<其乃五>


「ンひ……ぁッ…! ンぁあっ……ぁ……!」
 歌仙兼定に捕えられたままで宗三左文字の全身ががくがくと震えた。
 射精を果たさなくても快楽の頂点に達する淫らさを、宗三左文字の体は持っている。
 そのことを知っていて、尚且つその到達点に宗三左文字を追い上げることができるのは、歌仙兼定だけだった。
「ふ……、普段はあんなに高雅で清楚なのに……、こうして僕に抱かれるときには、ほんとうにふしだらな体になるものだね……?」
「! ッ……、ひっ…ぅッ……、」
 愉悦に身を震わせる身に揶揄を受けて、宗三左文字の肩がびくりと強張る。
「縛られていても感じるんだ……いや。縛られているほうが感じるのかな……?」
「ンぅ…、うっ、うぅッ」
 表面上は魔王や主からの束縛を嫌う宗三左文字だが、その実、歌仙兼定から束縛感の強い言葉を受ける度に体がより燃え上がることを、歌仙兼定はよく理解していた。
「っや、ぁ……、かせん……っ、……」
「だいじょうぶ。誰にも言わないよ……、きみが、こんなにいやらしい体をしていることはね」
「ッ、ひぅっ…」
 淫楽に屈して、恥辱のうちに、歌仙兼定に嬲られて殆ど泣き崩れている格好の宗三左文字を、歌仙兼定は犯しながら優しく撫でた。
 襟の合わせ目に手を入れ、蝶の紋様の下の乳首を指で辿りながら、快楽と屈辱に赤らんだ宗三左文字の耳裏に甘い支配の毒を撒く。
「昨夜のきみと同じだよ。僕だけが、きみの全てを知っている。どうしたら、きみが感じるか、どうしたら、きみが心地よくなるか……口では嫌がって、抵抗しても……きみ以上に、きみの体と心を僕は知っている。………ほら」
「! ひィ、あァッ!」
 浸出液を垂らす宗三左文字の竿先を手を伸ばして握り、乳首を弄りながら繋がった腰を軽く揺すると、歌仙兼定の体の下で宗三左文字が掠れた悲鳴を上げた。
「ふ……、」
 歌仙兼定は微笑み下ろして、そのまま宗三左文字の体奥に抽送を始める。
「ンひっ、ぁあッ、っや、かせん、あァッ、ンぁあっ…!」
「また……心地よく、なってきたようだね……?」
 宗三左文字の快楽を完璧に支配して、歌仙兼定は後背から言い下ろした。
 その間も、宗三左文字を追い詰める手練を歌仙兼定は緩めない。
 ふたりの結合部と、歌仙兼定に握られた宗三左文字の竿先の双方から、にちにちと淫靡な水音が響いている。
「うッ、うぅ、ふンぅっ、ぁッ」
 歌仙兼定の体の下にくったりとうずくまって、宗三左文字は、歌仙兼定の与える愉悦のままに、歌仙兼定の動きに合わせて腰を揺すっている。
 縛られた手首と汗に汚れ着崩れた白小袖の上に、宗三左文字の淡紅色の髪が寝乱れて散っていた。
「昨日きみが言った通りのことを、僕も言わせてもらおう……きみの全ては、僕のものだ」
「! っ、ふぅッ」
「今、僕と繋がっているきみのお尻の穴も……、僕が握っているきみの竿も、抱きしめているこの体も……もちろん、唇もね」
 歌仙兼定は宗三左文字の乳首から手を伸ばして、昨夜の宗三左文字よりいっそうの遠慮の無さで恋人の口中に三本もの指を突き込んだ。
「ッ…ンぅ……ふぅうン……ッ…!」
 男の太い指に宗三左文字の薄い舌を絡めさせ、歌仙兼定は満足の笑みを漏らす。
 口に指を押し込まれて、下肢は強く揺さぶられ、宗三左文字の顔は髪よりも赤く染まっていた。宗三左文字を愉楽で嬲っている間に夜は明け果てており、戸の間から差し込んでくる朝日が、体を結び合う恋人たちの身を白日の下に晒し始めていた。
「そろそろ、僕も……、心地よさを堪えがたくなってきたな……、」
 宗三左文字を穿つ歌仙兼定は息を喘がせながらそう言って、宗三左文字の口中から指を引き抜き、恋人の唾液に濡れた手指で宗三左文字の細い顎を撫で上げ、耳の裏に唇で触れて舌を這わせた。
