<其乃五> 「ふッ…ふ……、んうぅ……、ッむ、ふぅ……ッ」 下肢に与えられる快楽が脳を痺れさせ、自分が燭台切光忠に対し、なぜ警戒し怯えていたのかも一期一振にはわからなくなってくる。 「ンっ……、んン……っ、っふぁッ、ふぅ」 飴でもしゃぶるように燭台切光忠の筒先を舐め転がし、舌を伸ばして雁裏を刺激する。 「ンふっ…く……、」 一期一振の、柔らかくなってしまった体の下で、燭台切光忠の割れた腹筋がひくりと動いて、彼の喉から堪えるように息が吐かれた。 自分と同様に、燭台切光忠も快楽を感じているのだろう。口に含む竿先に先走りが滲んできていた。熱と苦みが一期一振の舌先を刺激して、だがそれは厭わしいものではなく、むしろ歓迎すべき知覚のように一期一振には思えてくる。 「! ッん………、」 先ほどと同じように、燭台切光忠の指が、己の肉を割って侵入してくる。 男らしい指が内部を探り、押し広げるように蠢くのが一期一振には感知できた。 「ふッ、んんむ、っは、」 その感覚は先刻のように、気色悪いとは今や到底認識できなくて、むしろ燭台切光忠を受け入れて身を添わせたいと思わせる感触だった。今、己の唇と舌が燭台切光忠の屹立を包んでいるように、体の一番深い場所で彼を感じられたら、それは、自分にとって、快楽かどうかはともかく、幸福を感じられるようなことなのではないだろうか。 「ンくぁ、っはッ、みつ、どの……っ」 口淫を為していた燭台切光忠の竿先から口を離し、一期一振は相手を呼んだ。 「あ、あ……っもう………、」 燭台切光忠の舌で肉芽を弄られ、三本の指で秘所を貫かれながら、一期一振は切なげに身を捩った。 「……大丈夫かい?」 燭台切光忠の声が掠れがちに、下方から上がってくる。 「ッ、みつ、どの、…っねが………、」 体を重ね合っている相手と、もっと深く繋がりたい。 それを口でなんと表現すべきかがわからず、一期一振はもどかしげに息を喘がせた。 自分から横たわって、秘所に竿を入れてくれ、と燭台切光忠に頼むことは、一期一振にはあまりにも恥ずかしくて、到底できることではなかった。 燭台切光忠に懇願するよりも、自分で行動するほうが楽だ。一期一振は腰を浮かせて燭台切光忠の顔から離れ、燭台切光忠の竿のほうに己の腰を寄せて、燭台切光忠の腰の上で、相手の体を反対向きに跨ぎ直す。 「みつ、どの、……っもう、くだ…さ………、」 懇願しながら言い下ろす自分はどんなだらしない顔をしているだろうか、と一期一振はふと気になった。燭台切光忠の竿を含んでいた唇はわななき震えて唾液を滴らせ、半眼の目尻に汗と涙を滲ませて頬を赤く染めていることだろう。淡木賊色の髪の毛が頬に貼りついて鬱陶しいが、それに構うこともできない。 「ッ……、ン……、」 恐ろしいものでは全くなくなった燭台切光忠の強張った竿に手を添え、一期一振は自分で己の入り口を探る。 「っ…、ち、ちぃちゃん……、」 燭台切光忠が頬を火照らせて驚愕の表情で見上げてくるのが、一期一振の視界に入った。淫に堕ちた自分が彼に侮蔑されまいか、という危惧がちらりと一期一振の脳裡を過る。だが直後、くぷりと音が立って、己の女の場所が燭台切光忠の屹立と合致した、と実感した途端に、そんな怖れはどこかへ消し飛んでしまった。 「ッ………、」 燭台切光忠が欲しい。 一期一振に認識できたのはその感情だけだった。 奥へ奥へ、と燭台切光忠を飲み込みたくて、一期一振は腰をくねらせながら雁首を招き入れて、自らの奥深くへと燭台切光忠の屹立を差し込んだ。 「! はッ…ぁ、う……、ンぁ、あぁ……!」 大きなものが自らを割り入る感覚があって、一期一振は苦痛と圧迫感に思わず喘ぐ。 それでも一期一振の腰は止まらず、自らの痛みも顧みずにずぷずぷと音を立てて、秘肉を燭台切光忠に突き入らせていった。 「ッ…、ちぃちゃん、焦らないで……、ゆっくり、降りてきて……っ…」 燭台切光忠が下方から声をかけてきた。 処女膜を自重で割り開いてくる一期一振への気遣いの言葉である筈だったが、竿への圧迫の強さに、燭台切光忠の声には懇願の響きすら混じっていた。