<其乃四> ちゅ、ちゅく、という淫靡な音が耳に響いたと思ったら、己の背を強い愉楽が駆け上がり、そこでようやく、燭台切光忠は一期一振が自分に口淫を為していることを理解した。 「っ……く………!」 先ほどまでの初心が嘘のように、一期一振は両唇で燭台切光忠の竿先を捕えて、舌の先端を雁首に当てて舐め上げてくる。 「ン……む……、」 「ちょっ……、ちぃ、ちゃん……!」 一期一振の舌使いに躊躇いは無く、忽ち今まで以上の快楽に押し上げられて、燭台切光忠のほうが狼狽する。 「つ…………!」 心構えも無いままに竿先を吸い上げられて思わず射精してしまいそうになり、燭台切光忠は慌てて一期一振の肩を捕まえて口を竿から外させる。 「ちぃ、ちゃん、どうしたの、突然…………、」 肩を両腕で捕えたまま上体を起こさせて、一期一振の整った顔を燭台切光忠は覗き込んだ。 「は……、」 下を向いていて頭に血が上った様相の一期一振が、赤く熟れた唇から燭台切光忠の浸出液が混じった唾液を滴らせながら、茫洋と、潤んだ琥珀色の目で燭台切光忠を見つめてきた。 「なにか……してはならぬことでも致しましたでしょうか……?」 「いや、いけないっていうよりね……唐突でびっくりしたんだ。まさか口でしてくれるとは思わなかったから……、」 頬を火照らせて燭台切光忠が言うと、 「……………? 以前、乱と薬研が、互いに口でしゃぶり合ったら気持ちよさそうだ、と話をしていたのを耳に挟んだことがあるのです。そういうものかと思って、貴方に致してみただけなのですが……」 酸欠で頬を紅潮させつつも、きょとんとした顔の一期一振には全く罪の風情は無い。 一期一振の行動はむしろ無知故の大胆さだったと知って、燭台切光忠は呆れを通り越して愕然とする。 「まったく……きみの弟くんたちときたら、とんでもないよね……」 耳年増の藤四郎短刀たちに向けて悪態をつくべきなのか褒め称えるべきなのかもわからず、燭台切光忠はぼやいた。 「気持ちよく……ありませなんだか……?」 燭台切光忠の肉体的反応をまったく分析できぬらしい一期一振が、無垢そのままの表情で心配そうに聞いてくる。 恐らく一期一振は顕現してから射精したことも無いだろう、と燭台切光忠は看破した。いきなりかれの口の中に精を撒く羽目にならなくて本当に良かった。 「すごく気持ちよかったけどね。ちぃちゃん」 腕に一期一振の裸身を抱き直して、燭台切光忠は意味ありげな笑みを浮かべた。 「僕だけが気持ちよくなってもあまり意味が無いのはわかるだろう? ……だから、僕たちも、弟くんたちの話していた通りの行動を取ってみる、というのはどうだろう?」 「………と、仰いますと……?」 「僕がきみに舐めてもらって、きみを僕が舐めるんだよ。弟くんたちが話してたのって、そういうことだよね?」 「………あ、貴方が…、私の……を、です、か………?」 一期一振は唾を飲んで顔をひどく赤らめ、口ごもる。 奇妙なことに、一期一振にとっては、口淫を自ら行うよりも、自分の秘部を舐められるほうが抵抗感が強いようだった。見られること、触れられることに強い羞恥心と警戒心が働くものらしい。 だが最終的には、一期一振の女の場所で交わらなくてはならないのだ。そこをかれに理解させ、恐怖と羞恥を弱めつつ、一期一振の意識を己の秘所に向けさせなくてはならない。 「お互いがお互いの場所を間近に見て舐め合うんだから、公平じゃないか。試してみてもいいだろう?」 一期一振にとって断りにくい言い方を、燭台切光忠は既に知っていた。 何でもないことのようににこやかに言われて、果たして一期一振は、頬を真っ赤にしながらおどおどと頷く。 「で……では、お願いいたします……」 「じゃ、僕は仰向けに寝るから。ちぃちゃんはその上に跨ってくれる?」 軽やかに言われて、一期一振はまたも動揺を見せる。 「ま、またがるとは……光殿の、体を、ですか」 「僕の顔の上に体を乗せるんだよ。本当に座られると困るけど。舐め合うって、そういう体勢でないと、できないでしょ?」 