「ッ、んぁッ」
「せっかく夜が明けて、きみの体がよく見えるほどに明るくなってきたから。風流に、きみが気を遣るのがよく見える姿勢で事を終えるとしようか」
「……? っ、なに、を……ッ、……! っあ……、」
 歌仙兼定は気をつけながら、繋がったままふたりの体を起こし、そのまま布団の上に己の尻を落とす。
 歌仙兼定の腰と膝の上に、宗三左文字の体が跨るような体勢になった。
「ッ……、ぁあ…、やぁ……ッ…!」
 朝日の中に、背面座位の姿勢を取らされた宗三左文字が、悲鳴に似た声を上げる。
 こんな体位があることすら知らなかった。
 歌仙兼定の体の上で、着崩れた宗三左文字の小袖を締める腰帯の下から、先端から汁を垂らす宗三左文字の屹立の先端が、目も綾に突き出していた。
「ッ、やだ、こんな姿勢……、やめてくださいッ……!」
 後孔を穿たれたまま宗三左文字が藻搔く。後ろ手に縛られて後背から犯されるのみならず、己の快楽の様相が赤裸々に見える体勢を強要されて、宗三左文字は恥辱に気が狂いそうだった。
 歌仙兼定は不自由な身で暴れる宗三左文字の体をしっかりと腕で捕え、竿先を指で嬲りながら、宗三左文字の耳の後ろで笑って見せる。
「ふ……、光の中に、きみの、竿先が……、ひくひく震えながら、いやらしく汁をこぼしているのが、よく見えるね……?」
「うっ、やぁ……ァ、もう……赦して……、歌仙………!」
「昨日の僕と同じ台詞を言うんだね……。勿論、僕は、手加減はしてあげないよ? 宗三左文字どの……、っく、…ッ…」
 歌仙兼定自身も爆発しそうな愉楽に堪えながら、頬を赤く染めて笑うと、惑乱する宗三左文字には構わず、下から腰を突き上げ始めた。
「ひッ! んぅ、ッやぁあっ! っや……だ……、かせん、かねさだ…っ、…ァあッ……!」
「このまま、きみが、朝日の中に精を飛ばすまで……、ずっと、このままだよ……、」
「! ッ、や、嫌です、あぁァっ、ッやめて…くだ、さ、ッああっ!」
 抱き上げた宗三左文字を接合部から揺する都度、宗三左文字の体が撓って、顔から汗と涙が歌仙兼定へ降ってくる。幾度も揺さぶられて宗三左文字の小袖はすっかり着崩れ、歌仙兼定に摘まれて赤く腫れた乳首と、胸に刻まれた信長の刻印が朝の光の中にくっきりと浮かび上がっていた。
「ああ……、淫靡で、素晴らしい眺めだな……、風流だね、宗三左文字どの……、」
 陶然と言い上げた歌仙兼定に対し、
「……ッ風流、だなんて……! ひぁ、あ、酔狂…の、間違い、でしょう…ッ、んぅッ、くぁ、ンぁアっ…!」
 理性は抗いながらも既に心と体は快楽に流されて、それでも宗三左文字が反論してきた。
「ふ、言うね……。宗三どの、でも、雅はともかく……、酔狂と風流は、本来紙一重だからね……? それに、僕の粋狂が……、きみの体は、随分気に入ってくれているようじゃないか……?」
 微笑しながら歌仙兼定は言って、左手で扱き上げていた宗三左文字の竿への指の圧を強め、いちだんと強く握り込んだ。
「ッ! ンひィっ! や、ぁ、あ…、ッもう、出……、ッンくうッ……!」
 忍耐は限界に達し、前と後ろから刺激を受け続ける宗三左文字はがくがくと身震いした。
「いいよ。心置きなく出してくれ……僕も、きみの中でもうイってしまいそうだし」
「あッ、あぁ、やッ」
 歌仙兼定に全てを捕えられ支配されたままで達することに拒否感を強め、宗三左文字は首を横に振り立てる。
 だがもう如何ほども堪えられそうにはなかった。
 無論そのことを、歌仙兼定はよく承知している。
「ふふ…、こうして擦り続けて、どれくらい遠くまできみの精が飛ぶか、見物だね……。外を隔てる襖までは、さすがに届かないかな?」
