<其乃四>


「………薬研藤四郎の奴は殺してやる」
 翌朝早く、暁の頃。
 すっかり以前の肉体を取り戻した歌仙兼定は、目を覚ましてすぐに己の体を検め、男の体としてどこにも異常がないことを確かめると、深い安堵と同時に薬研藤四郎への呪詛の言葉を吐き出した。
 その声で、脇で眠っていた宗三左文字が目を開く。宗三左文字の色違いの目に、夜着の白小袖を着込んで寝具の傍に座している歌仙兼定の姿が映った。
「……薬研藤四郎には、むしろ礼を述べるべきでしょう」
 床の中にまだ横たわったままで呆れたように言ってくる宗三左文字を、歌仙兼定は、二藍色の髪の下から頬を真っ赤に染めて横目で睨んだ。
「ほんとうはきみだって殺してやりたいくらいだ。夕べは、僕によくもあんな恥ずかしいことをさせてくれたね。ろくでもない薬をきみに寄越した薬研藤四郎と、それを僕に飲ませて僕に痴態をもたらしたきみと……僕がきみをこんなに深く愛してるんでなければ、きみを一刀のもとに斬り捨てているよ。きみがいなくなっては僕も生きていけないから、それはしないが。……とにかく薬研藤四郎の奴は赦さん」
「………歌仙兼定……」
 心配とうんざりの様相を同時に白い面に乗せながら、宗三左文字が夜具から身を起こす。淡紅色の長い髪が揺らぎ、着崩れかけた小袖の襟と裾が大きく割れて、白い胸板と太腿が帯の上下から艶っぽく覗いているのを、目を眇めたままで歌仙兼定は盗み見た。
「元の姿に戻ったのですね。良かったです……安心しましたよ」
 安堵の吐息と共に、宗三左文字は歌仙兼定の顔を覗き込む。
 青と緑の色違いの両の瞳に、男の姿の歌仙兼定が映っている。
「……宗三左文字どの」
 女の体は消失し、昨夜快楽を得た部分は完全に体から喪われた筈なのに、脳裏では、昨夜の女体としての愉楽の記憶が消えぬままになっている。
 それは歌仙兼定に、著しい羞恥心と、同時に、夕べ快楽で自分を支配した宗三左文字への、嗜虐すら帯びた征服欲を湧き起こさせていた。
「……僕の体が元に戻ったか、確かめるためには。今朝もう一度、きみに助力を仰がなくてはいけないだろうね」
 そう言われて、歌仙兼定の声の含みにも気づかず、宗三左文字は無垢そのものの所作で首を傾けた。
「……なんでしょうか………?」
「僕がほんとうに『男』として役に立つかどうか……、きみの体で検めさせて欲しいのさ」
 歌仙兼定の言葉の意味が宗三左文字に浸透するより早く、歌仙兼定は逞しさを取り戻した腕で目の前の宗三左文字を捕え、腕の中に抱き込みながら布団の上に押し倒した。
「! か、かせん! ンッ……むぅ…、」
 驚いて抗議の声を上げようとする宗三左文字の薄い唇を己の口で塞いで、荒々しく舌を相手の口中に差し込みながら宗三左文字の服の裾を捲りあげ、太腿を撫でさする。
 性感を煽るその手つきに、宗三左文字の身は素直に情欲に反応し、一方で、理性の残った唇からは、接吻の合間に咎めるような声が上がった。
「歌仙、兼定! 駄目ですよ、ッもう、朝で……ンぅ、ふぁ、」
「まだ夜明け前じゃないか。体を交わしてなお、一寝入りする時間くらいは残っているよ」
 宗三左文字の太腿をまたぐ歌仙兼定の下肢は中央での勃起が始まっていて、それが服越しに宗三左文字の身に触れると、押し倒された宗三左文字の細い体がぴくりと震えた。
「ッ…や、かせん……!」
 歌仙兼定の手つきに常より強引な気配を感じて、それが一層宗三左文字の警戒心を煽っている。抵抗しようというように藻搔く宗三左文字に焦れて、歌仙兼定は己の小袖の腰帯を解くと、その下帯までも取り払って、宗三左文字を俯せにひっくり返し二本の腕を後ろ手に纏め上げた。
「っ、な、何をなさるんですか、」
「きみを縛ってる」
「! ッ、や、嫌です、どうして、」
 歌仙兼定は宗三左文字の反発に拘泥することなく下帯で宗三左文字の手を小袖の上から後ろ手に縛り上げて、その上で、後背から宗三左文字の身を抱き起して本格的に恋人の下肢をまさぐり始めた。