「………っ…、」 体位を想像したのだろう、一期一振の顔が火を噴くように赤くなった。 一期一振の心中での必死の葛藤を、燭台切光忠は興深げに隻眼で見つめていた。 そのとき。 ふっ、と、燭台切光忠の橙色の隻眼に警戒の影が過った。 「ちぃちゃん……」 ごく小声で囁き、口の前に人差し指を当てて静かにしていろという仕草をしながら、燭台切光忠は脇に置いてあった己の太刀を左手で掴む。 隻眼がちらりと堂の戸口を指して、外に何者かの気配があることを一期一振に知らせた。 「! ――――――」 一期一振は身を固くし、無意識のうちに裸身を己の腕で抱きかかえるように背を屈めながら、燭台切光忠を注視する。 最前まで情に火照っていた男らしい貌に今は緊張が漲り、虎のような無音かつ獰猛でしなやかな動きで、燭台切光忠は板戸に貼りついた。 一期一振は板の間に座り込んだままで動かず、ただ燭台切光忠の動きを息を飲んで見つめていた。手を伸ばせばすぐのところに己の太刀はあり、必要とあらば即座に燭台切光忠に加勢できる。とは言っても、今は女の身で素裸とあっては、さして燭台切光忠の助けになれぬという危惧もあった。 燭台切光忠の指摘通り、地蔵堂の外に確かに人の気配がある。 敵意はさほど感じないが、油断はできない。敵か、異変を感じた現地の村人か、ほかの何者だろうか。 燭台切光忠が音を立てぬように鞘から刀身を抜きかけた、ちょうどそのとき、 「―――いるか? 旦那」 一期一振には聞き慣れた弟の声が確かめるように戸口の向こうから聞こえ、燭台切光忠は息を吐いて警戒心を解き、太刀を鞘に納めた。 「薬研くんか。……どうした?」 薬研藤四郎のほうでも、地蔵堂の中の緊張を察していたのだろう。武人らしい声はいつもよりやや安堵したように答えてきた。 「やっぱ居たか。もうそろそろ夕刻だぜ。周りに異常はねえ。一緒に出陣してきた兄弟たちには、今日は野宿するよう指示を出しておいた」 「さすがだね。ありがとう」 苦笑して燭台切光忠はいつもの声に調子を戻す。 「そっちの調子はどうだ、旦那。一兄は気を遣れたか?」 昼と同じく、薬研藤四郎は、答えにくいことを率直に尋ねてくる。 「……一期くんと僕のほうは、ぼちぼち、というところかな。もう少し時間はかかりそうだよ。薬研くん、きみは引き続き周囲の警戒に当たってくれ」 一期一振の様子を煙に巻きながら燭台切光忠は返答した。 「そりゃ勿論だが。でも異常がなけりゃ、俺っちもこの地蔵堂に貼り付いてていいだろう?」 意外なことを言う薬研藤四郎に対し、薄暗がりの中で、燭台切光忠が怪訝そうに眉を寄せるのが一期一振には見えた。 「薬研くん、それ、どういう意味かな?」 「俺っちは男女の和合はまだ見たことがねえ。伊達の旦那と一兄が睦み合ってんのを、声や音だけでも聞いてみてえんだ。本当は中に入って見てみたいが、そこまでは言わねえからよ」 「………………」 燭台切光忠の眉間の皺が深くなる。 その横顔からいつもの笑みは消えていた。 「薬研くん。僕の本来の名前、憶えてる? きみはいつも『伊達の旦那』と呼んでくれてるけど」 「うん? 伊達の旦那は燭台切光忠の旦那だろ。それがどうした」 「そう…………貞山公が部下を無礼打ちした際、傍にあった青銅製の燭台も諸共に両断したのが名の由来だよ」 腹の底から響くような低い声だった。 「この薄い戸板ごと、きみの体を斬り通すのは簡単だよ、薬研くん。僕の切れ味をきみの体で試すようなことはさせないで欲しいね。……覗きなんて無様なことはするもんじゃない」 「…………」 幾ばくかの恐怖と、感銘に似たものを心に湧き上がらせて、一期一振は燭台切光忠を見つめていた。 戸口の外で、何事かを薬研藤四郎がぼやく声が聞こえきた。曰く、男はみんな女を隠したがる、とか何とか。それを最後に、薬研藤四郎の気配は戸の傍から遠ざかっていった。 その間、一期一振は声も失って燭台切光忠を見ていた。 燭台切光忠が薬研に対して見せた酷薄さが一期一振の胸に響く。 