<其乃三> 燭台切光忠が一期一振の暗色のシャツをはだけると、雪のように白い肌に、その先端を仄赤く染めて天を向く丘が二つ顕れた。 「っ………、」 自らの身に起こった変質を改めて認識し、一期一振が不安げに眉を歪ませる。 「この……体の異変が……本当に治るものでありましょうか……?」 泣くような顔で言い上げられても、さすがに燭台切光忠にも答えが見つかるわけではない。 「……きみの弟の薬研くんの言を信用することだね」 安心させるために微笑んで返すが、一方で燭台切光忠は、一期一振とは別の危惧と心中で戦っていた。 ほんの数刻前まで、手に入れられるとも思っていなかった存在が、裸身を晒して己の体の下に横たわっている。一期一振の無垢な体を己の肉体で堪能し、部分的には蹂躙する権能すら今や自分に与えられている。本来は刀剣である付喪神と呼ばれる精霊が人の体を得ているからでもあろうか、あるいは己が戦国時代の文化様式を名残として持っているからか、相手の肉体が男か女かは燭台切光忠にとってこの際あまり気にならなかった。燭台切光忠は、今まで一期一振に対して自覚したこともなかった情欲と独占欲、征服欲に強く心が煽られて、今にも相手に襲い掛かりそうになっているのを理性と良心によって辛うじてこらえていた。恐らく和合のことを殆ど何も知らない一期一振が、全幅の信頼を寄せた視線で自分を見上げてくるのが、燭台切光忠の暴力的な支配欲をいっそう増幅させていく。 薬研藤四郎が指摘した通り、一期一振を治療するのには相当な抑制が必要なようだ。己の欲を優先したら、一期一振には苦痛しか与えられない。それだけは確かなことだった。 昂奮で息が荒くなっていると気取られぬよう、敢えて呼気を押し殺しながら、燭台切光忠は、手袋をしたままの指でゆっくりと一期一振の素肌を辿っていった。 「っ……、ん……、」 頬骨から下顎、鎖骨と指でなぞられて、一期一振が喉から声を漏らした。緊張した一期一振が呼吸するたびに、双丘の天辺で赤く色づく突起が上下して燭台切光忠を眩惑する。指の背で存在を確かめるようにその双丘に触れ、先端を軽く擦ると、外気に晒された乳首はすぐに硬く尖って存在感をいっそう高めた。 「ッ、ぁ、」 己の体の変化も知らず、一期一振は緊張したまま、ただ横たわっている。 「綺麗だよ。一期くん」 「っ………、」 一期一振は、今まで刀剣男士としての体を『綺麗』と他者から評されたことは無かった。燭台切光忠の直截な賛辞に面映ゆさを感じて、一期一振は赤かった頬をさらに赤く染め、喉から熱い息を吐いた。 燭台切光忠の存在感のある体が、自分の裸身の上に覆い被さってくる。ネクタイは外してあり、はだけたシャツの内から自分とは違う男の匂いがするのを一期一振は嗅ぎ取り、緊張と酩酊を同時に感じた。燭台切光忠の息が一期一振の顎にかかる。おずおずと手を広げて燭台切光忠の体を迎え、一期一振は、燭台切光忠に向けて唇を軽く開き、接吻を誘った。恐らくは無自覚のうちに為されたその誘惑に燭台切光忠はすぐに乗って、一期一振の、熟れた李のように瑞々しい唇に口づけた。 「ン……ん…、ぁふ…っ…、」 露出した上半身を燭台切光忠の両手で撫でられて、接吻を受けながら、一期一振は陶然とキスを返した。燭台切光忠の舌に己の舌で応えるのは心地良いことだと既に一期一振は自覚していた。燭台切光忠の手が一期一振の背に回り、シャツから女身を引き剥がしていく。接吻も腕も指も、膨らんだ胸に押し付けられるシャツ越しの固い胸板も、燭台切光忠から与えられる全ての熱と触感が一期一振には心地良かった。