はかなく見ゆる夏虫に

 

2016/02/08
歌仙兼定×宗三左文字(※強姦)(※
夢オチ
「にごりに染まぬ心もて」承前
全5話(※印は18禁)


 宵の間もはかなく見ゆる夏虫にまどひ勝れる恋もするかな  紀友則
(篝火に飛び込む運命が見え、宵のうちから既に儚いと見える夏の虫が迷い飛ぶにも勝るほど、迷いの強い恋をしていることだ)
    



  <其乃一>


 夕刻、出撃した部隊が帰城してくる際に城中が騒がしくなるのはいつものことだった。帰還部隊の中に怪我人が出ていれば尚更。
 嫌な予感がして、歌仙兼定は、帰城した第二部隊を迎えに城門まで出向いた。常習的に第一部隊の隊長を任ぜられている歌仙兼定は、この日は城内で留守を命じられていた。第二部隊には宗三左文字が加わっていたはずだ。
 案の定、城門を潜ってきた刀剣男士たちの中に、軍装を破壊され、包帯の巻かれた頭や右手に、血の痕を残した宗三左文字が立っていた。
「宗三左文字どの!」
 歌仙兼定が声を放って宗三左文字に駆け寄る。傷ついてふらつく彼の細い体を支えながら、何が起きたかを問い質そうと、第二部隊の隊長であった石切丸に、歌仙兼定は鋭い視線を向けた。
「季節外れの蝉が飛んできたなと思ったら、虫じゃなくて投石だったんだね。そうこうしてるうちに乱戦になって、宗三左文字どのが槍を二撃も食らってしまって……」
 苛々するほどのんびりと答えた石切丸だったが、よく見れば彼も服が破れている。石切丸も怪我はしているようだが、宗三左文字のように体力を奪われるほどの深傷ではなさそうだ。太刀と大太刀を主軸とした第二部隊の戦法はややもすれば大味なものになりがちで、出陣した者は皆ところどころ小さな傷を作って平気な顔をしている。彼らの中では、宗三左文字が最も傷が深いように見受けられた。
「手入れ部屋へ行こう」
 歌仙兼定が宗三左文字の肩を掴んで支えるように隣を歩こうとすると、宗三左文字の手がそれを押し止めた。
「……平気です。これくらいなら……自分で歩けますから。もっと酷い状態になったこともありますし、……再刃よりましですよ」
「しかし……」
「僕だけでなく、ほかの皆の世話をしてやってください。そう主に任されているんでしょう?」
 宗三左文字の指摘は事実だったので、歌仙兼定は躊躇した。
 傷ついた体のまま宗三左文字は力なく微笑んで、手入れ部屋のほうへ向かって不確かな足取りながらも歩き出す。
 宗三左文字の右手の指先から、砂地の上に赤い血が滴っていく。
「……自由になり損ねた……今日も」
 宗三左文字の呟きが。
 風に乗って、歌仙兼定の耳に聞こえた。



