれば、僕もあなたにこれ以上、不躾な態度を取らずに済みますから……」
 辛そうな顔で自分への拒絶を述べる宗三左文字を、歌仙兼定は睨めつける。
「嫌だ」
「か、歌仙兼定、」
 硬直してただ宗三左文字を睨むだけだった歌仙兼定が唐突に動いた。
 礼儀も何も無く、宗三左文字の側に寄った途端その腕を僧衣ごと掴んで手前に引いた。正座していた宗三左文字は体の均衡を崩し、転倒こそしなかったものの、床に突いた手を押さえ込まれて身動きが取れなくなる。
「! 歌仙……!」
 窘めようとした宗三左文字の声は恐怖に掠れている。
「きみは何故此処に来たんだ」
 耳元で、ついに怒りを溜め始めた歌仙兼定の声が聞こえた。
「力で勝てないのはわかりきっている癖に、よりによって僕の居室で。隣の寝室で、二人で何をしたか、よもや忘れたわけでもあるまいに」
「っ、……、」
 茶の湯の後、歌仙兼定の寝室で体を交わしたことを指摘されて、宗三左文字の顔が髪より赤く染まった。
「………、お願いがあるのは僕ですから……、僕があなたの元に参るのが筋だと思ったまでです……、ッ放して……、」
「きみは本当に残酷で、生真面目で、そのうえ愚かなんだな。……僕をこんなに怒らせて、惨めな気持ちにさせておいて……、きみが僕を易々と帰すとでも思ったのかい?」
「ッどういう、意味……、っ、」
 歌仙兼定は宗三左文字を捕らえたときと同様、唐突に手放した。
「っ……、」
 座り直し衣服を整えて息をつき、色違いの目で自分を覗うように見る宗三左文字を、歌仙兼定は瞬きもせずに睨み据えている。
「主の前できみを無視するなど出来る筈が無い。主を含めて皆が不審に思うに決まっている。そもそもそんな無礼を城中で働くことを僕に強いようなんて、きみにはそんな権限は無いだろう」
「歌仙兼定……、」
 歌仙兼定の指摘の通り、自分が無理を押していることを宗三左文字はよく承知していた。
「そこを、どうにか。……僕が出来ることなら何でも致しますから、あなたは、どうか……」
「詭弁だね。僕の全てを拒絶したいきみに、僕に対してできることなんか、ある訳も無いだろう」
「……………」
 歌仙兼定に冷たくあしらわれて、宗三左文字は色違いの両眼を潤ませて薄い唇を引き結んだ。
 歌仙兼定は顎を引いてそんな宗三左文字の様子を見据える。
 己への緊張と恐怖、拒絶を抱く目の前の宗三左文字に対して尚、歌仙兼定は抗いがたく宗三左文字に惹かれている。彼への慕情は今や深い憤りを伴い、宗三左文字を傷つけてやりたいという嗜虐心を抑えるのが難しくなりつつあった。
 胸中でとぐろを巻く蛇の如き嫉妬心が鎌首をもたげるのを、歌仙兼定は自覚した。
「―――お小夜が欲しい、と僕が言ったら、きみはどうするんだ」
 冷えた声音で放たれた二振目の言葉に、宗三左文字は瞠目する。
「小夜を………?」
 弟を手放すことを思って宗三左文字の心は暗く沈んだ。
 だがそれは当然予想されたことだ。顕現した当初から二振目は小夜左文字に親近感を抱いていたし、小夜左文字は元々一振目の館で暮らしていたのだから、小夜左文字のほうでもあるいは、自分の傍にいるよりは二振目の歌仙兼定のもとで暮らすことを歓迎するかも知れなかった。
 宗三左文字は震える息とともに言葉を吐き出した。
「………小夜に聞いてみなければ、わかりませんが……、小夜が、このあなたの館で過ごすことを承諾して、尚且つ、あなたがあの子をきちんと慈しんでくださるのならば、僕は……、」
 だが、自分から提案したくせに、歌仙兼定は苛々とした身振りで宗三左文字の言葉を遮る。
「僕が欲しいのはお小夜じゃない。きみだ。わかっているだろう」
「! ………」
 宗三左文字は瞠目して歌仙兼定を見た。
「僕がきみを完全に見放すには条件がある」
 言葉を続けた歌仙兼定の声音に、加虐のにおいを感じ取って宗三左文字が無意識に身構える。
