<其乃三>


 望まぬ相手に犯されるのみならず射精までも後孔に受けて、宗三の体は忌避感に震え走る。
「っぅ……、うぅっ」
 精を受ける間、力なく爪で畳を掻きながら、宗三は突っ伏して泣き伏せっていた。
 それでも、へし切の吐精が果たされた後には、情交がもう終わるとの思いに安堵を感じてはいたのだろう。全身を揺さぶられた所為で上がった息を整えつつ、宗三は、へし切が己の体から去るのを身を屈めて待っていた。
「ッ……う、うぅ……く……、」
 萎えた竿をいまだ宗三の裡に埋めたまま、へし切は宗三を見下ろす。
 涙と汗に濡れた頬に、宗三の淡紅色の髪が貼りついている。涙に湿った長い睫毛は揺らぎ、半開きになった唇は端に唾液を溜めていた。肌理細かい肌を晒す汗ばんだ背にも淡紅色の長い髪は吸いついて、へし切の目を眩惑する。
「……宗三…、」
 へし切が身動きをすると、繋がったままの宗三の体がひくりと動く。
 へし切は体を倒し、宗三に身を寄せて、まだ僧衣に包まれたその体を掻き抱いた。
「………っ…、」
 抱き締められ、首筋に接吻を落とされようとも、宗三は喘ぐのみで、へし切には応えない。
 宗三の体を捕らえたへし切の手が下方に回されて、宗三の竿をゆるりと掴む。
「ひ……、」
 萎えた竿を硬い手指でゆっくりと扱かれて、宗三が身を震わせた。
「俺のものだ……宗三……、」
「! ッ、………、」
 後背から、耳のすぐ傍で所有を宣言されて宗三が息を呑む。
 この状況こそが宗三の心を削ぐことに、へし切は気づけなかった。
 義元左文字と呼ばれて今川義元の腰にあった太刀を、義元を殺した信長が奪い、茎に己の銘を入れて打刀として磨り上げた。
 今の宗三が嫌忌する、刀剣時代の記憶そのままに。
 へし切は信長の如き横暴さで、宗三の体と矜恃を食い荒らしていた。
 やがて、へし切は体を起こし、未だ熱い息を吐きながらようやくに、宗三の裡から己の竿を引き抜いた。蹂躙された蕾は無残に赤く腫れ、竿に続いて内奥から、半白濁の液体がどろりと溢れ出る。
 宗三の身体が確実に自分のものになったことを実感して、へし切の心に喜悦が湧く。
 その喜悦はすぐに、更なる飢えに転じた。
 宗三の体だけではなく、心まで支配したいという欲求に。
 へし切は宗三の二の腕を掴んで、うつ伏せだった細い体を仰向けにひっくり返す。
「ぅ、あ…」
 泣き濡れていた宗三の顔がへし切の眼前に晒される。恥辱を感じ、宗三は手を上げて顔を隠そうとしたが、へし切に腕を掴まれて阻まれた。
 宗三はへし切の心理になどまったく拘泥できず、ただ打ちのめされていた。
 相手の心に添えぬのはへし切も同じことだった。
 ぐったりと身を投げ出す宗三の僧衣は大きく着崩れており、胸に刻まれた信長の印の一部が露わになっている。
 へし切が手が伸ばし、僧衣の襟を更にはだけさせる。上気した肌に、蝶の紋様が黒々と浮かび上がっていた。宗三の呼吸のたびに、生きているかのように上下する蝶の刻印を、骨張ったへし切の指がゆっくりと辿っていく。
 刻印の傍にある宗三の左の乳首を、へし切の服の袖が掠める。
「ッ……、ぅ……、」
 その触感に、宗三がひくりと身を震わせた。
 宗三の怯えた目が、見下ろすへし切と視線を合わせる。
「ふ……、」
 へし切の灰色の瞳に支配欲が湛えられた。
 宗三の反応に刺激を受けて、へし切の指が刻印ではなく宗三の乳首のほうに固執し始めた。宗三の赤い乳首は夜気に晒され汗に冷えて、固く尖っていた。骨張った指でへし切が乳輪を撫で、指先で乳首を摘まんで引っ張り上げる。
「ッ、ンぅっ、や……、」
 犯された後、諦めたように転がっていただけの宗三がここで初めて身を捩り、拒否の気配を示してきた。
「やぁっ、も、もう…、気が、済んだでしょう……、放、して…っ…、」
 乳首を捕らえるへし切の指を外そうというのか、宗三が手を動かしてへし切の腕を退けようとした。
