<其乃二>


 全ては歌仙兼定の死から始まった。
「主くんにとってはもう限界のようだよ」
 長らく主の第一の寵を得てきた歌仙兼定が戦場に散って、二ヶ月の後。
 歌仙兼定に代わって近侍を務めることの多くなっていた燭台切光忠が晩春のある夕刻、へし切長谷部を内密に呼んでそのように告げてきた。
「……宗三のことか」
 へし切長谷部はそう言って唇を曲げる。
 歌仙兼定は顕現してからごく早い時期に宗三左文字と恋仲となっていて、離れることが無かった。へし切が本丸に現れた頃には既に二人は夫婦の如く睦まじく過ごしていて、へし切はおろかどんな刀剣男士も、彼らの間に割って入ることは出来なかった。
 白楽天の詩の如く、比翼の鳥、連理の枝とも例えられるほどの仲だった者が、片割れを喪くしたのだ。
 宗三は当初、意外なほどに動揺を見せなかった。顔色は悪く、表情は落ち込んでいたが、内番を休んだり出陣を辞退したりということは一切しなかった。
 主や他の刀剣男士の手前、気丈に振る舞っているのだろう、したいようにさせておくのがよかろうと左文字派や織田佩刀の連中は、宗三を遠巻きにしていた。
 それが拙かったのだろうか。
 ある時期から、宗三はその表情に変質を見せ始めた。
 出陣すれば戦はそっちのけで、戦場に何者かの影を捜す。幾度も持ち場を放り出すので、主からも叱責を受けた。へし切も部隊に同行した際には宗三の異様な行動を諫めたのだが、宗三は納得しなかった。
「ですが……歌仙兼定を、捜さなくては」
 露と消えたはずの命を、別の戦場で見つけることなど出来る筈がない。へし切はそう言ったが、宗三は首を横に振るばかりだった。
「歌仙兼定が本丸に戻らないのは、何処かで迷ってしまっているからでしょう。捜し出して連れ帰らねば」
 へし切は眉をひそめて宗三を見るしかなかった。時日を経て宗三の妄想は一層頑なになっていき、やがて宗三は出陣を命じられることはなくなった。
 大事な者を急に喪うとき、心がそれを受け入れられないのは良くあることだ。宗三は歌仙兼定の死をまだ受容できないのだろう。本丸唯一の『人間』である主はそう言って、とりあえず他の刀剣男士に宗三をそっとしておくように命じた。戦の役に立たなくなった宗三を刀解する意思が主に無いと知ってへし切は胸を撫で下ろしたが、その後宗三の異様さは治る気配も無かった。
「屋敷では全ての刃物は隠してある、と小夜ちゃんが言っていた」
 目の前で燭台切光忠が溜め息と共に告げてくる。歌仙兼定のいなくなった屋敷に小姓役の弟と暮らす宗三は、その頃殆ど軟禁状態だった。自ら外に出ようと思うことも無いのだから幽閉されているとは言い難いが、多くの刀剣男士は、宗三は主の指示によって蟄居させられている、と認識していた。
「歌仙くんの気配が強い屋敷では一層心が沈んでしまうんだろう。自害して後を追いかねないほど思い詰めている、と小夜ちゃんが心配していた」
 それも現実が見えているときの話だ、と燭台切光忠は続ける。
「近頃は……、ふらふらと屋敷の外に出て、誰彼と無く刀剣男士の袖を引くらしい」
「……それはまた、一体どういうことだ」
 言われたへし切は当惑する。
 宗三左文字はそもそも、気安い性格の刀剣男士ではない。生前の歌仙兼定が持ち前の独占欲で強く囲い込み、他の刀剣男士とは滅多に触れさせなかった経緯もあるが、もともと名門の守護大名今川義元の佩刀、織田信長に銘を切られ、豊臣・徳川と長きに渡って為政者の蔵刀だった打刀なのだ。立ち居振る舞いは優雅だし口調は丁寧だが、気位は高く、誰にでも声をかけるような性質ではなかった。
 燭台切光忠は言いにくそうに言葉を紡ぐ。
