<其乃七>


「………な…何故ですか………?」
 歌仙兼定に向けて尻を出すように言われて、宗三左文字が不安げに問うてくる。
 犬や猿の取る序列行為に似た体勢だが、自分が下位側の姿勢を取らされることに、羞恥と言うだけではなく、屈辱めいた強い抵抗感があるようだ。
「なぜって…、そうしないときみと契りを結べないだろう」
 当然というように歌仙兼定は答える。宗三左文字は薄い唇を噛みしめて頬を紅潮させ、目も赤く潤ませて、屈服感と戦っている。
「か…歌仙兼定……、別の姿勢は、とれないのですか……?」
 かろうじての宗三左文字の提案に、歌仙兼定は首を横に振る。
「初めてだから慎重にしたほうがいいよ。きみの体に負担をかけたくないんだ……宗三左文字どの。頼むから言う通りにしてくれ」
「………っ…」
 自分の為と言われてはそれ以上押せず、宗三左文字は諦めたように顔を俯けた。
 宗三左文字の体を思いやっての姿勢であることは無論だが、それが同時に宗三左文字の危惧通り、支配と被支配の関係をより強く認識させる体勢であることは、歌仙兼定も宗三左文字以上に承知している。観念した宗三左文字が緊張した面持ちで、熱を帯びた裸身を歌仙兼定の目に晒し、ゆっくりと尻と背中を歌仙兼定の前に向けるのを、歌仙兼定は固唾をのんで見守っていた。
 初期に抵抗したとは言え、屈従とも呼べるほどの姿勢を宗三左文字自らが取ったことで、歌仙兼定の中に支配欲と征服欲、そしてそれらと強く連動している性欲が勢いよく湧き上がる。初めて見る宗三左文字の臀部は首元よりもいっそう白く、中央の孔は色づきながらも固く蕾んで、宗三左文字の清楚や無垢を歌仙兼定に向けて主張するかのようだった。
「綺麗だな…宗三左文字どの……」
「………、く……、」
 うっとりと言われて、歌仙兼定に向けて這いつくばった宗三左文字の喉から、恥辱の呻きが漏れた。
 例え相手が歌仙兼定であっても、このような姿勢が、長らく『天下人の佩刀』として扱われてきた宗三左文字にとって屈辱的なのは変わらない。宗三左文字は、怯えと屈服感、歌仙兼定への被支配感に心身を震わせていた。しかし同時に、何故かそれらは宗三左文字の中に淫靡な期待も育てていて、宗三左文字は己の心がわからなくて混乱する。
 宗三左文字の、白磁のように滑らかな尻に、歌仙兼定がそっと手を触れる。
「っ……」
 ぴくりと宗三左文字の背が震えた。豪奢な淡紅色の髪は今はすっかり乱れて、宗三左文字の白い肌のあちこちに散り、宗三左文字の汗によって重く皮膚に貼りついている。落花して散り敷いた桜の花片のごとくに見えるその髪を優しく肌から払いのけて、歌仙兼定はゆっくりと宗三左文字の背と尻を撫で回していった。
「は、ぁ、かせん……、」
 かすかに自分を呼ぶ声が聞こえる。
「うん」
 答えるように頷いて、歌仙兼定は、宗三左文字の尻たぶに口づけて、唇で吸いつく。
「! ッ…ぁ…、ァ……!」
 皮膚どうしとは違う触感に、宗三左文字の声が跳ね上がった。それに応じるように、歌仙兼定は更に臀部に接吻を続けていく。
 乳首と同様、痣の残りやすい宗三左文字の尻の皮膚に、歌仙兼定がつけた接吻痕が残る。場所を変えながら歌仙兼定は舌でも舐り、時折は軽く歯を立てたりなどしてみる。
「ひ……はぁっ…あッ…!」
 熱く濡れた触感や軽い痛み、いずれの刺激も宗三左文字の肉体に甘い痺れをもたらし、宗三左文字は身を震わせながら、歌仙兼定が与える淫熱を享受していた。背を向けて尻を差し出す姿勢は屈辱的だが、同時に、臀部に口淫を受けるのは奉仕を受けているような感覚もあって、宗三左文字は、己の今をどう認識したらいいのかもわからずに惑乱を強めていく。