逞しい二の腕に縋りつき、自ら舌を伸ばして相手の舌に絡め、混じり合う唾液を味わうのに夢中になって、一期一振は、燭台切光忠の手がシャツを自分から完全に脱がし、ズボンの釦すら外して下肢を露わにし始めたことに全く気付かなかった。 手袋越しの燭台切光忠の、骨ばって男らしい指が一期一振の腰骨を滑り、秘部へと至るに及んで、ようやく一期一振の理性が警鐘を鳴らす。 「っぷぁ、っ、は、燭光殿、っ待っ……」 「全部見せてくれ。ちぃちゃん」 燭台切光忠になんと呼ばれたか、一期一振は認識もできなかった。上ずった声で言い下ろした燭台切光忠は手を止めず、一期一振のズボンを肌着ごと両手で引き下ろして、白い体の全てを露わにした。 「ッ……、」 平板な臍と、ごく薄い陰毛、そして確かに女のものである局部が外気に晒される。 一期一振の体内で怯えが勝り、一期一振は思わず燭台切光忠の二の腕を掴んでその動きを止めようとした。女になってしまったその場所を目視するのは一期一振にとっても初めてのことで、初めて己の乳房を見た時と同じに、羞恥よりは動揺と恐怖が勝った。 「しょ、燭光殿、」 唐突に、自分がいつも気後れしていた相手の前で無防備に裸身を、しかも刀剣男士としての正常な体ではなく、毒を受けた非力な女体を晒していることが一期一振に自覚された。思わず燭台切光忠の視線から己の体を隠すように身を丸めかけたが、燭台切光忠の存外に強い力でそれを押し止められてしまう。 「隠したら駄目だよ……きみの体が確認できないよ、ちぃちゃん」 「っ…、」 燭台切光忠の手袋手で腰骨を押さえつけられ、一期一振は身動きが取れなくなる。燭台切光忠の隻眼が射るように一期一振の女の局部を見つめていた。眼帯と黒い前髪に半面を隠された燭台切光忠の顔は表情が読みにくく、一期一振には、自分と体を交わす相手が何を考えているのかが全く窺い知れない。 燭台切光忠の指が秘所に忍び入り、陰毛を搔き分けて敏感な場所を探り始める。 「! ッ…、ン、」 燭台切光忠を信頼するしかないとわかっているが、それでも恐怖が消えない。 太刀を握り馴れた男らしい太い指に撫でられて、一期一振の身はぞくぞくと総毛立つ。 やがて、指が秘唇に触れて、襞の内側をまさぐってきた。 「ひッ…あぁ、あ…、ぁっ…! ぁ、しょく、みつ、どの……っ……!」 初めて与えられる刺激をなんと呼べばいいかもわからず、一期一振は声を上げる。 「ほんとうに、女になってしまってるんだな……ちぃちゃんは」 燭台切光忠の慨嘆が聞こえ、一期一振は羞恥を新たにする。 「あっ…、ぁ、ぁ、や………、」 燭台切光忠は一期一振の両脚の間に体を入れており、一期一振の下肢は厭でも燭台切光忠に向かって見せつけるように開かされていた。 探られる触感と、くちゅくちゅと立つ水音の関連が、惑乱した一期一振の頭ではどうしても結びつかない。 「はっ…ぁ、あ……、やだ……みないで、ください、っ燭…光……、」 己の顔を手で隠しても燭台切光忠から秘部を覆えるわけでもあるまいに、羞恥に堪えがたくなった一期一振が手の甲を頬に当てて紅潮した顔を隠しているのが、燭台切光忠に窺えた。 今しも一期一振の下肢が両脚を閉じようとしてくるのを空いた手で制しつつ、燭台切光忠は一期一振の秘部を更に指で煽る。 「今……、きみの、この場所が、どんなふうになってるか……、自分で、わかる……? ちぃちゃん……、」 さすがに頬をほんのりと赤く染めた燭台切光忠から言い下ろされて、一期一振は思わず首を横に振った。 