「! っ……あ、あなたというひとは……! ! ッ、や、やだ、もう、擦らないでくださ、ッ、あぁあッ……!」
 堪えようというように宗三左文字が身を捩ったが、何の抑止にもならなかった。
 後ろから屹立を前立腺に突き当てられ、前は歌仙兼定の指で雁裏をひときわ強く扱かれて、歌仙兼定の手の中で、宗三左文字の竿は遂に限界を越え、精を吐き出し始める。
「ひ、ぁ、アぁ……ッ…!」
 身を強張らせ、悲鳴と共に宗三左文字の白濁が迸る。
 歌仙兼定が竿先を絞り上げ、先端の角度を指で定めていたため、撒かれた精は勢いよく飛び散って、布団と畳を盛大に汚した。
「…ふ……、よく飛んだものだね…、」
「っ……、ぅ…っ、うぅ、」
 肩越しに揶揄するように言われて、精を放った疲労にぐったりと歌仙兼定に身を預けた宗三左文字が羞恥に呻いた。
「宗三どの」
 後背から声をかけ、歌仙兼定は、宗三左文字の赤く汗ばんだ耳に舌を差し込んで舌先で舐め上げる。
「きみが好きすぎて、もう、はちきれそうなんだ。きみの中に……、射精して、いいだろう……?」
「ッ…、ぅ………、」
 汗と涙に湿った声が宗三左文字の喉から漏れ、それでも、宗三左文字の細い首がゆらりと揺れて、恋人が頷いたのが歌仙兼定にはわかった。
「ふ……、」
 征服欲を満足させた歌仙兼定の心の内で、宗三左文字への愛おしさのほうが勝ってきた。頽れたままの宗三左文字の体を抱き起して後孔から己の竿を引き抜き、歌仙兼定は、布団の上へ恋人の体を仰向けにそっと横たえる。
「……、かせん、……ンむ……っ、ふ…、」
 物問いたげに名を呼んだ宗三左文字の唇に優しく口づけて、労うように舌を絡める。
「ン…ぁふ……、」
 縛られた手は背中に組んだままで、胸を広く突き出す格好になりながら、それでも宗三左文字が接吻で歌仙兼定に応えてきた。
「最後まで……、きみの体で、いかせてくれ」
 接吻を終えて唇を離し、歌仙兼定はそう言うと、仰向けの宗三左文字の両腿を掴んで広げさせ、その間に己の腰を割り入れた。
 宗三左文字は歌仙兼定に逆らわず、素直に脚を開いて歌仙兼定を受け入れた。
 ふたりのものが混じり合った唾液を唇の端から垂らしながら、宗三左文字が熱に潤んだ色違いの両の目で歌仙兼定を見上げてくる。
「ン……は…ぁ、あッ……、かせん……、」
「つ……、」
 再び歌仙兼定が屹立を宗三左文字の菊孔に突き入れると、宗三左文字の長い脚が歌仙兼定の腰に巻きついて、密着を強めるように引き寄せた。
「ふっ…、ふッ、」
 喉から低い喘ぎと共に腰を突き上げてくる歌仙兼定を、宗三左文字はただ許容している。
 ふたりの姿勢は昨夜とまったく入れ替わっていて、それを互いに認識しながら律動に乗せて体を繋げ合っている。
「ン、ぁ、あ、かせん、」
 再び快楽を高めたか、宗三左文字の下肢から力が抜け、喉からは高い声が漏れ始めた。
 宗三左文字の体内で、歌仙兼定の勃起がひときわ大きくなった。
「ああ……、もう、限界だ……。受け止めてくれ、宗三どの……! …ッ、く……!」
 歌仙兼定が絞り出すような声で言い下ろして、宗三左文字の最奥部に突き入れて腰の動きを止める。
「! ッ、ンぅ、っくぅ………っ…、あぁッ………!」
 歌仙兼定の竿が精を放つと、刺激を受けた宗三左文字の粘膜がびくびくと蠕動して、宗三左文字の白い喉首が仰け反った。
「ッ、はぁっ、っは……ぁ…、」
「っ…く………、ン…、」
 肩を上下させ、互いの呼吸をただ聞いていた時間は、ほんの少しの間だった筈だ。
 果てた疲労と満足がやがて歌仙兼定の体を上がってきて、歌仙兼定は汗を散らして微笑みながら、宗三左文字の体を深く抱きしめる。