一期一振が急に腰を落としたら、擦られた刺激でそのまま達してしまいそうだ。 まさか、相手に乗り上がられて和合が始まるとは思ってもみなかった。 一期一振は無垢で怯えが強い割に奇妙な行動力があり、燭台切光忠が制止もできぬうちに事を進めていってしまう。 「つ………、」 未通の一期一振の内部はよく濡れていて熱く狭く、先程のかれの口淫とは違って、締め上げる圧が非常に強い。 燭台切光忠は手を差し出して一期一振の臀部を掴み、腰の降下が相手の苦痛をこれ以上煽る速さにならぬように支えてやる。 「く……、」 堪えるような呻きが互いの喉から漏れる。 結合部からぐぷぐぷと音を立てながら、一期一振の体がゆっくりと、燭台切光忠の腹の上まで降りてきた。 「ひ……ぁ、あぁ……!」 燭台切光忠の雄の殆どを己の裡に飲み込んだ一期一振の体が圧迫と苦痛に仰け反る。慎ましげな乳房が前方に突き出され、赤く染まった頬から汗とも涙ともつかぬ液体が転がって、硬く尖った乳首の上に当たって燭台切光忠の腹へと落ちてきた。 「あッ…ぁア……は…っ、」 一期一振が見せる辛そうな表情に、燭台切光忠は心を痛める。 「………ちぃちゃん………、初めてなのに、こんな姿勢……、きみが、辛いのに、………、」 自らの放出を押さえる為に歯を食いしばりながら、燭台切光忠は言い上げた。 「あ、ぁ…申し訳ない………、っでも、」 ちぃちゃんは謝りすぎだな、と燭台切光忠は脳のどこかでぼんやりと考える。 「ッ……みつ、どの、あなたを……、はやく……、自分の、いちばん深い場所で、感じたくて……っ…、」 まだ苦痛に喘ぎながら、一期一振が微笑んでそのように言い下ろしてきた。 「……ちぃちゃん………」 燭台切光忠は感銘を受けて、隻眼を見開いたまま言葉を失くした。 「はぁっ、は……、」 燭台切光忠の腹の上で、一期一振は浅い呼吸を繰り返して力を抜き、どうにか筋肉の絞りを弱めようと努力している。 「あ、いま少し、っ待って……くださ……、はぁっ、……まだ、少し、痛くて………、」 泣きながら喘ぎ、そう懇願してくる一期一振がたまらなく愛おしくなって、燭台切光忠は繋がった相手の負担にならぬよう、ゆっくりと上体を起こした。 「っ、は、」 燭台切光忠の顔が至近に来て、一期一振は涙に濡れた琥珀色の目で彼を見た。 燭台切光忠は一期一振の裸身を手で辿り、脇腹から乳首、そして両肩をその大きな手の中に抱いて、隻眼で一期一振の目を覗き込んできた。 「好きだよ。ちぃちゃん」 「……………」 言われたことがすぐには理解できず、一期一振が瞬きを止める。 「………っ…は…、みつどの…………?」 燭台切光忠は頬を火照らせ、優しく微笑して、低い声でもう一度告げた。 「僕はきみが好きだ」 「…………………、」 今度は一期一振にも言葉が聞こえた。だが意味はまだわからない。 一期一振は息を喘がせて燭台切光忠の左目を見つめた。 鬼灯の実のように橙色に輝く一つだけの目が、自分を映している。 「ちぃちゃん」 大きく長い腕で包まれて、一期一振は熱く汗ばんだ上体を燭台切光忠に抱き寄せられる。 「っ、ぁ、」 燭台切光忠の言葉の意味を一期一振が理解したのはようやく、そのときだった。 燭台切光忠に抱き締められながら、一期一振は驚愕して目を瞠った。 緊張がひといきに解け、体の奥深い場所、燭台切光忠と繋がっている場所が、溶けるように弛緩していくのを一期一振は自覚する。 「ふぁっ……、ぁ、みつ、どの、」 なぜ燭台切光忠にそんな言葉を貰えたのかがわからない。 膝ががくがくと震えて、自分で自分の体を支えられない。 「みつ、どの、……私も、………、あな、たが、」 縋るように燭台切光忠の肩に手を伸べてその胸板に身を摺り寄せ、一期一振は喘ぎながら囁いた。 囁きながら、目尻から涙がこぼれた。 自分には見えぬ位置で燭台切光忠が目を瞠ったことには、一期一振は気づけなかった。 ぐぷりと音を立てて繋がった場所が動き、一期一振の体を、信じられぬほどに甘い痺れが襲う。 「! ンぅッ……、ひぁ、ァ……!」 