「ひッ、ぁ、やぁ……! ッやめて、くだ、さっ、」
 自由を奪われて身を捩る宗三左文字の肩に顎を乗せ、ようやく歌仙兼定は余裕の表情を取り戻し、やや人が悪く微笑んで見せた。
「きのう、僕がどんなに恥ずかしくて屈辱的だったか、きみにも思い知って貰わなくてはね」
「ッ……お、お互い様でしょう……! あなただって、僕が女人だった時に、恥ずかしい真似を……ッ、あぁッ!」
「そうだったかな?」
 宗三左文字の必死の反駁に平然とおどけて見せて、歌仙兼定は宗三左文字の竿を下褌の横から露出させて、両手で扱いていく。
「ッ、ンぁ、あ、あッ…!」
 多少着崩れただけで未だ小袖を纏い、腰帯も締まったままで、投げ出すように座らされた脚の間から宗三左文字の竿が頭を擡げてきた。
「ああ、勃ってきたね……でもいつもよりは少し反応が悪いね。昨日、僕の中に射精しすぎたかな?」
「ッ……、」
 歌仙兼定は、攻めに転じては、昨夜の恥辱的な情交すら言葉嬲りの材にしてしまう。
「や、あぁ、かせん……!」
 後背から宗三左文字の上体を捕えたまま、その襟の合わせに手を突っ込んで、歌仙兼定は宗三左文字の乳首を探り当て、ややきつめに摘み上げた。
「ひィッ、ぁ、ア………!」
 宗三左文字の喉から掠れた声が上がる。
「ふ……、やはり、僕は………、自分で声を上げるより、きみの声を聞くほうが好きだな」
 宗三左文字の乳首を摘んだ指を揺らして刺激を与えながら、下肢では竿を扱くのをやめずに、歌仙兼定が宗三左文字の耳に熱い息を吹きかける。
「ンぁッ、か、かせん……! ぼ、僕を抱くのは構いませんから、っ手、手を、解いて……!」
 首を歌仙兼定のほうに向けて宗三左文字が懇願した。細面の美貌が羞恥と困惑、屈辱に赤く滲んでいて、歌仙兼定の支配欲を満足させ、性欲をいっそう煽る。
「駄目だよ。今はこのまま交わろう」
「! やだ、嫌ですッ…、」
 宗三左文字の悲鳴を無視して、歌仙兼定は己の身を引いて宗三左文字の体をそのまま仰向けに横たえさせた上で、両腿で宗三左文字の顔を挟むようにして恋人の体全体の上に覆い被さった。
 顔の前に来た宗三左文字の屹立を、歌仙兼定は男の手で慰撫し、躊躇いもなく舌を這わせていく。
「ッ……! ひぃッ! や…ッあ、あッ、あァッ」
 根元を手で擦り上げながら雁首に両唇を当てて吸い付き、あまつさえ竿先を口に含んで、唾液で淫靡な音を立てながら先端を吸い上げる。
「ンひ……ぁッ! ンぁあ……! ンぅ……、っう、」
 両太腿で捕えた宗三左文字の顔に下褌越しに己の局部を擦りつけて、歌仙兼定は容赦なく宗三左文字の精神を情交へと追い立てていった。
「どうだい……? 僕と、体を結びたくなってきただろう……?」
 竿先に舌先を這わせて、滲み出てきた宗三左文字の先走りを舐め取りながら歌仙兼定は言う。
「ッ……、ぁ、」
 歌仙兼定の体の下で、未だ宗三左文字は藻掻くが、その動きに既に力は無く、身を捩るのは快楽に堪えるのが主な理由となりつつあった。
「ンむ、か、かせん……!」
 宗三左文字の顔の周囲に歌仙兼定の下肢の熱が籠もる。火照った面に下褌を擦りつけられ、歌仙兼定の局部のにおいと圧迫感に理性も失って、宗三左文字は、無意識のうちに、歌仙兼定の口淫の返礼のように、歌仙兼定の竿がしまわれた下褌に両唇を当てて、食むように揉んで刺激を与えている。宗三左文字の唾液を吸った歌仙兼定の下褌は濡れ透けて、陰部が覗ける格好になっていた。
 宗三左文字から口淫を受けて、歌仙兼定の体内でも愉楽が高まっていく。
「ふ……、体勢を入れ替えて、もう少し慰撫し合おうか……?」
 宗三左文字が淫に屈したのを確信して、歌仙兼定は頬を赤く染めながら嬉しげに言い下ろした。
「ンふ……、あ……、」
 宗三左文字からははかばかしい返答もない。