「宗三くんは僕のことは燭台切光忠だと区別がつくんだよ。小夜ちゃんのことも弟だとわかってる。ただ……蜂須賀くんに聞いたところによると、宗三くんは、傍を歩く刀剣男士が歌仙くんに見えてしまうらしい。ことに、歌仙くんと背丈の似た打刀や太刀連中は、殆どすべて歌仙くんと勘違いして話しかけるそうだ」
「……………」
 へし切長谷部は、胃がずんと重くなったように感じた。
「歌仙兼定に似た背丈の奴と言ったら、城内の四分の一くらいは当てはまるだろう。そいつら全てを歌仙兼定と呼んで回るわけか」
「それだけじゃないんだよ。問題はね……、宗三くんが恋人にするように、間違った相手にもしてしまうということだよ」
「! ――――」
 へし切が弾かれたように顎を引き、怒気を込めて燭台切光忠を睨みつけた。無論自分に対する怒りではないことを知っている燭台切光忠は、無礼なまでのへし切の視線を鷹揚に黙殺する。
「今のところ小夜ちゃんや他の小姓の子が止めに入ってるから、大事には至ってないんだけどね。でも時間の問題だろうね。宗三くんはあの通りの優しげな容姿で、しかも歌仙くんの風流に馴染んだ後だから……、良くない意味で、人知れず彼に興味を持つ刀剣男士は相当数いるだろうね」
「……傾城の如く着崩れた服で日頃からうろついてる奴が、本物の陰間に成り下がるのか」
 呪詛のように発せられたへし切の低い声に、燭台切光忠は憂慮しているというように手袋手を振って見せた。
「そんな恰好のつかないことになったら一大事だよ。宗三くんにも、亡くなった歌仙くんにも気の毒だし、本丸全体の規律も守れない。士気も下がってしまうだろうね……主くんはそこを心配してる。放置して成り行きを見るよりは……とね」
 燭台切光忠は、最後は言葉を濁して隻眼でへし切長谷部を見返した。
 主が思案の果てにどんな結論に至るか、へし切長谷部には考えるまでも無かった。
「宗三を刀解すると決まったのか」
 知らず、声が震えた。燭台切光忠はその様子も黙殺する。
「まだだよ。……主くんにだって、宗三くんへの情はある。宗三くんはそもそも、二番目か三番目くらいには主くんのお気に入りだった刀剣男士だし」
「……………」
 此処に至ってようやく、燭台切光忠が内密に自分を呼び出した意味に気づき始めたへし切だった。
 燭台切光忠には迷いがある。宗三の状態はどう見ても城の為にならないが、かといって宗三を死なせたいわけではない。それは主も同様なのだ。
 歯軋りしながらへし切は声を絞り出した。
「……俺に宗三を世話しろと言うんだな」
 歌仙兼定の恋人だった男を。
 顕現した当初から他人のもので、むしろそれ故に一層、思慕を密かに募らせていた男を。
 へし切長谷部は、武張った雰囲気こそ歌仙兼定と似ても似つかなかったが、背丈と身幅は非常に似通っていた。
 蜂須賀虎徹にすら歌仙兼定と見誤って声をかける今の宗三なら、へし切と歌仙兼定の区別もつかぬ筈だった。
「勘違いしないで欲しいんだが、それを勧めているわけじゃないよ」
 燭台切光忠は息を吐く。
「主くんだってそうさ。きみへの負担が重すぎることはよく承知している。そうではなくて……、信頼できる刀剣男士に宗三くんの身柄を任せられなかったら、彼を刀解するしか手立てがないんだ。その時にはそれで仕方が無いんだと、きみにも納得しておいて欲しい、という話だよ」
「―――――」
 結局自分が宗三を好いているという事実は、目の前の燭台切光忠にだけでなく、主にも見透されているということか。主は宗三が刀解された後もそれが禍根にならぬよう、燭台切光忠を介して前もってへし切に打診してくれたのだろう。無論それは主の厚意によるものだ。
 だが。
「俺は……」
 へし切は体の脇で硬い握り拳を作った。
 宗三がこの世から消える。
 それは想像したくもないことだった。
 宗三にとってもそうだったのだろう。
 歌仙兼定がこの世から消える。