「ッ……、しょ、燭……っ、」 「ここ。濡れて、命があるみたいに蠢いて、……僕を誘ってる」 燭台切光忠が熱を持った声でそう言って、一期一振の体の裡に指を差し込み、ゆっくり奥へと穿ってきた。 「っ! ぃ、ぅ…ぁ……ッ…!」 一期一振は身を引き攣らせて硬直した。 痛みは無いが感覚はある。朝は自分の体に存在していなかった器官が、今は燭台切光忠の指に触れられ、拡げられて、体内に別者の侵入を受けている。 起こっている事態は、一期一振が現実として把握できる範囲を遥かに越えており、精神が恐慌を起こして、一期一振の感情はついに爆発した。 燭台切光忠に組み敷かれて横たわったままで、一期一振は顔を歪めて泣き出した。 「ッ…、っ、ぅ……、うぅ……ッ…、」 「……ちぃちゃん」 傷ついたような、戸惑ったような燭台切光忠の声が頭上から降ってくるが、涙は止まらず、一期一振は目を開けて相手の様子を確かめることもできなかった。燭台切光忠に見られたくなくて頬に手を当て、顔を逸らしながら、一期一振は身を震わせて泣き続けた。 燭台切光忠は一期一振の体から指を抜き、その面を覗き込んできた。 「……痛かった? どこか辛い? ……それとも、僕に抱かれるのは厭なのかい?」 燭台切光忠の優しい声。 「………ッ、」 燭台切光忠の指摘はどれも当たっていなかったので、一期一振は泣きながら首を横に振った。心が弱った様を燭台切光忠に見られることが情けなく、それがまた一期一振の涙を新たに呼ぶ。 「……ち、違うのです……、ッもう……、私には、何が何だか、わからんのです……、っこんな、女人の体になることも、燭光殿、貴方に裸を晒すことも、だ、抱かれることも、今朝、出陣する前には、何一つ思いも寄らなんだのに……、今、こんな形で、貴方の世話を受けることになるなど、」 「……ちぃちゃんはまだ怖いんだね。無理もないね」 息を吐いて燭台切光忠は身を起こし、手を伸べて一期一振の体を床から掬い上げた。 「っ…、燭……、」 驚いて涙に滲んだ目を開き相手を見ると、燭台切光忠の顔が間近にあった。隻眼で苦笑のような笑みを浮かべている。 燭台切光忠は完全に上体を起こし、土間に足を着いて板の間に腰掛ける格好になる。太い腕で一期一振の裸身を抱え上げて、己の膝の上に、一期一振の尻を乗せて座らせた。 「……………、」 一期一振の涙が勢いを弱めるのを見て、燭台切光忠は微笑んだ。 「もう少し、慣れる時間を取ったほうが良さそうだね、ちぃちゃんは」 燭台切光忠のシャツ越しに、一期一振には体温だけが伝わってくる。膝抱きの状態を一期一振が厭わないのを確認して、燭台切光忠は一期一振の上体を優しく抱きかかえていた。 「ッ………、も、申し訳ない……、」 己の手の甲で頬の涙を拭いながら、一期一振は面目なげに謝罪した。 「謝らなくていいよ。少し僕も急いてしまってたし」 一期一振の顔のすぐ傍で、燭台切光忠が微笑んだ。 「ちぃちゃんは、僕に触られるのは厭?」 「………、い、いいえ……、」 涙をようようにこらえられるようになりながら一期一振は答える。 燭台切光忠の優しい手が、宥めるように一期一振の剥き出しの背を撫でていた。 瞬きで涙の最期の粒を琥珀色の目から払い落とし、一期一振は燭台切光忠を見た。 「あの…、何故私を『ちぃちゃん』と呼びますか」 「うん?」 一つだけの橙色の目が自分に向けられてきて、一期一振は赤面が強まるのを自覚する。 「……私は確かに、わりあい刀身も短いですし、昔の主の太閤に似たものか、太刀の刀剣男士の中でも小兵ではありますが……、そ、そんなに、燭光殿から見て、小さき存在でありましょうか」 「……ああ、」 得心したというように燭台切光忠が破顔した。 