<其乃四>


 己自身を突き入れたまま、歌仙兼定は宗三左文字の体の上に上半身を覆い被せ、涙に濡れたその細い面を捕らえて口づけを浴びせる。
「ンっ、ンぅっ、…くッ…」
 顎や唇の端など、先程できた接吻痕の上に更に痣を作っていきながら、宗三左文字の両頬を掴んで唇を開かせ、強引に接吻を仕掛けた。
「ンッ……ぅ、くぅ…ッ!」
 口づけを受けて、体を折り曲げられる息苦しさと内部を突き上げられる痛みに、辛そうに耐える宗三左文字の顔が、新たな苦悶に歪む。
「くぁっ…ふぁ……ン、ぁふッ……!」
 歌仙兼定によって、脆い矜恃をずたずたに引き裂かれた宗三左文字は、もはや諦めたように歌仙兼定の舌を口中に受け入れた。舌と舌が絡み、痛みではない熱で相手と繋がると、それでも少しだけ心が安堵するのか、宗三左文字の体から更に力が抜けて、歌仙兼定の雄を絞り上げるような後孔の締め付けが少しだけ緩み、互いの体の負荷が減る。
「ふ……、そう…受け入れたほうが楽だよ……ンふっ」
 口づけの合間に歌仙兼定が笑いながら告げてくる。
「ンむ…ぅふっ、ンぁ、は、歌仙兼定、」
 くったりと歌仙兼定に身を預け、無意識に己の舌で歌仙兼定の舌や唇を探りながら、宗三左文字は体を揺さぶられて息を喘がせた。
 初めて口づけたときと同じだ、と、宗三左文字の腰を揺すり上げながら、歌仙兼定は穿つ相手を見下ろす。
 何も知らない宗三左文字が、初めての行為に屈辱と被征服感を感じて最初は反発しても、その反発を最後まで押し通すだけの強情さが宗三左文字の体にはない。
 なぜ、とずっと不審に思っていたその理由を、昨日、歌仙兼定は看破した。
 籠の鳥と自らを卑下しながら高貴に住まい、優美に動き、自らは美しいという自覚すらない、今は組み敷かれて泣くばかりの淡紅色の髪の青年。
「……気持ち、いいのかい……?」
「! ……………、」
 自らも汗を散らしながら宗三左文字の顔を両手に捕らえ、歌仙兼定は、これ見よがしに腰を揺すりながら宗三左文字に笑いかける。問われた宗三左文字はびくりと身を震わせて眉をぎゅっと寄せ、歌仙兼定の両手の中で、その紅潮した顔を激しく左右に振った。
「そうか。残念だね……、僕は、きみを手に入れて、こんなに気持ちいいのに」
 歌仙兼定が繋がったままの腰を軽く捻る。
「ひッ! ンぁ…あっ……!」
「きみが僕を欲してくれれば……、僕ときみは過不足なく求め合って、この上なく幸福でいられるのに」
「っ僕は……、あなたを、欲してなんか………!」
「そうだね。そこが僕にとっては不満で、不幸なところかな」
 歌仙兼定は宗三左文字の尻の位置をずらして、己の竿先の当たり所を変える。
「ッ…ぁひっ……ンやぁっ……!」
 途端に宗三左文字の声の質が変わったのを、聞き逃す歌仙兼定ではなかった。
「ああ……ここが、気持ちいいのかな?」
「ひィっ! や、やめ…ンぁっ! ひぁアっ…!」
 繰り返し同じ場所を突かれ、竿先で前立腺を強く刺激されて、宗三左文字は淫楽を激しく煽られたようだ。
「あッ……ぁ、ああ………!」
 緑と青の目を大きく見開き、宗三左文字がせつなげに喘ぐ。
 過ぎた快楽に恐慌を来し、前後もわからなくなりつつあるようだ。
「僕が……、欲しくなったかい……?」
「っ、……」
 歌仙兼定の言葉で我に返り、先程と同じように、宗三左文字は激しく首を横に振る。
「そうか。まだ、足りないんだね」