 それは宗三にとって想像の外、思考の外、世界の外に追いやってしまうべき事態だった。
 歌仙兼定がいなくなった後も、宗三は歌仙兼定を見放せない。故に彼が生きていた時のように今を生きるのだ。
 そしてへし切は。
 まだ生きている宗三を見放すことが、どうしてもできなかった。



 主の了解のもと、宗三の身柄は歌仙兼定の屋敷からもっと小さな住いへ移された。生前に歌仙兼定がよく使っていた茶室を改装したものが、今は宗三の幽閉場所となった。本人を証する打刀は宗三の腰から取り上げられ、小柄や小さな鋏に至るまで、刃物やそれに類するものは全て部屋から排除された。歌仙兼定の小姓で、心を病んだ宗三の世話をしていた左文字の弟、小夜左文字は、彼自身が歌仙兼定の喪失で得た心の傷を癒やす必要があるからと、敢えて打刀の兄から遠ざけられた。小夜の代わりに顕現して日の浅い短刀の子たちが宗三文字の傍につき、宗三の部屋には外から閂がかけられた。部屋から庭に出ることは出来るが、庭は外界からは隔絶されている。
 そしてそこに住まう宗三にとって、外からやってくる刀剣男士はへし切長谷部のみとなった。
 宗三の家移りが済んだ翌日。
 雲が重く垂れ込める中を強風が吹き、新芽が生えたばかりの木々を揺らしていた。
 未明ごろには嵐となりそうな気配がするその夜、初めて、へし切は宗三のもとへ顔を出した。
「……へし切長谷部…」
 見慣れた紅梅色の僧衣と袈裟。
 主座に座した宗三は、呆気ないほどに正気だった。
 少なくともそのように、当時のへし切には思えた。
「引っ越しに何か不足は無いか、見に来た」
 宗三の傍に腰を下ろしながらへし切は告げた。
「……ありがとうございます」
 宗三は素直に頭を下げてくる。
「新しく入り用なものは無いか」
 へし切に問われて宗三は首を横に振った。
「特には、何も……。もともと僕に必要なものなど、そう多くはありませんし」
 へし切に向けて力なく微笑んでいた表情が曇り、宗三が面を俯ける。
「刀さえ、取り上げられてしまいましたから……日常手入れの道具すら、不要なのです」
「……戦に出られるようになる程に恢復すれば、刀は戻ってくる。それまではゆっくり休め」
「………そうは仰いましても……」
 宗三の消沈と困惑を知って、へし切の心に哀れみが湧いた。
「ただ息をして、飯を食って、寝て、を繰り返せば元気になる。そう薬研の奴が言っていた。今すぐにではなくとも、いずれな」
「……そういうものでしょうか……」
 疑わしげに宗三左文字は呟いた。
 落ちくぼんだ目に一層陰が濃くなり、薄紅色の長い睫毛から、ぽたり、と、膝の上に置いた手の甲に涙の滴が落ちた。
「………主が僕を刀解して下されば良かったのです」
 その言葉に、俯いた宗三からは見えぬ位置でへし切がぎょっと身を強張らせる。
「昔から、空に羽ばたけぬ鳥ではありましたが、今やこんな……刀も持てぬ刀剣男士など、息の仕方を忘れたも同じでしょう。僕の籍が消えれば、主だって、もっと有用な刀剣男士をひとり、新しく顕現させられるでしょうに。………戦場で、僕こそが散ってしまえば良かった……………」
「宗三」
 それ以上は宗三に喋らせたくなくて、へし切はその細い手を涙ごと掴んだ。
 へし切自身も聞きたくなかった。
 喋るのを止めろとの意思を込めて宗三の手を掴んだはずなのに。
 だが宗三に触れた途端、己の体の芯がかっと熱くなるのをへし切は自覚した。
「宗三……」
 ざわざわと。
 己の耳の脇で、血が音を立てて血管を流れている音が聞こえる。
 右手に掴んだ宗三の白い手首。触れ合う場所は宗三の涙で温かく濡れている。
「は……長谷部」
 涙の跡を頬に残したまま、宗三が困惑したように呼んでくる。
 すぐさま手を離すべきだ。
 理性はそう告げたが、へし切は、宗三を掴んだ手を解くことが出来なかった。