 だが打ち萎れた宗三の体には力が入っておらず、へし切は却って宗三の手首を捕らえて易々と畳の上に押しつけてしまう。
「ふ、」
 へし切は唇の端を歪めて笑い、宗三を見下ろした。
「一度おまえを抱いたくらいで、俺の気が済むと思うのか…?」
「………っ、」
 宗三が怯えに色違いの両目を見開いた。
 獲物を捕らえた肉食獣の如く、飢えと満足とを同時に顔に上せて、へし切が宗三の顔を覗き込んできていた。
 投げ出したままの宗三の下肢にへし切がぐい、と腰を押しつける。
「ひ……、」
 そこが再び猛っているのを触感で悟り、宗三が身を強張らせた。
 またも凌辱を受けると予感して、宗三は顔を青ざめさせる。
「や……、もう、厭だ……っ、ぁ、」
 暴れようとする薄い体を、へし切が更に力を入れて押さえつける。宗三の両腕を頭上で一つにまとめ上げて片手で床に押しつけ、下肢は、両膝で宗三の脚に乗り上がって抵抗を封じていた。
「もう長いこと……、お前を遠くから見てきたんだぞ……。一度限りで、俺が満足する筈がなかろう」
「っ……」
 へし切の残った片手が宗三の顎を捕らえた。
 宗三は逃れることも叶わずに、へし切を見上げることしかできない。
 獣性を帯びた灰色の瞳に顔を覗き込まれて、宗三の顔が恐怖と嫌悪に歪んだ。
「や……もう、やめてください……、お願いです、」
 掠れた声で宗三が懇願したが、それは切れ切れの囁きにしかならない。懇願が叶えられるとは、宗三自身も思っていない様子だった。
 へし切の、宗三の顎を掴む手の握力が強くなる。
 へし切は再度、宗三の上に覆い被さった。
「ッ……! や……、ンぅっ!」
 拒否の声を上げかけた薄い唇にへし切の唇が宛がわれる。
「ン、ンむ、ッぅ、」
「っふ……ッ、」
 逃げようとしてもへし切の力強い手が宗三の細い面を捕らえ、更には下顎を掴んで強引に口を開かせてきた。
「ンぅう……ッ! ぐ……」
 抵抗することもできずに宗三の歯列は割られ、へし切の舌が口内にねじ込まれる。
 舌で口腔を嬲られながら唇で強く皮膚を吸い上げられ、宗三の口の端には幾つもの痣が出来た。
「ンっ、くふッ……、む、ンぅっ」
 強い拒否の表情が宗三の面に上る。だが、相手に犯されたばかりの身には諦念が強すぎて、もはやへし切を自力で押し退けることは宗三には不可能だった。
「ンんッ……!」
 へし切は思うさまに宗三の口中を犯し、唇に歯を立て、吸い上げて痣をつける。
 へし切の口はやがて宗三の唇から離れ、口の端や顎、首筋にまで接吻痕が及んだ。
「一晩をかけて、きっちり可愛がってやる」
 荒々しい接吻の合間に、情欲に浮かされたへし切の傲岸な声が響いた。
「ッ、」
 その宣告に、宗三の身が震えた。
 へし切の手が、宗三の体から衣服を完全に奪い去る。
 露わになった宗三の腰元に手を伸ばして、へし切が再び宗三の竿を掴んだ。
「っく、」
「今度はおまえも満足させてやるぞ、宗三」
 捕らえた竿を、勃起を求めて力強く扱き上げながら、へし切が言い下ろす。
「……! ひ、や、厭だ、」
 望まぬままに己の体が変質していくのを感じ、宗三が絶望の声を上げた。
 己の身体までもが宗三を裏切り、へし切の手の中で宗三の竿は大きく硬化していく。
 宗三の竿を掴んだまま、へし切は宗三の下肢を開かせて、己の屹立を再び宗三の尻に押し当てる。
「ぁ、あ、やだ………、もう、やめて……、赦してくださ…っ…」
 顔を歪ませて泣き濡れながら、宗三が懇願する。
 だが先刻より緩んだ宗三の菊座は、へし切が軽く腰を落とすだけで、たやすくへし切の先端を受け入れてしまう。
「ひッ……! あ、あぁ…ッ…!」
 懇願の最中に、再び後孔にへし切が侵入を果たしてきて、宗三の喉から悲鳴が上がった。
「く……」
「ひィ………!」