「うっ…ぁ、はぁ……歌仙兼定……、っはッ…」
「感じるかい? 宗三左文字どの……」
 後孔に熱い息を吐きかけて、後ろから手を伸べて宗三左文字の竿や陰嚢をまさぐりながら、歌仙兼定が問うてくる。
「ン、あぁ、……ッ」
「接吻したところが赤くなって……口づけるたびにきみの体が熱くなっている。わかるだろう……?」
「……っ、ン……、」
 かくりと首が落ちるように宗三左文字が頷く。歌仙兼定は笑って、次の段階へと移行した。
「! ッ……、ひッ………!」
 尻の中央に濡れた舌を宛がわれて、宗三左文字の背がびくりと跳ねる。
「ッ…あッ、や、なにを……!」
 初めての触感に身を捩り、それから逃れようとするが、却って歌仙兼定の手に腰を捕まえられてしまった。
「こらこら。逃げたら、きみのお尻の穴を舐められないじゃないか」
「ッ…! な、舐め……、な、なぜそんな場所を……、ンぁッ、あッ……! や、やめ……あぁッ!」
 宗三左文字が厭がるのを知っていて、歌仙兼定はわざと直截に答えた。何をされているかをじゅうぶんに宗三左文字に理解させた上で、さらにねっとりと後孔を舐り、舌で唾液をまぶしていく。
「ひッ……やぁっ……! け、汚れた場所を……っぁ、ンぁッ……! や、やめてください……っひッ……!」
「契りを結ぶときには不浄の場所は無いと教えただろう? ……そもそも、契りを結ぶまでもなく、きみの体に汚れた場所など無いよ。その綺麗な額の髪から、足指の先の爪まで……きみの体の全部が、僕が口づけて賛美するに相応しいものだよ」
「……っ、…かせ……、」
「それに……泣いて赦しを請うても赦さない、とも僕は言ったよね? きみはそれに『わかった』と応えたはずだろう……宗三左文字どの」
「ッ……、ぅ……」
 唾液に濡れた宗三左文字の後孔をさらに指と舌で煽っていきながら、同時に歌仙兼定は宗三左文字への支配を強めていく。言質を取られている宗三左文字の抵抗は力を失い、歌仙兼定は思いのままに宗三左文字の後孔を舐めて、口で吸い付き、緩んできた蕾に更に唾液を絡めていった。
「ンッ…ぁ、あぅ…ッ、っく………、はひ……」
 歌仙兼定に執拗に舐られて、抗議の意志も断たれ、宗三左文字は完全に歌仙兼定に屈して、淫楽を体が巡るに任せるほかなくなっていた。歌仙兼定に捕らえられた下肢は力を失ってふらつき、頭は既に寝床の上に落ちていて、わななく唇から溢れた唾液が顎に滴り寝具を汚していく。
 歌仙兼定の煽りによって宗三左文字の体は緊張を失い、蕾は急速に絞りを弱めていった。
「…、ふ………」
 それを見下ろし、自らも情欲に熱い息を吐きながら歌仙兼定は微笑んで、宗三左文字の後孔にゆっくりと、軽く指を潜らせる。
「ッ! く…ぁう……ッ…!」
 とば口に圧迫を受けた宗三左文字が瞬間体を強ばらせたが、歌仙兼定が空いた手で宥めるように宗三左文字の肌を撫でると、緊張はすぐに解けて、宗三左文字の後孔は歌仙兼定の指を難なく飲み込んでいった。
「っ…ぁ……ンぁッ……!」
 指の関節が潜るたびに宗三左文字は声を漏らした。痛みと言うよりは、初めて感じる逆流感に違和感を感じているものらしい。歌仙兼定は、宗三左文字の後孔が優しく食い締めながら己の指を飲み込んでいくのを、息を止めて見つめる。
「……、は…、すごいな…、宗三左文字どの……」
「っくっ………」
 指を根元まで突ききり、歌仙兼定は、宗三左文字の奥部を指先でゆるゆると探った。