「そうだね、無意識のうちに一期くんを『ちぃちゃん』と呼んじゃってるね。でもそれは大きさのことじゃなくて、きみの名前から取ってるんだ。………粟田口の子たちが皆、きみを『一』って呼んでるだろう? だから、僕がきみを『いっちゃん』て呼ぶのは、特別感が無くて厭なのさ。今はきみと恋人同士なんだから、きみを特別な名で呼びたいね」 「…………」 こいびと、と一期一振が口の中で呟いた気配があった。 「……恋人、は……、」 一期一振が何かを思い起こすように囁く。 「うん」 「……南蛮では、女人が手袋を外すのは恋人の前でだけだと貴方は仰せでしたが。手袋を取るのは、女性の側だけなのですか」 燭台切光忠の、一期一振を撫でる手が止まった。 その手は未だに手袋をはめたままだ。 「あ、あの、」 橙色の隻眼の中に緊張を感じ取って、一期一振はうろたえる。 「……そうだね。きみだけを脱がすのはフェアじゃない。確かに恰好がつかないね」 燭台切光忠はそう言って、一期一振の前に黒革の手袋をはめた右手を差し出した。 「僕の手袋を、きみが脱がせてくれるかな? ……驚かないでほしいけど。なるべくね」 その声には、一期一振が今まで聞いたことの無い感情が籠もっていた。 「………………?」 淡木賊色の髪を揺らがせ、燭台切光忠の様子に訝りながらも、一期一振は手を伸べて燭台切光忠の手袋に触れた。 男らしい骨ばった硬い手が、一期一振の素手の両掌に包まれる。 一期一振は息を殺すようにして、恭しいほどの丁寧さで燭台切光忠の手から手袋を脱がせた。 手袋の下から素肌が現れたはずだが、それは普通の肌の色と形ではない。 「――――――」 自分が目の当たりにしたものが何かすぐには呑み込めず、一期一振は視線を燭台切光忠の手の甲に落としたまま、しばらくそれを凝視した。 手袋に隠されていた場所、日の当たらぬ白い手の甲の中央に広がる、茶色く引き攣った皮膚。 「これは………」 それだけを言って一期一振は言葉を失った。 燭台切光忠の肌を覆うそれは、紛れもなく火傷の痕だった。 「そうだよ。僕も火に巻かれた刀なんだ。きみと同じで」 いつも笑みをはいている燭台切光忠の唇は、今は笑っていなかった。 「焼けた時期はちぃちゃんよりずっと新しくて、……もう象徴としての力すら刀は喪っていた時代だったから………僕の本体は再刃もされていないんだ。写しは後から作られたけどね」 「………………、」 燭台切光忠がいつも手袋をしている理由が、これで知れた。 焼ける辛さは自分もよく知っている。 痛ましげに眉を歪め、思いつめた表情で、一期一振は燭台切光忠の顔を見た。 琥珀色の二つの目と、橙色の一つの目が視線を受け止め合う。 燭台切光忠は硬い微笑を唇に浮かべて、一期一振の両手に包まれていた己の右手を引き抜くと、右目を覆う眼帯に指先を当てて訊いてきた。 「こっちも。見てみる? ………この下がどうなってるかは、伽羅ちゃんしか知らないんだよ」 大倶利伽羅は燭台切光忠と同じ、現在城で二振りだけの伊達氏蔵刀だった。 燭台切光忠の目には自嘲の気配がある。 「みんなを怖がらせると思って、眼帯を普段は絶対に外さないんだ。美男揃いの城中で醜い傷痕を晒して、主くんに疎まれたくもないしね。……でも、きみは特別だから。この貌を見せたらきみをもっと怖がらせることになるかも知れないけど、……きみが体を晒して僕に見せてくれたように、僕もきみの前で裸になる必要があるんだろうね。