 歌仙兼定は宗三左文字の体の上から退き、代わりに、ぐったりとなっていた宗三左文字の身を引き起こす。歌仙兼定は、宗三左文字の唾液に濡れた己の下褌だけでなく、服も脱いで全裸になって横たわりながら、後ろ手に縛り上げたままの宗三左文字に己の顔を跨がせた。
「ッ……、か、かせん……っ、」
 膝立ちの宗三左文字が困惑したように名を呼び下ろしてくる。
 裸身の歌仙兼定に比して、宗三左文字は下肢を晒してはいても、小袖を着て帯も締めたままだ。
「ふ…、僕が今しがたきみにしたように、僕の体の上に寝そべって、僕の竿を口で直に舐めてくれればいいんだよ。そうしてくれれば、お返しに……、きちんと、愉しませてあげるから。こんなふうに」
 歌仙兼定が舌を伸ばし、目の前で揺れる宗三左文字の竿先をぬらりと舐め上げた。
「ンぅッ! ひ、あ……!」
 歌仙兼定の顔を跨いだままで、宗三左文字の脚がびくりと揺れる。
「ぁうッ……、ぁ……、」
 もっと快楽を欲しがるように宗三左文字が身を捩ったが、歌仙兼定は口淫をやめてしまう。
 歌仙兼定の意図を悟ったか、宗三左文字は諦めたように息を吐き、しかし歌仙兼定の要求を素直に飲みたくなくて、躊躇したままその場に留まった。
 反発の理由は、口での奉仕を求められていることではなく、もっと別のところにある。
「ッ、手………、を……、」
 捕縛を解いてほしくて宗三左文字が言葉足らずに促すが、歌仙兼定は宗三左文字の股の下で笑うだけだ。
「手はそのままだよ。口だけで、僕を慰撫してくれ。……ご褒美が、欲しいだろう?」
「……ッ、……、ぅ………、」
 宗三左文字の赤く火照った顔が屈辱めいたもので歪む。
 だが歌仙兼定からの快楽を求める己の情欲には逆らえず、宗三左文字は、恋人が指示したとおりに歌仙兼定の腹の上に己の細い体を倒した。
 愉楽に屈し色違いの目を熱く潤ませた宗三左文字の顔のすぐ傍に、硬化を始めた歌仙兼定の竿がある。
 宗三左文字は不自由な体で、口中から舌を伸ばし、歌仙兼定の竿を舌先で舐り始めた。
「ンぅ……、っふ……、ンう、」
 手が使えないのでその慰撫はぎこちなく、宗三左文字の常の手管よりもいっそう無器用であった。
 それでも舌の熱く濡れた触感と、宗三左文字を淫楽で捕えて屈服させている支配感に、歌仙兼定は心地よく酔う。
「ふ……、あぁ……、気持ちいいね……、じゃあ、ご褒美をあげるよ。……ンふっ…」
 約束したとおりに宗三左文字の竿を口に含み、ゆっくりと舐ってやる。
「ンッ! ぅ、ふぅッ! ンぁむっ……、」
 縛られた身を快楽に震わせ、鼻からくぐもった息を吐きながら、それでも宗三左文字が口淫を為している間しか歌仙兼定が快楽を与えてくれないので、宗三左文字は不自由な体で必死に歌仙兼定の竿を舐め、雁首の辺りに舌を這わせていく。
「ン、ンぅっ、」
 宗三左文字の鼻の先で歌仙兼定の竿は大きく屹立していく。遠からず己を穿つことになるその勃起の存在感は、今や宗三左文字にとって厭悪ではなく更なる淫楽への期待と陶酔をもたらしていた。何より、己の下肢に与えられる愉楽は歌仙兼定への口淫に直結している。宗三左文字は理性も失って、歌仙兼定の雄に更に顔を寄せ、薄い唇全体で歌仙兼定の竿先を咥え込んで舌先を雁首に絡め、先ほど歌仙兼定が己に為したように、より強い刺激を与えようと竿先を吸い上げ始めた。
「ンっ……、く……、」
 下方から、歌仙兼定のこらえるような声が上がる。
 無意識のうちに律動的にくねって、快楽を求め始めている宗三左文字の腰に合わせ、歌仙兼定のほうでも口淫を与えていく。両手を上げて宗三左文字の尻たぶを下から掴み上げ、中央の菊孔を意識させるように指で尻肉を揉んでいく。
「ッン、ンぐ、ッふぅっ」
 歌仙兼定の竿を咥える宗三左文字の口からくぐもった声が漏れ、歌仙兼定の頭上で、宗三左文字の腰がひくりと震える。
「ふっ…、ンふ……、」
 腰を揺らす宗三左文字の竿から口を離さぬままに、歌仙兼定は器用に手指を動かして、昨夜は使われることのなかった宗三左文字の菊座を懐柔するように揉み始めた。
