<其乃三> 大倶利伽羅に握られた場所から未知の熱が止めどなく湧き上がってくる。触れられる場所は強張っているのに、それ以外の全身からくったりと力は抜けて、大倶利伽羅のにおいや体熱、そして愉悦以外のものは、骨喰藤四郎は何も感知出来ない。 「っ…おお、くり、から……、っ…」 熱に浮かされながら喘ぎの合間に名を呼ぶと、大倶利伽羅の顔が降りてきて、息をする為に開いていた口を唇で塞がれた。 「ンっ…、ん、む……、ンぅ……っ、」 骨喰の口中に大倶利伽羅の熱い呼気が吹き込んでくる。次いで、歯列を優しくこじ開けるようにして大倶利伽羅の力強い舌が侵入してきた。骨喰は相手の熱と触感、味覚にくらくらと酔って、まるで味わうかのように他者の舌を己の舌で慰撫し、舌伝いに湧いてきた、互いのものが混じり合った唾液を啜り上げた。 己の口中で、大倶利伽羅の舌に己の舌を愛撫され、下肢では、強張った竿を手で撫で上げられる。上と下、異なる熱と触感が骨喰の裡で混じり合い、得体も知れぬ快楽が波となって渦を巻き、骨喰を満たしていく。 「ぅ、ン、んふ……っ、」 自覚も無く大倶利伽羅の体にしがみつき、ただ熱と愉悦を与えられて骨喰は悶えた。今まで存在することも知らなかった感覚に完全に浸りきり、大倶利伽羅に対し一切の警戒心を失っていた。 大倶利伽羅の手は骨喰の服を完全に腰から下ろし、今や直に骨喰の屹立を煽り出している。臀部も外気に晒され、時折、大倶利伽羅の竿を握るのとは別の手が、骨喰の小さな尻を撫でて秘された場所に指を当ててきていた。 「ンっ、ん、ぅ、あぁっ……、」 大倶利伽羅の手に扱かれる骨喰の勃起が大きさを増していく。 「あッ、あ、なん…だ…、これ……は…、ぁ、」 初めての体の変化が理解出来ず、頬を朱に染めて息を喘がせ、骨喰は大倶利伽羅に尋ねた。 「握ったことが無いのか」 見下ろす大倶利伽羅の顔も、浅黒い肌でわかりにくくはあるものの、昂奮に赤く染まっている。大倶利伽羅に問い返されて骨喰は首を横に振った。 「排泄の…とき、くらいで……、自分の手では、こんな感じに、ならない、……ぁ、」 熱い喘ぎの合間に、骨喰の声が切れ切れに吐かれる。 骨喰のものを握り込む大倶利伽羅の手が、少しだけ絞られた。 「ンっ! ぁっ!」 未知の刺激に骨喰の身が震える。 淫を知らぬ骨喰の体は、初めて知る性感に敏感に反応し、大倶利伽羅の欲情をも煽っていく。 「……だったら教えてやる」 骨喰の耳元で大倶利伽羅の低い声が聞こえた。 骨喰の体を床の上に優しく横たえて、大倶利伽羅が骨喰の上に上体を覆い被せてくる。 骨喰の腰骨の上に大倶利伽羅の黒い髪がふわりと被さった。 直後、 「ッ! ぅッ……あ……!」 大倶利伽羅に握られた己の竿に新たな刺激が加わって、骨喰は思わず声を上げた。 大倶利伽羅が唇を近づけて、竿の中程に濡れた舌を這わせていた。 「ン…ぁ、あ……! やめろ……!」 体の中央に、他人の粘膜から直に熱が伝わる。 快楽の刺激が強すぎて、記憶も知識も持たない骨喰藤四郎は、殆ど恐怖すら覚えた。掠れた悲鳴に拒否の声を乗せたが大倶利伽羅は止まらず、唇を竿に押しつけて吸いつき、更に勃起を煽っていく。 「ンぅうっ!」 くちゃ、ぴちゃりと竿先で卑猥な音がすることも、骨喰は全く認識できない。触れられることによる快楽はそれほどに強烈だった。 「あッ…あぁ……! やぁ……ッ…!」 口からは未知への拒絶の声が上がるのに。 体のほうは変わらず素直に、大倶利伽羅の与える愉悦を更に享受しようと、腰が相手に向けて開かれた。 