多分」 「燭光殿――――」 強張った舌で一期一振は燭台切光忠の名を呼んだ。 「気持ち悪かったら言ってね。すぐに隠すから」 そう言いながら、燭台切光忠は利き手を頭の後ろに回して、眼帯の紐を解いた。 黒い眼帯が頬を滑り落ちていき、紐が引っかかって首元に止まる。 一期一振は吸い寄せられるように燭台切光忠の顔の右側を見た。 右の眼窩に眼球は無く、瞼から目尻、頬骨のすぐ傍にまで、燭台切光忠の手の甲と同じ色の引き攣れが走っていた。 「………………、これも、火の痕ですか、」 唾を飲んで一期一振が尋ねる。 「うん。酷いもんだろう?」 「……、そんな、ことは、」 しかし実際その傷は、燭台切光忠の秀麗な左半面と著しい対照を為していた。 「顕現当初、左目しかないことに気づいたときは、僕の顔にあるのは貞山公と同じ疱瘡痕だと思ってたんだ。眼帯を解いて、鏡に映してみたら違ったけどね」 一期一振が左手を恐る恐る燭台切光忠の露出した顔の傷に伸べる。 「触っても、大丈夫だよ。痛みはそれほど無いんだ」 そう言われて、一期一振の白い指が、赤褐色の傷痕をほんの少しなぞった。 「つっ……」 途端に燭台切光忠が眉を寄せ、痛みを与えたかと思った一期一振は慌てて手を退く。 「いや、痛かったわけじゃないんだ。どっちかというと、………」 一期一振の指の触感に心因的な熱を感じたのが、声を上げた理由だ。 だが燭台切光忠は、それをまだ一期一振には言えなかった。 「………とにかく、触ってくれて構わないよ」 そこまで言ってようやく、一期一振は燭台切光忠の頬に指を戻す。 傷は乾いていて、ごつごつと強張っていた。 橙色の隻眼が探るように自分を見ている、と一期一振は自覚する。 「……こんなご面相だから、本来は、恰好をつけたってどうにもならないんだけど、―――だからこそ恰好良さに執着があるんだよね。そこは貞山公と同様さ。自分に美が無いと思うから、体面にはこだわるし、きみみたいな美しいものにもいっそう憧れるんだ。僕が焼けたのは、貞山公の伊達家を出た後だけどね」 一期一振に触れられながら、伊達政宗の名を持ち出して、燭台切光忠は寂しげに笑った。 「………私、は………、」 一期一振は燭台切光忠の頬に手を触れたまま、視線を燭台切光忠の隻眼に戻した。 一期一振は、燭台切光忠が危惧するほどには、その傷を醜いと自分が思っていないことに気がついた。 「―――貴方に葛藤があることなど、私は存じませんでした。……貴方はいつも自信に満ち溢れていて、気風も男らしくて、私などはいつも貴方の前に立つ度に気後れ致しておった程ですのに」 「精一杯恰好つけてるからね。きみたちみたいな名の知れた名刀と並んで、位負けしたくは無かったし。……でも、その態度がきみを怖がらせてたなら、それは良くなかったね。僕に自覚はなかったんだけど」 「こ、怖いと言うのは違います」 一期一振は焦ったように否定した。 「貴方は私から見て立派な刀であるだけでなく、刀剣男士としても……上背も肩幅もあって、部隊長としての人望もあって……私が並ぶと、自分が見劣りするような気に、勝手になっておっただけです」 「見劣り?」 燭台切光忠が眉を寄せた。 「………先ほど貴方が世辞で褒めてくださったように、『綺麗』や『美しい』などと他者に評されたことは、今までありませなんだ。『派手』とは、よく言われていましたが。……正直、そこも……。