 下肢はまだ繋がったままで、後ろ手に縛った宗三左文字の手首の下帯を解きながら、歌仙兼定は鼻先で宗三左文字の柔らかな髪を搔き分け、その内に隠された耳にそっと言葉を吹き込んだ。
「素晴らしかったよ。宗三どの」
「……………歌仙……、」
 ようよう息を整えながら宗三左文字が答えてくる。
 歌仙兼定が手首から下帯を解いて少しだけ体を離し、微笑しながら宗三左文字を眺め下ろした。
「僕の粋狂に、つき合ってくれるきみが好きだよ」
「…………、」
 実際には『強要されてつき合わされている』と表現するほうが正しい事態だからだろう。宗三左文字は息を詰め、その喉仏がこくりと鳴った。
「……あなたは、狡いです……、歌仙兼定……、」
 泣き濡れて赤く火照った顔を歪ませて、宗三左文字が歌仙兼定に言う。
「あなたを愛している僕が……、何をされても、あなたには逆らえないとよくご承知のくせに……、」
 拗ねたような響きは殆ど無いが、それが宗三左文字なりに歌仙兼定を詰っている言葉であることが、付き合いの深い歌仙兼定にはわかった。
 そのような言い方で、既に、宗三左文字が歌仙兼定を赦してしまっていることも。
 歌仙兼定は微笑する。
「済まなかったね。きみが愛おしくて、僕はつい、きみを苛めてしまうんだ……。昨夜は、立場が逆転してしまって、僕はひどく恥ずかしい思いをしたしね」
 歌仙兼定がさらに体を離して、宗三左文字の後孔から己の竿を引き抜く。
「ッ……、ン……、」
 歌仙兼定が体内から去る感覚に、宗三左文字の身がひくりと震えた。


 宗三左文字は自由になった手を体の脇に投げ出して、布団の上に横たわったままだった。
 昨夜幾度も交わった上で更に、惑乱を極めつつ今朝の情交が果たされた所為で、宗三左文字の心身は相当消耗したもののようだ。
 宗三左文字の白い手首に、下帯の痕が赤く擦れて残っていた。
 歌仙兼定が男の手を伸べて、淡紅色の髪が貼り付いた宗三左文字の額と頭部を優しく撫でる。
 宗三左文字は息を吐き、歌仙兼定の手に触れられながら半眼を閉じた。
 暫く撫でられるままになり、やがて、宗三左文字の赤い唇が小さく開かれる。
「………薬研藤四郎が……、」
 宗三左文字が力なく言い差すと、歌仙兼定の手の動きが止まった。
「……何故そこで薬研藤四郎の名が出てくるんだい」
 情事のすぐ後で他の男の名を出すなんて。
 嫉妬めいた不機嫌の気配が恋人の声に混じっていることには気づかず、疲労の所為でぼんやりと思考の濁った宗三左文字は言葉を続ける。
「……薬研藤四郎に、女人に効く媚薬を求めたのは、僕なのです……、」
 その言葉を受けて、二藍色の髪の下でもはっきりとわかるほどに、歌仙兼定が眉を寄せた。
「なんだってきみはそんな真似をしたんだ」
 その辺りでようやく宗三左文字は歌仙兼定の不機嫌を感知したようだった。
 潤んだ色違いの両目が薄い瞼の中で動いて、歌仙兼定を見上げる。
「………あなたの為のつもりでした」
「………………」
 宗三左文字の意図がわからなくて、歌仙兼定はむっつりと沈黙する。
 宗三左文字は弱々しい瞬きで目尻の汗と涙を払って、言葉を続けた。
「………僕ひとりの力では、一晩のうちに、女人になったあなたの気を遣るのは無理なのではないかと心配で……。夜明けまでに元に戻れなかったら、翌朝あなたは主のもとに伺候もできませんし、……そうなれば近侍としての務めに支障が出てしまうでしょうから………、それで、薬研藤四郎にお願いして……。……昨夜の僕には、あなたを辱める意図は無かったのです、歌仙」
「…………宗三どの」
 宗三左文字の言葉が歌仙兼定の心に浸透するには、暫く時間がかかった。