「! っくぅッ…! ひッ…は………ァッ…!」
 歌仙兼定の指先の動きに合わせるように、びくびくと身を震わせて、宗三左文字が高く掠れた声を上げた。
「ここ……気持ちいいのかい……?」
「ひッ…う、あ、ンぁッ……あ…ッ!」
 歌仙兼定の指は的確に宗三左文字の快楽の巣を突いていた。
 前立腺を裏からまさぐられて、宗三左文字は強い愉楽に襲われて身悶える。
「きみの体は本当に……触れられると、感じやすいんだな……、そんなに無垢で、無知なのに…、」
 昂奮に声を上ずらせて歌仙兼定が呟いた。
「あッ、はぁ、ンぁっ…やっ……ぁ、か、かせん……!」
 幾度も快楽の場所を突かれて、宗三左文字は屈服感も忘れて声を放つ。
 下肢から来る淫楽が宗三左文字の体全てを支配していて、頭ではもう何も考えられない。
「今、僕の指がきみの中に何本入っているか……、わかるかい……?」
 三本の指を宗三左文字の後孔に埋め込みながら歌仙兼定が問うた。快楽に弛緩した宗三左文字の蕾は大きく押し広げられても裂けることもなく、指の動きに合わせて収縮を繰り返すその様は、まるで歌仙兼定を誘っているかのようだ。
「ぁふッ……ひ…あッ…、わ、わからな……ッ、ン、ンぁあッ…はぁッ…」
「そろそろ挿れるよ。宗三左文字どの…」
 宗三左文字の淫靡な様にすっかり情欲を煽られて頬を紅潮させ、歌仙兼定が後背から声をかけた。
 宗三左文字の後孔から指を抜き、替わりに、再び大きく勃起した竿を入り口に押し当てる。
 尻たぶを歌仙兼定の両手で掴まれた宗三左文字は、しかしその瞬間我に返り、ひくりと身を強ばらせた。堕とし込まれた愉楽の中に矜恃がはたらき、汗ばんだ白い裸身が、歌仙兼定の体の下で捩られる。
「ッ、や、いや、待って…くださ…、歌仙兼定……、ッこんな、体勢は……!」
 支配と被支配の序列が誇示された姿勢のまま、獣のように後背から貫かれることに強い抵抗感を示して、宗三左文字は、這うように身を捩って歌仙兼定から逃れようとした。
 だが、『天下人の佩刀』としての宗三左文字の、危うい矜恃から来たその最後の抵抗こそは、むしろ歌仙兼定の征服欲を強く煽る羽目になった。
 歌仙兼定は宗三左文字の体を力強い手で押さえつけて、その尻を割る。
「聞き分けが無いよ、宗三左文字どの…、……僕を好きなら、我慢するんだ……!」
「…ッ、………!」
 歌仙兼定は有無を言わせぬ膂力で宗三左文字を捕らえたまま、再度その尻に竿を突き当てて、後孔に容赦なく竿先を潜らせた。
「! ひッ……! は、ァッ………!」
 とば口の強い圧迫感に宗三左文字は悲鳴を上げて身を仰け反らせた。玉の汗が散って、剥き出しの背中の上で淡紅色の髪がうねり、枝垂桜の花滝のように白い肌の上を滑り落ちていく。
「いっ…やッ…あぁ……、歌仙、兼定……!」
 悲嘆と苦痛の混じった宗三左文字の声に拘泥せず、歌仙兼定は宗三左文字の更に奥へと己を穿ち込んでいく。
「っ、ひ、っや、ッあぁあッ……!」
 体内深くに侵入してくる歌仙兼定の雄を感じ、圧迫感と逆流感に身を震わせながら、宗三左文字は床に頽れて泣いた。自らの意思で歌仙兼定を受け入れたとは言え、それまで自分が守り通してきた矜恃の一角が、他者によって突き崩されてしまったことに変わりは無い。屈辱とまではいかなくても、今まで感じた事のない屈服感に打ちのめされて、宗三左文字はしゃくりあげながら歌仙兼定の体の下にうずくまった。
 歌仙兼定の竿は奥まで宗三左文字を穿ちきり、宗三左文字の尻に歌仙兼定の腰が触れる。
「っ……、くッ……」