燭台切光忠と呼ばれる刀剣男士の中には、戦国時代の名残が強く存している。その名前に、容姿に、内に秘めた性格に。 目の前の彼が持つような、武士時代を経たものならではの厳しさを、刀剣男士としての自分は喪ってしまった。一期一振はそう思った。 それは刀剣時代に焼失して再刃を受けた所為かもしれない。あるいは、刀剣男士として顕現して後、人間の子供のような情緒を持つ弟たちの世話を甲斐甲斐しくするのに、慣れ過ぎてしまったからかもしれない。 しかし戦場として召喚された場所、時間遡行先ではいつも、それが鎌倉時代であれ江戸時代であれ、常に武士の時代だ。明治初期でさえ、戦闘指揮はもとの武士階級とその係累が執っている。 強いもの、力あるもの――――引いては、暴力的でさえあるものへの憧れ。 刀剣とは本来、そのような猛々しさを内包してこそ美しいものだった筈だ。 「みつどの―――」 自覚も無く放たれたかすかな声に、燭台切光忠は一期一振を振り向いて、苦笑して見せた。 「やれやれ。せっかくいい雰囲気だったのに、ちょっと盛り下がってしまったね。やり直そうか」 燭台切光忠は板の間に再度上がり、一期一振に近づいて太刀を脇に置いた。 着たままになっていたシャツを、燭台切光忠は一期一振の前で脱ぎ始める。一期一振は言葉も瞬きも無く、息を詰めてそれを見つめていた。燭台切光忠がシャツのボタンを外して前を開けると、硬くて厚みのある胸板が目に飛び込んできた。角ばって太い肩が剥き出しになり、膂力を感じるものの長さがある所為で太すぎるとも見えぬ二の腕が姿を見せる。 上半身が裸身になった燭台切光忠が、スーツのスラックスに手をかけて下着ごと脱ぎ下ろす。先程一期一振が触れた局部は硬直したままで、燭台切光忠はそれをさして隠そうともしていない。筋肉質の脚が、一期一振の普段の脚よりもよほど太く、長く見えて、それは馬上で鍛えられて力強く張った尻に続いている。 「………ちぃちゃん」 見惚れる、というよりは文字通り食い入るように燭台切光忠の裸身を見つめていた一期一振は、燭台切光忠の呼びかけで我に返った。 「僕の体、そんなに見るの面白いかい?」 「え、いえあの、」 視線に性的好奇が混じっていたのを見透かされ、一期一振は顔を真っ赤にして目を逸らし、俯いた。 「なるほど確かに……。一方的に見られるのは、屈辱的と言わないまでも恥ずかしいもんだね。さっき、きみを脱がせたときに僕も一緒に服を脱いでおけばよかったかな」 声が存外に近くで聞こえ、一期一振が視線を上げると、すぐ傍に燭台切光忠の顔があった。 裸身の燭台切光忠が一期一振の目の前にしゃがみ込んでいた。ふたりの視線が合うと燭台切光忠は笑うように目を細めて、一期一振の顎を手で優しく捕えて顔を上げさせ、顔を覗き込んできた。 「み、みつどの、」 隻眼で自分を見つめる燭台切光忠の秀麗な面は、羞恥と情欲に赤く染まっている。 先程薬研に対して見せた冷酷さは欠片も見当たらなかった。 燭台切光忠が自分を見る目は優しい、ということに一期一振は気づく。 「ちぃちゃん……」 一期一振の顎に触れていた燭台切光忠の親指が伸ばされ、一期一振の下唇に触れて、更には、指先が口の内側をまでも探ってきた。 「っ、ふ………、」 一期一振は逆らわずに燭台切光忠の指を口に受け入れた。彼の爪に軽く歯を立てて喉奥から声を漏らすと、燭台切光忠の鬼灯の実のように輝く目が、情欲を強めたように潤んだ。 「じゃ。ちぃちゃん。続きをしようか」 「ふぁ……つづき、とは………、」 魅入られたように燭台切光忠の顔を見つめながら、一期一振がぼんやりと問い返す。 橙色の、燭台切光忠の目が再び可笑しそうに細められた。 「お互いに舐め合う約束だっただろう?」 早々と板の間の上に横たわってしまった燭台切光忠の両耳を両膝で挟むようにして、一期一振が恐る恐ると言うように燭台切光忠の顔を跨いできた。 顔の三方を一期一振の熱のある体に囲まれて、燭台切光忠の鼻腔は一期一振の香混じりの、甘い体臭で満たされた。 