 へし切が屹立を更に奥へと押し込んで、竿先が宗三の前立腺を刺激する。
 びくりと震えた宗三の表情を、放出を耐えつつ、へし切が笑いながら見下ろしていた。
「ふ……お前も、感じるか……?」
「! …ッ、」
 屈辱に眉を歪め、宗三は激しく首を横に振る。
 だがへし切が内部で竿を擦り上げ、再び前立腺を刺激されると、宗三の身体はまたも震え走った。
「あァっ…!」
 それまでとは違う恐怖が宗三を襲う。身体を奪われるのではなく快楽を強制されて心をもぎ取られるのは、ただ体を犯されるよりも尚屈辱的だった。
 しかし要領を得たへし切に幾度も同じ場所を突かれて、宗三の身体からは力が抜け始める。
「はぁッ、や、やだ、ッ抜いて、くださ……、あ、ンぁぅっ…!」
「感じるならそう言え。声を出せ」
「っ、や、厭だ…ッ…、ぅ、あ、…あぁうッ……!」
 宗三の悲嘆を無視して、へし切の抽送が激しくなった。
 へし切は腰を寄せ、上体を倒して、一層密着した姿勢で宗三を煽り始める。
「宗三………、」
「あッ、あぁっ」
 繋がった下半身からぐちゅぐちゅと淫猥な音がする。
 へし切に深く突かれる都度、屹立した宗三の竿先がへし切の腹に当たる。先端からは先走りが漏れて、筋肉質のへし切の腹を汚していた。
「宗三……、宗三、」
 宗三を突き上げながら、恍惚とした声が己の喉から漏れていることなど、へし切は自覚も出来なかった。
「や、ぁ、あッ、んうぅッ、」
 犯されるばかりか、もはや愉楽でもへし切から逃れることが出来なくなって、宗三は声を上げて嘆く。
 へし切の身体を押し返そうというようにその胸肌に宗三の手が当てられていたが、その手に既に力は無く、むしろ恋人同士と錯覚するような密着度で、繋がり合った身体は高まっていった。
 抽送をやめぬまま、深く穿った宗三の腰を、ぐいとへし切が抱き寄せる。
 前後から擦り上げられて、限界近くまで膨張していた宗三の竿が、へし切の腹に強く触れた。
「! っ……や…あ………! た、たす…けて……ッ、ひぁうッ……、あぁッ…!」
 上気した頬に涙を零しながら、宗三は白い喉を仰け反らせる。同時に、宗三の屹立がびくりと跳ねた。
 繋がったまま宗三の射精が始まる。
「っ……あぁあ……ッ……!」
 宗三は絶望の表情で、へし切は満足の面で、宗三が吐精を果たすのを受容していた。
 へし切の腹と宗三の腹を大量の白濁で汚して、宗三の竿は萎えた。
「…あ……、あぁ…、」
 へし切の体の下で、力なく横たわって、宗三は茫然と喘いでいる。
 涙に滲んだ目の端から、新たな一滴が紅潮した頬を伝い落ちていき、そしてそれきり、宗三の涙は絶えた。
 接吻痕を幾つも残す赤い唇は所在なく半開きに開かれ、唾液の絡んだ舌が覗く。
 顎にも首にも、胸にも、へし切がつけた赤い痣が呪縛の如く散り咲いていた。
「宗三………、」
 繋がったまま、自らも放出の欲に耐えながら、へし切が熱に浮かされたように宗三の名を呼ぶ。
 潤んだ緑と青の瞳が、もはや抗う気力もなくへし切を見返してくる。
 へし切は汗ばんだ宗三の腕を取り、弱々しく藻掻く細い指に己の骨張った指を絡めて、掌を合わせ合うようにして両手を繋いだ。
 暗がりの中で、自分を凌辱する男が頬を上気させ、満足げに微笑するのが緑と青の目に映った。
「俺たちはもう……、恋人同士だな……?」
「っ、……………、」
 へし切の灰色の目を見つめる、宗三の喉が。
 一度だけ、しゃくり上げるように上下した。
 宗三はへし切から目を逸らさない。
「…………、ぁ…、」
 へし切の視線が湛える親和の情はむしろ宗三を傷つけた。
 下肢が揺らぐと、ぐちりと己の中で異物が動き、へし切の勃起した竿が知覚される。それもまた、宗三の心を抉っていく。
「宗三」
 へし切の顔が再び宗三の顔に寄せられ、唇と唇が触れた。
「ンぅ……、」