大倶利伽羅はそんな矛盾した骨喰の言動に、苦笑するような息を鼻から吐いて、いっそうの熱を持って竿を舌で舐め上げていく。 やがて大倶利伽羅の力強い舌先は、骨喰の雁裏に達した。 「ッ! ンく……! ぅッ、う、あぁッ……!」 初めての刺激に骨喰は、全く堪えうる術を持たなかった。 すぐに追い詰められて、大倶利伽羅の手の中で勃起が震え、びくりと腰ごと跳ね上がったかと思うと、大倶利伽羅の顔の傍で射精が始まってしまう。 「………、」 「ぅッ……、ン、ぅう…!」 大倶利伽羅はさして驚かなかったようだった。 吐精の意味を知っている大倶利伽羅が、導くように、指で骨喰の雁首を優しく絞り上げる。 溜まっていた白濁液の全てを吐ききって、骨喰の初めての射精は終了した。 「っ…ああ……、は……、はぁ…、」 がっくりと力が抜けて、床に体をただ横たえ、顔を上気させて骨喰は呆然と喘ぐ。 赤い唇の端に、二人のものが混じり合った唾液が滲んでいる。 潤んで星を湛えた大きな目がゆっくりと瞬きをする。涙とも汗ともつかぬ液体が目尻から溢れ出し、火照った頬をつうっと転がり落ちていった。 「大倶利伽羅………、」 相手の名を呼び、骨喰の喉を通る己の呼気は熱い。 ――花火のときと同じだ。 と、そのように。 己の感覚を言語化もできぬまま、骨喰は感じていた。 大倶利伽羅が教える初めてのことに怯えはしても。終わってしまえばそれは、決して己を傷つける行為ではない。 大倶利伽羅に与えられ、初めてこの身に知った、強い愉悦。 それが自分に危害を加えるものでないのは、後から思えば明白なことだった。 ようやく認識が体験に追いついて、骨喰の恐怖は綺麗に消え去る。 後には、やはり自分には不可解な、大倶利伽羅への依存心だけが残った。 「……ぁ、おおく……、…っ、ンむ…、」 再び相手の名を呼びかけた骨喰の口に、大倶利伽羅その人の唇が降りてきた。 骨喰が知った、初めての体験、初めて味わう恍惚に、感動を覚えたのは骨喰だけではないようだ。大倶利伽羅が仕掛けてくる接吻は深いが優しい。骨喰の小さな舌を、大倶利伽羅の肉質の強い舌が宥めるように撫でる。仰向けに横たわって息を整えながら、骨喰はその舌を受け入れて、甘い蹂躙にうっとりと酔い、自らも大倶利伽羅の舌に応えた。 「ンふ…はっ……、ぁふ……」 接吻を続けながらも大倶利伽羅の手は骨喰の肌から離れず、少年の下肢から全ての服を完全に脱がせていく。やがて手は骨喰の臀部にまで回り込んで、大倶利伽羅の大きな指が、その割れ目をゆっくりと辿りだした。 「っ、ンふぅ…っ、ンぅ……、」 両唇が熱と喘ぎだけを残して離れる。 「ぁ…っ、は……、」 大倶利伽羅が己の唇から離れても、骨喰の息の熱さは変わらない。大倶利伽羅のキスは唇ではなく、頬や耳に及んでいく。 相変わらず尻を探る大倶利伽羅の手の動きに如何なる意味があるのか、無知なままの骨喰は怯えず、ただその身を、大倶利伽羅のなすがままに任せていた。 「……続きがしたいか」 骨喰の顎を唇でなぞり、首筋に舌を這わせながら大倶利伽羅が問うてくる。 「あっ……ぁ…、続き…が、ある…のか……、ンぁ、」 大倶利伽羅の唇は骨喰の乳首に至っている。舌先で突起を舐られ、骨喰がひくりと身を震わせる。 大倶利伽羅の両手に、剥き出しになった骨喰の小さな尻は完全に包み込まれて、閉じた蕾をゆるゆると、男らしいが優しい指が刺激してきていた。 「あっ、ぁ…、ン……ぅ、」 精を吐いたばかりの少年の竿は再び強ばりを強めて、大倶利伽羅の腰骨に当たっていた。 