「は……離し……、」
 宗三の声がどこか遠くで聞こえる。
 声の内には怯えがある。
 思えばその感情は、もう長いこと、宗三から自分に向けて発せられていたものだった。自分がもと信長佩刀の打刀だから警戒されているのだ、と、今の今までへし切は判断していた。
 だがどうやら違うようだ。へし切はどこか人ごとのように思った。
 今のへし切にとっては、己の血のざわめきのほうが遙かに大きく耳に響いた。
 宗三左文字―――信長の所有の印が胸に刻まれた、信長の為に磨上げられた打刀。
 自分が黒田官兵衛に下げ渡された後も、長らく信長の側に置かれ、本能寺まで信長と共に在った刀。
 そんな打刀が刀剣男士として僧形で顕現したのは、信長が奪うより前、所有者の今川義元がもと出家僧であったからででもあろうか。
「――――――」
 唐突に、へし切は、宗三と自分の関係が上手くいかない理由を過去の来歴から発見した。
「……俺が怖いか」
 腹の底から響くようなへし切の声に、宗三はぎくりと身を強張らせて色違いの目を瞠った。
「い、いいえ、」
 宗三の短い答えは声が震えている。嘘だとすぐにわかった。
「おまえが俺に怯えるのは………、俺が、坊主を斬った刀だからだな?」
 それは問いではなく確認だった。
 粗相した茶坊主が壁の棚に逃げ込んだのを、信長が強いて斬ったことから、『へし切』という呼称が定まった。強く振り下ろさなくても、その切れ味の鋭さで、押しつけるだけで茶坊主の命を絶った打刀。それがへし切長谷部だ。
 ドクドクと耳障りな己の血流の音。
 体中を経巡っている血が、今や一点に凝集しつつあるように、へし切には感じ取れた。
「………、ぼ、僕は……、」
 うろたえる宗三は蛇に睨まれた蛙も同様だった。
 生前、歌仙兼定が矢盾の如く立ち塞がって、宗三左文字の姿をへし切から隠してきたのは、歌仙兼定からの嫉妬だけが理由ではなく、へし切の存在がただそれだけで宗三を危うくする―――そんな危惧にもよるものだったのだろう。
「長谷部……、離し……、」
 遂に宗三が腕を引いて、自らの力でへし切の手を逃れようと試みる。
 へし切の手は反射のように動き、却って宗三の腕を強く引き寄せた。
「ッ………!」
 逃れる隙も与えず、へし切はそのまま宗三の体を床の上に引き倒した。
「―――宗三」
 顔の左側をへし切に見せて横様に倒れた宗三の上に、へし切の上体がのしかかる。
「っ…、や……、」
 へし切に押さえつけられた宗三の全身が震えている。
 青ざめた顔の上に淡紅色の髪が乱れ散っていた。息を詰めてへし切を見上げる濃い青の瞳に、紛うことなき恐怖が湛えられている。
 宗三が何を危惧しているか―――へし切にも容易に理解できた。それは事実、へし切の体の内側に、強い欲求として存在しているものだったからだ。
 へし切は瞬きもせずにただ宗三を見下ろし、乱れた裙の褄から覗く宗三の白い膝に手を触れた。
「ッ……、や、やめてください、」
 震え声で宗三が懇願してくる。
 肌を撫でるようなへし切の手の動きはすぐに、宗三を床に押さえつけて行動を抑制する印象に変わる。
「何を止めろと言うんだ」
 へし切の声も少しく震えていたが、それは恐怖ではなく昂奮の所為だった。
「ッ……、ぅ」
 どんな言葉を吐くにせよ、言語化することで何かが具体的に始まってしまうことを恐れたのだろう。宗三はわなないて息を吐くばかりで、へし切の問いには答えられなかった。
 宗三の膝を押さえたへし切の左手が、内腿を撫でながら這い上がり、宗三の両膝の間に滑り入る。
「っ、ぁ、」
 あまりの怯えに抵抗することすら思いつかないのか、宗三はその場にただ硬直している。
 へし切の右手が裙の裾を掴んで後ろ腰まで捲り上げ、宗三の臀部を夜気に晒す。