「……痛くない? ちぃちゃん……」 一期一振の声の変質を悟った燭台切光忠が少し体を離し、顔を覗き込みながら確かめるように訊いてくる。 「っ、ンんっ、」 一期一振は首を横に振った。 わなないて閉じられぬ朱唇から大量に唾液を垂らしながら、せがむように燭台切光忠を見返した。 「あ、ぁ…みつ、どの、もう、痛くは、ないです…………、っ、は、むしろ、きもち、い………、っこれ、っぁ、あぁ、……、」 一期一振が頼りなげに腰を揺らすと、それだけで脳まで響くような愉楽が背を駆け上がる。 「ひあっ、ぁ、っもっと……、」 「もっと? ………こう?」 心得た燭台切光忠ガ背を腕で支えながら、腰の下から揺するように幾度か突き上げる。 「! ッ、ああぁッ……ひィン…っ…!」 自分で動くだけのときより遥かに強い快楽に襲われて、一期一振の総身ががくがくと震えた。 「ンんぁ、あッ、あぁ……!」 燭台切光忠の揺らぎに合わせて一期一振の喉が大きく開き、白い首が目も綾に仰け反る。 もはや体を揺らすことをやめられなくなって、一期一振は自らも尻をくねらせながら、燭台切光忠に、愉悦を与え続けてくれるようにと目でせがんだ。 燭台切光忠は一期一振の欲求にきちんと応えてくれて、体の下で腰を揺さぶり続けてくれた。 「あッ、ぁ、あひ、みつ、どの、ッきもち、いい…っ、はぁッ、ンぁっ」 「凄いな……ちぃちゃんの中、熱くうねって僕を喰い締めてくるよ……、っ僕も、気持ちいいよ、ちぃちゃん……、」 一期一振の汗が散ってくるのを避けもせず、頬を紅潮させて燭台切光忠が微笑んだ。 「あッ、あ、みつ、どの、」 燭台切光忠に乗り上がった際に欲しかった快楽の頂にとうとう辿り着いて、一期一振はただ声を上げた。愉楽の深さは一期一振の予想をはるかに超えていて、力の入らぬ体で一期一振は燭台切光忠に縋りつき、自分にできる限りの動きで腰を揺すり続けた。 「気持ち……いい?」 一期一振が絶頂に達したことを確信しながら燭台切光忠が尋ねる。 「ンっ……、ん、」 一期一振が深く頷くと、汗の玉が燭台切光忠の硬い肌に散った。 「ちぃちゃん……、ちぃちゃん」 腰を揺すって一期一振の快楽を助けながら、燭台切光忠が切れ切れに名を呼んで頬にキスしてくる。 一期一振は接吻を口にしてほしくて、自ら唇を燭台切光忠の口に近づけた。 欲求を悟った燭台切光忠はそれに応えてくれた。 互いの唾液と汗に濡れた唇で吸いつき合い、歯列を開いて舌を絡め、下肢と同じように深く結び合う。 「ンっ、ンん、ふぅン、」 癒着した下肢からくちゃくちゃと隠微な音が漏れる。唇と舌も下肢と同様に深く絡み合わせて、体液を混ぜ合い、押し寄せる快楽の波に幾度も浚われる。 一期一振の汗を散らす背に巻きついた燭台切光忠の手が前に回り込んで、硬く尖った一期一振の乳首をそっと摘んだ。 「ンふッ! ひぁ、ンぁ、あぁあッ……!」 燭台切光忠にどんな形で触れられてもそれが愉悦に直結する。 「あ、ンぁ、っ、光殿、あ、もう……、もう………ッ…!」 「ン……、ふ、僕も、限界だよ、ちぃちゃん……、」 ぐずぐずに溶けてしまったような気がする己の裡で、燭台切光忠がはちきれんばかりにそそり立っているのが、それでも一期一振には認識できた。 自身が男だったなればこそ、その生理現象は一期一振も知っている。 燭台切光忠の終焉を自分の裡で迎えてほしくて、一期一振は更に強く燭台切光忠に縋りついた。 「ッぁ、あ…、私に、くださ……、みつどの、貴方の、熱を……、ッ、もっと、私の深くに………!」 一期一振は腿の内側を締め、女の場所に埋め込ませた燭台切光忠の屹立を身の内で強く締め上げた。 生娘らしからぬ一期一振の身の動きに、蠕動していた内部はさらに狭くなって、燭台切光忠の竿は強く吸い上げられる。 「…………! く……ッ!」 燭台切光忠の呻き声が至近で響いた。 続いて体の奥に、叩きつけるように熱が注がれてくるのを一期一振は自覚する。 「あ……ぁ…、みつ……どの……ッ…!」 燭台切光忠の精で満たされた己の裡側が、愉楽で激しく痙攣しているのが一期一振には感じ取れた。