<其乃二>


 宗三左文字が歌仙兼定の外套を剥いで畳の上に滑り落とす。
 裏地の緋牡丹があでやかに咲き、女の体になった歌仙兼定が花の中に座しているような様相になった。
「雅ですね……あなたの口癖の通りに」
 歌仙兼定を眺める宗三左文字が、いかなる理由でか頬をほんのりと染めて嬉しげに言う。
「……宗三どの……、っンぅ……、」
 何か口を開いて言いかけようとした歌仙兼定の唇に、宗三左文字の薄い唇が当てられた。
「ン、ん…ぅ…、っぁふッ……、」
 もとより恋人同士とて、仕掛けてくるその接吻に宗三左文字からの躊躇は殆ど無い。歌仙兼定のほうは、宗三左文字の積極性に押されるようにやや首を引いて、戸惑いながら宗三左文字の舌を口に受け入れている。
 接吻を続けながら宗三左文字は歌仙兼定の青い上衣を脱がせ、袴の紐を解き、胸元を開けながら首までを覆う黒い内着の留紐にまで手をかける。
「ッ、ぷぁ、っは、宗三、左文字どの、」
 歌仙兼定が口を離し、不安そうに声を上げた。
 宗三左文字の男にしては繊細な指が動いて、歌仙兼定の首元の赤い紐が解かれる。
「っ……、」
 服の内側で、窮屈そうに収まっていた歌仙兼定の大きな乳房が、自由を得たとでもいうように服から大きくこぼれ出してきた。
 二藍色の癖っ毛の中に顔を半ばまで隠して、俯いた歌仙兼定は今にも泣きそうだ。
「こんなことって無いよ。胸についた余計な肉の所為で、首を下に向けても自分の臍すら見えないなんて。風流どころか……」
「僕はあなたの今の体も好きですよ」
 愚痴を吐く歌仙兼定の声に被せて、宗三左文字が言ってきた。
「もっとよく見せてください」
 宗三左文字の手が黒内着の中に滑り込んで、歌仙兼定の乳房に触れ、そのすべてを露わにしようとする。
「ッ……、ま、待ってくれ、宗三どの、」
 敏感になった肌を他人の手に撫でられたその触感に息を詰めながら、歌仙兼定が宗三左文字の手を遮ろうとする。
「日も高いのに、こんなところで、まさか『治療』を始めたりはしないだろうね……?」
 目の周りを青ざめさせながら歌仙兼定は言ったが、宗三左文字は頓着しない。
「ですが一刻も早く取り掛かるべきでしょう。僕は不慣れですから、僕が女人の体になってあなたに抱かれたときよりも、『治療』に時間がかかると思いますよ……?」
 言いながら、宗三左文字の手は興味深げに歌仙兼定の乳房をまさぐっている。
「ッ、そ、宗三どの!」
 宗三左文字の手から逃れようと身を捩るが、既にその長い腕の中に抱き込められていて歌仙兼定は身動きが取れない。
「まずいだろう……、こんな、誰が来るかもわからないのに、」
「ああ……確かに、来客があったら困りますね。あなたのこのような姿を見せるわけには参りませんし」
 今初めて気がついた、というように宗三左文字が言った。
「奥の寝所へ移動しましょう。床を用意させますから。今日は気分がすぐれないということで、来客も、本丸の主への挨拶も遠慮させていただきましょう」
 宗三左文字は歌仙兼定の外套を再度その肩に着せ掛けて、女の姿が目に触れないように覆い隠した。


 まだ夕刻前だというのに寝所に寝床を用意して、部屋付きの短刀の子すら人払いをかけて、宗三左文字は歌仙兼定から逃げ道を完全に奪ってしまった。
「ッ……ン、ぅ……、ンふっ……」
 布団の上に組み敷かれて再び肌を露わにされていきながら、歌仙兼定は宗三左文字から接吻を受ける。
「ン…ぁ、…ぁふッ……」
 宗三左文字は歌仙兼定の衣服を完全に脱がせて、女の体の全てを己の目に晒した。
「ほう……僕のときより、随分と女性らしいですね……」
「っ、そ、宗三どの……あまり……、見るのは………っ、」