「今宵一晩。きみが僕に身を差し出すというのなら、きみの頼みを聞いてもいい」
 瞬間、意識はその言葉の意味を図りかねて、宗三左文字は狼狽した。
「…………ど…、どういうことですか……?」
 無意識は理解していた。
 体の芯が、屈辱とそれ以外のもので熱を帯び始める。
「わかっているだろう。きみと僕で同衾するんだよ……対等な交わりではなく、きみが僕に支配されて隷従するかたちでね」
 歌仙兼定の緑色の目が、荒んだ光を湛えて宗三左文字を見ていた。
 その唇は微笑の形に歪んでいる。二藍色の髪に縁取られた整った相貌に、宗三左文字が見たこともないような、いびつな表情が宿っていた。
「っ、そ、そんな、」
 歌仙兼定の意図を理解して宗三左文字は呆然となった。
 歌仙兼定から離れようと彼に懇願しているのに、そんな条件は到底飲める筈が無かった。
 座したまま、逃げるように腰が引けた宗三左文字に、歌仙兼定が膝を寄せて近づく。
「この提案が容れられないならきみとの取引は無しだ。僕がこうしてきみに近づいたところで僕は一向に困らない。僕を嫌うのはきみの勝手だからね」
 自分が歌仙兼定を嫌う、と言われて宗三左文字の顔が泣きそうな表情に歪んだ。
 二振目は射抜くような鋭さで宗三左文字を凝視している。
「どうするか決めるのはきみだ」
 歌仙兼定が更に近づいて、宗三左文字の僧衣の袖ごと腕を掴んだ。
「……………、っ……」
 己に迫る歌仙兼定の気配。香混じりの体臭。
 刀剣男士として顕現してからずっと傍に在った者と同じ、その存在感。
 宗三左文字は心身を圧迫されて、的確な判断すら覚束なくなる。
「……あなたに、一晩、身を任せたら………、僕を、必ず見限ってくださいますか……?」
 震える息とともに吐かれたかすかな問いに、歌仙兼定は目を眇めて横柄に答えた。
「きみにそれが出来るならね」
「……………わかり……、ました………、」
 宗三左文字は瞼を伏せ、頭を落として力無く頷いた。
「あなたが出した条件を受け入れます」
 俯いた宗三左文字から見えぬところで、屈辱的な提案を持ちかけた歌仙兼定のほうが瞠目して言葉を失った。
 宗三左文字は当然断ると思っていたのに。
「――――はっ」
 短い沈黙の後、蔑むような声が歌仙兼定の喉から漏れた。
「世に名高い宗三左文字、天下人の刀ともあろう者が、自ら折れるとは思わなかったな」
「っ……、」
 嘲弄に顔を上げて色違いの目で歌仙兼定を見上げた宗三左文字に、二振目の歌仙兼定が襲いかかった。
「…………!」
 畳の上に押し倒すようにのしかかられ、顎を手で捕らえられて、宗三左文字は歌仙兼定から強引に口づけを受ける。
「っ……ンむ……ッ、」
 口中に舌を押し込まれて、眉根を寄せ、拒むように唇を上下させたのは初めのうちだけで、宗三左文字の体はすぐに、恋人だった一振目とよく似た二振目の気配に弛緩していってしまった。脳の奥のほうから意図せずに起きたその反応とはまた別に、意識的な思考の裡で、宗三左文字は投遣りな気持ちになって二振目への反抗心を失う。
 二振目がどのように自分の体を貪ろうと、二振目が告げたとおり、その許可を与えたのは宗三左文字だった。
 刀剣男士としての己に二振目がこれから為すことは、刀身だった時代に魔王が自分にしたことと同じだ。何をされるのであれ、自分の意思はどうせ斟酌されない。
 どうでもいいのだ。自分など。
 一振目の歌仙兼定を喪ったときに、自分は、刀剣男士としてこの城で生きる理由すら喪ったのだから。
「んふっ、ぁ、歌仙兼定……」
 口中を犯される合間に名を呼べば目尻に涙が湧く。
 自分が呼んだのはどちらの男だろうか。宗三左文字にはわからなかった。
 宗三左文字は僧衣から腕を伸ばして歌仙兼定の首に巻き付け、その身を歌仙兼定が食い荒らすに任せた。