 歌仙兼定の竿先が宗三左文字の前立腺を刺激して愉楽が蘇り、宗三左文字は新たな怯えに身を震わせた。
 先程同じ場所に侵入してきた指と同様に、自分の内部で歌仙兼定が腰を揺すり上げたら。
 このまま快楽に落とし込まれて、完全に歌仙兼定に支配されてしまうのだろうか。
「……宗三、左文字どの……?」
 しかし歌仙兼定は動かなかった。
 後背から、宗三左文字を奥まで貫いた男が声をかけてきて、頭にそっと手を伸ばしてくる。
「泣いて、いるのかい……?」
「っ、ぅ…」
 後孔に屹立を突き立てられているのに頭を優しく撫でられて、宗三左文字は恥辱と安堵の双方を感じて惑乱する。
「痛むのかい……? それとも…、泣くほど厭だった……?」
 後背から耳の後ろに口づけられながら、歌仙兼定が優しく囁いてくる。
 宗三左文字の体内から痛みは急速に去り、代わって歌仙兼定の、体内に埋め込まれた熱と、掌から伝わる熱のふたつだけが、宗三左文字に感知できる刺激になりつつあった。
「…ッ、く……、」
 歌仙兼定に言われて、宗三左文字の両の目からは却ってぼろぼろと涙が溢れ出した。
 涙の理由は今や屈服感ではなく、歌仙兼定に気遣われる安心感と、長らく心に抱きながら自覚もせずに隠しおおせてきた被支配欲が、今唐突に満たされたことに対する衝撃によるものだった。あの夏の日から、自分はいつか歌仙兼定に屈するしかなかったのだろう。歌仙兼定の支配は、宗三左文字がそれまで知っていた支配よりもずっと甘美で心地よく、初めて触れられたあの時から既に、宗三左文字には抗いがたいものだった。今彼を拒めないのは何故か、と瞬時考え、宗三左文字の脳裡にはすぐに回答が現れる。
     歌仙兼定を好きだから、と。
「宗三左文字どの」
 後背から声をかけられて、涙のうちにも、宗三左文字の背はぞくぞくと総毛立つ。
「はっ…あ、あぁ……、歌仙兼定……っ…」
 泣いたことによる息苦しさに喉を詰まらせながら、宗三左文字は歌仙兼定の名を呼んだ。
 後背位での情交を押し通し、まさか泣かれるとまでは思っていなかった歌仙兼定は、その宗三左文字の声に、自分への拒否は無いのを察して安堵する。
 初めて他人の屹立を受け入れた宗三左文字の苦痛と屈辱感を和らげる為に、歌仙兼定は動きたいのをこらえて、宗三左文字の上体に覆い被さって彼の身を抱きかかえ、頭や汗ばんだ裸身を宥めるように撫でていく。後孔以外の接触から宗三左文字に熱が伝われば、宗三左文字の体の緊張はもう少し解けていくはずだった。
「きみの中は温かいな……、宗三左文字どの」
 微笑して宗三左文字の耳の後ろに熱い息を吐きかけながら歌仙兼定が言う。
「僕の熱が……、きみに、わかるかい……?」
 宗三左文字の体の前に回した手で、その薄い胸板や乳首を撫で上げながら歌仙兼定が囁くと、宗三左文字は収まりかけた涙を飲み込みながら、こくりと頭を頷かせてきた。
 宗三左文字の体の強ばりはかなり緩んできて、きついほどに歌仙兼定の屹立を締め上げていた後孔の絞りも、ほどよい狭さに収まりつつある。
「ふ……。きみを、こうして、この手に抱くことが出来て、僕は幸福だよ……宗三左文字どの」
 淡紅色の髪をかき分けて、宗三左文字の耳の後ろから紅潮した頬に口づけながら歌仙兼定は告げた。
「きみは僕のものだ。僕の前に舞い降りた鳳凰……、僕だけの鳥だ」
「……っ、は、ぁ…、かせん……、」
「きみの、こんな……妖しく乱れた姿を知るのは僕だけだ……こうして、きみを穿つのも」
「! っ、……」
 歌仙兼定が探るようにほんの少し腰を揺すると、穿たれた宗三左文字がひくりと身を震わせた。