「ンふぅッ、ひぅっ! ふぁ、あッ、はぁっ!」
 愉楽に弱い宗三左文字の体はがくがくと震え出し、もはや口淫を為すどころではなくなって、歌仙兼定の屹立から口を離して、その逞しい体の上で身悶えを始める。
「ンふ……、駄目じゃないか……、きちんとしゃぶってくれないと、ご褒美はあげないと言っただろう……?」
 揶揄するように歌仙兼定が言い上げるが、しかし歌仙兼定の指と唇は宗三左文字への情欲を煽り続けるのを止めない。
「ンぁあ! あッ、ひぁ、歌仙、かねさだ……! っあぁ……! っひッ……!」
 歌仙兼定が唾液で濡らした指を、揉んで柔らかくなった宗三左文字の菊座の裡側へ突き込むと、宗三左文字の声の色が変わった。
「少し……狭いな……。夕べはこちらを使わなかったからね……、僕のものを入れるなら、よく解さないとね……?」
「ンぅッ、ひィ……! やっ…ぁ………!」
 宗三左文字の裡で歌仙兼定の指が遠慮もなくぐにぐにと蠢き、粘膜を揉み、最奥部の快楽の巣を刺激していく。
「あぁ……ンぁあ……、か……せん……っ…!」
 宗三左文字は歌仙兼定の体の上に頽れて、わななく唇から唾液を恋人の腰へと滴らせながら、快楽に身を捩った。
「昨日あんなに僕に出したんだから……、今朝はかなり我慢できるんだろう……? ふ……、」
 宗三左文字の屹立が既に限界近くまで立ち上がっているのを目の当たりにしているのに、歌仙兼定は意地悪く問いかける。
「ッ、…うっ……、」
 愉楽では全く容赦してもらえず、宗三左文字は恋人の体の上で泣き崩れる。
「ふ……、僕も……、昨日は使わなかったところを使いたいな……。そろそろ体を繋げようか」
 完全にその場を支配して歌仙兼定は満足げに頷き、宗三左文字の体をどかして身を起こし、俯せのままの宗三左文字の腰を引き寄せた。
 歌仙兼定の指に揉まれた刺激で宗三左文字の後孔は赤く蕾み、歌仙兼定の性欲を嫌でも煽る。
「いい眺めだね……このまま挿れるよ、宗三どの」
「! っ、や、ぁ、か、かせん……ッ」
 後ろ手に縛られたまま後背から犯されると知って宗三左文字が身を強張らせる。
 宗三左文字の纏められた両手首が、捕縛から逃れようというように強く藻搔く。
「ッやめて……くださ……、っこんな……ッ、……も、赦して……!」
 恋人が拒否の声を上げているのを無論承知の上で、歌仙兼定は意地悪く微笑した。
「きみだって昨日、こちら側から僕を穿ったじゃないか。お返しさ。きみは夕べなんと言っていたっけ。僕について……、『どんなに頼んでも、いつも手加減してくれない』……だったかな?」
「! ッ…、」
 宗三左文字の頭が揺らぎ、表情は見えずともその後頭部から、宗三左文字が後悔と怯えを感じたと歌仙兼定にはわかった。
 歌仙兼定は宗三左文字の尻を掴み、中央の菊座を押し広げ、そこに己の屹立の先端を当てる。
「ンぅッ、」
 ひくり、と宗三左文字の腰が震えるのへ、
「いつも、と言うのは、毎度、ということだよね? 手加減をしない、と言うのは……こういう、ことで、いいんだろう………?」
 言葉の最後のほうは息を切らせながら、歌仙兼定は亀頭を宗三左文字の後孔へ押し込んでいった。
「ッ…、ひ、ひィッ………!」
 狭いとば口を雁首が突き通って、宗三左文字が悲鳴を上げる。
 後ろ手に縛られた宗三左文字の手首が酷く強張るのが、歌仙兼定の目に映った。
「まだだよ……宗三どの。きみには、もっと恥ずかしい思いをしてもらわないと……。昨日の僕と、同じくらいにね……ッ、……く…!」
 昨夜、宗三左文字が評したとおりに。
 歌仙兼定は躊躇もなく、宗三左文字の後孔を屹立で深く抉り込み、恋人の前立腺を容赦なく己の先端で突いていった。




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