貴方のような黒ずくめの、男立てなり粋なりと評判を取るような、質実剛健な機能美を誇る刀剣男士の方と並ぶと、まるで自分は柔弱な気が致して……実際、女などにも成り変わってしまったのはその所為でもあろうかと、………… 」 言い差したまま俯いてしまった一期一振を見つめて、 「ちぃちゃんは自分を知らないんだねえ」 燭台切光忠は苦笑するように隻眼を細めた。 「し、知らない、とは、何を」 燭台切光忠の言葉に顔を上げ、赤面を強めて一期一振が尋ねる。 「きみが自分の評判にあまり覚えがないのは、……たぶんきみが世話をしてる粟田口の子たちがきみを囲む垣根になっていて、他の刀剣男士には近づきがたい距離に自然と立ってしまっているからだろうね。僕が聞いてきたきみの評判は、太閤時代の栄華、桃山の華美そのもののような美しい刀剣男士、という触れ込みばかりだけど。知らなかった?」 「は、初めて聞きました」 「僕にとっても、きみはそういう刀だよ、ちぃちゃん」 「……は…………、」 意外なことを言われて一期一振は呆気にとられる。 「このご面相の僕からするとね。きみと僕が並ぶと、文字通り美女と野獣だよね。きみが僕に少し距離を置いている気がするのは、僕が怖いからかと思っていたんだよね」 「……………」 一期一振は言葉を失くして燭台切光忠を見つめた。 やがて、 「……怖くはありません。そう思う気持ちも初期には少しだけありましたが、今は違います。………貴方の気遣いや誠意を、こうして、見せていただきましたので」 燭台切光忠の顔の傷に温かな手を触れたまま、その唇に口を寄せた。 唇と唇が軽く触れ合って、すぐに離れる。 「更に言うならば。貴方の男振りのいい外見も、私は好みです」 一期一振の左手が傷から離れ、燭台切光忠の横髪を撫でる。 「叶うことなら、貴方のような刀剣男士になりたかった。……政宗公を怖れつつ、可愛がった太閤も、同じ感慨をお持ちだったのではないでしょうか……恐らくは」 燭台切光忠は一期一振から視線を逸らさずに微笑む。 一期一振の手に対するお返しというように、燭台切光忠の手が、一期一振の背を優しく撫でていた。 「親子のように年が離れて、油断の出来ない盟友で、互いに心を読み合う敵同士。貞山公と秀吉公の関係はそういうものだったからね。僕とちぃちゃんの間には、二人のような敵対心はないけれど。……僕はね。女人になってしまったきみを見てると、秀吉公だけじゃなくて、貞山公と関わりのあった、秀吉公周囲の女性を思い出すんだ。秀吉公御正室の北政所や、側室の香の前といった人々をね」 「……香の前とは……太閤の側室から政宗公の側室になって、北へ下った方ですね」 「うん。京の女性らしく、優美で教養のある方だったよ。貞山公は生涯、中央の煌びやかな文物に憧れを抱き続けたお人だったから……そうした処も秀吉公によく読まれていて、数ある側室の中でも香の前が選ばれたんだと思う。秀吉公には御子が無くて、織田家や徳川家のように外様の大名と縁戚関係を結ぶのは難しかったからね」 燭台切光忠は改めて、一期一振の女人となって柔らかくなった体を搔き抱いた。 「きみをこうして抱いていると、桃山の綺羅綺羅しい時代を思い出して懐かしい気持ちになるよ……こんなことになるまで、きみを手にできるとは思ったこともなかったな。刀剣男士として顕現したきみは、僕にとって、秀吉公が愛でた、艶やかな桜花の襖絵のような存在だった。目に見えるけど触れない。匂い立つような美しさと華やかさを持っているが、僕の為に咲くことは無い桜だと」 「………燭光殿……」 告白を受けて、一期一振は目を潤ませて燭台切光忠を見つめた。 