 翌日の夜。
 そろそろ就寝しようとしていた宗三左文字のもとに来客があった。
「歌仙兼定。……どうしたんですか……?」
 手入れの済んだ宗三左文字の体は元通りに戻り、蓄積していた疲労も綺麗に消えている。ただ暫くは体を休めて鋭気を養うように、と、数日間の休暇を主から与えられていた。
 歌仙兼定の思惑を知らない宗三左文字は、なんの警戒もなく歌仙兼定を迎えた。いつもは柔和な歌仙兼定の緑色の目が、戦場にいるときのように目尻が吊り上がり、歌仙兼定の昂奮を示す赤い光が瞳の中に散っている。それを認めてなお、宗三左文字は歌仙兼定にあまり警戒心を抱かなかった。
 座して対面した状態で、歌仙兼定が切り出した。
「……きのう、きみの独りごとを聞いた」
「……………」
 歌仙兼定が何を指摘しているかわかったのだろう。宗三左文字は歌仙兼定に視線を向けたまま黙り込んだ。
「きみの城での暮らし方を見て、きみには欲がないのかと思っていたが。違ったんだな。きみはこの世界の全てに興味が無いんだ。何一つ」
 この僕にさえも。
 最後の言葉を歌仙兼定は飲み込んだ。
「歌仙兼定……、」
 うろたえたように宗三左文字が歌仙兼定の名を呼んだ。
「僕がきみに向けて、きみを好きだと言った言葉を、きみはどう受け取っているんだい?」
「…す……すき……?」
 以前と全く同じように、宗三左文字が歌仙兼定の言葉を繰り返す。
「……僕を所有したいという、あれですか……?」
 宗三左文字は歌仙兼定の当時の心情を相変わらず、まったく理解できていないようだ。
「……所有か。きみは結局、その言葉でしか僕の意図を理解できないようだね」
 暗い笑みと共に、半ば嘲るように歌仙兼定は吐き捨てた。
「歌仙兼定、」
「……その言葉を使うとして。僕がどうきみを『所有』したいかさえ、きみは知りもしないのに」
 歌仙兼定は宗三左文字の顔を睨むように見据えたまま、宗三左文字のほうへ身を乗り出した。
 歌仙兼定の目の中に宿る猛々しいものに気づき、ようやく宗三左文字は怖れを見せたが、そのときには、歌仙兼定は宗三左文字の腕を捕らえて引き寄せ、宗三左文字の唇に接吻を仕掛けていた。
「んッ! ん……ぅ…!」
 驚いた宗三左文字は一瞬抵抗の素振りを見せた。歌仙兼定は動じずに口づけを続け、宗三左文字の体を押さえ込み、幾度も唇を唇で煽ると、呆気ないほどの素直さで、宗三左文字はすぐに反抗心を失った。
「っ…ふぁッ……ぁふ…ッ」
 薄い唇をこじ開けて舌を探り、唾液を流し込みながら舌同士を絡めても、宗三左文字は逃げない。歌仙兼定の腕の中に捕らえられて、細い体は正体を失ったように力が抜け、歌仙兼定の接吻に接吻で返してくる。以前教わったとおりに、口中に溜まるふたりぶんの唾液を喉奥に飲み込みながら、宗三左文字は、陶然と舌をねぶらせていた。
「っはっ…はぁ……っ、ッあっ」
 歌仙兼定が唇を滑らせ、宗三左文字の唇の端に口づけて強く吸い上げる。痛いほどに。
「ッ、……」
 肌理の細かい宗三左文字の肌は少しの圧迫ですぐに内側の血管が破れ、歌仙兼定の口づけの後に痣ができていく。
「っ、や、歌仙兼定、」
 唇、顎、首筋と、宗三左文字の白い肌に接吻痕を作っていきながら、歌仙兼定は宗三左文字の襟の合わせ目に無遠慮に手を突っ込んで、服の下の乳首を探り当てた。
「ンッ、ぁ、あ………!」
 宗三左文字が喉から掠れた声を上げて、びくりと身を撓らせた。
「か、かせ、ンンっ」
 抗議の声を上げかけた宗三左文字の口を再び唇で塞いで、唇と舌と指で、歌仙兼定は宗三左文字の情欲を煽っていった。
「ンぅっ、ぅふ、ふぁ……ッ」
 歌仙兼定の指が宗三左文字の皮膚を辿る都度、宗三左文字が声を上げる。
 歌仙兼定に快楽で捕らえられて、宗三左文字は前後もわからず、目を半眼に閉じて、熱い息を吐いて喘いでいた。
「……相変わらず。感じやすい体だね……、…僕に親しみを持ってくれているからなのか、単に相性なのか。……それとも。……きみは、誰が相手でもこうなのかも知れないね……?」
 最後。宗三左文字が理解できるとも思えぬまま、彼を嘲るように呟いた自分の言葉に、歌仙兼定は、却って己の中で強い怒りを溜めることとなった。
 何も知らない宗三左文字の体を、自分以外の誰かに触れさせる。仮定であっても想像したくもないことだった。
 勝手な妄想による、理不尽な嫉妬。体の中の血が逆流するかのような怒りは、宗三左文字への思慕と混じり合って、歌仙兼定の体内に凝る劣情をこの上なく煽った。
 腕の中にくったりと沈んだ宗三左文字の体を抱きかかえて、歌仙兼定は腰を上げた。
「続きはきみの寝室でしよう」
「………ぁ…、か、歌仙兼定……、」
 薄い唇に唾液を絡ませて、何が待つかも知らない宗三左文字が、頬を赤く染め、熱に潤んだ色違いの両の目で歌仙兼定を見つめてくる。
「きみは自分のその体にも興味が無いんだろう。……きみと僕でどんなことができるか、たっぷりと教えてあげるよ」




next