大倶利伽羅の体の同じ場所が、時折骨喰の腿にあたる。 そこは先程の骨喰と同じように熱く膨張しているが、それを認識する知識はまだ骨喰の中に育っていなかった。 「ッ……、『す』と言うだけで、こんなふうに、なるとは、思わなかった………、」 無自覚に、大倶利伽羅の体に己の裸身を陶然と添わせながら、骨喰は呟いた。 「…………?」 骨喰の体の上にのしかかった大倶利伽羅が怪訝な顔になる。とはいえ常から無表情で無愛想なその面は、眉根がわずかに寄っただけだ。 少年の細い手を大倶利伽羅の胴に回し、熱を与え合おうとするかのように体を密着させながら、骨喰が独白めいた言葉を続けた。 「っ……、今朝、にっかり青江が……、俺に言った……、大倶利伽羅に向かって、『つ』と『す』を入れ替えてみろ、……何か新しいことが起きるから、…と………」 「―――どういう意味だ」 大倶利伽羅の手が動きを止めた。金色の目が眇められ、眉根に、はっきりと深い皺ができる。 情欲に喘ぎかかった息を殺して、大倶利伽羅は骨喰の顔を覗き込んだ。 骨喰は初めて知った快楽の刺激に未だ心が衝撃を受けていて、大倶利伽羅の様子には殆ど無頓着だった。 熱い喘ぎと共に、骨喰の口から、素直だが意外な言葉がもたらされる。 「……おまえと手合せをするときに……、かけ声は、『突きだ』でなく『すきだ』にしろ、と…、言われた……、…そうしたら……、どうなるか、試してみろと。……こんなことに、なる、なんて……」 「――あれは、おまえの心から出た言葉ではないのか…?」 大倶利伽羅の口調は怪訝を通り越し、次第に不穏げになりつつあった。 骨喰藤四郎は、大倶利伽羅から問われたことの意味が全くわからない。 「……心……? どれが……? いったい、なんのことだ…………」 潤んだ黒い目を半眼に開いて、喘ぎながらも、大倶利伽羅を見つめて骨喰が問い返した途端に。 大倶利伽羅はさっと顔色を変えた。 「――――!」 大柄なその体が素早く骨喰から離れ、骨喰は与えられていた熱と陶酔を瞬時に失う。 それが何故なのか、骨喰には理解ができない。 「……大倶利伽羅…? どうした……、」 裸身で横たわったままの骨喰が、身を起こして己の傍に座す大倶利伽羅の顔を見上げた。 「……………、」 大倶利伽羅は答えない。己の手で口を覆い、黙って下を向いている。 眉根に深い皺が刻まれている。 浅黒い肌はまだ紅潮しているが、それは次第に、情欲以外の理由に取って代わりつつあった。 「……にっかり青江の差し金か……」 隠れた口から歯軋りの音が漏れた。 掌の奥から吐き出される声は、骨喰に触れていたときとは打って変わって、どす黒い感情が籠められている。 金色の目に宿る苛烈な怒気を認めて、骨喰は目を瞠った。 「……大倶利伽羅……?」 大倶利伽羅は答えず、ただ黙って骨喰を睨むように見下ろしてきた。 大倶利伽羅の目に、顔と同じくらいに整った裸身を晒した骨喰藤四郎の姿が映る。 何も知らない、人形めいた印象の、少年姿の刀剣男士。 大倶利伽羅の手と唇によって快楽を与えられ、絶頂に果て、陶器のような肌を桃色に上気させていながら。 更なる情欲を求めるように、青眼を熱に潤ませていながら。 その表情も仕草も、骨喰藤四郎は、確かに無知で無垢なままだった。 骨喰藤四郎は本当に何も知らないのだ。 「――――」 大倶利伽羅の胸に、一つの感情が自覚される。 手合わせの際の骨喰の台詞を、自分への告白と早とちりした。――何故と言えば、それが大倶利伽羅自身の心に叶う言葉だった所為だ。 