「こ、これでは、丸見えでありましょう」 燭台切光忠の顔を跨いでおきながら羞恥心が消せないのか、一期一振は頭上からなおも泣き言を言ってくる。 「確かに。よく見えるよ」 「…っ、…………、」 膝立ちの一期一振が戸惑ったように身じろぎする。 実際、頭上すぐ傍に一期一振の女の場所が赤裸々に見えて、燭台切光忠の情欲を厭でも煽ってくる。先ほど燭台切光忠が弄ったままに、秘唇は汁を滲ませて赤く腫れており、一期一振の精神に比して肉体のほうは実は準備が整っていることを示していた。眼福だな、と心に密かに思いつつ、燭台切光忠は一期一振の膝に挟まれて笑って見せた。 「でも、ちぃちゃんだって僕が丸見えだろう? おあいこだよ……体を倒して、僕のものをさっきみたいに舐めてくれるかな?」 「……っ……、わ……わかりました………」 一期一振が諦めたように唾を飲んで、燭台切光忠の男らしい胴体の上に自らの裸身を倒した。腹部に女の体になった一期一振の乳房と突き立った乳首が柔らかく当たり、燭台切光忠はその触感に息を飲む。一期一振のほうではそんな自覚も無いようだ。先程と同じように、燭台切光忠の雄にそっと手を触れて、あまり躊躇いも無く、屹立の先端を再び口に含んだ。 「ンむ……、」 「ッ…、ふッ」 先程と全く同じ、強い刺激が体に走り、燭台切光忠は息を喘がせてそれに堪えながら、一期一振に声をかける。 「ちぃちゃん…腰を落として……、そう、もう少し……」 一期一振の脚を開かせて腰を下げさせ、一期一振が逃げられないように、燭台切光忠は両手でその太腿を優しく捕えた。その上で、燭台切光忠は、一期一振の開いた股の間から覗く秘唇にそっと舌を当てた。 「! ッンく! ふッ! ンむぅ……!」 頭上で一期一振の体がびくりと震え、思わず腰が引けて逃げそうになるのを、燭台切光忠の手が力強く尻たぶを掴んで寄せ戻す。 「ッ、ンぐぅ……!」 燭台切光忠の竿を口に含んだまま、一期一振が堪えかねたような呻きを喉から漏らした。 それでも、先ほど触れた時よりも一期一振の反応は素直で、恐怖も抑えられているようだった。燭台切光忠は舌先で秘唇を幾度も往復して、その刺激に一期一振を慣れさせた上で、さらに舌を一期一振の秘所へと潜らせ、秘唇を割って、隠された花芯を探り当てた。 「ンふッ! ぅ、ふぅ……!」 一期一振の腰がびくりと跳ね上がる。 「ふ……、ここ……、気持ちいい? ちぃちゃん……」 舌先が花芽に擦れるたびびくびくと震える下肢を捕まえたまま、少しだけ口を離して燭台切光忠が問う。 「ふッ、ン、ぅ、むゥ…っ」 竿を咥えたままでの呻きは肯定を意味しているのだろう。 秘唇を濡らす液は忽ち量を増やしていく。 燭台切光忠は口を離して、赤く腫れてぷっくりと立ち上がってきた花芯を二本の指で摘み、そっと揺らした。 「! ッん、ぷぁ、っは、ァ、んぎっ…!」 舌の柔らかな刺激より強い振動を受けて、一期一振の口は思わず大きく開き、竿が唇から外れてしまう。 「ひッ、ひぃい、ンぁ、あっ…みつ……どの……、それ……駄目……ですっ、ひぃッ……ンあぁあうッ……!」 燭台切光忠の屹立を顔の前にして、一期一振が唇をわななかせながら訴えた。燭台切光忠は再び触れるのを指から舌に変えて、舌先で腫れた肉芽を刺激する。 「ッ…あッ…やっ、ンぁ…ひぁ……あァあ……ッ…!」 かくかくと一期一振の腰が小刻みに震え、燭台切光忠の顔に秘所から愛液が滴ってきた。秘唇の奥は激しく蠕動しているだろうことが、燭台切光忠には見て取れた。 一期一振の女身は軽く気を遣ってしまったようだ、と燭台切光忠は判断した。一期一振にその自覚があるかどうかはわからないが。 「ちぃちゃん……僕のも、舐めて」 「はっ…、はい………、ん…む……ッ、」 秘所に口淫を受け続け、愉楽に震えながらも、一期一振は燭台切光忠の指示に従って、従順に、目の前の屹立を口に含んだ。 |
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