 宗三左文字の快楽の端緒を掴んだ歌仙兼定に、宗三左文字の精神が対抗し得るはずもない。
 歌仙兼定は手を宗三左文字の下腹部に当てて、再び強ばりかけた宗三左文字自身を強く掴んだ。
「っくッ、ひッ……!」
 表と裏から同時に擦り上げられ、ひとつの官能を強く煽られて、宗三左文字が悲鳴を上げた。
「これなら、どうかな……? 僕が欲しくないと言えるかい?」
「あッ、あぁ、ンぁあッ…、や、嫌だ……歌仙兼定………! やめて、くださ……あ、ンぁッ!」
 手の中でたちまち勃起していく宗三左文字自身を、歌仙兼定は更に煽る。
 後背からも突かれて、宗三左文字の屹立はすぐに限界間際に追い詰められていった。
 歌仙兼定の手に遮られて、放てぬことを苦痛と感じるほどにまで。
「ふ……、こんな甘い拷問を受けるのは、初めてだろう?」
「ッ、ンぅっ、っや、……手を…、放して………!」
 熱を持った屹立を握る歌仙兼定の手が、先走りによってぬるりと滑る。それによって更に快楽を煽られ、宗三左文字は歌仙兼定の体の下で泣き崩れた。
「はっ、は……、は、ふふ、そろそろ、限界じゃないかな? もう一度、出したいだろう……? 宗三左文字どの……」
「っ、う、うぅっ…」
 前後から情欲を煽られて、呻きながら、宗三左文字はもはや頷くことしかできない。
 歌仙兼定は再び宗三左文字の体を抱え込み、その耳元で毒を囁いた。
「僕に、行かせて欲しいと言ってごらん。……叶えてあげるから」
「! ……ッ、ぅ、あ、…そ、そんなの……ッ」
 宗三左文字の体だけではなく心までも歌仙兼定が支配しに掛かっていることを悟り、宗三左文字が接吻痕の残る唇を歪めた。
 歌仙兼定は宗三左文字の体を犯しながら、涙に濡れた頬に手を当てて、淡紅色の髪を優しくかき上げる。
「苦痛できみを縛り上げることも、快楽できみを屈服させることもできる。きみが望むなら、両方を同時に与えてあげることもできるよ。僕が与える気持ちよさに、こんなに溺れているんだ。きみは……どっちにしろ、僕に従うしかないだろう……?」
「う……うぅッ…、くふッ…」
 宗三左文字の耳朶を舐め上げ、時折は軽く歯を立てながら、汗で滑る互いの身体が密着するように宗三左文字の身体を抱え込み、歌仙兼定は宗三左文字の心を撓めていく。宗三左文字が観念するのを待ちながら、歌仙兼定は宗三左文字の屹立を手で嬲り、後孔をゆっくりと穿ち続けた。
「ぅッ、あぁ…、あ……かせん、かねさだ……ッ…」
 泣きじゃくりながら、宗三左文字が遂に声を絞り出す。
「っかせて……くださ…、手を、放して……っ」
 切れ切れに発せられた懇願は、歌仙兼定を満足させなかった。
「うん? ……聞こえないな。刺激が足りなかったかな?」
「ひッ……!」
 歌仙兼定の手で竿の根元を強く絞り上げられて、宗三左文字が悲鳴を上げた。
「いっ…ぁ、あ……! 行かせて、ください、お願いです………! 歌仙兼定……ぁあ…ッ!」
「よしよし、いい子だね」
 竿の根元を掴まれたまま優しく頭を撫でられても、身を震わすことしか宗三左文字にはできない。
 歌仙兼定は約束通り、宗三左文字の竿を掴んだ手を強く上に向かって絞り上げ、宗三左文字に射精を促した。
「ぁくッ…ぁ、ああ………!」
 自らの腹の上に白濁を迸らせながら、宗三左文字が首を仰け反らせて喘いだ。
 その淫らなさまに、歌仙兼定の愉楽もついに絶頂に至った。