 歌仙兼定は自分では見たくないのか、己の手で顔をすっぽりと覆っている。その所為で、大きな乳房が寄せられて宗三左文字の目を奪っていることにはまったく気がついていない。
「こちらも……女性ですよね? 当然ながら……」
 仰向けに横たわった歌仙兼定の女の裸身に興奮を感じながら、宗三左文字は歌仙兼定の下褌も取り払ってしまう。
「ッ………」
「やはり、無いですね」
 手でそっと歌仙兼定の陰毛を撫でながら、宗三左文字が言い下ろした。
「っ、い、いちいち、言わなくても、いい、から…っ……、」
 触感と、宗三左文字にまじまじと見られている羞恥と、変化してしまった己の体への恥辱で、肌全体を桃色に染めながら歌仙兼定はかろうじてそう言った。
「そうですか………」
 それに答える宗三左文字の声はどこか気もそぞろだ。その言いざまに歌仙兼定が不安を感じたとき、
「ッ! ひっ!」
 宗三左文字の指が秘唇を探り当て、指先が内側に割り入ってきた。
「っ…な、いきなり……ッ、ぁ、」
 抗議の声を上げた歌仙兼定に対し、
「いちいち言わなくてもいい、とあなたが仰るものですから……、」
 やや息を喘がせるようにして宗三左文字は答え、しかし指はまったく退ける気配もない。
「ぁ、ま、待っ……そ、宗……っ、ぅ、ンァあっ! ひァッ! …っふぅッ………ン!」
 裏返った声が喉から上がったことに驚いて、歌仙兼定は思わず掌で己の口を覆う。
「…今のは……あなたの声ですか? 歌仙………」
 歌仙兼定の口からそんな声が出たことが信じられなくて、恋人たちは互いに目を瞠って見つめ合った。
 宗三左文字の指は相変わらず、新しくできた歌仙兼定の女の秘部を撫で探っている。
「ッ…あぁ…はぁっ……お、女の場所が、め、珍しいのは仕方ないとしても……っ、宗三どの……、もっと……」
 戸惑いが強すぎ、触るのはもっと慎重にしてくれ、と歌仙兼定が言おうとした矢先、
「もっと……ですか……?」
「ひッ! ぁあッ……!」
 歌仙兼定の言葉を逆の方向に解した宗三左文字が、指をさらに奥へと差し込んできた。
「ちがッ……ぁ、あう……ッン……!」
「ああ……濡れてきましたね……」
「ッ………、」
 薄い快楽と妥当な生理反応によって歌仙兼定の女の部分が潤ってくるのを指摘され、歌仙兼定は顔をさらに赤らめる。
「可愛いですよ……歌仙兼定、」
「ッ、」
 いつもは自分が羞恥を与え、抱くばかりだった宗三左文字にそんなことを言われて、歌仙兼定はいたたまれなさに身悶えする。
 宗三左文字はほんとうに歌仙兼定を可愛らしいと思っているらしく、頬を桃色に染めて微笑みながら、歌仙兼定の唇に接吻を仕掛けてきた。
「ンっ…ん、ぅ、ぅふッ……ふぁっ…」
 指で秘部を弄られるまま、口中を舌でも弄ばれて、歌仙兼定は接吻の合間にも声を上げる。
 宗三左文字の、空いていた左手が歌仙兼定の乳房に触れて、赤く色づいた突起を親指で軽く撫でさすってきた。
「ンッ、ぁ、ん、ふうッ」
「心地いいですか? ここ……歌仙兼定……?」
「っ、ぁ、う、」
 接吻のあとに問われても正直に答えることすら恥ずかしくて、歌仙兼定は口もようように聞けない。
 宗三左文字の指に嬲られる秘部からは、くちゅくちゅと隠微な音が漏れ聞こえ出していた。
「歌仙兼定……、」
 頭上から、欲する男そのものの声で宗三左文字が呼んでくる。
「堪えるのが、難しいです……あなたに()れても、いいですか……?」
「…え………、」
 名目上は『治療』であって、まずは歌仙兼定が快楽の頂点に達しなければ男の姿には戻れない。それはふたりとも了解していた、筈なのに。
 宗三左文字のほうでは、刀剣男士として顕現してから初めての、男性的な情欲に既に負けかかっていた。歌仙兼定の無垢な体を己が物と為し、竿で秘肉を割り入って甘く屈服させ、その裡に精を撒いてみたいという、独占欲、征服欲、性欲に完全に心が飲まれている。