愉悦は下肢から脳までを経巡り、一期一振は燭台切光忠にしがみついて小刻みに身を震わせた。 「っ……は…………、ちぃちゃん……、」 自らの放出欲を長らく堪えて来た所為だろう、燭台切光忠は一期一振の秘所に萎えた竿を埋め込んだままで、力を抜いて息を吐いた。 「………光殿…」 一期一振の中では未だ愉悦が名残を止めている。その感銘のままに、一期一振が燭台切光忠の首に手を回して抱きつくと、燭台切光忠はその体を抱きしめて、優しく撫でさすってくれた。 「凄いな……ちぃちゃん………。僕としても、感動的な体験だったよ。きみを傷つけないか、気持ちよくさせられないんじゃないかと心配だったけど……、杞憂だったみたいだね」 「全て…貴方の、お蔭であります……光殿……、」 放出の疲労を感じながら一期一振を抱きかかえていた燭台切光忠は、一期一振から素直に礼を言われて、安堵と満足で微笑んだ。 自分も疲労しているが、女身になった上で処女でありながら自ら腰を揺すった一期一振のほうは、手前で酷く緊張していたこともあり、いっそう疲れが上がってきているようだった。燭台切光忠に遅れて快楽が去ると、燭台切光忠の首に腕を回したまま、くたくたと一期一振の上体から力が抜けていった。 一期一振は殆ど体が動かなくなっているようだ。 燭台切光忠は一期一振の両脇下に手を置いて、その体を持ち上げてやる。 「抜くよ……ちぃちゃん」 「っン………、」 燭台切光忠の言葉に応じるように、一期一振は弱々しく、それでも自ら腰を上げた。一期一振の秘所から燭台切光忠の竿が抜けると、栓を失った秘唇から白濁液が滴ってきて、燭台切光忠は、自分が本当に一期一振を貫いたことを自覚する。 燭台切光忠の眉が歪んだのを、一期一振は見ていなかった。 恋人でなくなるのが惜しい。 燭台切光忠は焦がすような欲を自覚する。 一度限り、一晩限りと言わず、何度でも一期一振を手に抱きたい。 かれが男の姿でも女の姿でも構わない。 かれを好きだとつい本音を漏らした燭台切光忠の言葉に、一期一振は自分もそうだと応じてきた。 情交の喜悦がもたらした衝動的な返事で、深く考えての台詞ではないかもしれない。 取り合えず周囲に合わせる処世術を持つ、優しい一期一振の気遣いの言葉なのかもしれない。 だが確かに、かれは自分を好きだと言ってくれた。 ならばその言葉をきっかけに、明日から、昨日までとは別の付き合い方を一期一振としても構わないではないか? 「ちぃちゃん………」 声をかけたがしかし、一期一振はすぐには燭台切光忠に答えられなかった。 一期一振の体は正体を失ったように頼りなく、もはや自分で自分を支えられないようだった。 燭台切光忠は床板に敷いた自分の背広の上に、一期一振の身を横たえてやる。 燭台切光忠が、一期一振の肌の汗を拭い、体が冷えぬように一期一振の軍服を被せてやっている間に、一期一振は殆ど眠りかけていた。 「疲れたんだろう。無理もないよ。僕が見張りをしておくから、少し眠るといいよ、ちぃちゃん」 「…………みつ、どの………」 かろうじての囁きを最後に、一期一振の瞼は閉じられた。 眠りに引き込まれる直前に、一期一振の記憶は、先程の愉楽の根幹を反芻していた。 愉悦の理由はよくわかっていた。 燭台切光忠に好きだと言われたこと。 文字通り、痺れるように甘いひとことだった。 つい、自分も、と声を上げてしまった。 弟の薬研藤四郎は、一期一振が女の体で快楽を与えられねば元の男の体には戻れないと言っていた。 束の間の恋人同士、という約束事の中で、一期一振の体に最大限の愉楽の効果を与えるための、燭台切光忠の甘言だったのだろう。悪所で恋愛遊びをする男女が交わす誓紙のようなものだ。燭台切光忠は自分よりは世馴れているから、人の心の扱い方が上手いのだ。 真情からの告白ではない筈だ。 額面通り受け取って、燭台切光忠に迷惑がかからぬようにしなければ。 ただ。 彼に好きだと言われた、そのときの幸福感だけは覚えておこう。 それが虚言であっても。 燭台切光忠の、自分への誠意から出た言葉であることに、間違いはないのだから。 |