 反発を受けて当然と思っていたのに、宗三左文字はさして抗いもせず、歌仙兼定の腕に捕らえられたままでくったりと体を投げ出していた。性的恥辱で貶めるつもりの歌仙兼定の意図を悟って尚、宗三左文字は従順に歌仙兼定の舌を口中に受け入れ、舐らせるだけになっている。
「っ……、」
 苛立ったように歌仙兼定が僧衣を手荒にまさぐり、裙越しに竿を手で乱暴に掴むと、ようやく宗三左文字の喉から辛そうな呻きが上がった。
「ンっ……、ぅ、」
 それでも歌仙兼定から逃れようとして暴れることもなく、あろうことか「歌仙兼定」と名を呼んで、長い腕を歌仙兼定の首に巻き付けて身を寄せてきた。
「ふ……、きみは僕に抱かれることを待ちかねていたようだな。拒否は口だけかい」
「……………、」
 髪と同じ淡紅色の眉が辛そうに歪んだが、宗三左文字は歌仙兼定の侮蔑にも反論はしなかった。
「おいで。寝所に行こう」
 逃さないように宗三左文字の腕を強く掴んで歌仙兼定は立ち上がり、相手の細い体を引き摺り上げた。

 宗三左文字を捕らえたまま歌仙兼定は奥の間へ進んだ。宗三左文字の姿を認めて屋敷付の短刀の子が目を丸くするのにも構わず、歌仙兼定は横柄に「床を敷くように」とだけ述べた。初めて体を繋げたときのような、尤もらしい言い訳すらしなかった。
 短刀の子に床を作らせて人払いをかけ、歌仙兼定は宗三左文字を文字通り寝室に閉じ込めてしまう。
「さあ。この間、きみの部屋で出来なかったことの続きをしようか」
 わざとらしい口調で歌仙兼定はそう言うと、力強い腕で宗三左文字を寝具の上に引き倒し、袈裟紐すら解かぬままの宗三左文字の体を俯せにさせた。
「っ………、」
 屈辱感に宗三左文字は喉を震わせたが、歌仙兼定の手が寝具の上に押しつけるように手荒に己の体の上を這っても、(くん)を裾から捲り上げられて、足先から下褌を着けた臀部までを歌仙兼定の目に晒されても、一切の反抗を見せなかった。
「……きみを犯すのを諦めたあの日……、僕がどんなに惨めな思いをしたか、きみにはわからないだろうね……?」
 情欲に掠れた残酷な声が頭上から降ってくる。剥き出しになった臀部を乱暴に揉みまさぐられ、局部を覆う下褌はすぐに歌仙兼定の手によって剥がれた。露わになった菊座が赤く色づいて蕾んでいるところへ、歌仙兼定の指が無遠慮に押し当てられる。
「ッ! ……ぅ……、」
 触感に思わず呻いた宗三左文字の頭上から、歌仙兼定の声が降ってきた。
 そこには、嘲弄だけになり得ない感嘆の響きがある。
「相変わらず綺麗だな……きみのこの場所は、初めて触れたときと変わらず……。幾人の男の竿を咥えこんで、こんなに清楚に閉じていることやら」
「……っ…、」
 とば口を指先でまさぐりながらそう言い下ろされても、そもそも歌仙兼定以外の男など知らない。
 宗三左文字が声を上げかけたところへ、数日前と同じく、歌仙兼定が油薬に濡れた指を菊座へ突き込んできた。
「! ひィ…っ、あぁ……ッ、はぁ…ッ…!」
 ぐぷりと音を立てて歌仙兼定の中指が宗三左文字の奥深くまでを貫く。
 あくまでも器用で、横暴になり得ぬ歌仙兼定の指の動き。
「あッ、ンぁ、っはァっ…!」
 内側から前立腺を探られて愉楽に押し上げられ、淡紅色の長い髪を振り乱して宗三左文字は悶えた。白い肌はたちまち仄赤に染まり、髪も含めた宗三左文字の全身が桃色になっていく。
「あ、ァ……、かせん……!」
 後孔の奥深くで歌仙兼定の指が蠢くのを感じて、宗三左文字は目を潤ませて掠れ声を上げた。
「ものほしげに啼くものだ」
「っ、ンぅ、」
 嘲りながらも歌仙兼定の指は止まらず、宗三左文字は愉悦に飢える気持ちを煽られて、無自覚の裡に尻を揺らし、指の動きに身を添わせ始める。
「ここに、指以外のものが欲しいだろう…………認めるね?」
「ッ、ン、ぁ、……ええ……っ、」