 歌仙兼定の返事を聞く前から、宗三左文字は己の衣服をくつろげて前を開き、歌仙兼定と同じほどに裸身を露出させる。
 下褌を取り払った宗三左文字の竿が勃起しているのを見て、歌仙兼定は目を剥いた。
「っ…ま、待っ……、まだ、新鉢(あらばち)を割るのは、はや…、」
 体の準備も心の準備もまったく整い切っていない歌仙兼定が声を上げたが、宗三左文字は歌仙兼定の大きくなった尻を持ち上げて下肢を広げさせ、その内側に腰を寄せてきた。
「歌仙兼定……、此処……で、いいんですよね……、っ、く……、ッ……!」
「ッ……! ひ、ぁ、う……ッ……!」
 春画の絵を思い出しながら、戸惑うように秘唇の外側を竿先が探っていたのはほんの少しの時間で、宗三左文字はすぐに、屹立で歌仙兼定の狭い秘肉をずぶずぶと抉ってきた。
「い……痛……ッ、ぁ……!」
 内部を深く抉られて歌仙兼定の全身は強張り、思わず両手が体の下の布団を強く掴む。
 戦場で中傷になるよりましだ、と思い込もうとするが、宗三左文字に向けて両足を広げて無防備な姿を晒している心許なさと屈服感、こらえようのない場所へ深く突き込まれる苦痛は、戦場での怪我とはまた別の堪え難さであった。
「っ……、く……、」
 痛みを和らげるには体を緩めたほうがいいとはわかっていても、緊張が強すぎて歌仙兼定は筋肉を弛緩させることもできない。
 瞼をぎゅっと閉じて痛みに耐える歌仙兼定に向けて、頭上から宗三左文字の声が降ってくる。
「ああ……歌仙兼定……、心地、いいです……、」
 苦痛のうちに瞼を薄く開けて、歌仙兼定は己の処女膜を破った宗三左文字を見上げた。
 宗三左文字は頬を酷く紅潮させて汗を垂らしながら、陶然と微笑んで歌仙兼定を見下ろしてきていた。
「……宗…三……どの……、」
「ええ……あなたの中に、いるんですよ………、ふ、僕、が……」
 宗三左文字の淡紅色の髪の、枝垂れ尾のような長い一房が歌仙兼定の乳房にかかる。
 宗三左文字はそれを己の手で払いのけて、天を向いて突き立った歌仙兼定の乳首に指で触れ、そのまま柔肌を掌で辿り上げて、歌仙兼定の両頬を手で包んだ。
「歌仙……こうなってから、気づき、ましたが………」
 宗三左文字の赤らんだ目尻が、色違いの青と緑の瞳と際立った対照を為す。
「僕の、男の部分でも、あなたと繋がることを、僕は夢見ていたかも……知れません……」
「っ…宗……、」
 宗三左文字は嬉しそうにそう告白して、脂汗が浮く歌仙兼定の顎に優しく口づけた。
「…は………、」
 宗三左文字の唇の感触に再び目を閉じ、歌仙兼定は観念して体の緊張を解いた。
 結局のところ宗三左文字には勝てないのだ。
 痛みはまだ残っていたが、宗三左文字の与えた痛みだと思えば充分許容できる。確かに、宗三左文字の言う通り、宗三左文字以外の男に身を抉られるなど、到底許せることではなかった。
「宗……、ンむ……、」
 名を呼びかけたところで宗三左文字が歌仙兼定に口づけてきて、二人は下肢を交わらせたまま接吻をした。
 ちゅ、くちゅ、と淫らな音が、体の上と下から合わさって聞こえた。
 歌仙兼定の大きな乳房が宗三左文字の胸に押し潰されて、柔らかく形を変える。
「ンぅ…ぷぁ……、っはッ……、」
「歌仙兼定……いいですか……? 動いても………」
 唇を離して、宗三左文字が聞いてくる。
「ああ……好きなように、してくれたまえ……、」
 どうせ何をされても痛みは消えまい。
 口淫を受ける以外に竿で肉を穿つことを知らなかった宗三左文字が、今初めての刺激に夢中になるのは当然だった。
 歌仙兼定の承諾を得て、宗三左文字は腰を揺すり始める。
「っ……ン…くッ……、」
「いッ……ぁ、うっ……」