 その反応はもう痛みによるものではない、と歌仙兼定は踏んだ。
「……、ふふ…、気持ちいいかい…? 宗三左文字どの……」
「ッ…、ん……っ」
 後孔を埋められ、全身を撫で上げられて、汗すら混じり合うほどに密接して、鼻腔は歌仙兼定の体臭で満たされながら、宗三左文字は頷いた。体中のどこにでも歌仙兼定の気配が侵入していて、宗三左文字は、もはや自分がどこにいるかもわからなくなりつつある。
「好きだよ。宗三左文字どの」
「! っはッ……」
 優しい声で告白されて、宗三左文字の身が揺らいだ。歌仙兼定の竿を包む後孔の粘膜がぞろりと蠢いて、互いに切ない快楽が伝わる。
「はぁ……あぁッ…、か、歌仙兼定……ッ、」
「痛くはない?」
「ン……っ」
 宗三左文字の肯定の返事を受けて、歌仙兼定は宗三左文字への気遣いよりも己の欲情を強く認識する。
「そろそろ……動いて、いいかな? 宗三左文字どの……」
「っ…、はぁっ、は……、」
 返事は無かったが、宗三左文字の体が、歌仙兼定の抽送を待つかのように身構えるのがわかった。
「ふ……っ、」
 先程よりも僅かに深く、歌仙兼定が腰を揺らす。
「! ッ、ひぁッ、は………っ」
 宗三左文字の下肢は意外なほどに柔らかく頽れて、歌仙兼定の竿を熱い愉楽で迎え入れた。
「ンぁっ、あ、歌仙兼定……っ」
 震える声で求めるように名を呼ばれて、もうそれ以上待つことすら歌仙兼定にはできなくなった。
「くっ……、く、ふッ…、」
 汗で滑る宗三左文字の細い腰を抱え直し、くったりと力を失った彼の下肢を腕で支えるようにしながら、歌仙兼定は宗三左文字の後孔を突いていく。
「ひッ、あ、はッ、くは、あぁッ」
 切れ切れに細い喘ぎを漏らしながら、宗三左文字は歌仙兼定の抽送を受け入れていた。
「宗三左文字どの……」
 荒く熱い息を吐きかけながら、歌仙兼定が名を呼んでくる。
「ンっ、あぁッ、くぁあッ…!」
 竿先で幾度も裏から前立腺を突かれ、体を揺さぶられながら、宗三左文字は快楽に耽溺していた。
「あッ、ひぁあ、歌仙兼定…っ、あぁ…ッ…!」
「感じるかい……? 気持ち、いい……? 宗三左文字どの…、」
 突き上げを緩めぬままに歌仙兼定が尋ね下ろす。
「ンぅっ、は、あぁッ…、」
 喘ぎの合間に頷くだけでは満足できなかったのか、歌仙兼定は宗三左文字の体を抱きすくめて覆い被さり、宗三左文字の赤らんだ耳に甘く齧りついて、微笑しながら、熱い息を吹き込んできた。
「口に出して、言ってごらん……、気持ちいい、と」
「! ッ…、ン、ぁ、あぅっ……く…、」
「言って。もっと、僕が欲しい、と」
「っ、ふぁうッ……」
 後ろから回された手に宗三左文字は細い顎を捕らえられた。開きっぱなしの薄い唇に歌仙兼定が汗ばんだ指先を当てる。突き上げられるたびに喘ぎを乗せる舌の先が指に触れ、歌仙兼定の味が宗三左文字を苦く痺れさせて、快楽に酩酊した理性が更に宗三左文字から剥ぎ取られていった。
「ふぁッ、ンぁ、あぁっ…か、かせん……ッ、き、もち、い……ッ、ンぁあッ、」
 淫楽に潤んだ色違いの両の目に涙を滲ませながら、汗を散らし、宗三左文字が声を上げる。
「あッ、ほ、欲し……ッ、ンぁっ…、かせん、かねさだ……おねがいです…、っ…もっとッ………あァッ……!」
 愉楽に支配された宗三左文字の素直さに瞬間歌仙兼定は目を見開き、それから頬を紅潮させて、満足げに微笑した。
「ふ……、素晴らしいな、宗三左文字どの……。お望み通り…、いくらでも、こうして突いてあげるよ…、っふッ…、」