花火の夜に生まれた、骨喰への慕情。 誰にも告げたことのないその心情。 その思いを、目敏くとも、特に仲の良いわけでもない、性に奔放なにっかり青江に完全に見透かされている。しかもあろうことかにっかり青江は、無知な骨喰藤四郎に無駄な入れ知恵をして少年を操り、大倶利伽羅の心を翻弄してきた。 自分が間接的ににっかり青江にからかわれたことに、大倶利伽羅は激怒していた。 彼がその身勝手で淫奔な遊びに、骨喰藤四郎を利用したことにも。 「……………」 何をするかを決めると、動くのは早かった。 大倶利伽羅は立ち上がって骨喰に背を向け、大股に歩き出す。 修練場の端にある刀掛けから己の打刀を引っ掴み、今にもその場を去ろうとした。 「大倶利伽羅、」 骨喰が背後から声をかけた。大倶利伽羅は背中越しにちらりと少年に視線をくれる。 骨喰は上体は起こしたもののまだ裸だった。そうと認識しただけで、大倶利伽羅の中の欲熱は再び煽られる。 激情を骨喰にぶつけることのできない大倶利伽羅は、にっかり青江への怒りを新たにした。 「用事が出来た。今日の手合わせは中止だ。――俺は勝手にする。おまえも今日は帰れ」 そのまま修練場を出ようとした大倶利伽羅に、 「待て、大倶利伽羅、」 放置された状態になって、骨喰が裸身のまま立ち上がった。 従来なら「待て」と言われて立ち止まる大倶利伽羅ではないが、このときばかりは後ろ髪を引かれて再度少年を振り返った。 骨喰藤四郎は無自覚なのであろう。 瞠った大きな黒い目が、縋るような光を湛えて大倶利伽羅を見つめていた。 「……………、」 深く息を吐き、眉根に皺を寄せて大倶利伽羅は引き返し、裸身の骨喰藤四郎の傍に寄る。 少年の周囲の床に散らばった粟田口の制服を拾い上げ、それを骨喰の手に押しつけた。 「服を着ておけ。……ここは冷える」 そう言ったものの、呆然とした風情の骨喰は積極的に服を受け取ろうとしなかったので、大倶利伽羅は粟田口の制服の上着を骨喰の肩からかけてやり、残りの衣服を強引に骨喰の手に持たせた。 「大倶利伽羅……、」 当惑した風情で骨喰が大倶利伽羅の顔を見上げてくる。 この少年は、たった今、二人の間で何が起こったかも理解できていないのだ。 名を呼ぶほかに、何を喋ればいいかもわからないのだろう。当然だ。 「…………」 にっかり青江への怒りより骨喰への憐れさが増して、大倶利伽羅は思わず少年の顎に手を触れた。 白磁の肌の上に、浅黒い大倶利伽羅の指が乗る。 骨喰は受動的にその手に触れられるままだった。 人形のような滑らかな皮膚を、大倶利伽羅の太い指が滑っていく。 親指の指先が骨喰の朱唇に触れ、宥めるように、ゆっくりと下唇をなぞる。 やはり無自覚だろう。まるで誘うかのように開かれた骨喰藤四郎の唇に、だが大倶利伽羅は口づけることはしなかった。 金色の目に、欲情とは違う光が宿る。 「――――にっかり青江の戯れ言には乗るな。おまえの為にならんぞ」 何かに堪えるような声音でそう言い下ろすと、大倶利伽羅は骨喰から手を離した。 「………今後、俺や俺以外の奴に『すき』と言うのはやめておけ。酷な目に遭いたくなければな」 大倶利伽羅は手を下ろし、踵を返して、今度こそ本当に、骨喰藤四郎を置いて修練場から去って行ってしまった。 後には只一人、骨喰藤四郎が、何が起きたかもわからぬまま、その場に取り残されていた。 |
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