 喉から苦痛の呻きが漏れるのは致し方ないが、歌仙兼定は、まるで少年のように必死で己を穿ってくる宗三左文字を見上げて、終焉の時を待った。
「ああ……歌仙……、歌仙兼定……、」
 ぎこちなく突き上げながら、宗三左文字が名を呼んでくる。
 元服後の若者の筆下ろしに付き合う年増女もこんな気持ちなのだろうか、と歌仙兼定は心でうっすらと考えた。違うのは自分の身も処女で、男の快楽に添う余裕がなかなか持てないことだ。
 だが宗三左文字が可愛くて愛おしいのは自分が女になっても変わらないな、と歌仙兼定は思った。自分でも驚くべきことだったが。
「くっ……歌仙……、っもう、そろそろ……ッ…、」
 宗三左文字が苦しげに声を放つ。己の中で膨張する宗三左文字の屹立が限界を迎えたのだ。
「っ……ン……、」
 それと察した歌仙兼定が構えるより早く、狭い秘肉に締め上げられた宗三左文字の怒張がドクリと脈打ったのがわかった。
「っう……ぁ、あ……!」
「く……、」
 互いの呻き声を聞くうちに、初めての情交は終息を迎えた。
「っ……はぁ…、は……、」
 歌仙兼定の中に初めての射精を果たして、宗三左文字はようやく幾ばくかの余裕を持って相手を観察することができるようになった。まだ埋めたままの宗三左文字の竿は萎えているが、歌仙兼定にはその大きさでも苦痛らしく、宗三左文字の体の下で、豊満な女の肉体を震わせて堪えている。
 いつもふわふわと宙に浮く二藍色の髪は汗に汚れて、赤く染まった肌にべっとりと張り付いている。
「……歌仙………、」
 処女を奪った満足感と、歌仙兼定への愛おしさで宗三左文字は身を屈め、歌仙兼定の頬を撫で、顔に張り付いた髪を手櫛で梳いてやる。
「確かに……薬研藤四郎の言う通り……、あなたを心地よくさせるのは、すぐには難しいですね……、」
「……仕方、無いよ……お互い、初めてなんだし……、は……、」
 浅い呼吸の裡に、歌仙兼定が返答してくる。
「このまま……あなたと幾日も睦み合って、それでもあなたが気を遣らなかった場合、どうなるのでしょうか……?」
「どう、とは………?」
 宗三左文字の言いたいことがわからず、歌仙兼定は困惑する。
「いえ……、」
「ッ…、」
 宗三左文字が軽く腰を動かし、歌仙兼定は擦れる痛みに顔をしかめた。
「このまま、あなたの体が女性として機能し続けた場合……、僕があなたの中に精を撒き続けたら………、ひょっとして、妊娠したりするのでしょうか……?」
「! な………、」
 歌仙兼定の顔色がひといきに青ざめる。
 そんな可能性は思いつきもしなかった。
 考えたくもなかった。
「に、妊娠だって……?! 馬鹿な! ッう、」
 慌てて宗三左文字から本能的に離れようとするが、竿を埋め込まれたままでは逃げようがない。
「待っていてください、歌仙、」
 宗三左文字はそう言って、一度歌仙兼定の体内から己を引き抜く。
「ッ、じょ、冗談じゃないぞ、宗三どの、いくらきみとの仲でも、ッそんな……、ンぅ、」
 宗三左文字の体の下から仰向けのまま這って逃れようとする歌仙兼定の唇に、宗三左文字の指が差し込まれる。
「ンふッ……、ぅ、」
 最前に宗三左文字の竿を体に受け入れていた受動性の故か、歌仙兼定は特に疑問にも思わず、宗三左文字の指が舌に絡んでくるに任せた。
 舌先からぴり、と苦みを感じる、と思った時には、口中に湧いた唾液を既に喉奥に飲み込んでいる。
 指についた汗の味ではない。
「っふぁ……、っなに……、」
 今のは何か、と歌仙兼定が問う前に、口中から指を抜いた宗三左文字が答えてきた。
「薬研藤四郎に貰った薬です。女性の体を快楽に火照らせる媚薬だ、と言うことでした」




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