 ぐちゅぐちゅと己の後孔を犯す音に被せるように問いかけられて、宗三左文字はもはやそれを肯定するほかなかった。
「僕が欲しいなら。へりくだって懇願したらどうなんだい」
 冷酷を装う歌仙兼定の口調は情欲に上擦り、彼の飢えを強く証していた。
「ッ、ぁ、あ……、くださ……、」
 歌仙兼定が何を求めているかを無意識のうちに把握して、宗三左文字は相手の望み通りに声を放つ。
「あぁ…っ、歌仙、かねさだ……、僕に…挿れて……、指じゃ、なくて……、っ僕の、お尻の穴に、あ、あなたの、竿を……っ、お願いです………!」
 己の口から吐かれる言葉の浅ましさに泣きじゃくりながら、それでも宗三左文字はそう言うしかなかった。歌仙兼定に隷従すると約束したからだけではなく、自分の体と心が歌仙兼定を求めるのを、宗三左文字には止めることが出来なかった。
 二振目の歌仙兼定の前に四肢を投げ出して這いつくばり、後孔を指で犯されながら宗三左文字は歌仙兼定に懇願する。
「挿れてください…、かせん……、以前、してくれたように……、僕を、抱いて……、体ごと、心ごと、快楽で支配してください、…お願いします……………!」
「ッ……、」
 背後で歌仙兼定が息を呑む気配があり、すぐに、後孔から指が引き抜かれて代わりに別の物がとば口を圧迫してくる。
「あッ……、」
 それが何かを理解して、宗三左文字は涙の裡に安堵すら覚えた。
 幾度もその身に教え込まれた、歌仙兼定に後孔を埋められる感覚。その予兆だけで、宗三左文字の心身は悦びへと靡いていく。
「く…………!」
 やがて、歌仙兼定の呻きとともに本当に屹立が蕾を押し広げて侵入してきて、宗三左文字は再び二振目を体内に受け入れた。
「っ……、くひ…、あぁア………ッ…!」
 油薬にぬめった勃起が宗三左文字を奥深くまで割り開き、背筋を快楽が駆け上がる。
「あッ、ぁ、かせ………ッ、ン、ぁ、あぁあ……っ!」
 射精によらぬ快楽で宗三左文字の身はがくがくと震え、歌仙兼定の更なる支配を求めてなお強く飢え疼いた。
「ッ、」
 宗三左文字の内奥で歌仙兼定の勃起が強まる。後背から宗三左文字を犯す二振目は、言葉を放つ余裕すら無くしているようだった。
 正体を無くして頽れた宗三左文字の腰を両手で力強く掴み直し、二振目はすぐに直線的な動きで、己の屹立を繰り返し宗三左文字の裡に突き込み始める。
「ひッ、ぁ、あひっ、ンぅうっ」
 抽送によって上体を激しく揺さぶられ、開きっぱなしの朱唇から唾液を振り零しながら宗三左文字は喘いだ。汗にまみれた髪がゆらゆらと揺れ、滴る唾液にいっそう汚れていく。宗三左文字の尻と歌仙兼定の腰が幾度も突き当たり、パンパンと音を立てる。繋がった場所からは油薬によってぐちゅぐちゅと隠微な水音が漏れて、宗三左文字の恥辱と愉悦を耳からも刺激してくる。
 歌仙兼定の屹立が宗三左文字の前立腺を内側から幾度も突き、与えられた新たな愉楽は、すぐに堪え難いほどに強くなった。
 これが生前の一振目との情交であれば、愛し合う恋人同士の睦み合いであれば、宗三左文字は快楽とともに優しい言葉と甘い煽りを歌仙兼定から貰えたであろう。
 だが宗三左文字の身を貪った二振目は、やがて己の怒張が極限まで強まってくると、自分や宗三左文字が愉悦に果てるほど昂ぶるより早く、屹立を宗三左文字の後孔から引き抜いてしまった。
「………? っ……、ぁ……、」
 荒く息を吐き、何故、と視線で問いながら相手の男の顔を己の肩越しに見上げた宗三左文字に、同様に息を喘がせて頬を上気させた二振目は、歪な笑みで見下ろしてきた。
「言ったろう。きみが悦ぶ為の夜じゃない………、きみが僕を愉しませる為の閨なんだよ。さあ、起きて。今度は口で僕に奉仕するんだ」
 言いながら歌仙兼定は身を起こし、勃起したままの腰を宗三左文字の顔の前にわざとらしく突き出してきた。
「…ッ、……」