 歌仙兼定は宗三左文字を見下ろし、伸ばした手で宗三左文字の薄い体を抱えて抱き起こす。
 布団の上に胡坐をかいた己の膝の上に宗三左文字の尻を乗せると、宗三左文字が優美な仕草で首を歌仙兼定の肩に預けてきた。
「僕の姿を早く元に戻す為にあんな薬を使ったのかい?」
「………ええ」
 歌仙兼定の耳元で宗三左文字が呟くように答える。
「あなたを侮辱したり、貶めたりするつもりは無かったのです」
「………もしそれが事実なら、僕はきみに謝らなくてはいけないが………」
 そこまで言い差して、歌仙兼定は別のことに気づく。
「でもおかしいじゃないか? だったら何故、僕の体を穿ちながら、僕を孕ませたいなどと言ってきたんだい?」
 恋人の言葉に、宗三左文字が首を上げて、潤んだ黒目がちの目で歌仙兼定を見つめてきた。
「……あなたとの子が欲しいと思ったのはほんとうです」
「…………………僕が産むほうなのかい」
 歌仙兼定は低い声で唸る。
「人間のように、体同士結びついて、その証が得られるならそうしてみたいとあのときは思ったのです。………あなたの中に入っていけて僕は幸せでした」
 色違いの目で真っ直ぐ見つめられながら躊躇もなくそう言われて、歌仙兼定は一瞬言葉を失う。
「宗三どの………」
「…………あなたは。僕が女人だったら、人間の夫婦のように暮らし、時を経てみたいと、考えたことはありませんか………?」
「……思いつきもしなかったな」
 宗三左文字から言われたことを、歌仙兼定は脳裏で反芻する。
 だがすぐに、考えるような歌仙兼定の表情は、苦笑と自嘲の混在した笑みに取って代わった。
「きみが始めから女人だったら。薬研藤四郎がきみに触った時点で奴を本当に斬ってしまっていただろうね」
「…………………」
「きみを表には出さない。主にも刀剣男士にも一切触れさせない。手だけでなく目でも駄目だ。話をするのも許さない。君を見た奴は斬るし、身の回りの世話も短刀の子なんかには任せず、別に女人を当てるだろう。きみを賛美し、愛でる男は生涯でただ一人、この僕だけだ」
「………歌仙……」
 歌仙兼定の強い独占欲の表明を受けた所為だろう。宗三左文字の呟きには少しく恐怖の気配があった。
 歌仙兼定は息を吐き、恋人に微笑んで見せる。
「………そんな人生を、きみが好むとも思えないな。きみが男の姿でいてくれて良かったよ。そのほうが僕たちにとっては幸いだよ、宗三左文字どの」
 宗三左文字が煙るような淡紅色の睫毛を瞬かせて歌仙兼定を見た。
「……ですが、………もし僕が、再び脇差の毒に中って女人になってしまったら……?」
「そのときは、いくらでも僕がお役に立つよ、宗三どの。でも敵脇差にそう幾度も咬まれたりしないように、気を付けるほうが先決だろう。お互いにね。……僕も、きみに媚薬を盛られたり、孕ませると脅されたりするのは金輪際御免だからね」
 冗談めかした歌仙兼定の言葉に、ようやく宗三左文字は眉の憂いを解いた。
 汗で肌に貼りついた宗三左文字の長い髪を手櫛で梳きながら、歌仙兼定はまた別のことを考える。
「しかし。僕ときみ、ふたりでこうも立て続けに脇差に咬まれて毒に中っているとなると……」
「歌仙兼定?」
「城中では、表沙汰にならないだけで、もっと頻繁に女人化した刀剣男士が現れているかもしれないな。主のもとに伺候したら探りを入れておかなくてはなるまいね。近侍の僕としては」
 勘の良い歌仙兼定の危惧は的中していた。
 主の知らないところで、城中ではとんでもない噂が立っていたのである。




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