 宗三はもう抵抗を見せなかった。へし切の硬い唇を受け入れて、自ら両唇を開く。
 口中に割り入ったへし切の舌からも宗三は逃げず、舌同士が絡むままに、薄い舌先が揺らぎ、へし切の煽りに弱々しく応えてくる。
 へし切の竿を飲み込む宗三の下肢からも、緊張は既に解けていた。
 宗三からへし切に対する心身の盾はすべて取り払われて、へし切は、遂に宗三の全てを手に入れたと歓喜した。
 唇を離して、下肢を揺すり、宗三の内壁をゆっくりと抉る。
「ンあッ、ぁうっ」
 宗三が喉を開いて喘ぎ、その熱がへし切の顔に吹きかかった。
 繋いでいた手を解いて、替わりに己の胴に宗三の腕を回させ、しがみつくような恰好にさせると、宗三の手は誘導されるままにへし切の肌に貼りついて、自ら離れることはなかった。
 身体同士が深く密着し、熱が熱を与え合う。
「ふぅッ、ン、あぁっ」
 へし切に揺さぶられて宗三が弱々しく声を上げる。
 強く悦んでいるとも思えぬが、さりとて厭うようにも見えない。
 へし切は宗三の両太腿を手で掴んで、強く深く抽送を続ける。
「っ、ひぅッ、」
「どうだ……、イイか? 宗三……、」
「……っ、は、ぁ、」
 宗三は声で返事こそしなかったが、ごとりと落ちていた頭がかろうじて、頷く形に微かに動いた。
「ふ……、俺も……、具合が、いいぞ……、」
「………、ぅ、あぁっ、」
 へし切は再度、己を宗三の身体の中で追い上げていく。
 へし切の放った精でぬるつく宗三の内壁が、へし切を心地よく締め上げる。
 最前に見つけた宗三の快楽の巣を竿先で幾度も突けば、宗三が喉から上げる声は高く細くなり、熱い肉襞が程よくへし切の竿に絡んでくる。
 靡くばかりの宗三の身体を貪るうちに、己の中の快楽と同時に支配感と所有感が高まって、へし切の怒張は限界を感じるほどに宗三の中で大きく膨れ上がっていった。
「くっ…、射精()すぞ……、宗三……、」
「ッ……はぁうッ………、」
 再びの吐精を宣告されても、宗三は拒む気配を見せない。
 へし切を受容するその姿勢が、へし切をまた一つ満足させる。
「ッ……、」
 やがてへし切は宗三の尻に己の腰を突き当て、予告の通りに、宗三の内奥深くに二度目の精を放った。
「っ、く………!」
「ぅ、ああっ……ぁ、」
 射精するへし切の竿の脈動に合わせて、宗三の内壁がびくびくと蠢く。
 二度も精を受け、腸内を他者の熱で満たされて、前立腺を再び裏から強く刺激された宗三の身体は、全身が弱く震えていた。
「はぁっ、は……、」
「つ……、」
 さすがに少し疲労を自覚して、へし切は繋がったままその場で息を整える。
 宗三の寝乱れた淡紅色の髪が、密着したへし切の身体に汗で貼りついていた。
 見下ろせば宗三のほうも、身体は熱に煽られて全身が仄赤く染まり、肌には汗の滴が浮いている。
 しかしその目から、涙は既に乾いていた。
 へし切は手を伸ばして宗三の頬に触れる。
 骨張った指が、宗三の顔の輪郭を辿っていく。
 へし切にされるがままになりながら、宗三は茫然と宙空を見つめていた。
 空気を求めて薄い喘ぐ唇が弱々しく動き、なにかの言葉を紡ぐように形をつくる。
 ――――かせん、と。
 あまりに微かな、宗三の掠れた声は、戸外の風の音にかき消されて、誰の耳にも届かなかった。
 屋敷の外に、夜の嵐が迫っていた。


 閉て込めた雨戸の外で、風雨が荒れ狂っている。
 風がガタガタと戸を揺らし、時折、部屋の中にまで風が吹き込んできていた。
「宗三」
 へし切がぐったりと力を抜いた宗三の身体を再び抱き寄せ、裸身を絡ませる。
 へし切の手と唇と舌が、宗三の体中を這う。
 部屋の唯一の明かりである行灯の火が、隙間風に揺れている。
 へし切の竿が、三たび宗三の後孔を穿つ頃には。
 風に灯が吹き消されるように、宗三の目の光も覚束なく揺らぎ、やがてふつりと消え果てた。





next