「ふ……、僕も、限界だ……出すからね………!」
 弛緩しかけた宗三左文字の体を強く押さえつけ、歌仙兼定が、宗三左文字のひときわ奥深くへと腰を突き出す。
「ひぐッ……あ…あ、や……あぁッ……!」
 宗三左文字の放った拒否の悲鳴も虚しく、歌仙兼定の精は宗三左文字の体内に撒かれ、内臓を逆流していった。
「は……はは…、最高だな、宗三左文字どの……」
 情欲をすべて宗三左文字の体内に吐ききって、まだ己を宗三左文字の熱い腸内に埋めたままで、歌仙兼定が満足げに笑う。
「うッ、うぅ…、く………、」
 ようやく萎えた竿を引き抜き、痣のできた宗三左文字の口の端に再び口づけを与えても。
 もはや泣くばかりの宗三左文字は接吻を返してはこない。
「いいよ……、最初だからね」
 宗三左文字の体を組み敷いたまま、歌仙兼定は爪痕や接吻痕の残るその汗ばんだ体を撫で回し、口づけて舌でねぶる。
「回数を重ねれば重ねるほどに、きみは僕と繋がるのが気持ちよくなるよ。僕を体に受け入れて、腰を振るのがいずれとても好きになる」
「っそんなこと……、」
「きみは自分が他人に支配されるのが嫌いだと思っている。だが、それは本当は嘘で、きみは支配を受け入れるのが好きなんだ。相手が誰でも」
「! ………っ、」
 自分を犯した相手から被虐の質があると言われて、宗三左文字の顔が屈辱で歪んだ。
「僕はきみが好きだから、きみを誰にも触れさせない。僕がきみを完璧に支配して、そして外には出さない」
 所有して内に閉じ込める。宗三左文字が最も厭うていることを、歌仙兼定はさらりと口に上せた。
「………、嫌、です、そんなことは………っ」
 思わず声を上げ、逃れようと身体を捩った宗三左文字に、
「………そうか。反抗するんだ。……聞き分けの無い鳥には、折檻が必要だね……きちんと躾けて、言うことを聞かせないと」
 宗三左文字の腕を押さえつけ、征服欲にざらついた声で告げて、目をぎらつかせた歌仙兼定は宗三左文字の顔を覗き込んだ。
「ひ………」
 歌仙兼定の嗜虐を感じ取り、犯されていたときよりなお強い恐怖を煽られて、宗三左文字は息を飲んだ。
 歌仙兼定の緑の目の奥に、不穏な赤い光が散っている。
 歌仙兼定の手は、宗三左文字の細い腕を容赦なく掴んで、完全に押さえ込んでいた。掴まれた場所が鬱血して痣ができるほどの腕力だったが、歌仙兼定は、宗三左文字の体を気遣うような素振りすら見せなかった。
「僕がきみを本気で嬲ったら、きみの体と心がどんなふうに変わるか、試してみようか。……きっと、僕に優しくされるたび、心の底から泣いて喜んで、僕に感謝するようになるよ」
「…………………!」
 宗三左文字の矜恃を打ち砕き、その体を思うさま踏みにじった後で。
 歌仙兼定の嗜虐がついに宗三左文字に向かって牙を剥いた。

「いやだ………! 歌仙兼定………!」
 憔悴した宗三左文字が歌仙兼定の体の下で弱々しく暴れ、悲鳴と懇願を叫ぶ。
 それが次第に啜り泣きの声に変わり、苦痛の呻きが切れ切れに掠れて響くだけになり、それさえもやがて途絶える。
 夜が深まる頃には。
 宗三左文字の寝所から漏れてくるのは、歌仙兼定の唸るような喘ぎと、肉体が擦れ合って軋む音だけになっていた。




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