一期一振が燭台切光忠に顔を寄せようと頬に触れると、先ほど解いた眼帯の紐が、一期一振の白い手に引っかかった。 「邪魔だね。傷も見苦しいし、結んでしまおうか」 そのような言い方で、燭台切光忠は眼帯を目に当て直す。 一期一振に傷を曝け出してくれたのは彼なりの気遣いで、本当は傷を気にしているのだと、一期一振にもわかった。 「結びにくいでしょう……宜しければ、私が」 一期一振を膝に抱いたまま燭台切光忠が己の後頭部にやりにくそうに手を回すのへ、一期一振がそう言って、燭台切光忠の頭に両腕を回して、眼帯の紐を引き受けた。 「ああ。済まないね」 「いえ……。慣れているので平気です。弟たちの下緒を結び直したり、帯を結んでやったりをよくしておりますので」 「ちぃちゃんは本当に世話焼きだねえ。ありがとう」 苦笑しながら燭台切光忠は、一期一振が紐を結びやすいように正面を向いた。 燭台切光忠の膝の上で伸び上がり、両手を後頭部に回した一期一振の膨らんだ乳房が、燭台切光忠の鼻の先にある。露出と緊張で硬く尖った紅い乳首に、燭台切光忠は吸い寄せられるように唇を近づけた。 「ちぃちゃんの此処は……さくらんぼみたいだな」 「ッ……、」 紐を結ぶのに集中していた一期一振は、燭台切光忠に乳首を吸われて初めて何をされているかを自覚する。 「ふ…、赤く色づいて、硬いけど熟れていて、舌で転がすのにちょうどいい大きさだね」 「ッ、ン、ぁ、」 言葉の通りに舌先でちろちろと嬲られて、一期一振は刺激に身を捩りかける。 眼帯の紐はまだ結び終えておらず、燭台切光忠の後頭部から手を離すわけにもいかなくて、一期一振は燭台切光忠の舌から逃れられない。 舌先で一つの乳首をつつかれるだけでなく、燭台切光忠は手袋を脱いだ手で一期一振の残る乳首に触れ、それを指先で優しく摘んでくる。 「んンっ、あッ…!」 左右の突起に違う刺激を受けて、一期一振は喉から掠れた声を漏らした。 燭台切光忠の舌使いは大胆さを増し、やがて一期一振の乳首を唇に含んで、揉むように吸い上げる。 「っひぁあ、ッ、あ…!」 ようように眼帯を結び終え、一期一振が燭台切光忠の甘い嬲りから逃げるように上体を逸らしたが、燭台切光忠の腕が強い力で一期一振の胴を絡め取って、一期一振は燭台切光忠の顔の前に乳房を突き出すような形にさせられ、尖った乳首ごと柔らかな乳房を大きな片手で揉まれながら、もう片方の乳首を音を立てて吸い上げられた。 「ン、ぁあ、ぁ……! しょく、みつ、どの……ッ、ン、ぁッ……!」 「もう少し親しみやすく、『みつ』って呼んでほしいな。恋人同士の間はね」 乳首を吸う合間に燭台切光忠はそう言って、再び一期一振の乳首に舌を当て、乳輪を舌先でなぞった。 「ンぁ、はッ…ぁあ……、ッ、光、どの、っはぁ……っ…!」 「ふ……。此処を粟田口の、きみの弟くんたちが吸いたがったかも知れないと思うと……、ちょっと申し訳ない気持ちと、……あとは嬉しい気持ちになるね。ちぃちゃんの女性の体を知ってるのは僕だけだから」 燭台切光忠の言葉の意図するところが、一期一振には殆ど理解できなかった。 愉悦を与えられる羞恥に頬を赤らめて一期一振が見下ろすと、燭台切光忠がいつになく珍しく、悪戯っぽく笑っていた。 彼の隠された貌の部分を知った今なら、半面を眼帯に覆われていても、一期一振にも燭台切光忠の表情が読める。 「っ、光、殿………、」 橙色の隻眼に自分への親しみと優しさ、そして情欲を感じ取って、一期一振は熱い息を吐き下ろした。 