<其乃二>


「……おまえ、あいつに絆されてただろう」
「……………っ、」
 夜も更けた頃。
 夕餉と風呂を含め一日全ての行事を終えた宗三左文字と薬研藤四郎は、夜気の中で熱を煽り合っていた。
「……は、薬研、」
 より正確に言えば、焦燥や怒りを含んだ情熱が薬研の体を巡り、宗三の身をその熱に巻き込むように前戯を進めていた。白小袖姿の宗三の上にのしかかり、少しだけ伸びた背で恋人を圧迫しながら、宗三の薄い唇に口づけ、服の上から竿をまさぐる。
「ン、ぁ、……あいつ…とは……、」
「包丁の兄弟に決まってるだろう」
 苛立たしげに薬研は言って、身を起こすと両手で乱暴に宗三の小袖の裾を割り、下褌を巻いた白い腰を露出させた。
「あいつを哀れに思ったからって、奴に身を触れさせるなよ。……こんなふうにな」
「ッ…! ひぁ、」
 薬研は指で宗三の性器を捕らえ、肌着越しに宗三の局部に鼻を押しつけ、息を吐きかけながら、唇で食むように竿と袋を刺激する。
「あッ、やげん、」
 青年の身を少年の体に組み敷かれて、宗三は喉から細い声を上げた。
「おまえは俺専用だからな」
「ッ……ぁ、そんな、こと、」
 当たり前ですのに、と掠れた声で宗三が答えたが、薬研の機嫌は直らない。
「どうだかな。おまえは必要以上に他人に身を譲る癖があるから」
 普段は手袋を履いている薬研の白い手が宗三の下褌を剥ぎ取り、油薬を後孔に擦りつけていく。
「ひッ、ぁ、う……あァッ!」
 節くれ立った細い指がぐぷりと音を立てて菊座を割り、宗三を奥まで突ききった。
 宗三の背が快楽に撓るのを、薬研が目を細めて見下ろす。
「強引なのに弱えな。相変わらず」
 奥を指で掻き回され、宗三の白い身体がびくびくと揺れる。
「ッ…ぁ、あッ、やげん……!」
 後背から快楽を刺激されて早くも膨張し、突き立ってきた宗三の竿先を、薬研の小さな口がちゅるりと音を立てて啜った。
「ン、ァ………ぅ……!」
 宗三の声が裏返る。
 薬研は竿から口を離し、唇についた先走りを舌で舐め取った。
「…ふ、甘露だな……まさしく」
「ぁ、あ……薬研………!」
 己の滲出液を甘いと言われて、薬研の体の下で宗三が頬を赤らめて羞恥に身を震わせた。
「包丁の棒菓子とかいうふざけた比喩もあながち間違いじゃねえってこった」
「……………、」
 快楽に潤んだ色違いの目が瞬いて、薬研を見上げてくる。
「おまえ。最後に包丁の兄弟が言った意味がわかったか?」
「っ…、え、いいえ………、」
 宗三が微かに首を横に振った。そうだろう、と薬研は安堵に似た気持ちで年上姿の恋人を見下ろす。
 耳年増の短刀藤四郎たちよりも、世間知らずの宗三のほうがずっと初心だった。
「奴はおまえの尻の穴に摩羅を突っ込みたいと言ったのさ。俺っちの目の前で。許しがたい奴だ」
 極めを果たした後「俺」に変わっていた薬研の一人称は、宗三とふたりきりのときだけ、昔の「俺っち」に戻る。薬研のほうは自覚がないらしいが、宗三はその変化を、薬研と自分の二人だけの緊密さを表す呼称として喜ばしく受け入れていた。
「っ……そんな…ことを………、言っていましたか……? 包丁藤四郎が………。棒菓子、とだけ………」
「教えてやる。コレのことさ」
 薬研が指を宗三から抜き、自らの小袖の裾を腰まで捲り上げて、勃起の始まっている薬研自身を宗三の腰に擦りつけてきた。
「ッ…、ん、ぁ、で、でも、」
 薬研の情欲の証を押しつけられて自らも淫欲に飲まれかけ、無自覚に腰を軽くうねらせながら、宗三が反論してきた。
「それを、菓子の棒…と呼ぶのは、奇妙ではありませんか………? 呼ぶなら、『肉の棒』が、相応しいでしょうに………」
「ぶっ」