「ンっ! あぁッ! っひ…あぁ……! 歌仙兼定……!」
 満たされること、支配されること、せつなくなること。すべてを歌仙兼定から与えられて、宗三左文字は高く掠れた声を上げ続けた。裏側からの刺激に自分の竿が再び強張り、先走りの液を零していることを自覚も出来ない。
 宗三左文字の心身を完全に手中にして、歌仙兼定は至福のうちに宗三左文字を穿っていった。自分が愉楽を満たす為に腰の動きを変えても、宗三左文字の体は抵抗せず、むしろ歌仙兼定を悦ばせようとしているかのように歌仙兼定の抽送に応えてくる。
「ッ…、はっ…、は……、」
 もはや言葉も失って、歌仙兼定は宗三左文字の肉体を貪る。
 暫くはお互いの、快楽に満たされた喘ぎ声と、繋がった場所から漏れる淫靡な水音だけが寝所に響いた。
 長く続くよう願うばかりの愉楽にも、だがやがて終わりは来る。
「っ、く……、宗三左文字どの…、そろそろ……っ」
 歌仙兼定がそう声をかけた。
 宗三左文字の中で歌仙兼定の屹立ははち切れんばかりに膨張し、もう随分前から、放出を必死に耐えながらの突き上げになっている。
「ンぅ、あぁ、ンぁあッ」
 後背位への拒否感すら失って彼を受け入れている宗三左文字は、そう声をかけられても先程と同じく、やはり何が意図されているかわからないようだった。
「もう、出るよ……宗三左文字どの……、っ…」
 自分が精を放つときの宗三左文字の顔を見ていたくて、歌仙兼定は宗三左文字の体を抱え上げ、手で顎を掴んで、快楽に溺れたその優しい面を上向けにさせた。
「ッ、は、ぁうっ…ンぅッ」
 腰から揺すられて同じように揺らぐ淡紅色の髪をかき分け、宗三左文字の汗ばんだ顔が自分からよく見えるようにする。色違いの両目の目尻から汗と涙の混じったものが溢れ落ちて、紅潮した頬を辿り、細い顎からくっきりした鎖骨へと滴っていく。
「今……出すから……、受け止めてくれ…、宗三左文字どの……!」
 言われても意味もわかるまいと思いつつ、歌仙兼定は腰を深く突き込んで、宗三左文字の中で己を解き放った。
「くッ……ふ…!」
「! っぐ……ひ…うぅ………ッ…!」
 体内で爆発した熱が宗三左文字の内部を強く刺激した。その圧迫と逆流感に、潤んだ目を大きく瞠って、唾液に濡れた赤い唇をわななかせ、宗三左文字が悲鳴に似た声を上げた。
「あ……ぁ、かせ……ッ…、」
 その掠れた声から、宗三左文字もまた苦しいほどの愉悦の中にいることが歌仙兼定には知れる。
「く……、宗三左文字どの……、」
 達したばかりの歌仙兼定が前に手を回し、宗三左文字の膨張した屹立を捕らえて強く擦り上げた。
「ッ…! ン……ぁ、あッ…ぐ………! かせん、かねさだ……ッ!」
 表と裏から強い煽りを受けて宗三左文字がびくりと裸身を震わせ、歌仙兼定のものを中に埋め込んだまま、宗三左文字自身も放出が始まった。
「ン……う…、ふぅゥ…っ………!」
 びくびくと幾度か屹立が歌仙兼定の手の中で震え、宗三左文字は歌仙兼定に捕らえられたままで精を放ちきる。
「は……ぁ…あッ……」
 放出を終えてがっくりと頽れた宗三左文字の後孔から、歌仙兼定は慎重に己の竿を引き抜いた。
「っ、くふッ……」
 強い疲労に支配された宗三左文字の身を優しく寝床に横たえてやり、宗三左文字の剥き出しの臀部を指で探る。
「ン、ぁ、…あっ……」
 幾度も突き上げを受けて押し広げられた宗三左文字の蕾を指で探り、掘り起こすと、抜いた指の後から、歌仙兼定の紛れもない征服の証である白濁した液体が滲み出てきた。それを歌仙兼定はまだ整わぬ息のまま、熱を帯びた緑の瞳で満足げに見下ろす。