「あ……ぁ、やめ……、ひィッ…!」
 宗三の尻たぶに触れ、下褌に未だ覆われた後孔のあたりを指でなぞると、宗三がびくりと身を引きつらせた。
「息の仕方を忘れたというなら……俺が改めて教えてやる」
 荒い息とともに吐かれたへし切の言葉が何を意味するか、宗三には理解できたようだった。
「っ……、や…、っぁ、」
 力強い手で臀部を撫で回され、まだ服の内にあるへし切の凝った場所を下肢に押しつけられて、宗三は拒否しようというように身を捩った。
「ぅくッ……、ぁ、あ、主は……、このこと、を……?」
 切れ切れに、微かな震え声で宗三が、疑問の形で抗議を呈してきたが、へし切は次の一言で宗三を簡単に黙らせてしまった。
「おまえがこの屋敷に住むことと、俺が身を預かることは、無論、主も承諾済みだ」
 宗三の身体はすなわちへし切の差配のうちにある――そう宗三が誤解するような言葉を、へし切は敢えてぶつける。
「…………………っ…」
 その意味が心に届き、宗三の口から絶望の息が漏れた。
 宗三の全身から抵抗感が弱まり、言葉を無くして、ただその目からはらはらと涙を流す。
「っ…、ぅ、うぅ……、」
 完全に諦観に支配され、忍び泣くばかりとなった宗三の体を、へし切は無言で煽っていく。
 下褌をはぎ取り、剥き出しになった宗三の菊座に指で触れる。
「っう、ぁ、」
 油薬に濡れた指を菊座に押し込み、強引に揉み解しながら、緩めた襟から覗く白い項に舌を這わせ、肩に歯を立てる。
「ぁ……、あぁ…、」
 宗三はうち捨てられた人形のように、その場に頽れて、へし切の横暴を受け入れていた。
「―――宗三」
「ッ……、」
 もはや逃れようもなくなった細身の体を俯せにさせて、へし切が己の屹立を宗三の尻に押し当てる。
「ひぅ……っ、いや…だ…、ぁあ……ッ」
 ようやく拒否の声が宗三から上げられた。
 それはへし切に対する抑止にはなり得なかった。
 へし切の手はいっそう強く宗三の尻を捕らえ直す。
 亀頭が宗三の蕾に突き立ってそこを強引に押し開き、すぐに深々と宗三を貫いた。
「! ぃッ……、ひ、ぅあッ、あぁあッ……!」
 愉悦ではなく悲嘆が、宗三の喉から溢れ出た。
「く……、」
 己を締め上げる内壁の圧に耐え、へし切は呻きを漏らす。
 荒々しい情欲と征圧感だけがへし切を満たし、宗三に抱いていた思慕と憧憬は完全に思考の隅へ追いやられていた。
 宗三の心身の一切を気遣う余裕を無くして、へし切はただ、宗三を捕らえてその内側を激しく突き上げる。
「うっ、ぅ、ぁあ…っ、……ンっ、うぅッ」
 内壁を抉られ、体を揺さぶられながら、宗三が啜り泣く。
 燭台切光忠の指摘したとおり。
 男との交わり方を知っている宗三の体は否応なくへし切に向かって開かれ、宗三の意思を完全に黙殺して、へし切を受け入れるように解れていった。
 粘膜の圧迫が窮屈なものではなく心地よい狭さに変じたのを受けて、へし切の突き上げはますます強まる。
「ッ、や…、厭だ、ぅッ、ンぅっ」
 体の変化を自覚して、宗三がへし切の体の下で身悶えた。
「やぁ……ぁ、かせん……、歌仙…兼定…………っ、ぁあ、」
 宗三左文字が喪った恋人の名を呼んで泣いていることも、へし切は殆ど認識できなかった。
「ッ、く、宗三……ッ」
 僧衣を纏ったままの宗三の体の上に汗を散らし、自らの体だけを追い上げる。
 やがて、限界が唐突にやってきた。
「くッ……!」
 へし切の抽送が止まった、と見る間に内部で熱が暴発し、溢れ出す。
「つ……、」
「! ひッ……! ぁ、や、あぁ…ッ!」
 宗三の体内でへし切の竿がドクドクと脈打ち、狭い場所を精で満たしていった。




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