「………、」 「つ……、」 体の中に熱を感じた裸身の一期一振が身じろぎをすると、その膝がかすかに燭台切光忠の股間を掠って、燭台切光忠が堪えるように呻いた。 見れば燭台切光忠のズボンは前が開いていて、局部を覆う肌着は大きく盛り上がっている。 一期一振の視線を感じて、燭台切光忠は含羞の籠もった笑みを浮かべた。 「僕だってね。きみの裸を前にして、でもきみを怖がらせないよう、けっこう我慢してるんだよ?」 自分への情欲を告白されて、一期一振は頬を染めて琥珀色の目を瞠った。 燭台切光忠が自分を欲していると知るのは、緊張と不安、そして誇らしさを一期一振に感じさせた。 同時に彼との和合や、それにまつわる事どもへの好奇心も。 「…………光殿。……私も、貴方がしてくださるように、貴方に触れましょうか」 胸の動悸を感じ、乾いた唇を舌で湿して、一期一振はそう提案した。 燭台切光忠の隻眼が大きさを増す。 燭台切光忠の表情を見る限り、その提案は彼には意外だったようだ。 「それは、嬉しいけど……できる? ちぃちゃん」 「わ、私も、男でありますから。生理現象は理解しておるつもりです」 肉体が女になってしまった今、その台詞は正確ではなかったが、一期一振としてはほかに言いようも無い。 一期一振は燭台切光忠の体に再び近づき、右手でその硬い胴体に腕を回して身を密着させる。 「ん……」 一期一振の柔肉が燭台切光忠の脇腹に、シャツ越しに触れてきた。 一期一振のほうから寄ってこられるだけで、燭台切光忠の体内には、熱を持った歓喜が湧き上がる。 その上、一期一振は左手を伸べて、あまり躊躇いもなげに、燭台切光忠の局部に指を添えてきた。 「っ、く……、」 肌着越しに男性に触れられて、体に快楽が走り、燭台切光忠は息をこらえた。 一期一振は、当然ながら普通の未通の女よりは、男の肉体への知識を持っている。 肌着から燭台切光忠の強張りかけた竿を露出させ、昂奮とも緊張とも測れぬ面持ちでそれを見下ろしながら、一期一振は確かめるように竿先を指で優しく掴んできた。 「っ、ちぃ、ちゃん………、」 具体的に一期一振を欲していることを見顕されて、更にその手指に竿を握られ、燭台切光忠はさすがに、羞恥によって自分の頬が紅潮していくのを自覚した。 一期一振は息を飲んで、己の手の中で燭台切光忠が勃起していくのを見つめていた。風呂や着替えで年若い弟たちの局部を見たことはあるが、子供の体や肉親のものという認識でいた一期一振は、それが性的な部位であると考えたことすらなかった。燭台切光忠の大人の男の体の竿、しかもそれは自分を穿つための道具であると今しも思い知って、一期一振は改めて衝撃を受ける。 「……、みつ、どの……、如何でありますか……?」 自らも頬を紅潮させながら加減を問うと、 「うん……いい、よ、ちぃちゃん……、」 頭上から愉楽に堪えるような燭台切光忠の声が降ってきた。 竿から手指を離さぬながら、ふ、と一期一振は安堵する。 自分の行為が燭台切光忠に何某かの役に立つと知るのは心安らぐことだった。 何かをして貰うことよりも、してやることの方が、一期一振にとっては身に馴染んだものだった。 燭台切光忠の言う通り、弟たちの世話をすることに慣れ過ぎているのかも知れない。 「っ……、は……、」 燭台切光忠の掠れた呻きが後頭部に聞こえる。 もっと彼の情動に働きかけたい。 「ん……ふ…、」 一期一振は首をさらに落として、燭台切光忠の股間に顔を埋め、自ら唇で屹立に口づけた。 |
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