 宗三の体の上で薬研が吹き出した。
「ははっ。おまえは本当に純だな……俺っちの肉の棒が欲しいか?」
「………、っ、」
 あからさまに問われて、宗三の顔が髪より赤くなる。
「あ、や、やげん、」
 薄紅色の髪を散らして宗三が薬研の名を呼んだ。
 薬研の薄い茶色の瞳に悪戯めいた光が浮かぶ。どうせならとびきり卑猥な言葉を、宗三の上品な唇から言わせたい。薬研は宗三の頬に口を寄せて、淫らな言葉を耳打ちして言うように仕向けた。
「っ、……そんな、」
 耳元で指示を出された宗三が驚いて薬研を見返し、羞恥に頬を赤く染め、薬研に反発を見せる。
「俺っちのが欲しいんだったらできるだろう」
「……………、」
 年下の恋人にすげなく言い返されて、宗三は屈服感に唇を歪めた。それでも快楽には勝てず、そろそろと、宗三は薬研に向けて下肢を開いた。
「っ、………、」
 薬研の指示したとおりに、宗三がその白い膝を中空に上げる。
 仰向けに横たわったまま長い脚を浮き上がらせて両腕で押さえ、伸ばした指で己の尻たぶを掴んで押し広げ、宗三は、自らの後孔を見せつけるように薬研の前に臀部を晒してみせた。
 尻を押し広げる宗三の白い指先が、油薬を含んだ菊孔を拡張させ、濡れた肉襞がてらてらと艶光りしながらひくひくと蠢いているのが、薬研の目に赤裸々に見えた。
「あ、……ぁ、」
 宗三は羞恥と屈辱感のあまり、すぐには言葉を放つこともできず言い淀んで、やがて唾をこくりと飲むと、声を震わせながら、薬研に耳打ちされた台詞で懇願してきた。
「は………、お願い、です……、薬研………、僕の、下の口に……、あなたの、に、肉棒を、……食べさせて、くだ…さ…い……」
 薬研を直視も出来ず、髪より赤い顔を隠すように横に背けて、ようやく宗三は言いおおせた。
 弱々しい懇願の最後のほうは立ち消えるようにしか薬研の耳に響かなかったが、もう充分に高まっていた薬研の欲熱を煽るには充分すぎるほどだった。
 下褌を取り払っていた薬研の巨根がひときわ大きくなり、薬研は少年の腰を宗三の尻に性急に寄せる。
「お望みどおり。食わせてやるぜ、宗三」
「………っ、」
 薬研に尻を掴まれて、宗三の喉が期待に仰け反る。
「そのまま脚を上げて、指で下の口を広げとけ………俺っちの肉棒を食ったからってすぐイったりすんなよ? 愉しむのはこれからなんだからな」
 上ずった薬研の声と同時に、薬研が竿先を宗三の孔へと突き立ててきた。
「……、やげ………、ッ、ぁ、あぁあッ! ぁ………あ…ッ!」
「く………、」
 もっともらしいことを言っておきながら、薬研の侵入には気遣いの欠片もなかった。
 薬研の太い雁首が狭いとば口を強引に押し入り、入り口を拡張する。侵入は止まらず、宗三の粘膜を圧迫しながら、奥深くへ突き込まれた竿先が宗三の前立腺を強く刺激した。
「ひぃ…イっ、い……! ぁ……や、イっ……くぅ、ンぁ、あァあ………ッ!」
 堪えようというように宗三の体が身悶えしたが無駄だった。
 宗三の身がびくりと撓り、薬研の腹に擦れるようにして突き立っていた宗三の屹立から白濁が飛び散る。
「ッ……、イくな、っつったのに……、」
 宗三の白濁が顎にかかった薬研が、口角の上がった唇から、呆れと満足、嘲弄の入り混じった声を絞り出した。薬研は薬研で、宗三の粘膜の熱さととば口の狭さに屹立を締め上げられて、自らの放出に耐えるのに必死になっていた。
「年上の体なのに、俺っちより堪え性がねぇのは問題だぞ、宗三………、」
「あ……、ぁ、」
 組み敷かれ、後孔を薬研の竿に押し開かれながら、荒い息を吐きつつ宗三が済まなそうに声を上げた。
「やげん……、」
「せっかく食わせてやった肉棒を味わう前に終わっちまったんじゃ、しょうがねえだろう」