 後孔での愉楽を奪われた上、口淫を命じられて、屈辱感に突き落とされた宗三左文字の眉が歪んだ。それを認めた二振目が、情欲に潤んだ緑色の目を眇める。
「ふ………、きみは泣く顔も美しいな。雅だね。…………淫乱の癖に」
「……っ、」
 嘲られた宗三左文字が唇をわななかせ、泣き濡れた目を瞠る。
 辱められて肩を震わせ、歌仙兼定の指摘通り、身に残る快楽への飢えを自覚しながら、それでも宗三左文字はのろのろと歌仙兼定の前に起き上がった。
 己の後孔を既に犯した屹立が、むせるような雄の匂いとともに、紅く染まった宗三左文字の顔前で不吉に揺れている。
「ぅ……、」
 自分の腸液に汚れた竿を口に含むことに躊躇いを見せた宗三左文字を、歌仙兼定は冷たい目で眺め下ろした。
「できるだろう。以前もこの竿に口淫をしたんだから。僕と誰かを間違えてとは言え、嬉しそうにむしゃぶりついていたじゃないか」
「! ッ…、」
 事実を突かれて宗三左文字は思わず言葉を失う。
「さあ。お尻の穴と同じようにその綺麗な口でこれを咥えこんで、僕を悦ばせるんだ」
 歌仙兼定が宗三左文字の頭を掴んで顔を寄せさせ、唇に屹立をなすりつけてきた。
 竿先を押しつけられて薄い朱唇が捲り上がり、閉じた歯列に歌仙兼定の勃起が当たる。
「ッ、ん、ぐっ」
 苦悶しながらも、観念した宗三左文字は眉根を寄せて色違いの目を閉じた。視界から情報を遮断して、恐る恐る歯列を開くと、すぐに、歌仙兼定が竿先を口中に突き込んでくる。
「ンぐ……ぅ…、ふぅ………ッ!」
 鼻腔が歌仙兼定の雄のにおいで満ちる。
 喉から呻きは漏れたが宗三左文字は怒張から逃げることなく、従順に、両唇の奥に雁首までを受け入れた。
「ン、ん、ンぅ」
 唾液の絡んだ舌先に、歌仙兼定の屹立が当たって、苦い味が宗三左文字の口中に広がった。二振目の物であると知ってはいてもそれはやはり歌仙兼定の味で、宗三左文字の心中の忌避感はすぐに失せていってしまった。口で彼を悦ばせることを、確かに己の悦びとした記憶が、宗三左文字の体には残っている。如何にしたら歌仙兼定が心地よくなるかも、宗三左文字の身は知り尽くしていた。舌先を雁裏に当てると歌仙兼定の腰がぴくりと震えたのが、目を閉じていた宗三左文字にも触感でわかった。宗三左文字は舌を竿から離さず、雁裏から筒口までを舐め上げて筒先を舌先でこじる。唇深くに竿を埋めて喉奥で竿先を吸い上げ、苦悶の中にも恍惚を感じさせる表情で、二振目の歌仙兼定に口淫を為し続けた。
「っ……、く………、」
 掠れた呻きが歌仙兼定の喉から上がった。竿に受ける口淫の触感と宗三左文字の従順な様子を見下ろしていることの双方が、二振目の愉楽を高めていく。
 優しく垂れた目尻に屈従の涙を溜めて、宗三左文字は立ち上がった歌仙兼定の前に跪き、薄い唇をすぼめて竿に奉仕をしている。枝垂れ桜が滝しぶきのように咲く如く、寝乱れた淡紅色の髪が、汗ばんだ白い肌に散っている。抽送の際に強く揺さぶられた所為で、袈裟と僧衣は宗三左文字の肩から落ち切っていて、着衣部分は腰帯と腕周りの両袖のみになっていた。首からかかる二連の黒数珠が信長の刻印と紅い乳首の前で揺らぎ、歌仙兼定の目を眩惑する。腰帯に纏められた衣服の下から覗く宗三左文字の竿は確かに勃起していて、犯されて貶められても尚、宗三左文字の体が歌仙兼定の情交によって燃え上がっていることを赤裸々に示していた。
 熱を持った薄い舌が歌仙兼定の竿先に絡み、先端をこじるように刺激してくる。屹立はますます硬く膨張し、宗三左文字の口中を圧迫していく。
「ンぐ……、っふぅ……、」
 宗三左文字の肉体と精神を支配している万能感と、それによって性欲を満たされているという愉悦によって、歌仙兼定は殆ど唇の端を上げかけている。
「ふ……、上手に、しゃぶるものだね………?」
「…………、」
 閉ざされていた宗三左文字の瞼が開いて、潤んだ青と緑の目が悲嘆を帯びて歌仙兼定を見上げてきた。