 淡紅色の髪より赤く染まり、あちこちに接吻痕や歌仙兼定の指の痕をつけた宗三左文字の白磁のような肌を、歌仙兼定は優しく指で辿る。宗三左文字と同様に、精を放ったが故の虚脱感は無論あるが、それ以上に、宗三左文字を手に入れた満足による昂奮が未だに歌仙兼定を満たしていて、さして疲労は感じなかった。
「素晴らしかったよ……宗三左文字どの」
 涙と汗に汚れて顔に貼りついた淡紅色の髪をかき上げて、歌仙兼定は宗三左文字の顔を覗き込む。
「は……、か、かせん……、」
 宗三左文字が歌仙兼定に目を向けると、宗三左文字の涙の最後の名残が、緑色の右目から頬を伝って床へと落ちていった。
 宗三左文字が歌仙兼定に向けて汗ばんだ腕を伸ばしかけたが、力が入らないらしく、歌仙兼定の首にまで至らない。歌仙兼定は微笑んでその手を取り、温かく握り返した。
 握った宗三左文字の手を己の唇に持って行き、歌仙兼定は、白い手の甲に恭しく口づける。
「…………、歌仙兼定、……」
「体を拭いてあげるから、少し休むといい。朝までは、まだ……だいぶ間があるよ」
 いまだ体熱の引かぬ体を宗三左文字に近づけながら、歌仙兼定は微笑んだ。
 再び伸ばされた宗三左文字の腕が、今度は歌仙兼定の首に届いた。汗に汚れてはいても優美な宗三左文字の手が、歌仙兼定の横顔に触れる。二藍色の、普段から纏まりの悪い歌仙兼定の頭髪が情交の所為で更に乱れているのを、宗三左文字の指が優しく梳いて、とかしつけていく。
 やがて歌仙兼定を見上げる宗三左文字が、赤い唇を小さく開いた。
「……契りを結ぶのは……、もっと辛いことなのかと……思っていました」
 まだほんのりと息を喘がせながら、宗三左文字が歌仙兼定を見つめて微笑んできた。
「……それは……、意外にも良かった、ということかな……?」
 歌仙兼定に尋ねられて、宗三左文字は微笑を崩さぬまま、頬を赤らめて頷く。
 宗三左文字は笑って宗三左文字を見下ろした。
「きみの体は感受性が高いんだよ……きみが知らなかっただけで。きみに自覚は無くとも、雅を解する心がきみに備わっているのと同じようにね」
 つい今し方まであんなに快楽に乱れ、腰の周りは未だに放った精でべっとりと汚れているのに、歌仙兼定の目の前で横たわる宗三左文字の体は、いつもの気品と清楚さを既に取り戻していた。
 横たわった宗三左文字の傍に寄り添って、湯に浸した布でその体から汗と精を拭ってやっているうちに、宗三左文字は疲労の所為で眠気を催してきたものらしい。
「……歌仙兼定……、」
 目を半眼に閉じながら夢うつつのような表情で、宗三左文字が歌仙兼定を呼ぶ。
「眠ってもいいよ、宗三左文字どの」
 言われて宗三左文字の薄い瞼が持ち上がり、焦点を失っていた色違いの両の目が歌仙兼定を見る。
「……ここで……ですか………?」
「勿論だよ。きみを朝まで返さないと言ったろう?」
「……誰かと一緒に……、寝たことはないんです……」
 歌仙兼定は手を伸ばして、汗が綺麗に拭われた宗三左文字の額に手をやった。
「僕が。きみと一緒に眠る、最初の、そして最後の男になるのさ。宗三左文字どの。……安心してお休み」
 歌仙兼定がその薄い唇に優しく口づける。
 求め返すように、ほんの少し宗三左文字の唇が動いて。
 そのまま宗三左文字は目を閉じ、歌仙兼定の体の下で眠りに引き込まれていった。




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