「は…薬研、申し訳……、ッ、あ、」
 皆まで謝らせず、薬研が宗三に突き入れた腰を揺すり上げた。
「いいぜ……そのままにしてろ。もう一度おまえが気を遣るまで、たっぷりと肉棒を食わしといてやる」
 言うなり薬研は中空に浮いた宗三の腿を掴んで、強い突き入れを開始した。
「ンっ、はッ、ぁ、あァ、」
 自ら吐いた白濁に腹を汚したまま、宗三がその細い体を薬研に揺さぶられる。
 極を果たした薬研の腕は力強く、宗三はその膂力に身を任せて、竹が風に靡くように腰を薬研の動きに添わせた。
「ふッ、は………、」
 薬研が満足そうに声を漏らす。少年らしからぬ低い声は、修行の前と変わっていない。
 極の姿になって、薬研は青年の宗三よりも腕っ節が立つようになり、主から主戦力として重宝されるようになった。薬研と宗三、ふたりの別々の方向の気後れにより存在していた複雑な空気はかなり和らぎ、情交の際の奇妙な緊張感も今は薄れていて、薬研は以前ほど、貪るように宗三を犯すことはなくなっている。
「ッ、く……おまえの下の口…、締め上げがきつくて、俺っちが持たねぇな……、」
 突きを続けながら、やがて、薬研が微笑みながら言い下ろした。
 宗三の体の上に、薬研の汗が散っていく。
「あッ、あぁ、やげん、」
「っ、一度、射精()すぜ………、おまえのこっちの口に、俺っちの精をたっぷりと飲ませてやる…っ」
 尚も歯を食いしばって放出を堪えながら、薬研が言った。
「ンぁっ、…ぁ、あぁッ、は、出して……くださ……、やげん………、」
 こちらも再びの淫にすっかり飲まれて、宗三が息を喘がせながら薬研に懇願してきた。
「ふ……、俺っちの肉棒、美味いか? 宗三………、」
「! ………ッ、……、」
 卑猥な言葉を言い下ろされて宗三が羞恥に顔を歪め、汗と涙が滲んだ頬をいっそう赤らめた。
 膨張した薬研の太い竿で後孔の突き入れを繰り返されて、宗三の竿も再び勃起してきている。
「美味いなら美味いと言ってみろ、宗三、」
「っ、ぁッ、あ…、」
 前立腺を後ろから突かれる快楽に理性は痺れ、宗三は薬研が命じるままに、薬研の望む言葉を素直に与えた。
「美味しい、です…、やげん……ッ、ぁ、あなたの、肉棒……、僕の、下の口に……っ、ンぁ、あ、美味しい………、ッ、ぁ、薬研、」
「下の口に何を飲ませて欲しいか言ってみろよ。叶えてやるから」
「ッ……はぁッ…、」
 接合部が繰り返し立てるぐちゅぐちゅという音に混じって、宗三が愉楽に掠れた声を絞り出した。
「っ…僕の、下の口に、あなたの精を、飲ませてください、薬研……っ…ぁ、お、美味しく…いただきますから……ッ……!」
 被支配と官能、ふたつの愉悦に溺れた宗三が、薬研に懇願しながら、薬研の腰に両脚を回して己の身に強く引き寄せた。
「っ、く……!」
 がつりと突き上げたところで薬研が腰の動きを止め、宣告どおり、宗三の体の中で己を爆発させる。
「ッ! ンぁ…あッ……! 薬研の、肉棒が、僕の口の中で、震えて……ッン、ぁ、あ、精が………いっぱい…出て………熱い……あぁ、ァ……っ…!」
 薬研の体の下で宗三が首を仰け反らせ、喉奥までを開きながらがくがくと身を震わせた。
「あッ…ひぃ……薬研の……肉棒も、精も、美味しい…ッ、ン、ぁ、も………僕も……イっ、ンぁ、あァッ…!」
 薬研の竿に後孔を埋め込まれたまま、宗三は自ら二、三度腰を揺すって、屹立から再び精を放った。
 先程よりは少ない白濁が宗三の竿先から溢れるのを、薬研が満ち足りた顔で見下ろしていた。




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