「今度は……、この前と、違って……、途中でやめたりせず、最後まで、口でしてもらおうか………?」
 そろそろ限界を迎えつつある歌仙兼定が息を喘がせながら言い下ろす。
「ンぅ…………、」
「わかるだろう? きみの口の中に精を吐くから、残さず受け止めるんだ。きみの口はお尻の穴の代わりなんだからね」
「! ………う…っ」
 拒むように喉奥で呻いた宗三左文字を、だが歌仙兼定は赦さなかった。宗三左文字の喉奥に竿の先端を突き込むように、腰をいっそう近く宗三左文字の顔に寄せる。
「ッ! ぐ………、」
 宗三左文字の鼻先が歌仙兼定の陰毛に埋まり、歌仙兼定の腹に淡紅色の髪が触れた。
「っ、ンむ…ッ……、」
「……さあ。射精()すよ」
「! ……っくッ…………」
 宗三左文字は抵抗しなかったが、歌仙兼定は、宗三左文字の屈辱感を煽る為にその頭を強く押さえ込んで身動きを封じ、そのまま射精を開始した。
「……! ンぐ……、うぅ………ッ…!」
 びくびくと竿先を震わせて、歌仙兼定は濃い精を全て宗三左文字の口中に吐き散らす。
「っ、く……ッ」
 宗三左文字の喉奥までを熱い白濁で埋めて、歌仙兼定は放出を終え、満足げに微笑む。
「吐き出したら駄目だよ、宗三左文字どの………、全部、飲み込むんだ」
 宗三左文字の頭を捕まえたまま歌仙兼定は傲慢に言い放った。
「ッ…、ぐ、ぅ…………、」
 口中に未だ、萎えた歌仙兼定の竿を咥えさせられたままで、宗三左文字の顔が苦しげに歪んだ。
「飲み込んだら、竿を口から抜いてあげるよ。それまではこのままだ」
「うぅッ……、ンぐ…ぅ」
 酸欠と屈辱に顔を赤く染めて、色違いの両目に涙を湛えながら、それでも宗三左文字は従順に精を飲み下していった。
「っ……く…、ぷはっ……、はッ、はぁ…ッ…、」
 宗三左文字はようやく口を解放され、歌仙兼定の足下に跪いたままで、空気を求めて肩で息をする。
 矜恃を打ちのめされ、泣き萎れて俯けた細い顎に歌仙兼定の手が伸びてきて、面を仰向けにさせられる。唇の端を精に汚した顔を検分するように歌仙兼定が見下ろし、緑の目を細めた。
「ふ、本当に飲んだのかい。好きでもない男の精など、よく飲めるものだね」
 放出して飢えを満たし、支配感をこの上なく高めた歌仙兼定が、笑って嘲ってくる。
「ッ、…………、」
 宗三左文字は反論する気力もなく、泣き濡れて歌仙兼定を見上げていた。喉の奥に歌仙兼定の苦みが残り、嘔吐きかけている。
「きみまだ勃起してるな。口淫や精飲を強要されても、淫らな体は容易には冷めないようだね」
 宗三左文字の帯の下から突き出した屹立する竿を見やって、歌仙兼定が言った。
「…っ、か、かせんかねさだ、」
 恥辱を煽られて、喉に精液を絡ませながら宗三左文字は掠れた声を上げた。そこに籠る情欲を聞き逃す歌仙兼定ではない。
「は、まだ僕が欲しいのかい…………どうしようもなくふしだらなんだな、きみは」
 侮蔑交じりの苦笑を顔に浮かべて歌仙兼定がしゃがみこみ、宗三左文字に覆い被さってくる。
「…………、」
 精強な歌仙兼定に夜を通して犯されるであろうことを、宗三左文字は見越していた。
 宗三左文字は尻を床に付け、押し倒されるかのように仰向けになって、歌仙兼定に向けて体を下肢を広げた。
 歌仙兼定の唇が、宗三左文字の顔の至近で意地悪く微笑む。
「ふふ……、風流も裸足で逃げ出すほどの淫奔さだな」
「……ぁ、」
 屹立した竿を歌仙兼定の手に掴まれる。そのまま慰撫が始まると予想して身構えた宗三左文字に対し、歌仙兼定は、宗三左文字に思いもよらぬ事を言ってきた。
「これをそのままきみの手で掴んで扱いてごらん。僕の目の前で、自分でイって見せるんだ」




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